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大学・研究所にある論文を検索できる 「慢性疾患を持つ高齢者を対象としたアドバンス・ケア・プランニングに関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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慢性疾患を持つ高齢者を対象としたアドバンス・ケア・プランニングに関する研究

岡田, 宏子 東京大学 DOI:10.15083/0002004285

2022.06.22

概要

序文
厚生労働省の実施する終末期医療に対する国民の意向調査では、約7割の国民が終末期は在宅での療養、自宅で最期を迎えることを希望しているものの、実際に自宅で最期を迎えられた者は約1割に留まり、多くの人が希望しながらも在宅で最期を迎えられていない現状がある。その要因の1つとして、実際に終末期医療の選択を迫られる時には、すでに多くの者は認知機能の低下等により本人自らが意思表示することができない状態にあることが挙げられる。その対処方法として、「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:以下ACP)の有効性が検証され、注目されてきている。ACPとは、将来の治療とケアの目標と選好を明らかにし、家族や医療者とこれらの目標や選好を話し合い、必要に応じてこれらを記録し、レビューすることと定義される。我が国では、2018年から、「人生の最終段階における医療に関する相談員養成プログラム」という医療者にACPの相談支援を実施する能力付与する形の研修が行われている。しかしながら、現時点では研修受講者の多くは、終末期にある患者への対話へ能力を発揮するにとどまっている。ACP相談支援を行える医療者が、もう少し前の段階にある患者に対してACP相談支援を実施することができれば、より時間をかけた価値観の探索や本人や家族の状況に合わせた複数回に渡る対話を伴う効果の高いACP相談支援を提供できる可能性があると考えられる。

本研究の目的は、慢性疾患で病院施設に定期的に通院中の病状の安定している患者を対象に、医療者によるACP相談支援を導入することによる患者本人における効果を検証し、ACPの支援対象を拡大することへの礎とする。

方法
慢性疾患を持つものの日常生活動作は自立している65歳以上の高齢者について、ACPについての相談支援を受けた者と受けていない者を6か月間追跡調査し、ベースラインと6か月後の2時点で質問紙調査を実施した。

ACP相談支援介入は、厚生労働事業「人生の最終段階に係る医療に関する相談支援事業」で開発された方法に基づいたもので、ACPの紹介を含む導入部分の相談支援を研修を受講した看護師2名が実施した。

2018年1月から3月までの間にインターネット調査会社を通じて、まず1時間程度のACP相談支援介入を伴う調査に協力可能な人をリクルートしACP相談支援を受ける介入群とした。その後4月から5月までの間に質問紙調査に協力可能な人をリクルートし対照群とした。調査項目は、属性に加えて効果指標として①ACPに関する知識、②代理意思決定者の決定の有無、③ACPエンゲージメント(ACPへの自己効力感、レディネス)、④人生の最終段階における心肺蘇生の希望、⑤現在の治療に対する満足度、⑥包括的QOL(Comprehensive Quality of Life Outcome: Co Qo Loの6項目とした。65歳以上の慢性疾患患者5名に対して質問紙のパイロット調査を実施し、質問紙の表面、内容妥当性を担保した。

結果
介入群100名、対照群100名から研究参加の承諾が得られ、ベースラインの調査票に全200名から回答が得られた。ベースラインから6か月後の調査でも、200名全員から回答が得られ(追跡割合100%)、全200名を最終分析対象とした。対象者の平均年齢は69.6歳であった。ACPに関する知識については、2時点の知識スコア差を目的変数とした重回帰分析を実施した結果、ACP相談支援の有無との間に有意な関連は見られなかった。

ACPエンゲージメントについては、重回帰分析の結果、ACP相談支援の有無との間に有意な関連が見られた(p=0.035)。下位尺度については、レディネスのみACP相談支援の有無との間に有意な関連が見られた(p=0.006)。

代理意思決定者の決定については、ベースラインで「決めていない」と回答した者のみ(n=154)に限定して多重ロジスティック回帰分析を行った結果、ACP相談支援の有無と代理意思決定者の決定状況の間に有意な関連は見られなかった。

人生の最終段階における心肺蘇生の希望について、予後1年以内の診断下での心肺蘇生の希望の有無では、ベースラインで「希望する/わからない」と回答した者のみ(n=64)に限定した多重ロジスティック回帰分析を行った結果、予後1年以内の診断下での心肺蘇生を「希望しない」方向への変化とACP相談支援の有無との間に有意な関連が見られた(p=0.024)。

現在の治療に対する満足度については2時点の治療満足度の差を目的変数とした重回帰分析の結果、ACP相談支援の有無との間に有意な関連は見られなかった。

包括的QOLについては、2時点の包括的QOLスコアの差を目的変数とした重回帰分析の結果、ACP相談支援の有無との間に有意な関連が見られた(p=0.03)。項目別に同様に重回帰分析を行ったところ、「人に迷惑をかけて辛いと感じる(p=0.018)」、「自然に近い形で過ごせている(p=0.006)」、「大切な人に大切なことを伝えられている(p=0.011)」、「先々に起こることについて知りたいことを聞けている(p=0.001)」の項目でACP相談支援の有無との間に有意に関連が見られた。

考察
本研究は、慢性疾患を持つ高齢者を対象にACP相談支援を実施し、その効果をACPプロセスの進行、終末期におけるCPRの希望、現在の治療に対する満足度、包括的QOLについて対照群と比較し、検証した。その結果、慢性疾患を持つ高齢者におけるACPプロセスの進行や予後1年以内の状況下での心肺蘇生の希望減少、包括的QOLの上昇に一定の効果が見込めることが示唆された。

一方で、統計的に有意な差は見られなかった効果指標も存在する。全期間を通して、代理意思決定者を決定できている人の割合は25%程度で、群間差も見られなかった。日本では「代理意思決定者」という考え方にあまり馴染みがなく、代理意思決定者の選定について考えることの意義を伝えたり、決めて意思を伝えることについて継続的に支援する必要があると考える。また、終末期におけるCPRや意思決定に関する知識の変化を知識については、ACP相談支援による影響は見られなかった。ヘルスリテラシーや教育歴が高い対象であっても、高齢者に対して1回限りの相談支援の中で口頭説明された内容を知識として定着させることは困難であることが伺える。

予後1年以内の診断下の状況設定で、ACP相談支援と心肺蘇生を「希望しない」方向への意思の変化には有意な関連が見られた。これは、先行研究で報告されているACP支援において終末期の生命維持治療に対する適切な情報提供が行われた場合。終末期の状況下で侵襲的な治療を希望する人の割合が減少するという結果と一致している。

包括的QOLの結果からは、ACP相談支援が慢性疾患を持つ高齢者のGood Deathの概念から構成された「包括的QOL」を上昇させる可能性があることが示唆された。このことから、終末期よりも早い段階で人生の最終段階について考え、研修を受けた医療者と語ることが、その後の療養生活のQOLを高め、豊かなものとする可能性を秘めているのではないかと考える。

結論
医療者によるACP相談支援を受けた慢性疾患を持つ高齢者は、予後1年以内の診断下での心肺蘇生を希望しにくく、その後の療養生活における包括的QOLが上昇することが示唆された。

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