Local sympathetic neurons promote neutrophil egress from the bone marrow at the onset of acute inflammation
概要
〔目的(Purpose)〕
交感神経系は、生体恒常性の維持や環境からの刺激に対する応答を司る。近年、交感神経系が免疫系も制御することが明らかにされており、免疫の中枢である骨髄の制御が注目を集めている。交感神経は、定常状態では骨髄細胞のホーミングを促進し、造版幹細胞の維持に関わる一方で、急性ストレス時には造血幹細胞・前駆細胞の末梢血への動員を促進することが過去に報告されている。しかしこれまでの阻害薬などを使った実験では、神経系と内分泌系を区別して評価することができず、局所の交感神経が、免疫細胞をどのように制御するのか明らかではなかった。好中球は急性炎症の初期において、最初に組織に動員され、細菌の除去に働くが、定常状態においては98%が骨髄内に存在し、感染の際に末梢血に動員される。そのため、好中球の骨髄からの動員は、炎症の初期において重要なステップであるということができる。好中球の動員は“綱引き”モデルで説明することができる。このモデルにおいては、血管側からのCXCL1, CXCL2と間質細胞側からのCXCL12などのケモカインのバランスで好中球の動員が制御されているが、交感神経が好中球の動員をどのように制御するのかは明らかではない。そこで今回の研究では、急性炎症初期において、局所の交感神経が好中球の動態をどのように制御するのかを明らかにし、そのメカニズムを解明することを目的とした。
〔方法ならびに成績(Methods/Results)〕
今回、マウスに局所交感神経切除術を行い、骨髄を二光子励起顕微鏡を用いて観察するという独自の手法を用いて、骨髄における局所交感神経の機能の検討を行った。まず我々は、AAVベクターをマウスの交感神経節に投与して末梢交感神経のトレーシングを行い、マウス頭頂骨において、交感神経が血管に接着していることを明らかにした。続いて、これらの神経の機能を調べるため、交感神経を局所的に切除し、急性炎症モデルにおける好中球の動態を観察したところ、神経切除を行ったマウスでは、好中球の数の減少率が低下し、好中球の血管への動員が遅延した。統いてこのメカニズムを明らかにするため、血管内皮細胞から産生され、好中球の動員に関わるケモカイン:CXCL1, CXCL2に蓿目した。骨髄内の間質細胞や、血球系細胞と比較して、血管内皮細胞でのCxcl1の発現量が多く、の発現量と比べても顕著であった。また、血管内皮細胞はアドレナリン受容体の中で、β2受容体を多く発現していることが分かり、交感神経からの刺激の伝達は、β2受容体を介していることが示唆された。続いて、in vivoでのアドレナリンβシグナルの機能を検討するため、β阻害薬を投与したところ、血管内皮細胞におけるCXCL1の発現が抑制された。さらに、急性炎症モデルにおいて、阻害薬の投与により骨髄における好中球数の減少率が低下し、好中球の動員遅延も観察された。さらに、血管に動員された好中球は肺に集積するが、肺への好中球の集積も抑制された。
〔総括(Conclusion)〕
局所交感神経切除と生体イメージングを組み合わせた独自の手法により、局所の交感神経はアドレナリンβ剌激を介して血管内皮のCXCL1産生を促し、好中球の動員を促進することが明らかとなった。神経系による免疫系の制御機構の一部を明かにするとともに、敗血症におけるβ阻害薬の作用機序の一端を解明した。