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大学・研究所にある論文を検索できる 「頭蓋顎顔面の形態形成における硫酸代謝の役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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頭蓋顎顔面の形態形成における硫酸代謝の役割

吉田, 侑加 大阪大学

2022.03.24

概要

【諸言】
 頭蓋顎顔面の形成異常、歯の発生異常を伴う先天性疾患は環境的要因、遺伝的要因など様々な要因によって引き起こされる。身体を構成する細胞内外に存在する電解質の一つに、硫酸イオン(SO42⁻)があり、硫酸イオン代謝は、生体組織の発生に必須の役割を果たしていると考えられている。
 細胞内に硫酸イオンを取り込む硫酸イオントランスポーターとして、Slc26ファミリーが知られている。Slc26輸送体ファミリーの一つであるSlc26a2遺伝子は低身長、短い四肢といった骨格形成異常を主徴とする捻曲性骨異形成症の原因遺伝子であることが分かっている。また、捻曲性骨異形成症の患者では、小顎症、高口蓋、口蓋裂といった頭蓋顎顔面の形態異常に加えて、歯の先天欠如や矮小歯といった歯の形態異常が認められる。しかし、硫酸イオン代謝がどのように頭蓋顎顔面の形態形成や歯胚の形成に関与するのかは報告されておらず、その詳細は不明である。本研究ではSlc26a2遺伝子に着目し、特に歯胚の形成における硫酸イオン代謝の生物学的意義について検索することを目的とした。

【材料および方法】
1、実験動物
 CRISPR/CAS9遺伝子編集法により、Slc26a2遺伝子のノックアウトマウス(以下Slc26a2-KO)を作製した。対称群として、妊娠したICR系統野生型雌性マウスの胎仔を使用した。観察はE18.5にて母体より胎仔を取り出して行った。
2、実験方法
 遺伝子発現パターンの解析のため、in situハイブリダイゼーション法を用いた。対称群とSlc26a2-KOの形態学的解析のため、透明骨格標本の作製、μCΤの撮影を行った。μCT撮影の際にはリンタングステン酸を造影剤に用いて撮影を行った。組織学的解析のためにパラフィン切片、凍結切片を作製し、ヘマトキシリンエオジン染色を行い、光学顕微鏡にて観察した。部位特異的な遺伝子発現を調べるため、レーザーマイクロダイセクションにて歯胚の象牙芽細胞を回収し、定量PCRを行い、遺伝子発現の絶対定量を行った。さらに詳細に歯胚の形成におけるSlc26a2トランスポーター欠失の影響を観察するため、E18.5のマウスの歯胚を摘出し、BALB/cSlc-nu/nuマウスの腎被膜下に移植した。4週間後に取り出し、ImageJを用いて体積測定を行った。さらに、ヒト歯髄幹細胞(hDPSC)のSlc26a2ノックダウン株を作製し、象牙芽細胞分化への影響を検討した。

【結果】
1、遺伝子はE9.5以降の各発生段階で、マウス上下顎骨において発現量が増加し、Slc26a2の発現はSlc26a1に比べて優位である
 頭蓋顎顔面の形成や歯胚の形成が起こるE9.5以降のマウス上下顎骨におけるSlc26alとSlc26a2の遺伝子発現の絶対定量を行った。各発生段階において、Slc26alと比較して、Slc26a2の発現量が優位に高く、は発生段階の進行に伴い、発現量が増加することが明らかとなった。
2、Slc26a2遺伝子は軟骨細胞、象牙芽細胞、エナメル芽細胞に高発現している
 E18.5のマウス胎仔の上下顎骨の切片を作製し、in situハイブリダイゼーション法を行った結果、顎顔面領域において、Slc26a2は軟骨細胞、象牙芽細胞、エナメル芽細胞に高発現していることが明らかとなった。
3、Slc26a2-KOは軟骨低形成、上顎骨の前後方向の低形成が認められる
 硫酸代謝異常がどのように頭蓋顎顔面の形態形成異常を引き起こすかを明らかにするため、Slc26a2遺伝子欠損マウス(SJc26a2-KO)をCRISPR/CAS9遺伝子編集法により作製した。Sk26a2-KOはすべて出生直後致死であった。Sic26a2-KOのマウス胎仔はE18.5で取り出し、形態学的解析を行った。対照群と比較して、四肢の短小化、顎顔面領域の軟骨低形成、上顎骨の前後方向の低形成が明らかとなった。長管骨の長径は短く、短径は長くなることを示した。
4、 Slc26a2-KOは特に上顎歯胚の長径が短く、象牙芽細胞の円柱構造が乱れ、核の局在が認められない。
 Slc26a2遺伝子が象牙芽細胞、エナメル芽細胞に高発現していることから、Slc26a2-KOの歯胚の観察を行った。対照群と比較して、Slc26a2-KOの歯胚の形態学的所見として、上顎歯胚の歯冠幅径が小さく、組織学的所見として、上顎切歯歯胚、臼歯歯胚の象牙芽細胞の扁平化、核の極性が見られないことが明らかとなった。下顎切歯歯胚、臼歯歯胚においては上顎ほど著明な差は認めなかった。
5、 Slc26a2-KOの上顎臼歯歯胚の象牙芽細胞ではDmpl, Dsppの発現が低下していた。
 Slc26a2-KOの象牙芽細胞の分化の異常がないかを確認するためSlc26a2-KOと対称群のE18.5の上顎歯胚象牙芽細胞をレーザーマイクロダイセクションにて回収し、象牙芽細胞分化マーカーであるDmpl,Dsppの発現量を比較した。Slc26a2-KOの上顎臼歯歯胚の象牙芽細胞ではDmpl,Dsppの発現が有意に低下していた。このことからの上顎歯胚の象牙芽細胞の分化異常が明らかとなった。
6、 ヒト歯髄幹細胞のSlc26a2ノックダウン株ではdmpl,dsppの発現量が有意に減少する
 象牙芽細胞分化に対する欠失の影響を明らかにするため、ヒト歯髄幹細胞(hDPSC)を用いて、Slc26a2ノックダウン株の分化能の解析を行った。骨分化培地にて2週間培養した結果、ノックダウン株は対象群と比較して、象牙芽細胞分化マーカーであるDmpl, Dsppの発現量が有意に減少していた。
7、 腎皮膜下に移植し発生したSlc26a2-KOの上顎臼歯の象牙質の体積は有意に低下した。
 Slc26a2-KOはすべて生後間もなく死亡するため、歯胚発生の長期的な観察ができない。そこで、我々は、歯胚発生後の、象牙質形成を観察するため、歯胚の再生を行う事とした。対照群とSlc26a2-KOのE18.5の上顎歯胚をヌードマウス腎被膜下に移植し、4週間後に取り出し、解析した結果、Slc26a2-KOの上顎臼歯における象牙質の体積は有意に低下していることが明らかになった。これらの結果から、Slc26a2トランスポーター欠損によって、象牙質の低形成が引き起こされることが明らかとなった。
8、 下顎歯胚の象牙芽細胞と比較して、上顎歯胚の象牙芽細胞ではSlc26a1の発現が低下している。
 Slc26a2-KOの上顎歯胚の表現型が下顎歯胚より著明であることから、上下顎臼歯歯胚の硫酸化プロテオグリカン総量を比色法にて定量を行った。結果、上顎歯胚では下顎歯胚より硫酸化の総量が低下していることが明らかとなった。この理由を、Slc26a1とSlc26a2のfunctional redundancyによるものと仮説を立て、Ε18.5のマウス胎仔の上下顎臼歯歯胚の象牙芽細胞をレーザーマイクロダイセクションにて回収し、Slc26a1とSlc26a2の遺伝子発現の絶対定量を行った。結果、下顎歯胚の象牙芽細胞と比較して、上顎歯胚の象牙芽細胞においてSlc26a1の発現が低いことが明らかとなった。上下顎臼歯歯胚での発現量に差は認められなかった。

【考察】
 Slc26a2-KOの上顎歯胚の象牙芽細胞において、硫酸イオンの細胞内への取り込みが阻害され、糖鎖修飾の過程で象牙芽細胞の細胞外マトリクスおよび基底膜に存在するプロテオグリカンの硫酸化が十分に行われないことで、象牙芽細胞の分化異常が引き起こされる可能性が示唆された。象牙芽細胞表面の硫酸化プロテオグリカンの硫酸化と脱硫酸化の適切なバランスによって象牙芽細胞分化が促進されると考えられる。
 また、Slc26a2-KOの歯の表現型が、下顎歯胚より上顎歯胚で顕著であった理由は、下顎歯胚の象牙芽細胞においてはSlc26a1によって硫酸イオンの取り込み機能が代償される一方で、上顎歯胚の象牙芽細胞においては、遺伝子が欠失した場合に、Slc26a1で代償できない可能性が考えられる。硫酸イオントランスポーターの上下顎における発現の差異は、上下顎のパターニングの違いにより生み出されている可能性がある。
 本研究は、頭蓋顎顔面領域において、Slc26a2トランスポーターを介した細胞内への硫酸イオンの取り込みが、特に上顎歯胚の象牙芽細胞分化、象牙質形成に重要な役割を果たしていることを示した初めての報告である。本研究結果は硫酸代謝と歯の発生の関与について有用な知見となり得る。また、SLC26A2関連軟骨異形成症の予防や治療に役立つ可能性がある。

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