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大学・研究所にある論文を検索できる 「皮膚T細胞リンパ腫におけるCD147, Cyclophilin Aの役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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皮膚T細胞リンパ腫におけるCD147, Cyclophilin Aの役割

丸, 陽美 東京大学 DOI:10.15083/0002002486

2021.10.15

概要

皮膚T細胞リンパ腫は皮膚に原発する悪性リンパ腫で菌状息肉症(MF)とセザリー症候群(SS)などに代表される。MFは原発性皮膚リンパ腫の中では最も多く、数年から数十年かけて緩徐に進行するのに対してSSは主に紅皮症を呈し全身性のリンパ節腫脹と皮膚、リンパ節および末梢血中に腫瘍細胞を主徴とし、急速に進行し予後が悪いことで知られる。両者は腫瘍細胞の形質が似ており同一スペクトラムの疾患と考えられている。また、末梢血セザリー細胞数、可溶性IL-2レセプター、lactate dehydrogenase(LDH)、thymus and activation regulated chemokine(TARC)値等が病勢を示すマーカーと言われている。

 今回我々が研究したCD147(Cluster of differentiation 147)は別名、EMMPRIN(Extracellular Matrix Metalloproteinase Inducer)またはbasiginとしても知られる。イムノグロブリンスーパーファミリーに属する2つのイムノグロブリン様ドメインを持つ膜糖蛋白質である。近年、このCD147が細胞外マトリックスメタロプロテアーゼの発現を誘導することで、固形癌の浸潤や転移、血管新生に重要な役割を持つとして注目されている。実際に、臨床的にも肺癌、膀胱癌、乳癌、肝臓癌、前立腺癌、腎細胞癌、頭頸部癌、悪性黒色腫等との関連が研究されており、CD147が発現していると、その予後は悪くなるとの報告がされている。

 また、CD147は膜糖タンパク質としての機能だけではなくMT1(membrane-type1)-MMP(Matrix metalloproteinase)で切断されたSolubleCD147(sCD147)の状態で存在する事が知られており、もともと癌患者の血清や尿より発見され、膜型のCD147と結合し、二量体を形成することが知られている。

 一方でCyclophilinはヒトでは主に7種同定されており、Cyclophilin(Cyp)A・B・Dに代表される。CypA・CypBはCD147のリガンドであり多発性骨髄腫ではCypAとCypBが抗アポトーシス作用を持ち、腫瘍細胞増殖に寄与しているとの報告がある。CypAは哺乳類の組織全般の細胞質に存在するイムノフィリンファミリーのひとつであり炎症病態時、特に酸化ストレス(ROS)がかかった時に細胞外へ遊離され、CD147の特異的リガンドとして知られている。もともとは免疫抑制剤であるCyclosporinA(CsA)の細胞内の特異的なbinding proteinとして同定され、好中球、好酸球、T細胞の走化性を誘導すると言われている。造血器系悪性腫瘍において、骨髄における血管内皮細胞より分泌されたCypAはCD147を強く発現する骨髄腫細胞を引き付けるとの報告もある。

 以上の背景を受けて、同様にCTCLにおける細胞増殖や進展に、CD147やCypAが何らかの関与をしている可能性があると推測した。以上より、本研究ではCTCLの病態におけるCD147とCypAの役割について解明することを研究の目的とした。

 はじめに、CTCL病変皮膚におけるCD147とCypAの発現を検討した。CTCL病変皮膚より抽出したmRNAでは健常皮膚と比較し、CD147とCypAのmRNAの発現が有意に高かった。今までに進行期のCTCLでは皮膚や血清中で液性免疫やアレルギーに関与しているIL-4、IL-5、IL-10、IL-13などのTh2型サイトカインが高い値を示すことが報告されており、本実験の結果においてもIL-4と正の相関を示したこと、また腫瘍期、紅皮症、SSなどの病期が高い群で有意に発現の上昇がみられたことから、病変皮膚におけるCD147やCypAの発現が病期や病勢に相関することが示唆された。上記の結果より、CD147の発現がCTCLの病変皮膚で上昇していることが分かり、次にCD147を発現している細胞について検討した。

 CD147は多くの腫瘍細胞や間質細胞で発現していることが知られていたため、まずCTCL腫瘍細胞での発現に注目した。フローサイトメトリー法にて、CTCL細胞株及びSS患者の末梢血中腫瘍細胞(CD4+CD7-T細胞)におけるCD147の発現を検討したところ、CTCL細胞株であるHH細胞、SSの細胞株であるHut78細胞、MFの細胞株であるMJ細胞全てでCD147の発現を認め、SS患者の末梢血中腫瘍細胞もCD147の発現が見られた。また、SS患者4人中2人において、腫瘍細胞におけるCD147の発現は、同患者の正常T細胞(CD4+CD7+T細胞)と比較して、上昇していた。また、CTCL病変皮膚の腫瘍細胞におけるCD147の発現を免疫組織染色法にて検討したところ、コントロール抗体の結果と比較して、真皮に浸潤している異型細胞で著名にCD147の発現が確認でき、CD147はCTCLの腫瘍細胞で発現しており、一部の症例では正常T細胞よりもその発現が上昇していることが考えられた。これは多くの固形癌や血液悪性疾患である多発性骨髄腫の腫瘍細胞でCD147の発現が上昇していたという過去に報告に一致する。

 一方、CypAに関しては炎症病態時に細胞外へ遊離される、主に細胞質にユビキタスに存在する蛋白質であることが知られている。本研究ではCypA産生細胞を同定するために、CTCL病変皮膚および健常皮膚のCypA発現を免疫組織染色にて検討した。CypAは健常皮膚と比較し、CTCL病変皮膚の腫瘍細胞で強く染色され、CD147同様、CypAもCTCLの腫瘍細胞に発現していると考えられた。さらにELISA法にてCTCL細胞株からのCypAの産生を検討したところHH細胞、Hut78細胞、MJ細胞の上清において、CypAが産生されていることが確認できた。以上の結果からCTCLの腫瘍細胞ではCD147、CypAの双方を発現しており、オートクリンループが腫瘍細胞の進展に関与している可能性が考えられたため、続いて、CTCLの細胞株を用いて、CD147-CypAの機能を検討した。まず、anti-CD147 blocking antibodyあるいはanti-CypA neutralizing antibodyとHH細胞、Hut78細胞、MJ細胞を共培養したところ、有意な増殖抑制がみられ、さらに腫瘍播種モデルマウスを用いてanti-CD147 blocking antibodyのin vivoでの効果を評価したところ、anti-CD147 blocking antibodyはマウスにおけるHH細胞の腫瘍形成を有意に抑制していることが分かった。

 sCD147はその機能に関して不明な点が多く、今までCD147と結合し細胞増殖や遊走、そして泡沫細胞、線維芽細胞や悪性腫瘍のMMPs(MT1-MMP, MMP-9)の産生に関与しているとされており、癌の進行促進に働くと考える報告もある一方で、sCD147は腫瘍の病勢と関係ないとの報告もあり、その機能ははっきりとしていない面がある。今回、申請者はHH細胞を用いてrecombinant sCD147蛋白のCTCL細胞株への影響を検討したところ、HH細胞の細胞増殖抑制が有意にみられた。この結果から、sCD147が細胞膜上のCD147と2量体を形成しCypAとの結合を阻害し腫瘍増殖の抑制に働いている可能性を考えた。また、CTCL患者においては、血清中sCD147濃度が低下していたが、この低下は腫瘍細胞におけるCD147の2量体の形成の機会を減少させ、CD147-CypAのオートクリンループを強めることで、CTCLの腫瘍増殖に関わっている可能性が考えられる。しかし、なぜCTCLの血清中でsCD147の発現が低下しているかに関しては、はっきりとは分かっておらず、今後の課題である。

 次にCD147-CypAにおけるシグナル経路について検討を行った。CypAはCD147などを介して、さまざまな細胞において、ERK1/2やp-38MAPK、AKT、JNKの活性化を誘導することが報告されている。これらの報告に基づいて、HH細胞をanti-CD147 blocking antibodyで刺激し、ERK1/2、p38MAPK、AKT、SAPK/JNKにおいてリン酸化が抑制されるかどうか免疫ブロット法にて検討したところ、p-ERK1/2で3時間後と6時間後に有意な低下が見られp-AKTでは刺激6時間後は有意に低下がみられた。また、anti-CypA neutralizing antibodyを用いたところ、p-ERK1/2、p-AKTで6時間後に低下が見られた。これらの結果から、CD147-CypAのオートクリンループはERK1/2、AKT経路を介して、CTCL腫瘍細胞の増殖を誘導していると考えられた。ERK1/2経路、AKT経路は共にCTCLの腫瘍細胞で活性化していることが知られており、病勢と関与していることが報告されていることを加味すると、CD147を介したシグナル経路はCTCLの成長において重要な役割を担っていると考えられる。

 以上の結果から本研究でCD147はERK1/2またはAKTのリン酸化を介した経路により腫瘍細胞増殖に働きCTCLにおいても腫瘍の増殖や進展に寄与すると考えた。CD147-CypA間の相互作用やERK1/2経路はCTCLにおいて今後の治療のターゲットとなることが期待される。