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大学・研究所にある論文を検索できる 「Phenotypic characterization with somatic genome editing and gene transfer reveals the diverse oncogenicity of ependymoma fusion genes」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Phenotypic characterization with somatic genome editing and gene transfer reveals the diverse oncogenicity of ependymoma fusion genes

高寺 睦見 横浜市立大学

2021.03.25

概要

1.序論
 上衣腫(Ependymoma)は,脳室壁や脊髄中心管内に存在する上衣細胞から発生する腫瘍で,小児から成人まで全年齢に発症する原発性脳腫瘍の1つである(Ostrom et al., 2019).根治的な外科的切除と局所放射線療法が現在,上衣腫に対する最善の治療法となっている.腫瘍の増大,進展を長期間制御し得るような化学療法はまだ同定されていないため再発腫瘍は致命的となる場合があり,新規治療法の開発が必要とされている.近年の大規模なゲノム解析により,上衣腫は解剖学的位置と強く関連している別個の分子サブグループに分類されることが明らかになった(Pajtler et al., 2015)(Parker et al., 2014).テント上にみられる上衣腫(ST-EPN)は 2 つの相互排他的な RELA および YAP1 関連融合遺伝子によってさら異なるグループに特徴づけられた(Pajtler et al., 2015).これらの ST-EPN 融合遺伝子は,診断の有用性だけでなく,これらの融合遺伝子陽性腫瘍に対する治療の可能性を示唆する.しかし,上衣腫の稀少性により PDX(Patient-derived xenografts)モデルや腫瘍細胞株の樹立は容易でなく治療法の開発は停滞している.
 RELA 融合遺伝子サブグループ(ST-EPN-RELA)はテント上にみられる上衣腫の大部分を占め,C11orf95 遺伝子と RELA 遺伝子間の融合遺伝子の存在を特徴としている(Parker et al., 2014).C11orf95-RELA 融合遺伝子はクロモスリプシス(染色体粉砕)と呼ばれる 11 番染色体長腕の大規模な染色体再構成により生じ,その結果いくつかの RELA 融合遺伝子のバリアントが生じる.最も頻繁にみられる RELA 融合遺伝子タイプ 1 およびタイプ 2 は,これまでに RCAS/tv-a レトロウイルス遺伝子導入システムまたは同種移植モデルを用いてマウス神経幹細胞で発現させた場合にヒト上衣腫様腫瘍を誘発することが示され,RELA 融合遺伝子がヒト上衣腫形成の原因であることを強く示唆している(Ozawa et al., 2018)(Parker et al., 2014).しかし,タイプ 1 およびタイプ 2 以外の他の RELA 融合遺伝子バリアントの発癌性はまだ決定されておらず,さらに 11 番染色体長腕上の遺伝子が関与する他のいくつかのタイプの融合遺伝子も RELA 融合遺伝子と同時に同定されており腫瘍発生の詳細な因果関係は明らかとなっていない(Parker et al., 2014).大規模な染色体イベントであるクロモスリプシスは,11 番染色体長腕上の近接する遺伝子にも影響を及ぼし,それによって RELA 融合遺伝子の腫瘍形成過程に寄与する可能性がある.ただし,これらの複雑なゲノム再構成の影響は,以前のマウスモデルでは検討されておらず,ゲノム再構成が融合遺伝子を形成する直接的な原因イベントであるかどうかは不明である.
 YAP1 関連融合遺伝子サブグループ(ST-EPN-YAP1)は,あまり頻繁ではないサブグループで,YAP1-MAMLD1 および YAP1-FAM118B 融合遺伝子が認められる(Pajtler et al., 2015). ST-EPN-RELA とは対照的に,これらの腫瘍のゲノムは,11 番染色体長腕の YAP1 遺伝子座が関与する局所のコピー数変化を除いて⽐較的安定しており,より限られた数の遺伝子変化で腫瘍形成を促進するのに⼗分である可能性がある.YAP1-MAMLD1 融合遺伝子の発癌性は,最近,胎児マウス脳室下帯における子宮内遺伝子導入システムを介した強制発現によって実証されたが.YAP1-FAM118B 融合遺伝子は,同じシステムで脳腫瘍の形成を誘発出来なかった(Pajtler et al., 2019).⼀方,RCAS / tv-a レトロウイルス遺伝子導入システムを使用して新生仔マウス脳で発現させると両方の融合遺伝子で腫瘍形成が観察され,YAP1融合遺伝子間で潜在的に異なる腫瘍形成メカニズムが示唆された(Szulzewsky et al., 2020).そこで我々は,テント上の上衣腫形成における異なる染色体変化の生物学的重要性を明ら かにするために,2 つの独立したマウス腫瘍モデルにおける上衣腫融合遺伝子の発癌能力を調べた.まず,ゲノム編集技術である CRISPR/Cas9 システムを使用してマウスの染色体再構成を直接誘導し,発癌性融合遺伝子の形成過程を再現可能か検討した.第二に,若年成体および新生仔マウスの脳へのレンチウイルス遺伝子導入システムを使用して,いくつかの RELA 融合遺伝子バリアントおよび YAP1 関連融合遺伝子における発癌性を検討した.

2.実験材料と方法
 まず,レンチウイルス遺伝子導入モデルの評価を行った.神経幹細胞特異的に Cre リコンビナーゼを発現している Nestin-Cre マウスと Cas9 タンパク質を発現している Cag-Cas9マウスを交配させ Nestin-Cre +/-; Cag-Cas9 +/+マウスを樹立した.上衣腫の発生起源と考えられている放射状グリア細胞に特異的に RELA 融合遺伝子タイプ 1 と高頻度でみられる Cdkn2a 遺伝子欠失を誘導するために,RELA 融合遺伝子タイプ 1 とCdkn2a 標的配列を挿入したレンチウイルスベクターを作成し,そのレンチウイルスを Nestin-Cre +/-; Cag-Cas9+/+新生仔マウスの脳に注入した.
 次に,マウス脳内に遺伝子再構成を導入することにより内因性融合遺伝子の誘導を試み,脳腫瘍が生じるか検討した.まずヒト上衣腫での染色体切断点を参考に Cas9 標的配列を設計し,標的配列を挿入した発現ベクターを作成し遺伝子再構成の誘導の成否とその効率性をヒト及びマウス培養細胞(293T および NIH3T3)内で観察した.さらに,マウス脳内にCas9 標的配列を挿入したレンチウイルスを注入することにより発癌性融合遺伝子の形成過程を再現可能か検討した.
 また,レンチウイルス遺伝子導入モデルにおける RELA 融合遺伝子バリアントと YAP1 関連融合遺伝子についても各々の融合遺伝子バリアントと Cdkn2a 標的配列を挿入したレンチウイルスベクターを作成し,そのレンチウイルスを Nestin-Cre +/-; Cag-Cas9 +/+新生仔マウスの脳に注入した.すべてのマウスはレンチウイルス注入後に症候性となるまで,または無症候性の場合は注入後 150 日間観察を行った.

3.結果
 レンチウイルス遺伝子導入システムを用いてマウス神経幹細胞に RELA 融合遺伝子タイプ 1 を発現させると,ヒト上衣腫に組織学的に類似した脳腫瘍が観察された.以前の報告と同様に Cdkn2a 欠失の有無で腫瘍の形成能に差は認めなかった.レンチウイルス遺伝子導入モデルにおいても RELA 融合遺伝子の強力な発癌能力が観察され,本モデルが⼗分に機能することが確認された.
 また,CRISPR/Cas9 システムを介した遺伝子再構成によりヒト及びマウス培養細胞で,いずれも複数の標的箇所の切断により目的とする遺伝子再構成が生じ,内因性の C11orf95- RELA 融合遺伝子の形成が観察された.遺伝子再構成をマウス脳内へ導入したところ,ヒト上衣腫様腫瘍の発生が観察され,腫瘍組織内の内因性融合タンパク質の発現が確認された.RELA 遺伝子の機能ドメインを保持した RELA 融合遺伝子バリアントは多様な発癌性を示した.YAP1 関連融合遺伝子はマウスの RELA 融合遺伝子誘発腫瘍とは異なる形態学的および組織学的特徴を持つ脳腫瘍を誘発した.

4.考察
 我々は,ターゲット遺伝子のゲノム編集によって生成された内因性 C11orf95-RELA 融合遺伝子がヒト培養細胞において再現可能であり,内因性融合タンパク質の発現を示すことに成功したばかりでなく,マウスの脳に上衣腫様の脳腫瘍を発症するのに⼗分であることを示すことに成功した.これらの結果は,RELA 遺伝子座が関与する染色体再構成が C11orf95-RELA 融合遺伝子形成の直接的な原因であることを示した.我々のモデルは,上衣腫における遺伝子再構成の生物学的意義は,発癌性 RELA 融合転写物の発現につながる新規スプライスジャンクションの作成にあることを強く示唆しており,クリモスリプシスに関与する隣接遺伝子の腫瘍形成への影響はそれほど大きくない可能性がある.RELA 融合遺伝子バリアントや YAP 関連融合遺伝子による発癌能力の差はサブグループ内での不均⼀性を示唆し,上衣腫関連融合遺伝子の診断的価値をさらに高めるのに有用であることを示した. 我々の新規マウス上衣腫モデルによりさらなる腫瘍発生機序の解明や新規治療の開発が期待される.

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