エクソーム解析データに基づく孤発性アルツハイマー病関連遺伝子の探索
概要
アルツハイマー病(AD)は,認知症の主な原因疾患である.Genome wide association study(GWAS)によりいくつかのAD関連遺伝子が同定されたが,双子研究により推定される遺伝的要因のすべてを説明できていない.本邦における遅発性AD(late-onset Alzheimer’s disease, LOAD)の遺伝的要因を同定する目的で,孤発性LOAD(AD群)446例と健常高齢者446例について全エクソーム解析データを用いてADに関連する遺伝子の探索を行った.Identity by descent(IBD)解析を行った結果,エクソーム解析のエラーと考えられる症例と近縁関係が疑われる症例が認められた.それらのサンプルを除いたAD群438例とCTRL群413例について以下の解析を行った.
家族性ADにおける既知の病原性遺伝子(PSEN1,PSEN2,APP)における変異があるか調べた.結果,AD群3例(0.68%)において,PSEN1に病原性または病原性が疑われる変異を認めた(既知の変異が2つ,同一アミノ酸変異の報告がある変異が1つ).孤発例においても家族性AD原因遺伝子の病原性変異を有することがあり,検索の対象とする必要がある.また,AD以外で認知症を呈する疾患の原因遺伝子(MAPT,GRN,PRNP)における変異を調べたところ,AD群1例においてMAPTの病原性変異を認めた.PSEN1の病原性変異を有する3例とMAPTの病原性変異を有する1例を除いた,AD群434例とCTRL群413例について以下の解析を行った.
まず,網羅的な単一の変異解析を行ったところ,既知のAD関連変異であるAPOE遺伝子型ε4を来す変異(p.C130R,rs429358)で最も低いp値が得られた(odds ratio(OR)4.19, 95% confidence interval (CI)[3.21–5.50], p=1.00×10-29).それ以外の変異におけるp値はすべて,Bonferroniの補正をしたゲノムワイドな有意水準(3.54×10-7)を下回らなかった.
次に,AD感受性遺伝子として知られている7つの遺伝子(ABCA7,APOE,PLD3,SHARPIN,SORL1,TREM2,UNC5C)について,minor allele frequency(MAF)が1%以下のレアバリアントを持つ症例数に有意差があるか確認した.結果,ABCA7において最も低いp値となり(OR1.72,95%CI[1.14-2.57],p=0.0082),特に機能障害性が予測されるレアバリアントを有する症例がAD群で多い傾向が認められたが,多重検定を考慮すると有意ではなかった.さらに,同解析手法を,すべての遺伝子に対して行った結果,孤発性LOADと関連する遺伝子は見いだされなかった.第二種の過誤により有意差が検出できなかった可能性があり,新たなAD感受性遺伝子を見いだすには,さらなる症例の蓄積により検出力を上げる必要がある.