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大学・研究所にある論文を検索できる 「Developmental and Genetic Analysis of Compensatory Growth of Lateral Roots in Rice」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Developmental and Genetic Analysis of Compensatory Growth of Lateral Roots in Rice

河合, 翼 名古屋大学

2022.05.20

概要

土壌の圧縮は作物生産における大きな減収要因の一つである。世界的な穀物生産地であるオーストラリアの西オーストラリア州では、耕作可能面積のおよそ70%が圧縮土壌またはその予備軍であり、大きな減収をもたらしている。圧縮土壌において地表から数十センチの深さに形成される土壌密度の高い硬盤層は、作物の深根生長を抑制し、下層土壌からの養水分吸収を阻害する。硬盤層は主軸根の伸長を阻害する一方、多くの作物種で硬盤層上層における側根発育が促進されることが知られている。これにより生じた側根は、土壌密度のより低い土壌領域での養水分吸収を増加させることで主軸根の機能を補償し、地上部の生育維持に貢献する。そのため、作物のもつ側根の補償生長能を向上させることで、圧縮土壌耐性を向上できると考えられる。しかしながら、補償生長がどのような根系形態でより高く発揮されるのか、またどのような分子機構によって制御されるのかは未だ明らかでない。

 本研究は、(1)より高い側根の補償生長を示す根系形態、(2)補償生長を制御する分子機構の解明を目的とした。本研究では、補償生長を促すためにイネ主軸根の根端切除処理を行なった。イネには、細くて短いS型側根と、太くて長く、高次の側根を形成するL型側根が存在するが、根端切除処理によってL型側根の形成が促進される。第3,4章では、Semi-hydroponic phenotyping systemを用いてイネ系統間における補償生長のバリエーションを解析した。実験材料として、オーストラリアおよび日本イネ系統、ならびにイネ根系形態の変異体、計20系統を供試した。はじめにこれら20系統において根系形態を解析したところ、多くの地上部・地下部形質において系統間での大きなバリエーションが検出された。次に、対照的な根系形態を示した6系統を選抜し、根端切除処理を行うことで根系形態と補償生長の関係性を解析した。その結果、いずれの系統においても根端切除処理によって根系は浅くなった一方、通常よりも太いL型側根が生じて主軸根の生長を補償することで、総根長および地上部生育はコントロール区と同程度に維持された。系統間差に着目すると、コントロール区で深い根系を示した系統は根端切除後に各深度で根長を同程度に維持した一方、浅い根系を示した系統は根端切除後に浅い層で根長を増加させることで補償生長を示した。次に、冠根数が補償生長に及ぼす影響を解析するため、イネ2系統において新たに生じた冠根の半数を除去する冠根数低減処理を連続的に行なった。その結果、オーストラリアイネ系統YRL38において根端切除処理の有無に関わらず、冠根数低減処理によって側根長および総根長が増加した。このとき地下部乾物重は冠根数低減処理で変化せず、観察された総根長の増加は比根長の増加によってもたらされた。よって、冠根数を低下させることで根系発達の効率を高め、側根による補償生長を高められると考えられた。

 第5–7章では、水耕栽培したイネ実生を用いて側根補償生長の制御に関与する分子機構を解析した。第5章では、野生型イネ台中65号において、種子根における根端切除処理に応答した側根形態の変化を解析した。根端切除処理は、切断部近傍において側根の直径と長さを増加させ、二次側根の形成を促進した一方、切断部から離れるにつれて側根形態変化の程度は連続的に小さくなった。また、根端切除後、同一の種子根に形成された側根間において、側根直径は側根の長さと二次側根の形成との間に正の相関を示したことから、側根原基の段階に決定づけられる側根直径が側根生長を規定すると考えられた。第6,7章ではMNU化学変異原処理を行なったイネ突然変異体集団から、野生株と異なる側根形態を示す変異体を探索した。単離された変異体の一つT3-7-1変異体は、コントロール条件下で野生株よりも少ない側根を形成した一方、根端切除に応答してより多くの太い側根を形成した(第6章)。マップベースクローニングによって、WUSCHEL-related homeobox(WOX)ファミリー遺伝子であるQHB/OsWOX5を本変異体の原因遺伝子として同定した。また、レーザーマイクロダイセクションによって単離した野生株のS型・L型側根原基間でのトランスクリプトーム解析により、2種類の側根原基間における発現変動遺伝子として531遺伝子を同定した。その中で、WOX11/12クレードに属するOsWOX10,OsWOX11,およびOsWOX6はL型側根原基においてS型に比べて高く発現上昇していた。QHB/OsWOX5プロモーターを用いて、コントロール条件下の側根原基においてOsWOX10を過剰発現させたところ、OsWOX10発現量依存的に側根直径が増加した。また、CRISPR/Cas9システムより作出したOswox10変異体では、土壌乾燥条件下で生じたL型側根の直径が野生株よりも低下した。加えて、Yeastone-hybrid法によってQHB/OsWOX5は抑制型の転写因子であり、qhb/Oswox5変異体ではその抑制能が失われていることが示された。さらに、qhb/Oswox5変異体では根端切除後のOsWOX10発現量が野生株よりも高く、ゲルシフトアッセイによってQHB/OsWOX5リコンビナントタンパク質はOsWOX10上流配列に結合することが示された。以上より、QHB/OsWOX5は側根直径を正に制御するOsWOX10の発現を抑制することで、根端切除処理に応答したL型側根形成を負に制御することが明らかとなった。

 また、イネ変異体の探索によって、コントロール条件下で野生株よりも多くのL型側根を形成するT12-3,T3-2,およびT12-36変異体を単離した(第7章)。マップベースクローニングによってこれら変異体の原因遺伝子としてダイナミン関連タンパク質をコードするOsDRP1CおよびOsDRP2Bを同定した。ダイナミンタンパク質はオーキシン輸送タンパク質の細胞内局在を制御することでオーキシン極性輸送に関与することが知られていた。そこで、オーキシン応答性プロモーターDR5の下流に蛍光タンパク質を発現するコンストラクトを野生株およびdrp変異体に形質転換によって導入し、側根原基におけるオーキシンシグナルの分布を解析した。その結果、野生株およびdrp変異体において、L型側根原基では特にその基部においてオーキシンの蓄積が認められた。また、オーキシン極性輸送阻害剤N-1-naphthylphthalamic acid(NPA)および小胞輸送阻害剤brefeldin A(BFA)は外生オーキシンによる側根直径増加の作用を高め、このとき側根原基基部でのオーキシン蓄積が観察された。さらに、側根直径を正に制御するOsWOX10はオーキシン応答性であり、drp変異体においてその発現が高いことが判明した。また、グルココルチコイド処理によって機能獲得型のオーキシンシグナル抑制因子であるmIAA3が誘導されるmIAA3-GRシステムを用いたオーキシンシグナル伝達の誘導的抑制により、野生株背景における根端切除後の側根直径増加が抑制される傾向が見られた。さらにゲルシフトアッセイにより、側根原基で発現する促進型のARFタンパク質であるOsARF19がOsWOX10上流配列に結合することが示された。以上より、側根原基、特にその基部におけるオーキシンシグナルの上昇は、OsWOX10の発現上昇を引き起こし、L型側根を誘導すると考えられる。

 以上の解析により、イネは根端切除後にL型側根の形成を促進することで根系の補償生長を示し、総根長および地上部生育を維持することが判明し、加えて冠根数を低下させることによって、側根への同化産物供給が促され、側根補償生長を高められる可能性が見出された。さらに、根端切除により側根原基で上昇したオーキシンシグナルはOsWOX10の発現上昇を引き起こし、L型側根の形成を促すこと、およびQHB/OsWOX5はOsWOX10の発現上昇を抑制することで、根端切除に応答したL型側根の発生を抑制することが明らかとなった。本研究で得られた知見は、作物根系の補償生長能の強化による、将来的な圧縮土壌耐性系統の作出に貢献すると考えられる。

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