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家族発症肺癌の臨床および遺伝学的特徴

宮部, 真悟 東北大学

2023.03.24

概要

博⼠論⽂

家族発症肺癌の臨床および遺伝学的特徴

東北⼤学⼤学院医学系研究科医科学専攻
腫瘍制御研究部⾨ 呼吸器外科学分野
宮部 真悟

1

⽬次

略語 .................................................................................................................................................4

要約 .................................................................................................................................................6

研究背景 ..........................................................................................................................................7

研究⽬的 ..........................................................................................................................................9

研究⽅法 ........................................................................................................................................10

対象患者 .................................................................................................................................... 10

全エクソンシーケンス解析 ....................................................................................................... 10

サンガーシーケンス解析........................................................................................................... 12

変異シグネチャー解析 .............................................................................................................. 14

統計解析 .................................................................................................................................... 15

結果 ...............................................................................................................................................16

本研究における NSCLC 症例の臨床的特徴 ............................................................................. 16

NSCLC への感受性をもたらす可能性のある⽣殖細胞系列のバリアント ............................... 17

2

本研究における NSCLC の体細胞変異 ..................................................................................... 19

本研究における NSCLC の変異シグネチャー .......................................................................... 20

考察 ...............................................................................................................................................22

今回の研究の知⾒...................................................................................................................... 22

⽣殖細胞系列エクソーム解析:DHODH 遺伝⼦ .................................................................... 22

本研究における体細胞遺伝⼦エクソーム解析結果 .................................................................. 26

本研究の強み ............................................................................................................................. 27

本研究の限界 ............................................................................................................................. 27

本研究の展望 ............................................................................................................................. 28

結語 ...............................................................................................................................................29

参考⽂献 ........................................................................................................................................30

図表説明 ........................................................................................................................................36

謝辞 ...............................................................................................................................................40

3

略語
CHEK2:checkpoint kinase 2
DHODH:dihydroorotate dehydrogenase
DNA:deoxyribonucleoic acid
EGFR:epithelial growth factor receptor
FFPE:formaline-fixed paraffine embedded
GWAS:genome wide association study
KRAS:Kirsten rat sarcoma viral oncogene homolog
MET:mesenchymal epithelial transition factor
NSCLC:non small cell lung cancer
NGS:next generation sequencing
OR:odds ratio
PCA:principal component analysis
PDB:protein data base
RB1:Retino Blastoma 1
RCCD1:Regular of Chromome Condensation1 domain contaning1
SBS:single base substitution

4

SNV:single nucleotide variant
TP53:Timour Protein53
TSG:tumor suppressing gene
VUS:variant of uncertain significance
WES:whole exome sequencing
WT1:Wilms Tumor1

5

要約
⾮⼩細胞肺癌(以下、NSCLC)の発癌には、喫煙などの環境発癌物質への曝露が⼤きな要
因である。しかし、遺伝的要因もその発癌過程に寄与している可能性がある。NSCLC の癌
抑制遺伝⼦候補を同定するために、宮城県⽴がんセンター呼吸器外科で NSCLC に罹患し
2010 年から 2018 年の間に⼿術を受け、かつ第⼀度近親者に NSCLC 患者を持つ⾎縁者
NSCLC ペア 2 ⼈の親⼦ 1 組、きょうだい 9 組の計 10 組、ペアが揃わなかった個⼈のきょ
うだい 2 組と親⼦ 1 組の計 3 組の合計 23 ⼈の臨床情報ならびに⼿術検体を収集した。この
うち 17 例について⾮癌部による⽣殖細胞系列と癌部による体細胞系列の両⽅の DNA のエ
クソーム解析を⾏った。これら 17 例の⽣殖細胞系エクソームデータで検出されたほとんど
の短バリアントは 14,000 ⼈以上の⽇本⼈参照ゲノムパネルである 14KJPN に登録されてい
るバリアントと同⼀であった。その中でピリミジン合成に重要なジヒドロオロト酸デヒド
ロゲナーゼをコードし、常染⾊体潜性遺伝病である Miller 症候群の原因遺伝⼦である

DHODH 遺伝⼦の⾮同義バリアント p.A347T のみが同⼀家族内の NSCLC 患者のペアで共
有されていることが判明した。このバリアントは、わが国の Miller 症候群の症例に観察さ
れた変異で病的変異と考えられる。本研究のサンプルのエクソームデータにおける体細胞
系列の変異は、EGFR および TP53 遺伝⼦における頻出の変異を⽰した。9 ⽣殖細胞由来の
病原性 DHODH 変異体陽性例のペアについて、deconstructSigs を⽤いて体細胞 SNV の変

6

異シグネチャーを解析したところ、これらの例では SBS3(相同組み換え修復⽋損)
、SBS6
(DNA ミスマッチ修復)
、SBS7(紫外線曝露)
、SBS15(DNA ミスマッチ修復異常)が変
異シグネチャーとして含まれており、これらの例ではピリミジン⽣成に異常が⽣じること
で DNA 修復システムのエラーが増加すると⽰唆された。

研究背景
⾮⼩細胞肺がん(NSCLC)は、国⽴がん研究センターがん情報サービスや厚⽣労働省⼈⼝
動態統計による統計では⽇本および世界におけるがん死亡原因の第 1 位である。NSCLC の
腫瘍形成には、喫煙などの環境・⾏動因⼦が重要な役割を担っている(1)。また、遺伝的要
因もその発症に寄与すると広く考えられている。⼀卵性双⽣児と⼆卵性双⽣児の様々な臓
器のがん発症を⽐較した研究では、NSCLC の結果は統計的に有意ではなかったものの、
NSCLC 発症に対する遺伝的要因が寄与している傾向が⾒られた(2)。
NSCLC の遺伝的要因としてこれまで追求されてきたのは、喫煙との関係である(3)。具
体的には喫煙により発⽣する発癌物質などに対し個体が持つ解毒の過程に関連しうる遺伝
⼦群が主たる検討対象とされてきた(3)。ゲノムワイド関連解析(genome-wide association
study: GWAS)もまた、NSCLC に対する遺伝的感受性を同定するために広く⾏われてきた
(4)。注⽬すべき報告として、染⾊体 15q24-25.1 におけるニコチン性アセチルコリン受容体

7

サブユニットをコードする領域を特徴とする遺伝⼦群に NSCLC が関連することが⾒出さ
れた。このバリアントは喫煙に対する依存度に関連するため、喫煙量が増えることが
NSCLC 発症に関連すると考えられており、同様に喫煙と発症が関連する慢性閉塞性肺疾患
や末梢動脈疾患との関連も⽰唆されている。この結果は⽇本⼈および中国⼈の集団でも⼀
部再現されたが、最も強い関連を⽰した多様体はこれまでの報告とは異なり、⽇本⼈および
中国⼈の集団では喫煙⾏動とは関連がなかった(5), (6)。このことは、NSCLC の遺伝や環境
による相互作⽤が、地域や⺠族によって異なることを⽰唆している。
GWAS は、形質に対する浸透度が低い⾼頻度なバリアントを検出するのに特に有効であ
るが、ほとんどの癌抑制遺伝⼦(TSG)は、家族性発症を認める⼤規模家系の連鎖解析によ
って同定された。家族性 NSCLC の連鎖解析についていくつかの報告がなされているが、そ
れらの報告では明らかな TSG は同定されなかった(7)。最近、家族性 NSCLC の感受性をも
たらす複数の遺伝⼦が、TSG の候補として染⾊体 6p23-25 の領域に同定された(8), (9)。⽇
本からは、同胞に発⽣した NSCLC の遺伝⼦解析について述べた 2 つの報告がある。まず、
Kukita らは CHEK2 遺伝⼦の不活性化が NSCLC を含む複数の癌種の発症に関連すること
を報告した(10)。罹患した同胞では、全ゲノム領域の約 10%がホモ接合であり、両親の⾎
縁関係が⽰唆された。第⼆に、Tode らは 7 ⼈兄弟のうち EGFR 変異型 NSCLC に罹患した
4 ⼈、63 歳まで健康だった 2 ⼈の計 6 ⼈の⽣殖細胞系列の全エクソーム解析の結果を報告

8

し、EGFR 関連 NSCLC に寄与するものとして MET p.N375L 変異を同定している(11)。
これらの報告から、家族集積性を⽰す NSCLC は、NSCLC に関連する TSG の同定に役⽴
つ可能性がある。そして、宮城県⽴がんセンター呼吸器外科(以下当院)は宮城県の南部、
⼈⼝ 50 万⼈を医療圏としているが、この地域は⼈⼝動態が⽐較的限定されており、ある程
度責任バリアントが集約し、
少数例でも変異が共通に出現すれば NSCLC の原因となる TSG
探索が⾒つかる可能性がある。

研究⽬的
当院にて NSCLC の家族集積性(第⼀親等での複数の NSCLC)を⽰した患者について、
NSCLC に関連しうる癌抑制遺伝⼦候補を同定し、さらに、NSCLC 発症に関連する環境因
⼦や遺伝的背景を探索する。そのために、⽣殖細胞系列及び体細胞系列のエクソーム解析を
実施する。本研究によって最終的には NSCLC 発症予防の分⼦標的薬剤の探索や、⽣活指導
を可能にし、さらには近親での責任遺伝⼦変異の共有者に対する早期診断による効果的な
治療戦略⽴案に資することを⽬的とする。

9

研究⽅法
対象患者

本研究デザインを図 1 に⽰す。問診記録をもとに家族歴を調査し、2010 年から 2018 年ま
でに当院で NSCLC に対する⼿術を受けた患者のうち、第⼀度近親者等に NSCLC 患者が
存在するものをリストアップし、その中からきょうだい 9 組、親⼦ 1 組の計 10 組の⾎縁者
のペアと検体がペアで揃わなかった個⼈ 3 名の合計 23 例の症例を収集した。当院病理部に
検体が保管されている症例について、当院の電⼦カルテシステムから 1 ⼈ずつ患者の臨床
データを抽出した(12)。本研究は、宮城県⽴がんセンターの倫理委員会の承認を得た(登録
番号:2020-040)
。今回の研究では⽣殖細胞系列の変異の検出を実施しており、研究参加者
のプライバシー保護に配慮し、三省ゲノム指針を遵守して実施した。

全エクソンシーケンス解析

各患者のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)または凍結検体の癌部と⾮癌部のそれぞ
れから抽出したゲノム DNA を、標準プロトコルを⽤いて全エクソームシーケンス(WES)
を⾏った(12)。WES は Macrogen® Japan 株式会社に委託し、NovaSeq 6000 を使⽤した。
出⼒概要は表 1 に⽰す。情報解析の⼿順は、まず次世代シークエンサーから出⼒される fastq
ファイルについて、ライブラリー構築に⽤いるアダプター配列をトリミングした後、マッピ

10

ン グ ソ フ ト と し て BWA-MEM を ⽤ い 、 参 照 配 列 で あ る JG2.1.0 reference ( DOI:
10.1038/s41467-020-20146-8)に pair reads をマッピングした(13)。標準配列と異なる配列
であるバリアントコールの検出は、Genome Analysis Toolkit 4.2.1.0 (14)の Mutect2 を⽤い
た。特に癌部については、今回の解析で同様にバリアントコールを実施した 17 例の⾮癌組
織で検出された変異を統合した正常パネル(panel of normal)を⽤いた。このことで、個別
の正常検体でのバリアントコールの結果を相互に補完し、より腫瘍に特異的かつ、今回の解
析にのみ⽣じた可能性のあるバイアスを効率的に排除可能になる。今回の解析におけるフ
ィルタリング条件は、false discovery rate = 0.01, unique alt read count = 20, minimum allele
fraction = 0.1, minimum depth = 100 とした(12)。検出されたバリアントに対し、遺伝⼦内
での変異の作⽤などの意味付けを⾏うアノテーションは、14KJPN バリアントデータセット
(https://jmorp.megabank.tohoku.ac.jp/202206/downloads/legacy#variant)をダウンロー
ドし、常染⾊体とX染⾊体(PAR2:Pseudoautosomal Region 2 か所とした参照配列による
マッピング、バリアントコールを実施したバージョン)の 2 つのファイルを結合し、後述す
る Annovar ⽤に変換したファイルを⽤いた。アノテーションのソフトウェアは Annovar
(15)を⽤い、14KJPN に加えて ClinVar (20210501) 及び COSMIC 92 (16)をデータベース
として活⽤した。また、ClinVar に収録されていない病原性のあるバリアント候補を同定す
るために InterVar ソフトウェアを使⽤した(17)。これらデータベースは国際参照ゲノム配

11

列である GRCh38 に基づいて作成されており、JG2 を参照配列としてバリアントコールを
実施した本解析結果と直接照合することはできない。このために、東北⼤学の岡村容伸博⼠
が作成したソフトウェア「transanno」
(https://github.com/informationsea/transanno)を⽤
いて、JG2.1.0 を hg38 に変換した。NSCLC の発症に関与する⽣殖細胞系列のバリアントを
同定するため、以下のバリアントセットをマッピングから除外することでアーチファクト
の影響を除去した。病的変異の絞り込みに際し NSCLC の家族発症が稀であり、おおよそ
1000 ⼈に 1 名程度と⾒当をつけその倍の頻度である 1/500 とし、マイナーアレル頻度が
0.001 以上のものを除外した上で 14KJPN に収載されているバリアントのパネル、今回の
panel of normal 、 ゲ ノ ム 中 の 各 種 反 復 配 列 デ ー タ ベ ー ス rmsk ( 4.0.7 :
http://www.repeatmasker.org)で注釈された反復配列中のバリアント、Maffucci らによって
提⽰されたヒトエクソームシーケンスのブラックリスト

(エクソーム解析で好発する⼈

⼯的なバリアント)(18) などを⽤いて、候補バリアントを絞り込んだ。DHODH バリアン
トの 3 次元タンパク質構造は jMorp ウェブサイトから取得した。

サンガーシーケンス解析

WES の結果を確認するために、TP53 遺伝⼦のエクソン 5、6、8 における PCR アンプリコ
ンのサンガーシーケンシングを実施した。アンプリコンシーケンス⽤のプライマーは以下

12

の通りである。
TP53hg19_chr17_7577278F, 5-ACCTGATTTCCTTACTGCCTCTGGC-3
TP53hg19_chr17_7577683R, 5-TGGCAAATGCCAATTGCAGG-3 (以上エクソン 8 およ
び 9)
TP53hg19_chr17_7578593F,5-GCCCTGACTTTCAACTCTGTCTC-3
TP53hg19_chr17_7578120R, 5-GGCCACTGACAACCACCCTTAACC-3 (以上エクソン 5
と 6)

PCR の条件については、KOD FX (KFX-101; 東洋紡績株式会社, ⼤阪, ⽇本), PCRx
Enhancer System (11495017; Thermo Fisher Scientific) と、上記プライマーセットを⽤い
て PCR を⾏い、標的領域の増幅を⾏った。94℃で 2 分間変性した後、98℃で 10 秒間変性、
55℃で 30 秒間アニーリング、68℃で 30 秒間伸⻑を 35 サイクル⾏い、その後 68℃で 7 分
間伸⻑反応を⾏った。PCR 増幅後、PCR 産物を ExoSAP-IT Express PCR Cleanup Reagents
(75001; Thermo Fisher Scientific) を⽤い、37℃で 4 分間、80℃で 1 分間処理し、単鎖 DNA
と dNTP を除去した。各 PCR 産物のサンガー配列解析は、Eurofins Genomics 株式会社(東
京、⽇本)により⾏われた。 ...

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