Probing Primordial Perturbations on Small Scales through Dark Matter Halos
概要
学位報告4
別紙4
報 告 番
※
甲
第
号
号
主
論
論文題目
文
の
要
旨
Probing Primordial Perturbations on Small Scales
through Dark Matter Halos
(ダークマターハローを用いた小スケール原始ゆらぎの観測的検証)
氏
名
阿部
克哉
論 文 内 容 の 要 旨
我々の宇宙には、惑星から銀河団などにいたるまで、スケールに富んだ階層的構造が広がって
いる。これらの階層的構造の種は原始ゆらぎと呼ばれており、宇宙極初期のインフレーション
と呼ばれる時期に作られたことが予言されている。
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)や宇宙の大規模構造に代表される近年の精密な宇宙論的観測は、
およそ 1Mpc よりも大きなスケールにおいて、原始ゆらぎの観測を可能にし、標準宇宙論にお
けるインフレーション理論との整合性を確かめた。その一方で、小さなスケールの原始ゆらぎ
の検証は、理論的・観測的に難しい。現代までに、小スケール原始ゆらぎを間接的に検証する
手段はいくつか提案されており、中でも 1989 年に打ち上げられた COBE 衛星による CMB の
スペクトル歪みの観測はゆらぎの振幅に上限を設けたが、さらなる観測的検証が待ち望まれて
いる。
主論文では、小スケール原始ゆらぎの新しい観測的検証手法を提案する。その一つ目として、
ダークマターハロー由来の熱制動放射が小質量のダークマターハローの存在量の探査に適して
いることを示し、この観測を用いた小スケール原始ゆらぎの調査の可能性に関して議論する。
結果として、これらの熱制動放射のシグナルは観測されているシグナルの 10%以下ではあるが、
プランク衛星の観測で得られた宇宙論的パラメータの 95%信頼領域内で、これらシグナルが
20%程度変化しうることがわかった。現在観測されている熱制動放射はおおよそ我々の銀河由
来であると考えられているため、他の周波数帯の観測や銀河観測との共同解析により、これら
の成分を取り除くことで、ダークマターハロー由来の熱制動放射を小スケール原始ゆらぎの調
査に使えることを示した。
他の新しい観測的検証手法として、本論文では ultracompact minihalo(UCMH)と呼ばれる天
体にも着目する。先行研究では、UCMH 内のダークマターの対消滅により放たれるガンマ線が
Fermi 衛星の観測にて被検出であった事実から、COBE 衛星による小スケール原始ゆらぎへの
制限よりも強い制限を設けている。しかしながら、この制限は DM の性質やモデルパラメータ
に依存している。本論文では、DM の性質によらない新しい制限手法として UCMH に由来す
る 21cm 線のシグナルについて議論する。結果として、21cm 線の将来計画である Square
Kilometre Array (SKA)の観測により、UCMH 由来の 21cm シグナルが観測可能であることを
示す。これにより、もしも SKA の観測でこれらのシグナルが非検出であった場合、小スケール
原始ゆらぎの大きさに、およそ𝐴𝜁 ≦ 10−5の制限を設けることができる。また、UCMH 内の初
代星形成による宇宙再電離史への影響に関しても、Planck 衛星による CMB の非等方性観測デ
ータと Markov Chain Monte Carlo 法を用いてテストした。結果として、これらの影響は Planck
の E モード偏光の観測データと整合性が低く、𝑘 ≦ 50 Mpc−1のスケールにて
𝐴𝜁 ≦ 10−8のパラメータ領域が好まれることを示した。