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大学・研究所にある論文を検索できる 「Elucidation of panicle architecture regulating factors and its application for rice breeding」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Elucidation of panicle architecture regulating factors and its application for rice breeding

AGATA, Ayumi 縣, 步美 名古屋大学

2020.04.02

概要

世界人口の爆発的な増加に伴い深刻な食料危機が懸念されており、特に人口増加が著しいアジア・アフリカ地域では、主食とされるイネの増産が強く求められている。イネの増産を図るための有効な手段の一つは、生産性の高い優れた品種を開発することである。また、栽培地域によって求められる有用形質は多種多様であることから、それぞれの地域に適した理想的な新品種をいかに迅速に作出できるかが鍵となる。従来の交雑育種法に比べ育種改良のスピードが飛躍的に高まるとして、近年ゲノム編集技術が注目を集めている。狙いを定めた遺伝子の一部に正確に変異を導入できることから、複数の有用形質を併せ持つ理想の植物を自在にデザインできると期待されている。この新技術を有効に利用するためにも、どの遺伝子をどう編集すれば有用形質を獲得できるのかという基礎的知見を蓄積することの重要性が改めて指摘されている。

穀物の生産性は、光合成能力、環境ストレス耐性、病害抵抗性や穂形質など多数の 遺伝的要因と、天候や施肥、水分管理などの環境要因によって複合的にコントロールされている。したがって、各要因についての基礎的な理解を深め、生産性向上に向けた改良を地道に積み重ねていくことが必要不可欠である。数ある要因の中でも、穂は最重要な器官といえる。イネの穂は、中心の穂軸から一次枝梗や二次枝梗などの複数の枝分かれ(分枝)を重ね、その先端に種子を形成することで構成されている。分枝の長さや数によって少しずつ変化する「分枝パターン」が、穂の形態および最終的な一穂あたり種子数を決定付けている。この分枝パターンを少しずつ変化させることにより、イネはバリエーション豊かな穂形態を示す。したがって、分枝の長さと数を制御する遺伝子を単離し、それらを組み合わせることによって、穂形態を自在にデザインできると考えられる。

イネの穂は収量に直結する形質であることから、これまでにも数多くの研究がなされてきた。突然変異体の解析や、量的形質遺伝子座(quantitative trait locus: QTL)解析から、 穂形質に関わる遺伝子がいくつか単離されてきた(Ikeda et al. 2013, Zhang et al. 2014)。極端な表現型を示す突然変異体由来の遺伝子とは異なり、ナチュラルバリエーションに着目した QTL 解析から得られた、効果が中程度で副作用の少ない有用アリルの一部はすでに育種利用されている。しかしながら、収量そのものや種子の重さ、最終的な一穂あたり種子数など、収量ベースでの解析が中心であり、従来の研究では分枝パターンに着目した解析はなされてこなかった。そこで、穂を構成する分枝の数や長さ、穂軸上の位置(先端側から生じるのか基部側からなのか)など、分枝パターンを詳細に解析することで、先行研究では単離が困難であった新規遺伝子を同定することができると考えた。また、穂を構成する各器官を独立に制御できれば、分枝の数を維持し長さだけを伸ばして着粒密度を改善する、一次枝梗数は維持して二次枝梗数のみを増やす、穂の先端特異的に分枝数を増やすなど、穂型を自在に設計できる。したがって、理想の穂型をデザインすることにより、生産性の向上に貢献できる可能性がある。

本論文では、イネの多様な穂型を生み出す形態形成メカニズムを解き明かし、穂型をデザインすることによって生産性の向上に資するという、新たな育種戦略への道を拓くことを目指した。そこで、穂形態に特徴を持つ 3 つのナチュラルバリエーションを用いて、分枝パターンを意識した QTL 解析を行った。それぞれの穂型を制御する遺伝子を単離し、その制御メカニズムを明らかにした(第2 〜4 章)。さらに、本研究で単離した4 つの遺伝子を組み合わせた準同質遺伝子系統(Near isogenic line: NIL)を作出し、実際に穂形態をデザインすることは可能なのか、圃場レベルでその検証を行った(第5 章)。

第2 章では、穂の分枝数に特徴のあるイネ ST-5 に着目した。分枝パターンを詳細に観察したところ、穂の先端側における高次分枝が顕著に増加していることが明らかになった。QTL 解析の結果、二次枝梗数を制御する qSrn7 が検出された。その後の解析によって、qSrn7 は ERF ドメインを持つ転写因子をコードする既知遺伝子 FZPを含むことを明らかにした。qSrn7 は適度に発現量が減少することで有用な表現型を示す FZP の新規アリルであった。コアコレクションを用いた解析によって、qSrn7が既存の栽培系統にも存在することが示された。また、コシヒカリを遺伝的背景に qSRN7 が導入された KKSL 系統を調査したところ、qSrn7 は穂の先端側の二次枝梗数を増加させ、結果として生産性の向上にも貢献することが分かった。突然変異体の解析から単離された FZP は、花芽の運命決定に関わる遺伝子であり、シビアな変異体の穂は分枝のかたまりになってしまうことが知られている(Komatsu et al. 2003)。ナチュラルバリエーションを用いた本研究によって、効果が中程度で副作用の少ない有用なアリルを発見することに成功した。

新規遺伝子単離のためには材料の多様性拡大も重要であると考え、第3 章ではベトナム由来の VT101 に着目した。一穂あたり種子数が 800 粒を超える超多粒イネ VT101は、基部から先端にかけて穂全体で著しく分枝の数が増加していた。QTL 解析を行った結果、2 つ QTL が二次枝梗数を制御することによって、結果として一穂あたり種子数を増加させることが明らかになった。第一染色体上に検出された QTL は既知遺伝子 Gn1 をコードしており、第二染色体上に検出された QTL は新規の QTL であることが示唆された。圧倒的な分枝数の多さを示す VT101 を解析対象にしたにも関わらず、今回の解析では2 つの主要な QTL のみが検出された。さらに、二次枝梗数と同様、特徴のあった一次枝梗数については有意な QTL が検出されなかった。この結果から、効果の小さな無数の QTL による複雑な穂型制御ネットワークの存在がうかがえた。

第4 章では、穂型そのものを大きく変える穂の長さに焦点を当てた。穂長は、形態学的には穂軸長と一次枝梗長という 2 つの器官によって構成されている。そこで、器官別に形質評価を行い、長穂系統 ST-1 の穂型を制御する遺伝子を探索した。QTL 解析の結果、穂軸長を制御する Prl5 と一次枝梗長を制御する Pbl6 が、それぞれ独立に穂長を制御していることが明らかになった。Prl5 は GA20 酸化酵素遺伝子をコードしており、穂で特異的にその働きが強まることによってジベレリンの合成量が増加し、穂軸が伸長していた。これまでにジベレリンが草丈の調整に深く関わることは広く知られていたが(Sasaki et al. 2002, Ashikari et al. 2002)、本研究で初めて穂長の制御にも関わることが示された。Pbl6 は既知遺伝子 APO1 をコードしており、一次枝梗の伸長に関わるという新規の機能が明らかになった。一連の発現解析により、幼穂形態形成期において Prl5 と Pbl6 は異なる時期に異なる部位で発現し、各器官の形成を厳密に制御していることが示唆された。さらに、トランスクリプトーム解析から、遺伝子発現レベルにおいても 2 つの遺伝子が独立に穂長を制御していることが明らかになった。また、本研究で単離した 2 つの Prl5 アリルおよび 3 つの Pbl6 アリルを、様々な組み合わせで保持する NILs を作出した。圃場レベルでその穂形態を評価した結果、一穂あたり種子数と穂の長さの間でトレードオフの関係を示すことなく、多様な穂型をデザインできることが明らかになった。

本論文では、穂型を制御する 4 つの新規遺伝子および既知遺伝子の新規アリルを単離した。全ての遺伝子について、その発現量の差異が穂型に大きく影響を与えていた。さらに、形態形成の各ステージにおいてそれぞれの遺伝子は分裂組織の限られた細胞群でのみで働いていることが明らかになった。このことから、多数の遺伝子の協調的な作用によって、時空間的に穂の形態形成が巧妙に制御されていることが示唆された。鍵となる遺伝子の発現パターン(発現量、時期、部位)が正確に調整されることで、イネの複雑な穂形態が生み出されることを、発現解析等の実データを根拠として初めて実証した。最後に第 5 章では、第 3 章で同定した Gn1 および新規 QTL と、第 4 章で同定した Prl5 および Pbl6 を、コシヒカリに導入し NIL を作出した。その穂形態を評価したところ、穂軸長、一次枝梗長、二次枝梗数、それぞれに器官別の制御の効果が確認でき、圃場レベルで実際に穂型のデザインが可能であることを実証した。トレードオフの関係を示すことなく、穂が長くなり、分枝の数も増加していたことから、穂型を改良することによってイネの生産性を改善できる可能性も見込まれた。本論文は、各栽培地域に適した優れた作物品種を開発するという観点から、来るべき食糧危機を回避するために一躍を担う基礎的知見を提供したものである。

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