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大学・研究所にある論文を検索できる 「コンドロイチン硫酸転移酵素Chst11の口蓋形成における役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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コンドロイチン硫酸転移酵素Chst11の口蓋形成における役割

横山, 美佳 大阪大学

2022.03.24

概要

【諸言】
 グルクロン酸(GlcA)とN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)の2糖が反復する糖鎖に硫酸が結合した構造を持つコンドロイチン硫酸(CS)は、プロテオグリカンとして細胞外マトリックス(ECM)や細胞表面に存在し、特に軟骨の基質に多く含まれている。CSの合成、代謝に関わる遺伝子の変異は軸前性短指症(原因遺伝子:などの先天性の軟骨形成異常を引き起こすことが知られている。これらの先天性疾患では口蓋裂を含む顎顔面形態異常や歯の形成異常を併発するが、そのメカニズムについては明らかになっていない。
 口蓋裂は、ヒトにおいて最も多く認められる先天性顎顔面形態異常の1つであり、発音障害、構音障害、審美障害を生じる。口蓋形成においては口蓋突起にCSプロテオグリカンが高発現しており、CSがロ蓋形成において重要であると考えられている。CSをはじめとしたグリコサミノグリカン(GAG)の硫酸化修飾は他のECMやタンパクとの相互作用において重要な役割を担っている。そこで本研究では、CSの硫酸化に関わる主要な遺伝子であるChst11遺伝子のホモノックアウトマウスを用いて、口蓋形成におけるCSやChst11の役割の解析を試みた。

【材料および方法】
1、実験動物
 Chst11遺伝子ホモノックアウトマウス(Chst11-ΚO)の胎仔とC57BL/6J系統野生型雌性マウス(WT)の胎仔を使用した。また、K14-creコンディショナルノックアウトマウスとWntl-creコンディショナルノックアウトマウスを作製した。

2、実験方法
 WTならびにChst11-KOの形態学的解析のため、E18.5の胎仔を摘出し、1%リンタングステン酸を造影剤に用いたmicroCT撮影、軟骨をアルシアンブルー、硬骨をアリザリンレッドで染色を行い、二重染色骨格標本の作製を行った。口蓋形成時期であるE14.5〜E15.5におけるChst11遺伝子の発現部位を解析するために、WTの胎仔を摘出し、Chst11童伝子特異的なプローブを用いてin situ hybridization法にてChst11 mRNAの検出を行った。組織学的解析のためにE14.5、E18.5の胎仔組織からパラフィン切片、凍結切片を作製し、ヘマトキシリンエオジン染色を行い、光学顕微鏡にて観察した。細胞増殖能は、5-ethyni卜2’-deoxyuridine(EdU)10μΜをΕ14.5胎仔の摘出5時間前に妊娠マウスの腹腔内に200μ1で投与を行い、作製した凍結切片をClick-iT®EdU assay kitを用いてEdU陽性細胞を検出した。アポトーシスの検出には、TUNEL染色法を用いた。口蓋形成におけるChst11の役割を明らかにするために上皮特異的(K14-cre)コンディショナルノックアウトマウスと間葉特異的(Wntl-cre)コンディショナルノックアウトマウスを作製し、経時的に観察した。遺伝子発現解析には、E14.5胎仔の口蓋突起からRNAの抽出後、CAGE法にて5’末端のシークエンスを行い、遺伝子発現パターンをGSEAにてエンリッチメント解析することで、Chst11-KOにて特異的なパスウェイを抽出した。口蓋突起挙上の時期における、口蓋突起組織内のΑΤΡ量を測定するために、胎生14.50齢(Ε14.5)の胎仔の口蓋突起組織を採取、または初代培養口蓋突起間葉細胞を用いて、ATP Assay Kit-Luminescence(同仁化学)のプロトコルに従い、ATP量を測定した。ロ蓋突起挙上時期における口蓋突起細胞の酸化ストレスの影響を検討するために、胎生14.50齢(E14.5)の胎仔の口蓋突起組織を採取した後、初代培養口蓋突起間葉細胞を用いて、96ウェルプレートにて細胞播種を行い、24時間培養後、200μΜ Η2Ο2処理を行う群と非処理群に分けた。さらに24時間培養した後、MTT Assay(同仁化学)のプロトコルに従い、細胞増殖能の測定と、JC-1Assay(同仁化学)のプロトコルに従い、ミトコンドリア膜電位の検出を行った。

【結果】
1、Chst11-KOの形態学的解析
 Chst11-KOの全てが出生直後に死亡した。E18.5で胎仔を摘出し形態学的解析を行ったところ、WTと比較して四肢の短小化、上下顎骨の劣成長、高口蓋、切歯歯胚の短小化、軟骨の低形成を示したが硬骨の形成は認めた。また、胎仔の約30%に口蓋裂を生じた。

2、Chst11遺伝子の口蓋における発現パターンの解析
 In situ hybridization法にて口蓋形成過程におけるChst11遺伝子の発現パターンを解析した。口蓋形成時期であるE14.5の口蓋突起の上皮と間葉において、Chst11遺伝子の高発現を確認した。

3、Chst11-KOの組織学的解析
 E14.5のWTの約18.2%(2/11匹)、Chst11-KOの約80%(8/10匹)が口蓋突起の挙上を認めなかった。ロ蓋突起の挙上を認めなかったChst11-KOの約半数は、その後口蓋突起の癒合が生じたと推察される。このことから、Chst11-K群では、口蓋突起の挙上の遅延が生じ、その一部に口蓋裂を生じることが示唆された。
 E14.5のChst11-KOの口蓋突起の間葉細胞では、WTと比較して細胞増殖能が低下していたが、アポトーシスに差は認めなかった。これらのことから、Chst11-KOの口蓋形成不全にはアポトーシスではなく、細胞増殖能の低下が関与していることが示唆された。

4、コンディショナルノックアウトマウスを用いた解析
 K14-creコンディショナルノックアウトマウスは生存可能であり、口蓋裂を示さなかった。一方で、Wntl-creコンディショナルノックアウトマウスは全て生後直後に死亡し、口蓋裂の表現型を約37.5%の割合で示した。このことから、口蓋裂の発症は、間葉組織におけるChst11の欠失に起因していることが示唆された。

5、遺伝子発現解析によるChst11-KOの口蓋突起の解析
 E14.5の口蓋突起組織からRNAを抽出し、Chst11-KOにおいて特異的な発現を示す遺伝子の網羅的な解析を行ったところ、Chst11-KOにおいて酸化的リン酸化に関与する遺伝子群の発現が有意に低下していた。

6、Chst11-KOの口蓋突起組織におけるATPの測定
 酸化的リン酸化はミトコンドリアにおけるATP産生に関与しており、酸化的リン酸化の低下によりATP産生量が低下することが推察されたため、Chst11-ΚΟの口蓋突起組織において、ΑΤΡ量の測定を行ったところ、ΑΤΡ量の低下を認めた。口蓋突起間葉における細胞増殖能の低下にはΑΤΡの低下が関与していることが示唆された。

7、Chst11-KOの口蓋突起間葉細胞に対する酸化ストレスの影響
 酸化ストレス下においてChst11-KOの口蓋突起間葉細胞の細胞増殖能とミトコンドリア膜電位は優位に低下した。これらの結果から、Chst11遺伝子の欠失により、口蓋突起間葉細胞の酸化ストレスに対する抵抗性が低下することが示唆された。

【考察】
 本研究の結果より、Chst11遺伝子は口蓋突起の挙上の時期において口蓋突起の間葉細胞に高発現し、口蓋形成における間葉細胞の増殖に必要であることが示唆された。また、遺伝子発現解析の結果はそのメカニズムとして、Chst11遺伝子の欠失がミトコンドリアの機能異常を引き起こしていることを示唆していた。CSが抗酸化作用を有していることがすでに報告されており、口蓋突起におけるCSの欠失は、酸化ストレスに対する抵抗性が低下することでミトコンドリアの機能異常を引き起こしている可能性が考えられ、Chst11遺伝子はマウス口蓋形成において口蓋突起間葉細胞の増殖と口蓋突起の伸長と挙上に必要であることが明らかとなった。

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