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書き出し

腸内細菌叢が動物の季節応答に及ぼす影響

松本, 昇子 名古屋大学

2023.06.02

概要

報告番号







論文題目
















腸内細菌叢が動物の季節応答に及ぼす影響

松本

昇子

論 文 内 容 の 要 旨
生物を取り巻く環境は常に変化している。中でも、地球の規則的な自転と公転
によって生じる昼夜や季節の巡りは、生物が予測可能な環境変化をもたらす。生物が
周期的な環境変化を予測し、変化に適した応答を示すことは、エネルギーを効率よく
利 用 す る た め に 必 要 な 能 力 で あ る 。季 節 が 存 在 す る 地 域 に お い て 生 物 は 、日 長 や 気 温 、
降水量など季節的な環境変化にさらされている。生物は、日長の変化を有力な手がか
りとして季節変化を感じ取り、生殖、成長、冬眠、脱皮などの生理機能や行動を変化
させる。
生物の全身には「常在菌」と呼ばれる細菌が 細菌叢を形成しており、腸管細菌
叢は最もボリュームの大きな細菌叢の一つである。 腸内細菌叢は二次代謝産物や菌体
による刺激などを介して宿主の全身に影響を及ぼす。つまり、腸内細菌叢と生理状態
の関連を明らかにすることは、生物の健康を理解するうえで重要な意義を持つ。
腸内細菌叢の構成は一定ではなく、加齢や遺伝的背景といった内的要因や、食
餌や薬物治療といった外的要因によって変化する。驚くべきことに、腸内細菌叢もま
た 周 期 的 な リ ズ ム を 刻 む 。マ ウ ス の 腸 内 細 菌 叢 は 、24 時 間 と い う 短 い 期 間 で ダ イ ナ ミ
ックな組成変化を示すことが報告されている。さらに、ヒトやいくつかの野生動物に
おいて、腸内細菌叢の構成が季節に伴って変化することが知られている。タンザニア
の 先 住 民 族 で あ る ハ ヅ ァ 族 や 、 エ チ オ ピ ア に 生 息 す る ゲ ラ ダ ヒ ヒ Theropithecus gelada
を対象とした研究では,雨季と乾季で腸内細菌叢の組成が異なって いた。これらの先
行研究では、季節的な食餌内容の差が腸内細菌叢組成に影響を及ぼし たと述べられて
いる。しかし、腸内細菌叢の季節差が及ぼす生理的な意義は不明であった。
そこで本研究では、季節変動する外部因子を制御し、食餌内容の季節差に依存
しない腸内細菌叢の季節変化とその影響について明らかにすることを本研究の目的と
し た 。 3 種 類 の 脊 椎 動 物 、 ア カ ゲ ザ ル Macaca mulatta、 マ ウ ス Mus musculus、 ウ ズ ラ

Coturnix japonica が 持 つ 特 性 を 利 用 し 、 腸 内 細 菌 叢 に 影 響 を 及 ぼ す 外 部 季 節 変 動 因 子
を制御して実験を行った。
第 1 章では、餌内容を均一に管理された野外飼育個体のアカゲザルを用いて、
食餌以外の季節変動因子が腸内細菌叢に及ぼす影響を明らかにすることを目的として
研 究 を 行 っ た 。 雌 雄 各 2 個 体 の ア カ ゲ ザ ル か ら ス ワ ブ を 一 年 間 採 取 し 、 V3-V4 領 域 の
16S rRNA 解 析 に よ り 細 菌 叢 を 明 ら か に し た 。 JTK_cycle に よ っ て 細 菌 叢 の 周 期 的 な 変
化 を 解 析 し た と こ ろ 、 オ ス の Pseudomonadota は Cool 群 で 高 く Warm 群 で 低 い 有 意 な
周期性を持つことが算出された。細菌門毎に季節条件間の統計比較を行った結果、雌
雄 に 共 通 し て Bacteroidota は Warm 群 、Pseudomonadota は Cool 群 で 有 意 に 高 い 割 合 を
示 す こ と が 明 ら か と な っ た 。さ ら に ア ル フ ァ 多 様 性 の 比 較 で は 、オ ス は Cool 群 で 有 意
に高い多様性を示し、有意差はないもののメスでも同様の傾向を示した。細菌叢の雌
雄 差 に つ い て も 検 討 を 行 っ た が 、門 レ ベ ル で 有 意 な 差 は な か っ た 。一 方 で 、PICRUSt2
に よ る 細 菌 叢 の 機 能 予 測 結 果 に は 雌 雄 差 が あ り 、メ ス の Cool 群 で エ ネ ル ギ ー 代 謝 に 関
わ る TCA cycle が 高 ま っ て い る こ と が 明 ら か と な っ た 。 こ れ は 、 同 じ 季 節 条 件 に お い
ても腸内細菌叢が宿主にもたらす影響は性別によって異なり、メスにおいては腸内細
菌叢が冬季のエネルギー代謝をサポートしている可能性が考えられる。 第1章では、
食餌内容が一年を通して一定であっても、食餌以外の外部季節変動因子によってアカ
ゲザルスワブ腸内細菌叢の季節差が生じること、アカゲザルスワブ腸内細菌叢には雌
雄差が存在することが明らかになった。
アカゲザルは遺伝的に均一ではなく、さらに個体数を確保し難いことから、第
2 章 で は 実 験 用 CBA/N マ ウ ス を 用 い た 。実 験 環 境 下 で 気 温 と 日 長 を 操 作 し た 人 工 的 な
季 節 条 件 に よ る 腸 内 細 菌 叢 の 変 化 を 明 ら か に し た 。 盲 腸 と 大 腸 そ れ ぞ れ の PCoA に お
い て LW 群 と SC 群 は 有 意 に 異 な る ク ラ ス タ ー を 示 す こ と 、 日 内 変 動 の パ タ ー ン が 季
節 条 件 に よ っ て 異 な る こ と 、 盲 腸 Bacteroidota 門 の 割 合 が LW 条 件 下 で 有 意 に 高 い こ
とが明らかとなった。第 2 章では、食餌内容の変化がなくとも、日長や気温の変化に
よって腸内細菌叢構成が変化することを明確に示した。しかしながら、これらの季節
的変化が宿主動物の生理、行動、疾病にどのように影響するかが次の課題として残っ
た。
第 1 章、第 2 章の結果から、食餌が同じであっても日長や温度などの外部因子
に 季 節 変 化 に よ っ て 腸 内 細 菌 叢 に 明 瞭 な 違 い が 生 じ る こ と が 明 ら か に な っ た 。し か し 、
その生理学的な意義は不明であった。そこで第 3 章では、優れた日長応答能を持つウ
ズラを用いて、日長刺激のみを季節変動因子として腸内細菌叢の季節条件変化を明ら
か に す る と と も に 、抗 生 物 質 投 与 の 影 響 を 検 討 し 、LD 個 体 由 来 の 細 菌 叢 を SD 個 体 に
移植することによって、季節によって異なる細菌叢が宿主に及ぼす影響について評価
し た 。抗 生 物 質 投 与 に よ っ て 、LD 条 件 に よ る 卵 巣 発 達 は 有 意 に 抑 制 さ れ た 。16S rRNA
解 析 に よ っ て メ ス ウ ズ ラ の 盲 腸 細 菌 叢 を 明 ら か に し た と こ ろ 、LD 群 と SD 群 の 盲 腸 細
菌 叢 は 有 意 に 異 な る ク ラ ス タ ー を 形 成 し た 。 門 レ ベ ル の 統 計 比 較 に よ っ て LD 群 で は

Bacteroidota と Pseudomonadota、 SD 群 で は Actinomycetota の 割 合 が 有 意 に 高 い こ と が
わかった。アルファ多様性について統計比較を行ったところ、有意差はなかったもの
の 、LD 群 で 高 い 多 様 性 を 示 す 傾 向 が あ っ た 。次 に 、盲 腸 細 菌 叢 の 季 節 変 化 が 生 殖 活 動
に 及 ぼ す 影 響 を 評 価 す る た め 、SD 条 件 下 で 飼 育 し た ウ ズ ラ に LD 個 体 由 来 の 盲 腸 細 菌
叢 を 強 制 経 口 投 与 に よ り 移 植 し た 。そ の 結 果 、PBS を 投 与 し た 対 照 群 に 比 べ 、LD 盲 腸
細菌叢を移植した個体では有意に卵巣重量が重いことがわかった 。これらの結果は、
メスの卵巣の光周反応に盲腸細菌叢の季節変化が寄与している可能性を示唆してい
る。第 3 章では、ウズラの盲腸細菌叢は人工的な日長操作によりダイナミックな変化
を示すことが明らかとなった。さらに、盲腸細菌叢の日長条件による変化は、メスウ
ズラの卵巣発育の光周性制御に影響を与えることがわかった。
3 種に共通して、食餌に差がなくても腸内細菌叢に季節差が生じることが明ら
かとなった。マウス・ウズラにおいては、実験室環境での人工的な季節条件によって
も 腸 内 細 菌 叢 に 影 響 が 生 じ る こ と が 明 ら か と な っ た 。Bacteroidota の 相 対 的 存 在 量 は 3
種 に 共 通 し て 夏 環 境 (ア カ ゲ ザ ル : Warm 群 、 マ ウ ス : LW 群 、 ウ ズ ラ : LD 群 )に お い
て 有 意 に 高 い 割 合 を 示 す こ と が 明 ら か と な っ た 。Bacteroidota は 多 く の 脊 椎 動 物 の 腸 内
細菌叢において主要なメンバーであり、宿主の代謝を助ける。さらに、アカゲザルと
ウ ズ ラ の ア ル フ ァ 多 様 性 は 、ア カ ゲ ザ ル は 冬 条 件 で あ る Cool 群 、ウ ズ ラ は 夏 条 件 で あ
る LD 群 で 有 意 に 高 ま っ て い た 。 腸 内 細 菌 叢 の 豊 富 な 多 様 性 は 正 常 な 生 理 機 能 の 維 持
につながる。アカゲザルとウズラは季節繁殖動物であり、アカゲザルは冬に、ウズラ
は夏に生殖活動を行う。動物の繁殖活動には多大なコストがかかるため、繁殖期に限
定して様々な生理機能がダイナミックに活性化される。性ステロイドホルモン が腸内
細菌叢に影響を及ぼすことが知られており、この結果は血中性ホルモン濃度の変化に
よって生じた可能性がある。
腸内細菌叢の季節変化については、これまでもいくつかの生物種において報告
があったが、その生理的な意義は不明であった。本研究では、アカゲザル 、マウス、
ウズラといった進化的にも大きく異なる 3 種類の生物において、環境の季節変化によ
って腸内細菌叢が変化することを明らかにした。これらの生物において、食餌の内容
が一定であっても予想以上に大きな差が認められたことは興味深い。

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