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大学・研究所にある論文を検索できる 「腸内細菌による宿主栄養獲得への寄与」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

腸内細菌による宿主栄養獲得への寄与

増岡, 弘晃 東京大学 DOI:10.15083/0002006915

2023.03.24

概要



査 の 結 果 の 要 旨





増岡 弘晃

近年、腸内細菌叢の役割に関する研究が注目を集めており、いわゆる次世代シークエンサ
ー(NGS)を始めとする分子生物学的解析技術の急速な進歩により、腸内細菌叢と我々宿主
とのかかわりが消化管局所だけでなく、全身の様々な疾患や現象にも影響を与えているこ
とが明らかになりつつある。宿主の栄養における腸内細菌叢の役割についても研究が進め
られており、肥満や糖尿病のようないわゆる生活習慣病と栄養不良の両面での腸内細菌叢
の役割に関心がもたれている。
本申請の研究では、腸内細菌叢と宿主の栄養との関係を明らかにする目的で、独特な食習
慣を持つ民族を対象とした腸内細菌叢に関する研究を行った。栄養不足の例としてパプア・
ニューギニア(PNG)高地民族に見られる極度のタンパク質欠乏時における腸内細菌叢の変
化とその変化が宿主の栄養状態に及ぼす影響を、栄養状態の変化の例として自給自足に近
い伝統的な生活様式から食事が急速に「近代化」しているラオス北部の住民における腸内細
菌叢と市場経済化との関連をそれぞれ研究した。

まず第 1 章では、SPF マウスを用いた実験で低タンパク食が腸内細菌叢に与える影響を
検討した。マウスにタンパク質が充足している 12%タンパク質含有飼料から段階的にタン
パク質含有量を減らした飼料で 4 週間飼育したところ、3%タンパク質飼料を与えた群で体
重の有意な減少と血清 BUN 濃度低下のタンパク質欠乏症状が認められた。この時の腸内細
菌叢の構成を分子生物学的に網羅的に解析すると、3%タンパク質群では実験期間を通して
腸内細菌叢の α 多様性に変化がなかったのに対し、12%タンパク質群では Chao1 の 28 日目
での減少、Shannon 指数の実験 7 日目からの減少が見られた。また、3%タンパク質群で特定
の菌種の相対存在比が実験の進行に従って増加することが観察された。増加した菌には尿
素窒素の効率的な再利用に関与しているとみられる菌種が含まれていた。
第 2 章では、食事のほとんどをサツマイモに頼り現代の栄養学の基準からははるかに不
足したタンパク質しか摂取していないのにタンパク質欠乏症状を全く示さない PNG 高地民

族の「低タンパク質適応」における腸内細菌叢の役割を解明するため、無菌マウスに PNG
高地人の糞便細菌叢を定着させたヒト糞便細菌叢定着(HMA)マウスを作製し、タンパク
質が充足した 12%タンパク質飼料とタンパク質が欠乏した 3%タンパク質飼料を与えた時の
腸内細菌叢と宿主マウスの反応を、日本人(JPN)糞便を用いて作成した HMA マウスの場
合と比較した。その結果、いずれの HMA マウス群も 3%タンパク質飼料を与えると体重が
減少したが、減少は PNG-HMA マウスの方が有意に緩やかであった。腸内細菌叢のα多様
性指標は PNG-HMA マウスに 3%タンパク質飼料を与えた場合のみ他の 3 群とは異なる反応
を示した。Weighted UniFrac 距離の各群間の比較では、JPN 3%タンパク質飼料群、JPN12%
タンパク質飼料群、PNG12%タンパク質飼料群の各群間には有意差が見られなかったのに
対し、PNG3%タンパク質飼料群のみ細菌叢の類似度が低く、異なるクラスターを形成して
いた。細菌叢を構成する細菌の組成比も大きく異なっていた。特に、PNG3%タンパク質飼
料群では食餌からのエネルギー回収を担う数種の菌が増加したことが示唆された。
第 3 章では、食生活の変化が腸内細菌叢にどのような影響を与えるかを明らかにするた
め、近年市場経済の広まりと食生活の急変に伴い、非感染性疾患(Non-communicable diseases:
NCDs)のリスクファクターが上昇しているラオス北部の住民を例にとり、都市化の程度が
異なる 3 地点でサンプリング調査を行った。その結果、糞便細菌叢の全ての α 多様性指標
は最も伝統的な生活を送る山岳部において他地域と比較して有意に高く、UniFrac 距離も山
岳部において都市部、中間部から大きく離れていた。山岳部では食物繊維などの難消化性成
分からエネルギー源となる短鎖脂肪酸を作ることが知られる菌群が多く、都市化が進んだ
地域では NCDs に関連すると報告されている菌群が特異的に多かった。これらの細菌叢の
変化は、いくつかの食品摂取頻度とも相関が認められた。

以上の研究は、宿主の栄養獲得と腸内細菌叢の関連を、タンパク質欠乏に対する適応と食事の
近代化による栄養転換という 2 つの異なる側面から研究したもので、第 1 章、第 2 章と第 3 章のつ
ながりにやや欠ける印象はあるもののその成果は学術上重要であり、応用上も人ならびに畜産分
野で将来の食糧問題の解決に大きく寄与することが大いに期待される。よって、審査委員一同は
本論文が博士(獣医学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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