タバコ(Nicotiana tabacum L.)における翻訳開始因子遺伝子を利用したウイルス病抵抗性育種に関する研究
概要
タバコ(Nicotiana tabacum L.)は世界 120 か国以上で栽培されている工芸作物であり(FAOSTAT; http://www.fao.org/faostat)、栽培地域ごとに様々な品種が開発されてい る。他作物同様、タバコにおいても、病害抵抗性は収量・品質と並ぶ重要な育種目標である。タバコの重要病害の一つであるtobacco bushy top disease(TBTD)は、感染個体に生育遅延や mottling、わき芽の異常伸長を引き起こすタバコのウイルス病である。本病の原因ウイルスとして、Tobacco bushy top virus(TBTV; Umbravirus 属)および Ethiopian tobacco bushy top virus(ETBTV; Umbravirus 属)が知られている。これまで、N. tabacum における本病に対する抵抗性遺伝資源は見つかっていない。また、別の重要病害に、Potato virus Y(PVY; Potyvirus 属)を原因ウイルスとする黄斑えそ病があ る。PVY に感染したタバコは、葉脈えそやモザイク症状を示す。タバコ系統‘Virgin A Mutant’(VAM)に由来する劣性対立遺伝子座 va がタバコの PVY 抵抗性育種に広く利用されているが、va 導入品種においても本病に罹病することがあり、さらに強く、安定した抵抗性が求められている。
近年、宿主の翻訳開始因子(eukaryotic translation initiation factor; eIF)の欠損によるウイルス抵抗性獲得の事例が多く報告されている(Bastet et al. 2017)。しかしながら、 TBTD の原因ウイルスと eIF 遺伝子ファミリーとの関係や、それらの改変による抵抗 性系統作出の可能性は不明である。PVY については、タバコ Va 座に eIF 遺伝子ファミリーの一つ eIF4E 群の遺伝子が座乗しており、va 座による PVY 抵抗性はこの遺伝子 の欠失に起因することが明らかになっているが(Noguchi et al. 1999; Julio et al. 2015)、 PVY 抵抗性の不安定性の原因解明には至っていない。
本研究では、eIF4E 群に注目した分子遺伝学的な研究により、これらの遺伝子とTBTD および黄斑えそ病に対する抵抗性の関係を明らかにすることを目的とした。