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書き出し

分子集合体における超高速スペクトル拡散ダイナミクスの研究

吉田, 龍矢 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k24450

2023.03.23

概要

学位論文の要約
題目

分子集合体における超高速スペクトル拡散ダイナミクスの研究

氏名

吉田 龍矢

序論(第1章)
振電結合によって電子状態のエネルギーは核座標に依存しており、核座標の揺動は電子
状態間のエネルギーギャップの揺動を引き起こす。電子状態間の非断熱遷移速度はこのエ
ネルギーギャップ揺動によって決定される。したがって、振動モードが電子状態のエネルギ
ーギャップを変調する機構を理解することは重要である。これまで、エネルギーギャップの
大きさは核座標に対して線形に依存して変化すると仮定する線形結合モデルを用いた議論
が主に行われてきたが、その扱いを超えた非線形性の影響については十分な検証は行われ
てこなかった。線形結合モデルは電子状態の断熱ポテンシャルを調和振動子とみなす近似
に等しく、非線形性はポテンシャルの非調和性や振動モード間の非調和結合などの機構に
よって生じうる。振電結合の非線形性についての議論は複雑かつ多様な機構が存在しうる
ために理論的な取り扱いが難しく、また振電結合の非線形性に着眼してエネルギーギャッ
プ揺動を追跡した実験の報告例は極めて少ない。
電子状態のエネルギーギャップ揺動は、二次元電子分光を用いた超高速スペクトル拡散
の計測によって追跡される。スペクトル拡散の研究は溶液中の溶質分子の報告が多く、光合
成タンパク質の励起状態ダイナミクスや、溶質分子に対する溶媒分子の熱浴としての作用
に着眼した研究が行われてきた。固体の分子集合体中では分子間の電子状態の相互作用に
よって励起子が形成され、そのエネルギーや動的挙動は分子内および分子間の振動運動に
よって変調される。分子集合体中で進行する電子と振動の自由度が協奏的に駆動する励起
状態ダイナミクスの理解は、基礎学理の観点に加えて分子集合体を太陽電池や発光ダイオ
ードなどの光・電子機能性デバイスとして応用する観点からも重要である。しかしながら、
固体の分子集合体を対象に励起子スペクトル拡散計測を報告した例は極めて少なかった。
その理由としてスペクトル拡散計測のためには構造不均一性と散乱光を抑制した試料が必
要であり、一般に物性研究に用いられるバルク単結晶やスピンコート薄膜では双方の条件
を満たした試料の準備が困難である点が実験的な障壁となっていたことが挙げられる。
本研究では、超高真空技術を用いて原子レベルで清浄化した基板上に分子を真空蒸着す
ることで、構造不均一性と散乱光の双方を抑制した薄膜試料を作製し、その薄膜試料に対し

て二次元電子分光によるスペクトル拡散測定を行う実験システムを構築した。低速電子線
回折像などの表面分析手法を併用することで構造が規定された試料を準備し、エネルギー
ギャップ揺動と振動状態の熱占有数の相関を明らかにするために幅広い温度範囲でスペク
トル拡散計測を行うというアプローチを取った。

応答関数の定式化(第2章)
本章では、実験的に測定する二次元電子分光および定常吸収スペクトルについて、対応す
る光学応答関数の定式化を以下の4項目の内容で行った。1. Fermi の黄金律と振電結合の
線形結合モデルを用いた吸収係数及び対応する応答関数の導出。2. キュムラント展開を用
いた応答関数の導出。3. Multimode Brownian Oscillator モデルによる系と熱浴の結合の導入、
および相関関数の定式化。4. 相関関数を用いた二次元電子分光および定常吸収スペクトル
の定式化。また、線形結合モデルによる非断熱遷移速度の定式化も行い、線形結合モデルの
温度依存性および線形結合モデルを超えた振電結合の非線形性の例についても示した。

分子集合体中の励起子(第3章)
本章では、分子集合体中の分子間のクーロン相互作用によって形成される励起子の光学
特性について定式化を行った。また、分子集合体中の励起子のエネルギー移動および電荷移
動ダイナミクスについても示した。

実験(第4章)
本章では、以下の3項目の研究に用いた実験について方法と原理を述べた。1. 超高真空
チェンバー内での基板の清浄化と薄膜試料の作製、および低速電子線回折、昇温脱離法、紫
外光電子分光法による試料の結晶構造と膜厚の評価。2. 定常光源を用いた反射率変化およ
び発光スペクトルの測定。3. 二次元電子分光に用いたパルスレーザー光源の波長変換、波
形変換を用いたパルス列の出力、試料への照射と検出の光学系。

テトラセン薄膜中の励起子における超高速スペクトル拡散ダイナミクス(第5章)
本章では、96~186 K の温度範囲で二次元電子分光を用いてテトラセン薄膜中の励起子の
スペクトル拡散を追跡し、エネルギーギャップ揺動と振動状態の熱占有数の相関を調べた。
テトラセンはベンゼン環が4つ一次元的に結合した典型的なパイ共役系分子であり、分
子集合体中の励起子やダイナミクスに関する基礎研究の報告は多い。近年ではテトラセン
薄膜中で光吸収後に進行する励起子一重項分裂がシリコン太陽電池の増感に応用可能であ
ることが示され、その励起状態ダイナミクスが注目されている。特に、一重項分裂の初期過

程は非断熱遷移によって進行することが複数の先行研究によって報告されており、テトラ
セン薄膜中の励起子のエネルギーギャップ揺動機構を理解することは重要である。
超高真空チェンバー内で清浄化した基板上にテトラセンの薄膜を作製し、定常反射率変
化測定および二次元電子分光によるスペクトル拡散測定を行った。その結果、スペクトル拡
散速度が昇温によって加速することを見出した。スペクトル拡散の昇温による加速はこれ
まで予想されておらず、線形結合モデルでは説明できない現象である。この拡散速度の温度
依存性は、高速な拡散を引き起こす成分の振幅が著しく昇温によって増大していることを
意味する。この高速な相関関数の減衰成分の振幅の温度依存性は線形結合モデルを超えた
非線形な温度依存性を示し、その機構として、高周波数振動モードと低周波数振動モードの
非調和結合が働く機構を提案した。

PTCDI 薄膜中の励起子における超高速スペクトル拡散ダイナミクス(第6章)
前章で見出した昇温によるスペクトル拡散の加速を報告した例はテトラセン薄膜の結果
に限られており、この現象が普遍的な現象なのかを明らかにすることは重要である。本章で
は、テトラセンとは異なるペリレンビスイミド(PBI)骨格を有する 3,4,9,10-ペリレンテトラ
カルボキシルジイミド(PTCDI)薄膜中の励起子に着目し、105~471 K の温度範囲でスペクト
ル拡散測定を行った。
PTCDI を含む PBI 色素は空気中で長期的に安定であることに加え、化学的修飾によって
電荷移動や一重項分裂などの励起状態ダイナミクスの遷移速度を変調可能であることから
光・電子機能性デバイスの材料として着目されている。テトラセンと同様に、エネルギーギ
ャップ揺動の機構を理解することは重要である。
前章と同様の方法で PTCDI 薄膜の励起子のスペクトル拡散測定を行った。PTCDI につい
ても昇温によってスペクトル拡散が加速するという結果が得られ、その温度依存性につい
てテトラセンと同様の非調和結合モデルによって系統的に理解できることを提案した。

総括(第7章)
本章では、本論文の各章の内容をまとめ、加えて将来展望を述べることで総括を行った。
本研究で新たに見出されたエネルギーギャップ揺動の非線形な温度依存性は、室温に近い
環境で励起状態ダイナミクスを支配している機構として重要と考えられる。今後、本研究が
発端となって幅広い物質について振電結合の非線形性に着眼した実験が行われ、理論との
相乗的な発展により振電結合の非線形性の機構が解明されるものと期待される。 ...

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