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大学・研究所にある論文を検索できる 「抗PIT-1抗体症候群の病因解明: 下垂体前葉細胞におけるHLA class IによるPIT-1エピトープの提示」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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抗PIT-1抗体症候群の病因解明: 下垂体前葉細胞におけるHLA class IによるPIT-1エピトープの提示

Kanie, Keitaro 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
 これまで我々は、後天性下垂体機能低下症をきたす新規疾患概念を見出し、抗 PIT-1抗体症候群 (Anti–pituitary-specific transcriptional factor-1 antibody syndrome、抗 PIT-1 下垂体炎)と命名し報告してきた。本疾患は下垂体特異的転写因子 PIT-1 に対する自己免疫によって、PIT-1 がその発現・維持に必須である成長ホルモン (GH)、プロラクチンおよび甲状腺刺激ホルモンの後天性特異的欠損をきたす。その機序として PIT-1 特異的細胞傷害性 T 細胞 (Cytotoxic T cell: CTL)による特異的下垂体細胞傷害を見出してきた。
 CTL は、主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) class I/ヒト白血球抗原 (HLA) class I分子によって提示される抗原ペプチド (エピトープ)を認識することによって細胞傷害を示す。MHC/HLA class I 分子は、下垂体を含むほとんどの組織で発現し、1 型糖尿病やナルコレプシーI 型などの様々な自己免疫疾患が CTL によって引き起こされる。CTL の標的細胞では、プロテアソーム経路を介して細胞質または核内の自己/非自己抗原タンパクが処理され、エピトープが生成された後に小胞体 (ER)に移送され、 MHC class I 分子と結合する。このペプチド-MHC class I 複合体は、ゴルジ体を介して細胞膜に輸送される。
 本疾患の発症機序として、実際に核内転写因子である PIT-1 タンパクが下垂体前葉細胞にエピトープとして、MHC/HLA class I とともに抗原提示されているかは不明であった。

【目的】
 PIT-1 タンパクが下垂体前葉細胞において MHC/HLA class I によって提示され得るのかどうかを明らかにする。

【方法】
 ラット下垂体腫瘍細胞株である GH3 細胞は、American Type Culture Collection から入手した。患者由来の人工多能性幹細胞 (iPSC)は末梢血単核球にエピソーマルベクターを用いて OCT3/4、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28、EBNA1 および mp53DDを導入することで樹立した。下垂体組織の分化誘導では、iPSC を 10% KnockOut Serum Replacement (KSR) を添加した成長因子非含有培地 (growth factor-free, chemically defined medium: gfCDM)を用いて立体浮遊培養法を行った。凝集体形成ののち、分化 6 日目に骨形成タンパク質-4 (BMP-4)と Smoothened Agonist (SAG)を培地に添加、分化 18 日目に BMP-4 を培地から除き、凝集体を 40% O2 条件に移行し、分化 50 日目以降は 20% KSR を添加した gfCDM で培養した。PIT-1 陽性細胞への分化誘導では、分化 60 日目以降 40 nM デキサメサゾンを添加した。
 間接蛍光免疫染色では一次抗体として抗 PIT-1・抗 Calnexin・抗 GM130・抗 MHC class I・抗 HLA class I・抗 LHX3・抗 ACTH・抗 GH 抗体およびヒト血清 (患者および健常対照者)を用いた。二次抗体として抗マウス Alexa Flour 488/546、抗ウサギ Alexa Flour 546 および抗ヒト IgG-Alexa Flour 488 抗体を使用した。PIT-1 タンパク抗原吸収試験では、150 μg/mL の組換えヒト PIT-1 (rhPIT-1)タンパクを添加した。 HLA とペプチドエピトープの結合を検出するための近接ライゲーションアッセイは、それぞれの一次抗体に対してプラスおよびマイナスのオリゴヌクレオチドをコンジュゲートした二次抗体を結合させ、ハイブリダイズ、ライゲーションおよびローリングサークル増幅を行うことでシグナルを得た。

【結果】
 PIT-1 発現ラット細胞株 GH3 に対して、抗 PIT-1 抗体および本疾患患者血清を一次抗体として用いた蛍光免疫染色では、抗 PIT-1 抗体および患者血清シグナルは主に核に局在していたが、一部は細胞質および細胞膜上でも検出された。RhPIT-1 タンパクを用いた抗原吸収試験では、血清中の抗 PIT-1 抗体シグナルは核、細胞質および膜において消失し、いずれも特異的と考えられた。健常対照血清は GH3 細胞に対してシグナルを認めなかった。
 次に、PIT-1 タンパクがプロテアソーム経路 (MHC class I 抗原提示経路)を介して処理されるかどうか蛍光二重免疫染色を行い検討したところ、PIT-1 は MHC class I分子、Calnexin (ER マーカー)および GM130 (ゴルジ体マーカー)と共局在しており、 PIT-1 タンパクは ER およびゴルジ体で処理され、MHC class I 抗原提示経路を介していると考えられた。
 PIT-1 エピトープが MHC/HLA class I 分子によって提示されているかどうかを、 GH3 細胞とヒト iPSC から分化誘導した下垂体細胞を用いた近接ライゲーションアッセイによって解析した。GH3 細胞において、抗 PIT-1 および抗 MHC class I 抗体を一次抗体として使用したところ、MHC class I 分子と PIT-1 エピトープの結合を認めた。抗 PIT-1 あるいは抗 MHC class I 抗体いずれかのみを使用した場合、シグナルは検出されなかった。
 次に、ヒト iPSC から分化誘導した下垂体細胞を解析した。分化誘導 40 日後には口腔外胚葉の一部に下垂体前駆細胞マーカーである LHX3 が発現し、さらに培養を継続すると、80 日目には下垂体プラコードに ACTH 産生細胞が認められ、糖質コルチコイド作用下では PIT-1 陽性および GH 産生細胞が認められた。これら成熟した下垂体細胞を用いて行った近接ライゲーションアッセイでは、PIT-1 陽性細胞の細胞表面に PIT-1 および HLA class I の結合を認めた。PIT-1 陽性細胞あたりの PIT-1/HLA class I 複合体数は、患者および健常対照 iPSC 由来下垂体細胞の間で差を認めなかった。

【考察】
 抗 PIT-1 下垂体炎では、胸腺腫や悪性腫瘍での PIT-1 の異所性発現により、PIT-1 に対する免疫寛容が破綻し、PIT-1 陽性細胞を特異的に傷害する PIT-1 反応性 CTL が産生される (参考論文)。しかし PIT-1 は転写因子であり、核に局在すると考えられることから、CTL が PIT-1 タンパクを認識する機構は不明であった。本研究では、PIT- 1 タンパクが MHC class I 抗原提示経路を介して処理され、PIT-1 エピトープがラットGH3 細胞およびヒト iPSC 由来下垂体前葉細胞の細胞表面上 MHC/HLA class I 分子によって提示されることを示した。以上より、PIT-1 エピトープが下垂体前葉細胞の HLA class I 分子によって提示され、PIT-1 反応性 CTL によって特異的に認識されることが示唆された。
 興味深いことに PIT-1/HLA class I 複合体の細胞あたりの数は、患者と健常対照の間で同等であり、複合体の提示は患者特有のものではなかった。これらの結果から、下垂体の問題ではなく、PIT-1 特異的 CTL が産生されたことが本疾患の発症に関与していることが示唆された。
 転写因子を含む内在性タンパクのエピトープが下垂体前葉細胞の HLA class I 分子によって提示され得ることは、他の自己免疫性下垂体疾患である ACTH 単独欠損症や自己免疫性下垂体炎などの病因解明にも繋がると考えられた。実際に ACTH 単独欠損症の患者では、リンパ球浸潤が下垂体前葉でみられ、抗 POMC (ACTH タンパクの前駆体)抗体が患者血清で検出されている。また免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体機能低下症の一つであるニボルマブ誘発性 ACTH 単独欠損症では、リスクとなる HLA ハプロタイプが知られており、本疾患と同様の機序が存在する可能性がある。
 結論として、今回我々は PIT-1 エピトープが PIT-1 陽性細胞上の MHC/HLA class I 分子によって提示されることを初めて示し、本疾患が PIT-1 反応性 CTL によって引き起こされるという、自己免疫性下垂体疾患に対する新しい機序の一端を明らかにした。

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