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ヒト皮膚はOPN4を介した光情報伝達機構を持つ

Kusumoto, Junya 神戸大学

2020.09.25

概要

【Introduction】
多くの無脊椎動物や脊椎動物では光受容器官としての眼を持つ。眼は神経系器官の一つであり、光情報を電気信号に変換し情報として脳に伝達する。網膜におけるロドプシンを始めとするオプシンの発見は、光エネルギーの情報交換を理解する上で極めて重要な研究成果となり、以後、網膜は唯一の光受容器として位置付けられている。

一方、1998 年に Xenopus laevis の皮膚色素胞に新たな光受容タンパク質が発現していることが明らかとなった。色素胞は光を受容し、細胞内でのメラニンの分布を変化させることにより体色変化に関与する。この光受容タンパク質は melanopsin(OPN4)と命名された。その後、OPN4 の発現は高等脊椎動物でも明らかとなり、その局在は網膜や脳といった中枢神経系に認められた。また、体内時計の調整に関与することが明らかとなった。OPN4 は膜タンパク質であり、セカンドメッセンジャーとして Gnaq と共役した 7 回膜貫通型 G タンパク質共役受容体(GPCR)の一つである。

ヒトにおいて、最大の臓器である皮膚は、常に光に曝露されており、最も多くの光にさらされるが、果たしてヒト皮膚は光を受容しないのだろうか。私たちは生物進化の観点から、外胚葉神経堤細胞由来の哺乳類 melanocyte は両棲類の色素胞と相同であると仮定した。そして、ヒト皮膚組織には OPN4 が発現し、ヒト皮膚は OPN4 を介して光受容すると仮説を立てた。この仮説を明らかにするために、私たちはヒト皮膚における OPN4 の発現を調べた。また、発現している OPN4 がヒト皮膚でも機能しているかどうかを検証するために、光照射による細胞内への Ca2+の取り込み、ならびに ERK1/2 のリン酸化の変化を調べた。

【Materials and Methods】
1.OPN4 発現解析
①OPN4 遺伝子の発現解析
手術検体で余剰となった正常皮膚組織と、皮膚組織から初代培養した keratinocyte、melanocyte、fibroblast を用いた。皮膚組織、培養細胞から total RNAを抽出し、Rapid amplification of cDNA ends polymerase chain reaction(RACE PCR)を行った。

②培養細胞における OPN4 遺伝子の定量解析
OPN4 遺伝子発現が確認できたヒト皮膚 keratinocyte、melanocyte、fibroblast を用いて、real time PCR(SYBR Green 法)で OPN4 遺伝子発現量の定量解析を行った。

③OPN4 タンパクの発現解析
皮膚組織は、ディスパーゼを用いて表皮と真皮に分離した。皮膚組織、表皮、真皮、培養細胞から溶出バッファーを用いてタンパク質を抽出した。抽出したタンパク質溶解液を超遠心分離後(4℃、170,000×G、1 時間)、沈殿物を溶出バッファーで溶解し、Western blotting 法で OPN4 タンパクの発現解析を行った。

④OPN4 と Gnaq の共発現解析
皮膚組織、培養細胞を用いて、免疫組織・細胞化学的解析ならびに免疫沈降法を行った。免疫組織・細胞化学分析においては、一次抗体は抗 OPN4 抗体(1 : 200)と抗 Gnaq 抗体(1 : 100)を用いた。免疫沈降法は、プロテイン G ならびに抗 Gnaq 抗体を添加し回収した後、抗 OPN4 抗体(1 : 2,000)を用いて Western blotting法で解析した。

2.Calcium imaging 実験
OPN4 は約 470 nm の光で活性化し、約 580 nm の光で不活性化状態に戻るとされており、蛍光顕微鏡の励起光と近似していることからライブイメージで観察した。蛍光強度は image J で解析した。

①In vitro:培養細胞
各培養細胞を、1 日暗条件下で培養後(dark adaptation)、遮光下で 9-cis retinal 、 Ca assay 試薬(Fluo4)を添加し、蛍光顕微鏡 488nm 励起光で観察した。光強度を変えたときの変化も観察した。また、OPN4 阻害剤である AA92593 添加群ならびに Gnaq 阻害剤である YM-254890 添加群と比較した。さらに、568 nm 励起光を 2 分間照射後に、488 nm 励起光で観察した。

②Ex vivo:表皮
ディスパーゼで皮膚組織から表皮を分離し、1 日間暗条件下で培養した。遮光下で Ca assay 試薬(Fluo4)を添加し、蛍光顕微鏡 488 nm 励起光で観察した。

3.光照射実験
Dark adaptation した皮膚 fibroblast を用いて、暗条件下で 450 nm ならびに 570 nmの光を 0、2、5、10、20 分間照射した後、Western blotting 法で ERK1/2 リン酸化を評価した。また、光強度を変えて 10 分間照射し、ERK1/2 リン酸化を評価した。さらに、AA92593 添加群と比較した。

4.統計解析
統計解析には R software version 3.4.1(R Development Core Team, 2017)を使用した。2 群比較には Mann-Whitney U 検定を用いた。多群比較には Kruskal-Wallis 検定を用い、post hoc 解析に Steel-Dwass 法を用いた。有意水準は 0.05 とした。

【Results】
1.ヒト皮膚組織における OPN4 の発現
皮膚組織、培養細胞(keratinocyte、melanocyte、fibroblast)いずれにおいても OPN4 遺伝子の発現を確認した。そして、41 bp 挿入された新たな splicing variantが見つかった(variant SK と命名)。培養細胞での遺伝子定量解析では、melanocyteで最も多く発現していた。

一方、OPN4 タンパクは皮膚組織、表皮、真皮、各種培養細胞において発現を確認した。免疫組織化学分析では、皮膚組織においては特に基底層の細胞に発現していた。免疫細胞化学分析においては、細胞質ならびに細胞膜への局在が確認された。
さらに、OPN4 と Gnaq は免疫化学分析ならびに免疫沈降法により、共発現していることが確認された。

2.光照射による Ca2+ influx
各培養細胞に 488 nm の青色光を照射すると、細胞内への Ca2+ influx が認められた。また、皮膚 fibroblast において、光量を変化させて Ca2+の取り込みを観察したところ、ピークに達する時間は光量が高い方が早く、光量依存性が認められた。
さらに、阻害剤添加群がコントロール群に比べて、光照射による Ca2+取り込みが有意に抑制された(p < 0.05)。
一方、表皮において、構成する細胞への Ca2+ influx を認めたが、Ca2+取り込みが開始される時間は細胞間により異なっていた。

3.光照射による ERK1/2 リン酸化の変化
皮膚 fibroblast に対し 450 nm の光照射を行ったところ、ERK1/2 のリン酸化が亢進し、10 分照射で最もリン酸化が亢進した(p < 0.05)。また、光量を変化させて ERK1/2 リン酸化を確認したところ、Ca2+取り込みと同様に光量依存性が認められた。一方、570 nm の光照射を行っても、ERK1/2 のリン酸化状態はほとんど変化しなかった。
さらに、阻害剤添加群がコントロール群に比べて、光照射による ERK1/2 リン酸化亢進は有意に抑制された(p = 0.029)

【Discussion】
私たちはヒト皮膚組織ならびに皮膚培養細胞から抽出した mRNA、タンパク質において OPN4 が発現していることを確認した。驚いたことに、melanocyte だけではなくkeratinocyte を含む表皮全体での発現を認め、また、真皮内の fibroblastにもその発現を認めた。このことは、外胚葉由来の表皮に存在する細胞、中胚葉由来の fibroblast のいずれにおいてその発現が認められたことになる。次に、得られた OPN4 の部分的 mRNA の塩基配列を解析したところ,通常の塩基配列に加え新規の variant(variant SK)も認められた。

OPN4 は GPCR の一つであり、セカンドメッセンジャーとして Gq ファミリーと共役する。私たちは、皮膚組織において OPN4 を発現している器官・細胞で Gnaq の共発現を確認した。このことは、皮膚組織においても OPN4 を介して光エネルギーが細胞内シグナルとして変換されていることを強く示唆する。

網膜における OPN4 は光受容すると Gq タンパク質を介して細胞内シグナル へと変換し、細胞内 Ca2+濃度を上昇させる。ヒト皮膚組織においても OPN4 が 機能していることを確認するため、皮膚 fibroblast に 488 nm の光照射を行い Ca assay を行ったところ、細胞内への Ca2+ influx が認められた。568 nm の光照射後 に 488 nm の光照射を行ったところ、488 nm の光照射を行ったときと同様の動向 であり、これらの細胞は 568 nm 光には反応しないことが示唆された。OPN4 の 特異的阻害剤を添加したところ、光照射による細胞内への Ca2+ influx は抑制さ れた。一方、OPN4 からのシグナル伝達は別経路として MAPK カスケードにも 関与することが知られており、皮膚 fibroblast に 450 nm の光照射を行ったとこ ろ、ERK1/2 のリン酸化が亢進された。しかし、570 nm の光照射を行ってもERK1/2 のリン酸化には影響を及ぼさなかった。さらに、特異的阻害剤を添加したところ、 ERK1/2 のリン酸化は抑制された。これらのことから、ヒト皮膚組織においても OPN4 は青色光を受容し何らかの機能を有していることが明らかとなった。

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