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Genetic studies on high biomass and sugary endosperm of sorghum

橋本, 舜平 名古屋大学

2022.06.01

概要

現代社会において、我々人類はいくつかの大きな課題に直面している。とりわけ、温室効果ガスの増加に起因すると考えられる温暖化をはじめとした地球環境に関する課題、並びに食糧に関する課題解決は重要である。そのうち、食糧に関する課題については農学、中でも植物育種学が品種の育成を通じて古くから貢献してきた。一方、地球環境に関する課題解決へは、近年脱炭素社会の構築へ向けた研究や取り組みが各分野で盛んに行われているが、バイオマス研究は農学が貢献できる分野の一つである。イネ科作物であるソルガムは、高バイオマスなエネルギー作物であるとともに、世界第5の穀物でもあることから、食糧及び地球環境に関する双方の課題における重要作物であると考えられる。そこで本研究では、ソルガムの高バイオマス性と胚乳高糖性に着目し、遺伝学的解析による分子遺伝学的基盤の構築を試みた。

まず、第2章では典型的な雑種強勢を示すソルガム高バイオマス F1 品種「天高」を用いた遺伝解析を行った。高バイオマス性は稈長と到花日数の増加によると考えられため、この 2 つの形質に基づいた「天高」後代 F2 集団を用いた QTL 解析を行った。
QTL 解析の結果、到花日数に関して 2 つ(qFD-1 及び qFD-6)、稈長に関して 5 つ(qCL-1, qCL-6, qCL-7a, qCL-7b, qCL-9)の QTL が検出された。このうち QTL の位置から qFD-1 及び qCL-1 と、qFD-6 及び qCL-6 は同座と考えられ、計 5 つの QTLが重要であると考えられた。次にこれらの責任遺伝子の推定を試みた。これまでに歴史的に利用されているソルガムの開花(熟性)及び矮性遺伝子に着目したところ、到花日数に関しては qFD-1 (qCL-1)がフィトクトム B(SbPhyB)、qFD-6(qCL-6)が開花抑制遺伝子 SbGhd7 の座乗位置と一致した。また、稈長に関しては、qCL-7b がオーキシン輸送に関与する ABCB タンパク質をコードする Dw3、qCL-9 がブラシノステロイド信号伝達の正の因子であり、私の所属する植物ゲノム育種研究室においてクローニングされた Dw1 であると考えられた。一方、qCL-7a の責任遺伝子は新規のGenetic studies on high biomass and sugary endosperm of sorghum(ソルガムの高バイオマス性及び胚乳高糖性に関する遺伝学的研究)橋本 舜平 稈長制御遺伝子(Dw7a)であった。これらの 5 つの遺伝子は、バイオマスを下げるアレルが劣性かつ機能欠損型であったことから、超優性モデルは成立せず、少なくとも優性モデルは成立することが明らかとなった。次に、5 つの遺伝子の優性アレルが「天高」における雑種強勢の必要十分条件であることを証明するために、優性アレル集積系統(i5)を作成し、「天高」との比較を行った。その結果、i5 の稈長は「天高」の約 85%を示したことから、これら 5 つの遺伝子が雑種強勢に対して概ね必要十分条件であることが明らかとなった。次に、優性モデルによる雑種強勢の仕組みを支える重要遺伝子の一つで遺伝子が未同定の Dw7a のクローニングを行った。MS79 を戻し交雑親とした、戻し交雑自殖系統(MS79×SIL-05、BC3F5 及び BC3F6)を作出し、この後代分離集団を供試した。マッピングに用いた集団中の BIL-Dw7a(長稈型)個体と BIL-dw7a(短稈型個体)を比較すると、短稈型個体では長稈型個体より約 1 m稈長が短縮していた。節間長以外への影響は見られなかったことから、dw7a は節間長だけが短縮する、農業上有用な矮性遺伝子であると考えられた。ポジショナルクローニングの結果、最小候補領域が 21 kb に絞り込まれ、この領域内には単一の遺伝子(Sobic.007G137101)が座乗した。この遺伝子は R2R3 MYB 型転写因子をコードし、伸長中節間で顕著に発現していたほか、BIL-dw7a 個体で発現量が低いことが明らかとなった。さらに、イネオルソログ OsDw7a のイネノックアウト系統を作出したところ、稈長が有意に短くなったことから、この遺伝子が qCL-7a の責任遺伝子 Dw7a であることが示唆された。

第3章では、ソルガムにおいて稈長の制御に寄与しうる超優性遺伝子の探索と同定を試みた。第2章で行った QTL 解析の結果、Dw3 と Dw7a に関して、優性効果と相加効果の比(d/a 比)が 2 を超える結果が複数年で見られたことから、これらの遺伝子が超優性遺伝子である可能性が示唆された。そこで、それぞれの遺伝子に関して超優性効果を正確に評価するため、当該遺伝子以外のゲノム背景を均一化した集団を作成し、実験に供試した。Dw3 に関しては SIL-05 を戻し交雑親とした、戻し交雑自殖系統(bmr-6×SIL-05、BC5F2 及び BC5F3)を作出し、この後代分離集団の表現型を評価した。このうち、2020 年に BC5F3 を展開した結果、Dw3 ヘテロ型個体の稈長が優性ホモ型個体と比較して有意に高くなり、d/a 比は 1.8 となった。この超優性効果は、主に上位節間において顕著であることも明らかとなった。2021 年に BC5F4 を展開したところ、ヘテロ型個体での有意差はなかったものの、一定数の個体が優性ホモ型よりも高い稈長を示した。一方、Dw7a に関しては、ヘテロ型個体での稈長の増加は見られず、通常の優性遺伝子であると考えられた。これには、Dw3 と Dw7a は第 7染色体長腕において近接した遺伝子であるため、Dw7a の高い d/a 比は Dw3 との間の偽超優性効果に起因すると推察された。Dw3 はソルガムの節間においてオーキシン輸送を促進することが知られている。また、オーキシンによる成長への効果は、その濃度が高すぎても低すぎても低下することが数多く報告されており、最適な濃度が存在する。本研究の結果では、ヘテロ型個体のオーキシン輸送能力がホモ型個体の中間である可能性があり、その濃度で節間伸長が最適値である仮説を立てると、Dw3 の超優性を理解できると考えられた。

第4章では、穀物としてのソルガムの重要性から、胚乳形質、特に胚乳高糖性に着目した。胚乳高糖性を利用した育種の重要な例としては、トウモロコシにおけるスイートコーンの育種が挙げられる。ソルガムにおいても半世紀以上前に胚乳高糖性形質に関する報告はあるものの、責任遺伝子の同定や分子遺伝学的解析はされてこなかった。そこで、胚乳高糖性を示す自然突然変異系統 ’Sugary Feterita’ をソルガムにおける胚乳高糖性研究のモデルとして供試し、原因遺伝子の同定を試みた。表現型評価の結果、’Sugary Feterita’ では種子がしわとなり、胚乳の中心部がヨウ素溶液で染色されず、’Feterita’ と比較して高い Brix 値を示した。正常の種子形態を示す ’那系MS-3B’ と ’Sugary Feterita’ との F1 が正常な表現型を示したこと、及び後代 F2 種子における正常としわの分離が 1,212 : 415 となり、適合度検定の結果 3 : 1 の分離比を棄却できなかったことから、胚乳高糖性(しわ)は劣性の一遺伝子支配であることが明らかになった。次に、しわの有無をマーカーとしてラフマッピングを行った結果、責任遺伝子の候補領域が第 7 染色体長腕部の約 3.4 Mb に絞り込まれた。この領域内にはデンプン脱分岐酵素 ISA1 をコードする SbSu1(Sobic.007G204600)が座乗していた。この遺伝子はスイートコーンにおける胚乳高糖性遺伝子の一つ Su1 のオルソログであったことから、SbSu1 が ’Sugary Feterita’ における胚乳高糖性の責任遺伝子であると類推した。コード領域の塩基配列を比較すると、’Sugary Feterita’ では高度に保存されたアミノ酸に非同義置換を誘導する変異が確認された。また、子実型ソルガム系統 BTx623 背景の SbSu1 変異体を Functional Gene Discovery Platform forSorghum から取り寄せて調べたところ、デンプン粒の発達不全や子実重量の減少といった、’Sugary Feterita’ と同様な特徴的表現型が見られた。さらに、イネの su1 変異体に ’那系 MS-3Bʼ及び ’Sugary Feterita’ の、プロモーター領域を含む SbSu1 ゲノム断片を導入したところ、変異体で見られた表現型が ’那系 MS-3B’ 断片の導入により回復した一方で、’Sugary Feterita’ ゲノム断片では回復できなかったことから、’Sugary Feterita’ の胚乳高糖性は SbSu1 が責任遺伝子であり、’Sugary Feterita’ アレルが機能欠損型であることが示唆された。次にこのアレルがソルガム在来種および近代品種で活用されているかを調査するため、’Sugary Feterita’ 及び 187 系統からなる当研究室のソルガムコレクションを用いたハプロタイプ解析を行った。その結果、SbSu1 は8つのハプロタイプに分類されたが ’Sugary Feterita’ と同じハプロタイプを持つ系統は存在せず、これらの系統及び品種では広くは利用されていないと考えられた。以上の結果により、ソルガムにおける胚乳高糖性の分子基盤が構築された。また、今後は SbSu1 を用いた胚乳高糖性の最適化を目標とした、ゲノム編集による新規アレルの創出が期待された。

本論文では、ソルガムという多様な利用可能性を持つ作物について、その高バイオマス性(第2章及び第3章)と胚乳高糖性(第4章)に関する遺伝解析を行った。これらの形質に関わる分子基盤の構築が、我々が現代社会において直面している環境問題、食糧問題の解決に向けた糸口となることが期待された。

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