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大学・研究所にある論文を検索できる 「環境要因が及ぼすマウス脳内ポリシアル酸の変動とそのメカニズムの解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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環境要因が及ぼすマウス脳内ポリシアル酸の変動とそのメカニズムの解明

阿部, 智佳羅 名古屋大学

2020.04.02

概要

ポリシアル酸(polySia)はシアル酸が8~400残基縮重合したポリマーであり、神経細胞接着分子(NCAM)を修飾している。polySiaは胎児脳で主に発現しており、成体脳ではそのほとんどが消失するが、成体脳でも嗅球や海馬など可塑性の高い領域の一部で発現が維持していることが知られている。polySiaは大きな排除体積をもつことにより細胞間相互作用を妨げる反接着機能が知られている。また近年ではpolySiaがBDNF、FGF2、ドーパミンなどの神経作用因子を一時的に保持し、その受容体への提示機能を制御することが明らかになり、これらのpolySiaの複合的な機能が正常脳機能の維持に重要であることが考えられている。一方、polySiaは様々な病気との関連性が知られている。例えば統合失調症患者やうつ病患者の死後脳における海馬においてその発現量が低下していることが報告されている。またpolySia鎖を生合成する酵素であるポリシアル酸転移酵素の一種、ST8SIA2遺伝子上に、精神疾患患者に有意な一塩基多型(SNP)や変異がいくつか報告されている。invitroにおけるST8SIA2遺伝子の野生型およびSNPや変異体の解析により、野生型に比較してpolySiaの発現量、鎖長およびその機能が低下することが明らかなっている。即ち、精神疾患の遺伝的要因としてのST8SIA2遺伝子の不全がpolySia鎖の不全を引き起こすことが明らかになりつつある。一方、統合失調症などの精神疾患は遺伝的要因のみならず、環境要因によるリスクを考える必要がある、しかし、polySia発現と環境要因の関連性については明らかになっていないことが多い。そこで本論文ではマウスを実験動物として用い、環境要因がマウス脳内polySia発現にどのような影響を及ぼすのかを、その分子メカニズムとともに解明することを目的とした。

第2章では、精神疾患のリスクを高める代表的な環境要因であるストレスに着目し、急性ストレスのマウス脳内polySiaの発現に対する影響を調べた。マウスに対して尾懸垂(TS)試験を行うことで7分間の急性ストレスを与え、その後polySia発現脳領域である嗅球(OB)、前頭前野(PFC)、視床下部(SCN)、扁桃体(AMG)、海馬(HIP)を調製し、特異性の異なる2つの抗体を用いてpolySiaの検出、比較解析を行った。その結果、OB及びPFCではTSによりpolySiaの鎖長が減少し、SCNではpolySiaの量(本数)が増加する一方、AMGやHIPでは変化がなかった。即ち7分間の急性ストレスにより脳領域特異的にpolySia鎖がダイナミックに変動することが明らかとなった。その分子メカニズムを明らかにするために、まず遺伝子発現を検証した。その結果、SCNではポリシアル酸転移酵素ST8SIA4遺伝子の発現増加が見られたため、酵素の遺伝子発現がpolySia鎖の増加を導くことが明らかになった。また、polySia鎖の担体タンパク質であるNCAMの遺伝子量やタンパク質量の変動を調べたところ、polySia鎖が減少したPFCやOBで変動がなかった。従って、polySia鎖をもつNCAMの発現量やシェディングは関わらないことが明らかになった。これまでにミクログリア細胞がもつシアリダーゼがミクログリア上および周辺細胞のpolySia鎖の減少に関わることが培養細胞系で明らかになっていたため、そのメカニズムが動物個体におけるストレス下でも関与する可能性を追求した。まずシアリダーゼ阻害剤及びミクログリアの活性化阻害剤をマウスに投与しpolySia鎖の急性ストレスにおける変動を解析した結果、OB及びPFCいずれもシアリダーゼ阻害剤によってpolySiaの減少が抑制された。また、OBではミクログリアの活性化の阻害剤でも抑制効果が見られた。次にPFCにおけるpolySia減少にアストロサイトが関与する可能性を調べるためにアストロサイトの阻害剤を投与したところ、polySiaの減少が抑制された。以上の結果より、急性ストレスにおけるOB及びPFCのpolySia減少は、その由来細胞は異なるものの分泌性シアリダーゼによって切断されることが明らかとなった。第3章では、統合失調症の治療薬であるクロルプロマジンによるマウス脳内polySiaへの影響について調べ、PFCにのみpolySiaの増加が認められることが明らかになった。第4章では、野生に近い環境で飼育する環境エンリッチメント(EE)によるマウス脳内polySia変動について調べた。離乳直後のマウスをEE及び通常の飼育環境下で2ヶ月間飼育したところ、EE下飼育では通常環境飼育と比べてマウスの鬱の程度が軽減し、更にOB及びPFCのpolySiaの長さが増加することが明らかとなった。第5章では、様々な食品成分(Nアセチルノイラミン酸、チアミン、グリシン、グルテン)の摂取によるマウス脳内polySiaへの影響を調べた。その結果、食品成分投与後のTSによる鬱傾向の改善やそれに伴う脳領域特異的なpolySia鎖の変動の他に、ストレスの効果と同様なpolySia鎖減少をもたらす負の因子の存在が示唆された。

以上の結果より、様々な環境要因によってpolySiaが脳領域特異的に変動を受けること、またその変動は環境要因の種類によって異なり、正負の制御を受けることが明らかになった。また、急性ストレスにおけるpolySia鎖の変動メカニズムも明らかになったが、他の環境因子によるpolySia変動の分子メカニズムの解明は重要であり今後の課題である。さらに脳内polySiaの非破壊的検出が可能になれば、分子指標による診断が困難だった精神疾患の新たな診断法や治療法の開発に繋がると考えられ、今後、その検出プローブの開発が期待される。

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