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大学・研究所にある論文を検索できる 「特発性肺線維症患者における夜間低酸素血症のアルゴリズムを用いた波形解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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特発性肺線維症患者における夜間低酸素血症のアルゴリズムを用いた波形解析

安田, 裕一郎 神戸大学

2022.03.25

概要

背景
特発性肺線維症(IPF)患者の睡眠においては、夜間酸素飽和度の低下や睡眠時無呼吸(OSA)がしばしば認められ、身体活動度や肺高血圧等に寄与し、予後や病勢進行との関連が知られている。また、睡眠呼吸障害のない IPF 患者でも睡眠時低酸素血症を認めることが報告されている。我々は在宅酸素療法(HOT)導入中の慢性呼吸器疾患患者の連続パルスオキシメトリー(SpO2)から夜間酸素飽和度の低下が不規則型、持続型、間欠型の 3 つの波形の組み合わせで構成されていることを報告した。さらに、これらの波形を自動解析するアルゴリズムを開発した。先行研究では種々の慢性呼吸器疾患が含まれており、個々の疾患における波形の意義は不明である。そこで我々は、IPF 患者におけるアルゴリズムを用いた波形と臨床所見との関連を明らかにすることを目的とした。

方法
2017 年から 2020 年にかけて、神戸大学医学部附属病院と関連病院を受診し IPF と診断され、安静時の低酸素血症を認めない症例を対象とした。IPF の重症度は日本の病期分類を使用した。夜間 SpO2 測定は携帯用睡眠時無呼吸検査装置(SAS2100; 日本光電)を使用した。症例の臨床的背景等は診療録から収集した。本研究では、ベースラインから 3%以上の SpO2 低下の波形を、アルゴリズムにより 3 つの波形に分類した。すなわち、酸素飽和度低下のイベントが 655 秒以上持続する場合は持続型と分類し、酸素飽和度低下のイベントが30 秒以上 655 秒未満で、測定時間内に 2 回以上みられる場合には不規則型と分類した。間欠型は、SpO2 の低下と回復を数分間で繰り返すものと定義した。

設定症例数に関しては、特発性間質性肺炎患者の 37%に夜間低酸素血症が認められており、特発性肺線維症の重症度の割合(I 度 43%、II 度 13%、III 度 22%、IV 度 22%)を踏まえ、I+II 度(軽症:56%)での夜間低酸素血症の割合を 20%、III+IV 度(重症:44%)での夜間低酸素血症の割合を 60%とした時に、検出力 80%、有意水準 5%でそれぞれ 31 例と 25 例が必要であった。若干の逸脱例を想定し、目標対象者数は 60 例とした。

統計解析については、カテゴリー変数は Fisher の正確検定、連続変数は Mann-WhitneyのU 検定もしくは t 検定を使用した。探索的解析として、各波形と関連する臨床パラメータを求めるためロジスティック回帰分析および重回帰分析を行った。P 値は両側検定で P <0.05 を統計学的有意とした。

結果
60 例(男性:47 例、女性:13 例)が解析対象となった。IPF の重症度はI 度、II 度、III度、IV 度がそれぞれ、36、7、12、5 例であった。対標準努力肺活量(FVC)と対標準肺拡散能(DLCO)の平均はそれぞれ 81%と 61%であった。32 例が経胸壁心臓超音波検査を施行されたが、肺高血圧を呈した症例は認めなかった。

60 例中 52 例(87%)が何らかの夜間酸素飽和度の低下を有していた。アルゴリズムによる波形は、持続型、不規則型、間欠型型がそれぞれ、3 例(5%)、49 例(82%)、41 例(68%)であった。波形については、IPF の重症度 I+II 度群と III+IV 度群の間に有意差は認めなかった。

各波形においてロジスティック回帰分析を行い、無呼吸低呼吸指数(AHI)、最低 SpO2、 TST90(Total sleep time with SpO2 < 90%:全睡眠時間中の SpO2 が 90%未満の割合)を予測変数とした。最低 SpO2 および TST90 は持続型と関連しており(最低 SpO2、オッズ比: 0.796、95%信頼区間:0.637-0.994、P 値=0.04;TST90、オッズ比:1.1、95%信頼区間:1.01-1.18、P 値=0.02)、AHI は間欠型と関連していた(AHI, オッズ比: 1.54, 95% 信頼区間: 1.16-2.06, P 値 < 0.005)。不規則型とは有意な関連を示さなかった。

次に、日中の臨床パラメータと各波形との関連を解析するため、ロジスティック回帰分析および重回帰分析を行った。FVC は間欠型において有意ではないが高い傾向にあった(P値=0.07)。

考察
本研究では、IPF 患者における夜間酸素飽和度低下の波形を前向きに解析した。持続的な夜間低酸素血症は、安静時低酸素血症のない IPF 患者では HOT 導入中の患者より少なかった。しかし、夜間の SpO2 の変動に注目すると、ほとんどの IPF 患者で夜間酸素飽和度低下が認められた。これらの結果は、低酸素血症を伴わない IPF 患者においても、潜在的な呼吸障害が存在することを示唆していた。波形分類と睡眠関連項目を探索的に解析した結果、夜間酸素飽和度低下の程度と持続時間(最低 SpO2 および TST90)が持続型と関連していることが示唆された。また、持続型の 3 例では DLCO が低下していたが、そのうちの 1 例ではAHI が保たれており、AHI のみによる夜間低酸素血症の評価の難しさを示唆していた。間質性肺炎患者の夜間低酸素血症に関する研究では、TST90 は酸素化や DLCO など ILD の重症度を示すいくつかのマーカーと有意な相関が認められた。また、持続的な酸素療法を行った場合に、波形が変化するかどうかの検証も必要であると思われた。

持続型を 10 分以上の酸素飽和度低下と定義するアルゴリズムの設定と合わせて、これらの知見は、持続型が比較的進行した IPF 患者で認められる可能性が推測されたが、本研究 では症例数の影響により更なる解析は困難であった。今後、持続時間のカットオフ値などアルゴリズムを最適化することで、持続型と疾患進行の関連性が明らかになると考えられた。

間欠型は AHI と相関があることから、この波形は OSA を反映していると思われた。本研究では、間欠型が 68%に認められており、これは既報と同様の OSA の有病率であった。間欠型では、他の波形と比較して FVC が保たれている傾向が認められ、このことからIPFの臨床経過に伴い、間欠型から持続型へと波形が変化する可能性が示唆された。

不規則型は、主に REM 睡眠関連低換気に伴う酸素飽和度低下と想定されていた。先行研究では HOT 導入患者の多くが不規則型を認めることが明らかになったが、本研究では不規則型は IPF 患者に特異的ではなく、日中および睡眠関連項目との関連もなかった。したがって、この波形の臨床的意義は本研究では明らかにならなかったが、ポリソムノグラフィー(PSG)による波形分類を用いたさらなる研究が、不規則型の病態生理の解明に役立つと思われた。

今回の研究の限界は、PSG や経皮的CO2 分圧のデータがないことであった。また、SAS- 2100 では記録時間が睡眠時間より長いため、AHI が過小評価される傾向があった。さらに、 HOT 導入患者からカットオフ値が設定された波形分類については、IPF 患者への適用が検証されていなかった。

結論
IPF 患者における夜間酸素飽和度低下の有病率と波形の関係を明らかした。アルゴリズムによる波形の解析により IPF の予後に影響する可能性がある低酸素血症を 3 つの病型に分けることが出来た。また間欠型は OSA の合併と関連している可能性が示唆された。今後、治療的介入やPSG を評価することにより、波形分類の臨床的意義を明らかにしたい。

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