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大学・研究所にある論文を検索できる 「皮膚T細胞リンパ腫におけるYKL-40 (CHI3L1)の発現と機能の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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皮膚T細胞リンパ腫におけるYKL-40 (CHI3L1)の発現と機能の解析

鈴木, 英子 東京大学 DOI:10.15083/0002001665

2021.09.08

概要

皮膚 T 細胞リンパ腫 (cutaneous T-cell lymphoma, CTCL, 以下 CTCL と略す)は皮膚に原発する非ホジキンリンパ腫で、腫瘍性の CD4 陽性 T 細胞が皮膚で増殖する疾患である。CTCL には複数のさまざまな病型が含まれているが、菌状息肉症とセザリー症候群が代表的である。菌状息肉症は腫瘍性の CD4 陽性 T 細胞が表皮向性を伴い真皮内で増殖する疾患であり、年単位で比較的緩徐な経過を辿ることが多い。菌状息肉症とセザリー症候群は、腫瘍細胞の形質が類似していること、菌状息肉症の経過中に紅皮症をきたし、セザリー症候群に進展する症例があることから、同一の疾患群に含める考え方も多い。実際に、病期分類は共通しており、治療法もほぼ同様であり、予後解析も両方の疾患をまとめて行われることが多い。

YKL-40 は CHI3L1 (Chitinase-3-like protein 1)の別名で知られているキチナーゼ様の 40kD のタンパク質であり、染色体 1 番 q32.1 にある CHI3L1 遺伝子でコードされている。YKL-40 はヒトの骨肉腫の細胞株であるMG-63 から最初に特定された。その後、YKL-40 はさまざまな癌腫の腫瘍細胞から産生されることが報告され、さらに、現在では、マクロファージ、好中球、軟骨細胞、腫瘍細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、腸管や気道の上皮細胞など多様な細胞から産生されることが知られている。YKL-40 は喘息などの炎症性疾患や多数の固形癌などで血清中の上昇が知られているが、機能的にはまだ多くは明らかになっていない。

皮膚疾患領域では、皮膚の代表的な炎症性疾患であるアトピー性皮膚炎患者の血清で YKL-40 の上昇を認め、皮膚症状と相関していることが報告されている。また乾癬においても血清中で YKL-40 は有意に上昇しており、より強い炎症が起きているとされる膿疱症性乾癬や乾癬性関節炎では、血清中 YKL-40 濃度は尋常性乾癬よりも有意に高かった。また皮膚悪性黒色腫でも上昇を認め、予後との相関を認めた。YKL-40 は細胞増殖、分化、生存、炎症、組織リモデリングにおいて多様な役割があり、YKL-40 は固形癌のみならず、血液がんである急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、ホジキンリンパ腫においても血清中で上昇を認めている。以上より、YKL-40 は皮膚の炎症性疾患、皮膚の固形癌である悪性黒色腫、造血系の悪性腫瘍の病因になんらかの関与があると推察される。それゆえ、皮膚で増殖する造血器悪性腫瘍である CTCL においても何らかの関与をしている可能性が高いと我々は考えた。これらの背景を受けて我々は CTCL 患者における YKL-40 の発現、機能について検討することとした。

まず初めに、血清における YKL-40 発現と相関の検討を行った。CTCL 患者血清の YKL-40 値は 3.437± 0.728ng/mL で、健常者の血清 YKL-40 値 3.025± 0.633 ng/mL と比べ、有意に上昇していた。CTCL 病期分類別では、健常者と比較し、腫瘤期、セザリー症候群の患者で有意に YKL-40 は上昇していた。TMNB 分類に基づき解析を行うと、進行期菌状息肉症、セザリー症候群の患者において有意に上昇を認め、かつ病期が進んでいるほど血清中の YKL-40 は高い傾向にあった。また、血清中 YKL-40 値は CTCL の病勢マーカーとして報告されている血清中 lactate dehydrogenase (LDH) および soluble interleukin-2 receptor (sIL-2R) 値と有意な正の相関を示した。

YKL-40 が様々な悪性腫瘍や炎症性疾患の組織中で高発現しているという報告を受けて、次に、正常皮膚組織と CTCL 病変組織で YKL-40 の免疫組織染色を行った。正常皮膚組織と比較し、菌状息肉症とセザリー症候群など病期の進んだ CTCL 病変組織中の表皮角化細胞や真皮に浸潤している腫瘍細胞で有意に YKL-40 の発現を認めた。またケラチノサイトの染色性が強いものの方がより表皮肥厚を認めた。以上の結果より、YKL-40が CTCL 病変部皮膚組織に高発現しており、YKL-40 がより高発現している CTCL 病変部皮膚組織でより表皮肥厚を認めることが示された。

過去に YKL-40 が腫瘍増殖を含めた様々な細胞からのサイトカイン誘導に関与していることが報告されていたため、CTCL の進展に関与するさまざまなサイトカイン、ケモカインを発現している表皮角化細胞に対する YKL-40 のサイトカイン、ケモカイン誘導能を検討した。具体的には、表皮角化細胞の細胞株である HaCaT細胞を YKL-40 で刺激を行い、さまざまなサイトカイン、ケモカインなどの発現を real time PCR で検討した。CTCL にとって有利な Th2 優位の微小環境を誘導するサイトカイン、ケモカインである CCL17、TSLP、IL-25の発現誘導は見られなかった 。また、そう痒と関連のある NGF、IL-31 の発現を調べたが、発現の変化は認めなかった。CTCL では、皮膚バリア機能が低下し、抗菌ペプチドの発現が上昇しているが、皮膚バリア機能に関与する fillagrin、loricrine においても発現の変化は認められず、抗菌蛋白として知られる IL-8、β-defensin1、β-defensin2、S100A7 においても変化は認めなかった。さらに、血管新生を通じて腫瘍形成と関連する VEGF やCXCL17 の発現変化も認めなかった。CTCL の腫瘍細胞の早期の遊走に重要と言われている Th1 系のケモカインである CXCL9、CXCL10、CXCL11 についても発現を調べたが、有意な変化は見られなかった。以上より、YKL-40 が表皮角化細胞から何らかのサイトカイン、ケモカインを誘導する証拠は見出せなかった。

続いて、CTCL の細胞株である HH 細胞と Hut78 細胞は VEGF および Th2 サイトカインである IL-4、IL-13を産生することが知られているが、それらの産生に YKL-40 が関与しているかを調べることとした。結果、YKL-40 は CTCL の細胞株からの VEGF 誘導には関与していないことが分かった。続いて、HH 細胞と Hut78細胞で PMA とイオノマイシンで前処理し、Th2 サイトカインを産生しやすい状態で YKL-40 100 ng/ml で刺激した群と無刺激群で Th2 サイトカインの産生を比較したところ、YKL-40 は IL-4、IL-13 の誘導に寄与していないことが分かった。 以上の結果より YKL-40 は CTCL の腫瘍細胞からのサイトカインの産生に影響を与えないことが明らかになった。

YKL-40 は腫瘍細胞を含めたさまざまな細胞の増殖を誘導することが知られているため、次に我々は、表皮角化細胞の細胞株である HaCaT 細胞、NHEK 細胞の増殖の及ぼす影響を検討した。HaCaT 細胞、NHEK 細胞で 24 時間 YKL-40 30 ng/ml、100 ng/ml で刺激したところ、YKL-40 100 ng/ml 刺激群において control と比較し有意な細胞数の上昇を認めた。さらに、HaCaT 細胞を 24 時間 YKL-40 100 ng/ml で刺激し、Cell Proliferation ELISA、BrdU を用いて増殖を検討したところ、cell count 法と同様に YKL-40 100 ng/ml 刺激群において有意な増殖の亢進を認めた。以上より、YKL-40 が表皮角化細胞の増殖を増強することが明らかになった。

次に CTCL の細胞株の HH 細胞、Hut78 細胞で細胞増殖実験を行った。HH 細胞では YKL-40 100 ng/ml 刺激群において 12 時間後、24 時間後ともに有意に細胞数の上昇を認めた。Hut78 細胞では 24 時間後においてYKL-40 100 ng/ml 刺激群で control と比較し有意に細胞の増殖を認めた。またこれらを Cell Proliferation ELISA、BrdU で確認したところ、HH 細胞、Hut78 細胞いずれにおいても同様に YKL-40 100 ng/ml においてcontrol と比較し有意な上昇を認めた。以上より、YKL-40 の刺激で腫瘍細胞の増殖が増強されることが明らかになった。

YKL-40 の受容体に関しての解析は限られており、単報が散見されるのみである。それらの報告では、CD138、IL13Rα2、RAGE (Receptor for advanced glycosylation endproducts)が YKL-40 の受容体として機能するとされている。それらの発現を HH 細胞、Hut78 細胞、HaCaT 細胞でフローサイトメトリーを用いて検討した。CD138 は HaCaT 細胞のみ軽度陽性だったが、HH 細胞、Hut78 細胞には発現は認めなかった。IL13Rα2、RAGE は HH 細胞、Hut78 細胞、HaCaT 細胞いずれにおいても発現は認めなかった。これらの結果より、YKL-40 は未知の受容体を介して、CTCL の細胞株に作用を及ぼしていることが示唆された。また、表皮角化細胞においても、CD138 の発現は低く、やはり未知の受容体を介している可能性が十分に考えられた。

神経膠芽腫などの固形癌で YKL-40 は ERK、AKT のリン酸化を介して、腫瘍細胞の増殖などを誘導していることが報告されているため、次にウェスタンブロット法を用いて、YKL-40 刺激下の HH 細胞、HaCaT 細胞において、ERK、Akt のリン酸化を検討した。HH 細胞においては YKL-40 100 ng/ml で刺激 15 分後、30 分後で ERK のリン酸化が増強され、HaCaT 細胞では 5 分後でリン酸化が増強した。また AKT においてはいずれの細胞においてもリン酸化は認めなかった。これらの結果より ERK のリン酸化が CTCL の腫瘍細胞、表皮角化細胞の増殖を促していると考えられた。

次にこれらの結果を受けて、ERK 経路の上流にある MEK1/2 の阻害剤を使用し、YKL-40 の HH 細胞、HaCaT 細胞に対する増殖効果に影響があるかを検討した。HH 細胞において YKL-40 100 ng/ml 単独刺激群と比較し、YKL-40 100 ng/ml に MEK1/2 阻害剤を加えた群で有意に細胞数の減少を認めた。HaCaT 細胞でも同様に YKL-40 100 ng/ml 単独刺激群と比較し、YKL-40 100ng/ml に MEK1/2 阻害剤を加えた群で有意に細胞数の減少を認めた。以上の結果より、YKL-40 の表皮角化細胞、CTCL 腫瘍細胞の増殖誘導効果は ERK のリン酸化を介していると考えられた。

次に in vivo での YKL-40 の効果を検討した。SCID beige マウスの背部に HH 細胞株を皮下注射し、第 0、3、7、11 日目に 100 µl の PBS に溶解した recombinant YKL-40 2.5 µg/ml または PBS 100 µl を背部の皮下に注射し、第 0、3、7、11、14 日目に腫瘍体積を測定した。各群オス 7 匹ずつを用いた。腫瘍体積はコントロール群と比較し、YKL-40 群では第 3 日目より有意に増大しており、第 7 日目、10 日目、14 日目においても有意な増大を認めた。以上の結果より YKL-40 が in vivo においても腫瘍を増殖させる作用があることが明らかとなった。

本研究では CTCL の病態における YKL-40 の役割について検討した。進行期の菌状息肉症、セザリー症候群患者の血清中で YKL-40 は有意に上昇を認め、病勢マーカーと正の相関を認めた。CTCL 病変部皮膚においても、YKL-40 は高発現していた。YKL-40 は、ERK1/2 のリン酸化を介して、腫瘍細胞および表皮角化細胞の増殖を促進した。これらの結果より、YKL-40 は直接的に腫瘍細胞の増殖を促し、表皮肥厚を誘導し、間接的に CTCL の成長に関して重要な役割をもつと考えた。いまだ根治療法のない治療困難な CTCL にとって、 YKL-40、ERK1/2 経路を標的とした、新たな治療法の開発へとつながることが期待される。

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