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大学・研究所にある論文を検索できる 「心臓再同期療法は、収縮不全心における左室非同期の改善のみならず、左房再同期による左房リザーバー機能の改善をもたらす」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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心臓再同期療法は、収縮不全心における左室非同期の改善のみならず、左房再同期による左房リザーバー機能の改善をもたらす

Dokuni, Kumiko 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
近年、我が国では心疾患による死亡率は増加の一途をたどっており、平成 10年以降は悪性新生物に次ぐ死因の第 2位となっている。その中でも特に慢性心不全による死亡率は高く、現在大きな社会問題となっている。慢性心不全は高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病および、これに基づく冠動脈疾患や心筋障害により左室駆出率 (Ejectionfraction: EF) が低下することにより生じることが多いが、収縮不全心を基盤とした心室内伝導障害が生じると、その予後はさらに悪化する。

また、心室内伝導障害は同期不全をもたらすことにより、左室の収縮能、拡張能ともに低下させ、慢性心不全患者の予後を悪化させる大きな要因となっている。これに対して、心臓再同期療法 (cardiacres四 chronizationtherapy: CRT) は電気剌激により心室内電導障害を改善させることによって心室の収縮効率を上げ、慢性心不全患者の予後を改善させる治療法である。

一方、慢性心不全において左房機能は重要な予後規定因子であることが多くの研究によって明らかになっている。肺静脈圧を上昇させることなく、十分な左室前負荷を担保するのが左房機能の本質であり、特に慢性心不全においては、左房は上昇した左室拡張末期圧 Cleftventricular end-diastolic pressure: LVEDP) を肺静脈に伝搬させないための重要な機構となっている。

これまで左室同期不全が左房機能に与える影響、および CRTの左房機能への影響について検討した研究は極めて少ない。左房壁は僧帽弁輪を介して左室壁と隣接しており、左室の非同期的な収縮・拡張は左房の非同期にもつながると考えられ、左房リザーバー機能に影響を与えるのではないかという予想が立てられる。

今回我々は、①左室同期不全は左房非同期を通じて左房機能、特にリザーバー機能ヘ悪影響を与えているのではないか、②CRTにより左房非同期は改善し、障害された左房リザーバー機能が改善するのではないか、③さらに CRT後に左房の再同期が得られない症例は予後が悪いのではないかという仮説を立て、それぞれ検証した。

【方法】
左室同期不全を有する収縮不全心 (EF<40%)で、当院当科において CRTを受けた電気的同期不全 (QRS幅 > 130ms) を有する慢性心不全患者 40人と、電気的同期不全のない (QRS 幅 ≦ 130ms) 収縮不全心 28人のベースラインでの経胸壁心エコー図検査における心機能の指標を後ろ向きに比較検討した。また、 CRT施行群では、 CRT施行後 6か月の時点での経胸壁心エコー図検査の指標を収集し、 CRT前後での心機能を比較検討した。なお、 CRT施行群においては、 CRT後 24か月間の心血管イベント(死亡、心室細動・心室頻拍といった致死的不整脈の発生、 ICD(植え込み型除細動器: implantablecardioverter defibrillator)ショック作動、および心不全入院)に関しても解析し検討した。なお、収縮不全心群と年齢性別をマッチさせた 20人の心機能正常群をベースライン比較のために選別した。

左房機能の比較検討のため、経胸壁心エコー図検査において 2Dspeckle-tracking法を用いて、左房のストレイン解析を行った。左房リザーバー機能の指標として、心室収縮期における左房長軸方向の進展率を leftatrial -global longitudinal strain (LAGLS) として数値化した。また、左室壁の非同期的な収縮および拡張が、左房心筋運動における同期不全を起こす可能性を探るため、左房壁を 12の領域に区分し、それぞれの領域のストレイン値が最大になるまでの時間のばらつきを LAtime-diffと定義し、左房の非同期の指標とした。左室に関しても、非同期の指標として LV time-diff を左房と同様に計測し、左室非同期の指標とした。なお、 CRT施行後 6か月の時点での左室収縮末期容積が 15%以上減少した場合に、 CRTresponderと定義した。

【結果】
ベースライン比較では、収縮不全心患者の左房容積係数 (left atrial volume index :LAVi) は心機能正常群と比較して有意に大きく (46±16vs. 30±14mL/m2, P< 0.01)、LA-GLSは有意に小さかった(13.0±4.8vs. 30.6±10.7%,P<0.01)。面白いことに左室非同期の指標である LV time-diffが、収縮不全心では正常群と比較して有意に大きかっただけでなく (381±178vs. 177±62ms,P<0.01)、左房非同期の指標である LA time-diff も有意に大きかった(298±136vs.. 186±78ms, P< 0.01)。なお、収縮不全心の中でも、電気的同期不全を有する群でより顕著に LAtime-diffは大きかった。

40人の CRT施行群は全て 24か月後までイベントの調査が可能であり、その内訳は死亡 0人、 ICD適切作動 3人、心不全入院 6人であった。 CRTresponder群 (31人)では CRT前に比較して LAViの低下(from48±17to 37±18mL/m月.P<0.05)、LAGLSの上昇 (from11.9±4.7to 19.6±10.1%, P < 0.05) および LAtime-diffの低下 (from 338±123to 245±141ms, P < 0.05) を認めたが、 non-responder群 (9人)では CRT前後でどの指標も変化しなかった。 ROC曲線による解析では、心血管イベントを予測する cut-off値は、 6か月後の LAtime-diff値が 202ms、LA-GLS値が 14.6%であった。また、 CRT群全体における解析では、 6か月後の時点の LA time-diff< 202msの群と、 LA-GLS> 14.6%の群で有意に心血管イベントが少ないことが判明した。なお、CRT responder群のみの解析では、 6か月後の時点で LA time-diff> 202 msの群では、24か月にわたる観察期間においてほとんど心血管イベントを認めなかった。

【考察】
左室収縮不全を有する患者は、正常群と比較し左房拡大が顕著であり、 LA-GLSの低下と LAtime-diffの増大を認めたことから、左房リザーバー機能が障害されていることが示唆された。これは電気的同期不全を有する収縮不全心でより顕著に認められ、左室の同期不全が左房の同期不全とそれに伴うリザーバー機能の低下を引き起こすと考えられた。また CRTresponder群では、治療 6か月後に有意に LA-GLSが上昇し、 LAtime-diffは縮小した。これは、 CRTが左室だけでなく左房の同期不全を改善し、左房リザーバー機能の改善につながったためと考えられた。特記すべきことは、 CRT後 6か月の時点で LA-GLSが高い群と LAtime-diffが小さい群で、心血管イベントが有意に少なく、 CRTresponder群のみの解析では 6か月後に LAtime-diffが小さい群でほとんど心血管イベントが観察されなかったことである。これは CRTによる左室の再同期に加ぇて、左房の再同期がリザーバー機能を改善させ、肺静脈血流うっ滞の解除および肺うっ血の改善がもたらされたことが予後の改善につながったのではないかと考えられた。今回の後ろ向き研究では、イベント数が少ない(N=9) ことから CRT後の予後予測因子を探るための多変量解析は施行できなかったが、 CRT後の左房リザーバー機能と左房同期不全の評価を行うことで、患者の予後予測につながると考えた。また CRT後に残存する左房同期不全の改善につながる新たな治療法が収縮不全心患者の予後改善につながる可能性があると考えた。

【結語】
収縮不全心では左房リザーバー機能の低下を認め、それは左室同期不全のある患者で顕著であった。 CRTは左室だけではなく左房を再同期させることで、左房リザーバー機能を改善させ、 CRT後の慢性心不全患者の予後も改善させた。

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