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大学・研究所にある論文を検索できる 「ブファジエノリド類の全合成」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

ブファジエノリド類の全合成

清水, 慎介 東京大学 DOI:10.15083/0002007118

2023.03.24

概要



























清水慎介は、
「ブファジエノリド類の全合成」のタイトルで、研究を展開した。以下に、その詳細
を述べる。
ブファジエノリド類 1 およびカルデノリド類 2 は、強心ス Figure 1. Carboskeletons of
bufadienolides 1 and cardenolides 2
テロイドに分類され、強心作用とともにがん細胞に対する成
長阻害活性が報告されている(Figure 1)。これら 2 つの類縁体
は、AB シス CD シス縮環した共通のステロイド骨格を持ち、
C14 位に β 配向のヒドロキシ基を有する。構造的な相違点と
して、ブファジエノリド類は C17 位に β 配向の 2-ピロンが結
合し、カルデノリド類は C17 位に β 配向のブテノリドが結合
している。
ブファジエノリド類およびカルデノリド類は重要な生物活
性を有するが、特にブファジエノリド類は天然からの単離量
が極わずかである。そのため、これら天然物群の合成法確立は創薬研究上、非常に重要な課題であ
る。近年、高酸化度カルデノリド類の全合成が当研究室を含め複数のグループから報告され、カル
デノリド類の化学合成法は大きく進展した。しかし、ブファジエノリド類の合成研究はカルデノリ
ド類合成に比して報告例が少なく、ブファジエノリド類の統一的な合成法は確立されていない。こ
れは、立体選択的な 2-ピロンの構築が、ブテノリドの構築に比して困難なためである。従来の合成
では、反応性の高い 2-ピロンの導入に多段階の変換が必要であり、2-ピロンをカップリング反応で
直接導入した例はない。2-ピロンの構築には強酸中の加熱など過酷な反応条件が用いられているた
め、脱水反応の競合を避けるべく、C14 位ヒドロキシ基は 2-ピロン構築後に導入する必要があった。
そこで清水は、温和な反応条件下での立体選択的な C17 位 2-ピロンの導入と、反応性の高い 2-ピ
ロンを損なわない変換を経る 3-7 の合成研究を遂行し、それらの全合成を達成した。
Scheme 1. Synthetic plan of bufadienolides 3-7

清水は本学修士課程において、9 との Stille カップリングによる 2-ピロンの直接導入を含む 9 工

程で、 市販 化合物 8 をブフ ァジ エノリ ド類 と同じ 縮環 形式を もつ 合成中 間 体 10 へと変換した
(Scheme 1)。10 の 3 級ヒドロキシ基を TMS 基で保護し 11 を導き、続いて C16-C17 位二重結合を還
元した。しかし、還元の化学選択性が低く 2-ピロン内の二重結合の還元が競合したため、ブファリ
ン(3)の合成は低収率にとどまった。そこで、10 から、立体特異的な 1,2-ヒドリド移動を鍵とする 37 の新たな合成計画を立案した。まず、10 の C16-C17 位を立体選択的にエポキシ化して 13 とする。
続いて、C16 位水素原子の立体特異的な 1,2-転位により C17 位へ所望の立体化学を導入し、アルコ
ール 14 へと変換する。最後に、14 を共通中間体として官能基化を行い、3 および C16 位に酸素官
能基を有する 4-7 の全合成を達成する。
はじめに清水は、C17 位への立体化学の導入を検討した(Scheme 2)。まず、ビニルヨージド 15 と
スズ 9 との Stille カップリングにおいて、試薬当量の低減と後処理の変更により、10 をグラムスケ
ールで合成した。次に、カップリング成績体 10 に対して m-CPBA を作用させた。その結果、2-ピ
ロンを損なうことなく化学・立体選択的にエポキシ化が進行し、13 が得られた。13 へ Lewis 酸と
して InCl 3 を作用させると、所望でない 6 環性化合物 16 が得られた。
Scheme 2. Attempted construction of the desired C17-stereochemistry

16 の生成を抑制すべく反応条件を検討した結果、13 に対し TMSOTf を作用させた際、C17 位に
所望の立体化学を有するケトン 21 が得られた(Scheme 3)。本反応では、13 の C14 位ヒドロキシ基
のシリルエーテル化と続くエポキシドの位置選択的な開環反応によって、22 を経て 23 が生じる。
中間体 23 の C16 位水素原子の 1,2-移動が進行し、立体特異的に C17 に所望の立体化学を有するケ
トンが得られたと考察した。本反応では、C16 位ヒドロキシ基が嵩高く電子供与性の TMS 基で一
時的に保護されたために、オキソカルベニウムイオンに対する求核攻撃が抑制され、1,2-ヒドリド
移動が進行し所望の 21 を与えたと解釈できる。
Scheme 3. Construction of the desired C17-stereochemistry

続いて清水は、C16 位カルボニル基の還元と官能基化を経て、ブファジエノリド 4-7 の全合成を
達成した(Scheme 4)。21 のカルボニル基を C14 位 TMSO 基の反対側から立体選択的に還元し、共通
中間体であるアルコール 14 を得た。次に、14 の 2 つのシリル基をフッ化水素ピリジン錯体で除去
し、ブフォゲニン B (4)を合成した。14 のヒドロキシ基をアセチル化した後に、14 の脱保護と同様
の条件でシリル基を除去し、ブフォタリン(5)へと導いた。さらに、5 の 2 級ヒドロキシ基にカルボ
ン酸 24a および 24b をそれぞれ縮合し、アシル体を得た。最後に、トリフルオロ酢酸を用いた酸性
条件により保護基を除去することで、バルガロブフォトキシン(6)および 3-(N-スクシニルアルギニ
ニル)ブフォタリン(7)をそれぞれ合成した。

Scheme 4. Total synthesis of four bufadienolides 4-7

最後に清水は、ブファリン(3)の合成に向け、C16 位の脱酸素化を検討した(Scheme 5)。はじめに、
2 電子的な還元条件で脱酸素化を試みたが、C14 位ヒドロキシ基の脱水あるいは 2-ピロンの損壊が
観測されたため、ラジカル条件での脱酸素化を検討した。まず、14 をラジカル前駆体であるチオカ
ーボネート 25 へと変換し、続いて AIBN と n-Bu 3 SnH を作用させた。しかし基質が損壊し、所望の
還元体 12a は得られなかった。そこで脱酸素化の基質を種々検討した結果、本変換においてブロミ
ドがラジカル前駆体として適切であった。14 を Appel 反応に付すことにより、脱水体 11 との混合
物でブロミド 27 を得た。続いて、酸素雰囲気下、Et 3 B と n-Bu 3 SnH を作用させブロミドを還元し
た。最後に、酸性条件下でシリル基を除去し、脱水体 28 およびブファリン(3)の合成を達成した。
Scheme 5. Total synthesis of bufalin (3)

以上のように清水は、温和な反応条件下、立体選択的な 2-ピロン導入を実現し、5 つのブファジ
エノリド(3-7)の全合成を 13-16 工程で達成した。従来法では達成困難であった、C14 位ヒドロキシ
基および 2-ピロンを損なわない直接的な合成を、本研究によって実現した。本成果は、統一的な合
成手法が未確立であったブファジエノリド類の、効率的な新規合成法を提供するため、有機合成化
学および創薬研究上の重要な知見である。そのため、薬学研究に寄与するところ大であり、博士(薬
科学)の学位を授与するに値するものと認めた。

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