Photoelectron-ion correlation created by photoionization of H2 and correlated molecule-photon dynamics in a cavity
概要
論文審査の結果の要旨
氏名
西孝哲
本論文は 5 章からなる。第 1 章は、イントロダクションであり、粒子間の相関を定量
化する指標としてのエンタングルメントの導入、イオン化によって生じる光電子とイオ
ンの運動をフェムト秒からアト秒の精度で決定する方法の説明、共振器中で光子と結合
した分子の運動を記述する数値計算手法の導入がされている。また、それぞれの分野にお
ける主な先行研究を紹介している。
第 2 章は、フェムト秒レーザーパルスを用いた水素分子のイオン化について、生成す
る水素分子イオンの振動固有状態と光電子の運動エネルギー固有状態間のエンタングル
メントと、水素分子イオンの振動運動のコヒーレンスとの関係について述べている。光電
子と水素分子イオンは空間的に隔てられているため、これらの相関が 2 者間エンタング
ルメントを用いて定量化できることを示した。また、エンタングルメントの大きさが水素
分子イオンの振動のコヒーレンスの大きさに依存することに着目し、イオン化に用いる
レーザーパルスの時間幅、波長、強度を変化させることによって、エンタングルメントの
大きさを変化させることができることを示した。
第 3 章は、水素分子のイオン化によって生成する水素分子イオンの振動運動に対して、
イオン・光電子間の相関が与える影響について述べている。これまで、イオンの運動を特
徴づけるコヒーレンスの絶対値は詳細に調べられてきたが、運動をより正確に記述する
ために必要となるコヒーレンスの位相については明らかにされていなかった。そこで、水
素分子イオンと光電子の相関を考慮することによってコヒーレンスの位相を計算し、水
素分子イオンの振動運動に数十アト秒の時間遅延が生じることを明らかにした。また、こ
の時間遅延を決定するための実験方法を提案した。
第 4 章は、ナノサイズの共振器中における分子の振動運動について述べている。量子
マスター方程式の数値解法として知られているモンテカルロ波束法を用いて、光子と結
合した分子の振動運動を解析した。さらに、共振器中の光子と分子の振電状態が結合する
ため、共振器からの光子の放射確率が分子の振動運動に依存して変化することを、光子・
分子の相互作用についての摂動論を用いて、解析的に示した。
第 5 章は、本論文の総括と研究の今後の発展について述べている。
なお、本論文第 2 章及び 3 章は、Erik Lötstedt と山内 薫との、第 4 章は Lars Bojer
Madsen と Klaus Mølmer との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び
検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。
したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。
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