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大学・研究所にある論文を検索できる 「アブラナ科野菜の高度病害抵抗性育種に向けた分子遺伝学的解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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アブラナ科野菜の高度病害抵抗性育種に向けた分子遺伝学的解析

宮路, 直実 神戸大学

2021.03.25

概要

コマツナやハクサイなどの Brassica rapa L.を含むアブラナ科野菜は日本の食卓に欠かせない重要な野菜である。アブラナ科野菜を栽培する際には、菌類や細菌、ウイルス、昆虫による病害や食害の影響を受ける。アブラナ科野菜が感染する病害には Albugo candida による白さび病や Fusarium oxysporum f. sp. conglutinans (Foc) による萎黄病などがある。これらの病害により、植物体の枯死、萎凋、生育不良、外観不良などが引き起こされるため、病害対策は生産農家にとって重要である。植物はパターン誘導免疫 (PTI) とエフェクター誘導免疫 (ETI) の 2 つのメカニズムを介して病原体に対する免疫を進化させてきた。これまでに ETI の鍵遺伝子である抵抗性遺伝子が複数同定されており、B. rapa では例えば萎黄病抵抗性遺伝子が同定され、本遺伝子上に作製された DNA マーカーを用いて抵抗性品種が育成されている。一方で、白さび病抵抗性遺伝子や抵抗性と連鎖する有用な DNA マーカーは同定されておらず、DNA マーカー選抜を白さび病抵抗性育種に利用することができない。また、昨今の抵抗性品種を利用した農作物の生産現場では、いくつかの病害において抵抗性を打破する病原菌レースの出現が問題になっている。抵抗性系統特異的な PTI 関連遺伝子を同定し、それらの遺伝子を用いることで抵抗性育種を行える可能性があるが、B. rapaにおける PTI に関する報告はほとんどなされていない。本研究は、アブラナ科野菜における高度病害抵抗性品種の育成に利用可能な ETI と PTI に関連する遺伝子を同定することを目的とした。

第 2 章では、白さび病抵抗性遺伝子 DNA マーカーの開発を目指し、B. rapa における白さび病抵抗性遺伝子の同定と単離を目的とした。はじめに抵抗性品種スクリーニングのため、複数の B. rapa 市販品種に白さび病菌 B. rapa (ミブナ) 分離菌 WMB01 を接種した。抵抗性F1 品種に混入した感受性を示す雌親系統自殖個体を発見したことから、本抵抗性品種が抵抗性遺伝子をヘテロ接合型で有すると予想された。本品種の自殖集団 (F2 集団) に WMB01に接種したところ、白さび病抵抗性の表現型は分離し、分離比は単一優性抵抗性遺伝子を仮定した場合に適合した (p = 0.678)。ゆえに、本品種の有する抵抗性遺伝子は単一優性であると考えられた。QTL-seq とファインマッピングにより、抵抗性遺伝子座乗領域を約 2.9Mbの単一領域まで限定した。ゲノム参照配列の本領域には複数の NB-LRR 遺伝子が近接して座乗するため、本 NB-LRR 遺伝子群に着目した。抵抗性品種においてドラフトゲノムを構築し、NB ドメインを有する遺伝子を本領域内で探索したところ、CC-NB-LRR 型の 1 遺伝子と NB 型の 2 遺伝子が選抜され、CC-NB-LRR 型の遺伝子に着目した。抵抗性品種と感受性品種について本遺伝子の全長を増幅する RT-PCR を実施したところ、抵抗性品種では発現が確認されたが、感受性品種では発現が確認されなかった。また、本遺伝子に作製した CAPSマーカーで抵抗性 F1 品種の自殖集団 (F2 集団) の遺伝子型を決定したところ、全ての個体において遺伝子型と表現型が一致した。そのため、本遺伝子を Brassica rapa White RustResistance 1 (BraWRR1) と命名し白さび病抵抗性遺伝子とした。BraWRR1 の CAPS マーカーを使用して WMB01 抵抗性が検定されている 84 品種について遺伝子型を調べたところ、抵抗性を示す 26 品種のうち 3 品種のみが BraWRR1 の抵抗性アリルを保有していた。白さび病抵抗性品種にも関わらず BraWRR1 の抵抗性アリルを保有しない品種が複数見出されたことから、他の白さび病抵抗性遺伝子の存在が示唆された。

第 3 章では、ハクサイにおける萎黄病菌に対する免疫応答について知見を得ることを目的として、Foc 感染後 24 時間または 72 時間の萎黄病抵抗性系統 RJKB-T23 と感受性系統RJKB-T24 においてトランスクリプトーム解析を実施した。感染後 24 時間における発現誘導遺伝子を用いて Gene Ontology (GO) 解析を行ったところ、抵抗性系統ではサリチル酸(SA) 応答や全身獲得抵抗性に関連する遺伝子の発現が誘導される傾向が見られた。一方で感受性系統では、トリプトファン生合成やキチン、エチレン (ET) 応答に関連する遺伝子の発現が誘導される傾向が見られた。F. oxysporum 感染後 1 日の Arabidopsis thaliana における発現誘導遺伝子とFoc感染後24時間のB. rapaにおける発現誘導遺伝子を比較したところ、抵抗性系統で発現が誘導された 29 遺伝子または感受性系統で発現が誘導された 24 遺伝子が A. thaliana の発現誘導遺伝子と重複した。両種で共通する発現誘導遺伝子は F. oxysporumに対する抵抗性機構に関連する候補遺伝子となると考えられた。

第 3 章より、萎黄病抵抗性系統は感受性系統に比べて、Foc 感染後の SA 応答関連遺伝子の誘導レベルが高いことが予測され、抵抗性系統と感受性系統では SA 応答性が異なる可能性が示唆された。そこで第 4 章では、SA 応答と萎黄病抵抗性との関連性についての知見を得ることを目的として、萎黄病感受性品種‘Misugi’と抵抗性品種‘Nanane’における SA 処理後72 時間での転写応答を RNA-seq 解析により比較した。SA 処理後の‘Misugi’または‘Nanane’で同定された発現変動遺伝子のうち、1061 個の発現誘導遺伝子と 994 個の発現抑制遺伝子が両品種で共通し、これらを B. rapa SA 誘導遺伝子 (BrSAIGs) または B. rapa SA 抑制遺伝子 (BrSASGs) として定義した。各品種の発現変動遺伝子を用いて GO 解析を実施したところ、‘Nanane’では SA 応答に関連する遺伝子の発現が誘導され、ジャスモン酸 (JA) 応答やET 応答に関連する遺伝子の発現が抑制される傾向が見られたが、‘Misugi’では同様の傾向は見られなかった。ゆえに、萎黄病抵抗性品種と感受性品種では SA 応答が異なることや、萎黄病抵抗性系統でのみ SA と JA/ET の拮抗関係が見られることが示唆された。A. thaliana において同定された AtSAIGs と BrSAIGs を比較したところ、BrSAIGs の約 5.6%のみが種間で共通したことから、SA 応答遺伝子は種によって異なることが示唆された。また、萎黄病抵抗性系統 RJKB-T23 と感受性系統 RJKB-T24 の両方において、Foc 感染により SA 誘導遺伝子の発現が誘導されていた。RJKB-T23 特異的な 39 個の SA 誘導遺伝子が同定され、これらの遺伝子は Foc に対する防御応答において機能を有すると考えられた。

本研究では、アブラナ科野菜における高度病害抵抗性品種の育成に向け、抵抗性系統における ETI と PTI に重要な遺伝子を同定した。得られた研究結果をもとに、高度病害抵抗性品種を育成する際に有効な方法を提案した。第一に、安定した抵抗性を示し、かつ発病リスクが低く、抵抗性育種素材の流出を防ぐことができる方法として、抵抗性 F1 品種の育成において、ホモ接合型の抵抗性遺伝子を有する細胞質雄性不稔系統を雌親系統に使用し、ホモ接合型の抵抗性遺伝子を有する系統を雄親系統に用いる手法を考えた。第二に、抵抗性系統特異的な SA 応答遺伝子のプロモーター配列は萎黄病菌や SA による発現誘導に適した配列である可能性があることから、発現誘導に適したプロモーター配列を用いてマーカー育種を行うことで、病原体の感染に伴い高く PTI を誘導できる品種が育成できると考えた。抵抗性遺伝子で対応できる病害には限りがあるため、主要病害に対しては抵抗性遺伝子で対応しながら、PTI 関連遺伝子を強化することで他の病害に対しても防御する方法が、安定した高度病害抵抗性を発揮する品種を生育する上で最善ではないかと考えた。

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