書き出し
自然災害における被災情報の表現と受容に関する研究
概要
第 2 章では、被災情報の伝達方式として被災者の「語り」を研究対象とする意義を示す。
まず、数ある被災情報の表現方法の中から被災者の「語り」に着目する理由を明確にする。
次に、体験の語り継ぎを担ってきた「語り部」の語りにおける「定型化」の問題を指摘し、
それが外部からの圧力により生じる現象であるとの説に対し、
「定型化」とは送り手のため
のものであり、送り手が求めたものでもあるという側面があることを示す。続いて、
「語り」
には、語る内容としての「記憶」と、それを表現するための「語りの方式(ナラティヴ)」
の 2 つの要素で構成されているという観点から、
「記憶研究」と「ナラティヴ・アプローチ」
という 2 つの領域にまたがって議論を展開する。最後に、時間経過による変容を単なる「忘
却」ではなく「社会的現実」の喪失過程であるという視点に基づき、それが受け手だけの問
題ではなく、送り手においても「風化」が起こり得ることを指摘し、送り手の語りの時間経
過による変容を明らかにすることを本研究の研究課題とすることを示す。 ...