リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「シコクビエいもち病菌とオオムギ・コムギの相互作用から見たいもち病菌群・植物属間特異性の進化」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

シコクビエいもち病菌とオオムギ・コムギの相互作用から見たいもち病菌群・植物属間特異性の進化

足助, 聡一郎 神戸大学

2020.03.25

概要

本研究はいもち病菌 Pyricularia oryzae の病原性進化機構、本病に対するムギ類の抵抗性遺 伝子の進化過程の解明を目的としている。まず、第 2 章では、シコクビエいもち病菌群の 寄生性分化成立過程について解析した。シコクビエいもち病菌は P. oryzae 集団の中で最も 交配能が高いことから、本菌の祖先型に近い菌群の一つであると考えられている。先行研 究から、シコクビエいもち病菌は異なる2つのグループ(EC-I 菌, EC-II 菌)から構成され ていることが明らかにされていたが、それぞれの菌群進化過程は不明であった。ITS に基づ いた系統解析から、ウィーピングラブグラス菌(Era 菌)が EC-I 菌に近縁であることが示 唆された。Era 菌・EC-I 菌・EC-II 菌をシコクビエ・ウィーピングラブグラスに接種したと ころ、EC-I 菌はシコクビエ・ウィーピングラブグラスの両方に病原性を示す一方、Era 菌、 EC-II 菌はそれぞれウィーピングラブグラス、シコクビエのみに病原性を示した。サザンブ ロット法を用いて PWL1(ウィーピングラブグラスに対する非病原力遺伝子)の分布を確 認したところ、供試した Era 菌・EC-I 菌のすべてが非保有である一方、すべての EC-II 菌 で保有されていた。PWL1 周辺配列構造を比較したところ、Era 菌と EC-I 菌は共通の構造 を保有しており、それとは異なる構造が EC-II 菌内において広く保存されていた。さらに、 EC-II の保有する PWL1 をEC-I 菌に導入した形質転換体はシコクビエに病原性を示す一方、ウィーピングラブグラスに非病原性を示した。以上の解析と Era, EC-I, EC-II 菌全ゲノム配 列に基づき作成した系統樹から、PWL1 という非病原力遺伝子の獲得によってシコクビエ 特化型いもち病菌(EC-II)が出現したという菌群進化モデルを提唱した。

続いて、第3章では、種-種レベル特異性決定機構の全容解明を目的として、シコクビエ菌 (EC-II) MZ5-1-6 とコムギ菌Br48 を交配した F1 80 菌系をコムギに接種し、病原性分離分析を行ったところ、シコクビエ菌とコムギ品種 Chinese Spring(CS)間の非親和性は、5対の AVR 遺伝子-R 遺伝子相互作用に支配されていることが示唆された。相補性試験より、そのうちの 1 遺伝子ペア(A3-R3)はエンバク菌の PWT3 - Rwt3 相互作用と同一であることが判明した。Rwt3 はライグラス菌、エンバク菌、シコクビエ菌の3つの異なる菌群の感染成立を妨げることから、コムギのいもち病抵抗性において基幹的な役割を担う重要な抵抗性遺伝子であることが示唆された。また、シコクビエ菌の全ゲノム配列からランダムに抽出した 60 個の低分子分泌タンパク質コード遺伝子の有無を、様々な菌群を含むいもち病菌集団 85 菌株内でサザンブロット法を用いて確認した。その結果、コムギ菌群が保有しておらず、シコクビエ菌群には広く保存されているエフェクター遺伝子を 1 つ検出した。この遺伝子でコムギ菌を形質転換したところ、形質転換体はコムギ品種 CS に対して非病原性を示した。即ち、新規の AVR 遺伝子(PWT6 と命名)の単離に成功した。CS x Hope F2を用いた遺伝解析の結果、PWT6 は1対1に対応する単一の抵抗性遺伝子によって認識されることが明らかとなり、Rwt6 と命名した。SSR マーカーを用いて遺伝地図を作成したところ、Rwt6 は1D 染色体短腕に座乗していることが明らかとなった。

さらに、第4章では、コムギに近縁であるオオムギの各種いもち病菌群に対する抵抗性遺伝子 Rmo2 の単離と多様性解析を行った。オオムギのいもち病菌菌群に対する抵抗性は、 7H 染色体上に座乗する単一の遺伝子座 Rmo2 によって支配されており、この座には異なる菌群を認識する複数のアリルが存在する。抵抗性品種 Russian No.81 と感受性品種 Nigrate の交配系を用いて詳細遺伝地図を作成したところ、Rmo2 候補遺伝子を 1 遺伝子(ABC1037)に絞り込むことができた。ABC1037 が Rmo2 であることを証明するために、抵抗性品種 Golden Promise の ABC1037 をサイレンシングさせた T1 世代を作出した。その T1 個体にシコクビエ菌MZ5-1-6 を接種したところ、感受性を示す個体を得ることができた。また、形質転換可能かつ MZ5-1-6 に感受性を示すNgt x GP BC1F2 を作出し、ABC1037 を過剰発現ベクターを導入したT1 個体を作出した。T1 個体の生👉を観察したところ、野生型と比べ個体全体の矮小化が認められた。今後いもち病菌を接種することにより、導入遺伝子の効果を検証することが可能である。以上より、Rmo2 遺伝子は ABC1037 である可能性が強く示唆された。

ABC1037 は serine/threonine-protein kinase が2つタンデムに並ぶ約 800aa からなるタンパク質であるが、詳細なドメイン予測を行ったところ、N 末端側 80 アミノ酸残基がエフェクター認識サイトで知られている heavy metal associated domain(HMA)であることが示唆された。代表的な供試品種の ABC1037 配列を解析したところ、異なる菌群を認識する複数の Rmo2 アリルはそれぞれ異なるHMA 配列をコードしていることが明らかになった。また、世界各地から採集したオオムギ約 300 系統のアワいもち病菌とコムギいもち病菌に対する反応を接種により確認した。サンガーシーケンス法を用いて、Protein Kinase 1 部分配列を取得し、系統樹を作成したところ、大きく4つのグループに大別されることが明らかになったが、その変異のパターンは様々な菌群に対する各品種の病原反応度の差異よりも小さいと考えられた。また、同様の構造を有するオーソログ遺伝子がコムギ 7AS, 7DS 染色体上に座上しており、7DS 上のオーソログについてマーカーを作成し、マッピングを試みたところ、エンバク菌、ライグラス菌、シコクビエ菌に共通に保有されている PWT7 に対応する抵抗性遺伝子 Rwt7 と完全連鎖した。

本研究においては、祖先型いもち病菌であるシコクビエ菌を用いて、初期のいもち病菌集団における非病原力遺伝子の獲得過程を明らかにし、菌群分化モデルを構築した。また、近年分化したコムギ菌、コムギを用いて、シコクビエ菌―コムギ間の非親和性を支配する遺伝子相互作用関係を明らかにし、一部遺伝子の単離・同定に成功した。さらに、オオムギの抵抗性遺伝子 Rmo2 の単離と多様性解析によって、本遺伝子はオオムギ、コムギにおいて、いもち病菌を認識する基幹的な抵抗性遺伝子であることが示唆されたと同時に、その病原性を決定づける重要なドメイン構造を見出した。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る