リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「Theory of Multipole Fluctuation Mediated Superconductivity and Multipole Phase: Important Roles of Many Body Effects and Strong Spin-Orbit Coupling」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

Theory of Multipole Fluctuation Mediated Superconductivity and Multipole Phase: Important Roles of Many Body Effects and Strong Spin-Orbit Coupling

Tazai, Rina 田財, 里奈 名古屋大学

2020.04.02

概要

f 電子や d 電子系では、強いスピン軌道相互作用(SOI)と強い電子相関が協奏し、多彩な低温秩序相が出現する。これらの秩序相は、単純な磁気秩序や電荷秩序にとどまらず、多極子秩序や非従来型超伝導といった、高次の多体効果を無視した従来の近似理論では説明できないものが多く、数多くの未解明問題が存在する。その解明には、従来の近似手法を超えた高次の多体効果と SOI を同時に精度良く考慮できる新しい理論を構築する必要がある。

この問題を解決する為、本研究では、汎関数くりこみ群とダイアグラムによる摂動論を併せることにより、高次の多体効果である「バーテックス補正(VC)」を考慮可能な理論手法を構築した。本手法を具体的なモデルに適用することで、強い SOI が存在する強相関電子系における、高次の多体効果の重要性とその本質的な役割を明らかにした。

本論文の内容は、主に4つのパートに分けられる(本論文2~5章)。初めに、SOI が小さく無視できる d 電子系における VC の研究を行った。2章では、汎関数くりこみ群の手法を用いて、従来無視されてきた VC まで考慮できる超伝導状態の計算手法を構築した。次に3章では、ダイアグラムによる摂動論の手法を用いて、VC の更なる解析を行った。これらの研究から、多軌道強相関系の超伝導発現機構において、VC が重要な寄与をもたらすことを見出した。更に、VC に含まれる揺らぎの2次による補正項であるAslamazov-Larkin(AL)項が、特に大きな寄与をもたらすことを明らかにした。次に、強い SOI が存在するf電子系の研究を行った。SOI が強い系では、スピンと軌道の自由度が互いに独立では無くなり、両者を合わせた高次のランクの多極子自由度が活性となる。本研究では、多極子揺らぎを考慮した VC の理論手法を構築し、遍歴f電子系を記述する模型に適用した。4章では、f電子系の超伝導発現機構における VC の寄与が、d電子系に比べて非常に大きくなること明らかにした。5章では、多極子秩序相の発現機構においても VC が重要となる事を見出し、従来無視された多極子揺らぎ間の量子干渉効果の重要性を示した。本論文全体を通し、VC を考慮することで、従来理解できなかった各種相転移現象の微視的発現機構が理解可能になることを示した。以下、各章の詳細な内容について説明する。

2章では、トリプレット超伝導の微視的な発現機構の研究を行った。Sr2RuO4 や UPt3 では、同じスピンを持つ電子同士がクーパーペアを組むトリプレット超伝導が発現する可能性 が実験的に指摘されているが、その微視的発現機構は未決着である。そこで本研究では、 dxz,dyz 軌道から成るハバード模型に対し、汎関数くりこみ群による VC を考慮した超伝導計算を行った。その結果、軌道秩序と磁気秩序の境界領域において、トリプレット超伝導相が発現することを見出した。更にその起源が、VC によって引き起こされるスピン揺らぎと軌道揺らぎの量子力学的干渉効果であることを明らかにした。本研究において、スピンと軌道揺らぎの協力によってトリプレット超伝導が発現する新しい機構を提唱した。

3章では、VC を考慮した摂動論によって、ハバードホルシュタイン模型の解析を行った。ここでは、電子間クーロン斥力 U に由来する反強磁気揺らぎに加え、電子格子相互作用まで考慮した。従来の近似理論では、磁気揺らぎはクーパー対間の斥力として働き、電子格子相互作用は引力をもたらす為、互いに競合すると考えられてきた。一方、本研究では VCを考慮することにより、多軌道電子系の反強磁性相近傍においては、電子格子間相互作用由来の引力が、反強磁気揺らぎによって増強されるという協力機構が働く事を見出した。

4章では、SOI が強いf電子系の特徴である活性な多極子自由度を考慮し、超伝導発現機構の研究を行った。具体的な物質として、CeCu2Si2 に着目し、J=5/2 の 2 軌道周期アンダーソン模型の解析を行った。CeCu2Si2 は、長年、d波超伝導体であると考えられてきたが、最近のいくつかの実験によって、ノードを持たず符号反転も無いs波超伝導であることが示された。この実験事実は、重い電子系の強いクーロン斥力が s 波対の形成を阻害するという従来の理論では説明できない。そこで、本研究では、VC を考慮した摂動論を用いて多極子揺らぎ由来の超伝導機構の解析を行った。その結果、磁気双極子揺らぎだけでなく 8 極子や 32 極子など様々なランクの磁気多極子揺らぎが発達し、これらが AL 項を介して電気4極子や8極子揺らぎと干渉し、超伝導引力が増大することを見出した。特に、磁気量子臨界点近傍で s 波超伝導相が発現するという従来の理論常識とは異なる結果を得 た。本研究によって、磁気多極子揺らぎとフォノン由来引力の協力機構という新しい超伝導機構を提唱した。

最後に6章では、CeB6 で見られる電気4極子相の微視的発現機構の研究を行った。従来の RPA 近似(平均場近と同等)を超えた VC を考慮し、多極子揺らぎを解析した。この結果、Oxy 対称性の反強四極子揺らぎが、AL 項を介して磁気多極子揺らぎに増強されるという機構を見出した。本結果から、超伝導発現機構に限らず、多極子秩序機構においても、磁気・電気多極子揺らぎ間の干渉効果が重要である事を明らかにした。

以上をまとめると、近年、強相関電子系の実験技術が向上し、様々な物質で、従来の多体電子理論が破綻する実験結果が多く報告されている。この理論的問題を解明する為、本研究では、高次多体効果である VC 及び、強い SOI を考慮し、超伝導・多極子秩序相の微視的発現機構の研究を行った。本研究の結果、従来の理論では理解できなかった、幾つかの低温秩序相転移を説明することに成功した。今後は、本理論を様々な遍歴多極子物質・秩序相に適用することで、強相関電子系における普遍的理論構築の一役を担いたい。

参考文献

[1] P. Coleman, Handbook of Magnetism and Advanced Magnetic Materials, Vol 1, 95-148 (Wiley, 2007).

[2] T. Moriya and K. Ueda, Adv. Phys. 49, 555 (2000).

[3] Y. Yanase, T. Jujo, T. Nomura, H. Ikeda, T. Hotta, and K. Yamada, Physics Reports 387, 1 (2003).

[4] H. Kontani, Rep. Prog. Phys. 71, 026501 (2008).

[5] P. Monthoux, D. Pines, and G. G. Lonzarich, Nature 450, 1177 (2007).

[6] D. Senechal and A.-M.S. Tremblay, Phys. Rev. Lett. 92, 126401 (2004).

[7] P. Monthoux and D. J. Scalapino, Phys. Rev. Lett. 72, 1874 (1994).

[8] T. Takimoto, T. Hotta, and K. Ueda, J. Phys.: Condens. Matter, 15, S2087 (2003).

[9] T.Fujita, M.Suzuki, T.Komatsubara, S.Kunii, T.Kasuya and T.Ohtsuka, Solid State Commun. 35, 569 (1980).

[10] S. Nakamura, T. Goto, S. Kunii, K. Iwashita and A. Tamaki, J. Phys. Soc. Jpn. 63, 623 (1994).

[11] M.Hiroi, S.Kobayashi, M.Sera, N.Kobayashi and S.Kunii, J. Phys. Soc. Jpn. 66, 132 (1997).

[12] A. S. Cameron, G. Friemel, and D. S. Inosov, Rep. Prog. Phys. 79, 066502 (2016).

[13] R. Shiina, S. Shiba, and P. Thalmeier, J. Phys. Soc. Jpn. 66, 1741 (1997).

[14] O. Sakai, R. Shiina, H. Shiba, and P. Thalmeier, J. Phys. Soc. Jpn. 66, 3005 (1997); O. Sakai, R. Shiina, H. Shiba, and P. Thalmeier, J. Phys. Soc. Jpn. 68, 1364 (1999).

[15] P. Thalmeier, R. Shiina, H. Shiba, and O. Sakai1, J. Phys. Soc. Jpn. 67, 2363 (1998).

[16] H. Shiba, O. Sakai1, and R. Shiina, J. Phys. Soc. Jpn. 68, 1988 (1999).

[17] M. Sera and S. Kobayashi, J. Phys. Soc. Jpn. 68, 1664 (1999).

[18] H. Kusunose and Y. Kuramoto, J. Phys. Soc. Jpn. 74, 3139 (2005).

[19] K. Hanzawa, J. Phys. Soc. Jpn. 70, 468 (2001).

[20] M. Neupane, N. Alidoust, I. Belopolski, G. Bian, S.-Y. Xu, D.-J. Kim, P. P. Shibayev, D. S. Sanchez, H. Zheng, T.-R. Chang, H.-T. Jeng, P. S. Riseborough, H. Lin, A. Bansil, T. Durakiewicz, Z. Fisk, and M. Z. Hasan Phys. Rev. B 92, 104420 (2015).

[21] A. Koitzsch, N. Heming, M. Knupfer, B. Buchner, P.Y. Portnichenko, A.V. Dukhnenko, N.Y. Shit- sevalova, V.B. Filipov, L.L. Lev, V.N. Strocov, J. Ollivier, and D.S. Inosov, Nat. Commun. 7, 10876 (2016).

[22] G. Friemel, Yuan Li, A. V. Dukhnenko, N. Yu. Shitsevalova, N. E. Sluchanko, A. Ivanov, V. B. Filipov, B. Keimer, and D. S. Inosov, Nat. Commun. 3, 830 (2012).

[23] H. Jang, G. Friemel, J. Ollivier, A. V. Dukhnenko, N. Yu. Shitsevalova, V. B. Filipov, B. Keimer, and D. S. Inosov, Nat. Mater. 13, 682 (2014).

[24] A. Akbari and P. Thalmeier, Phys. Rev. Lett. 108, 146403 (2012).

[25] M. Endo, S. Nakamura, T. Isshiki, N. Kimura, T. Nojima, H. Aoki, H. Harima, and S. Kunii, J. Phys. Soc. Jpn. 75, 114704 (2006).

[26] H. Ikeda, M.-T. Suzuki, R. Arita, T. Takimoto, T. Shibauchi, and Y. Matsuda, Nat. Phys. 8, 528 (2012).

[27] R. Tazai and H. Kontani, Phys. Rev. B 98, 205107 (2018).

[28] S. Onari and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 109, 137001 (2012).

[29] S. Onari, Y. Yamakawa, and H. Kontani, Phys. Rev. Lett. 116, 227001 (2016).

[30] Y. Yamakawa, S. Onari, and H. Kontani, Phys. Rev. X 6, 021032 (2016).

[31] M. Tsuchiizu, Y. Ohno, S. Onari and H. Kontani Phys. Rev. lett. 111, 057003 (2013).

[32] M. Tsuchiizu, Y. Yamakawa, S. Onari, Y. Ohno, and H. Kontani, Phys. Rev. B 91, 155103 (2015).

[33] M. Tsuchiizu, Y. Yamakawa, and H. Kontani, Phys. Rev. B 93, 155148 (2016).

[34] R. Tazai, Y. Yamakawa, M. Tsuchiizu, and H. Kontani, Phys. Rev. B 94, 115155 (2016).

[35] M. Tsuchiizu, K. Kawaguchi, Y. Yamakawa, and H. Kontani, Phys. Rev. B 97, 165131 (2018).

[36] R.-Q. Xing, L. Classen, and Andrey V. Chubukov, Phys. Rev. B 98, 041108 (2018).

[37] U. Karahasanovic, F. Kretzschmar, T. Bohm, R. Hackl, I. Paul, Y. Gallais, and J. Schmalian, Phys. Rev. B 92, 075134 (2015).

[38] R. Tazai, Y. Yamakawa, M. Tsuchiizu, and H. Kontani, J. Phys. Soc. Jpn. 86, 073703 (2017).

[39] Supplemental Material.

[40] K. Takegahara, Y. Aoki, and A. Yanase, J. Phys. C 13, 583 (1980).

[41] Y. Kubo and S. Asano, Phys. Rev. B 39, 8822 (1989).

[42] A. Hasegawa and A. Yanase, Journal of Physics F, Metal Physics, 7, 7 (1977).

[43] At T ∼ TQ, χJµ (q, ω) at q = Q, 0 is much larger than that at the magnetic order wavevector QN = (π/2, π/2, 0) below TN according to Ref. [23].

[44] We adjust u to keep αmag constant, since αmag decreases with hz for fixed u in RPA. In the FLEX approximation, αmag increases with hz due to the negative feedback effect between spin fluctuations and self-energy [45].

[45] K. Sakurazawa, H. Kontani, and T. Saso, J. Phys. Soc. Jpn. 74, 271 (2005).

[46] T. Takimoto and P. Thalmeier, Phys. Rev. B 77, 045105 (2008).

[47] K. Kubo and T. Hotta, Phys. Rev. B 71, 140404(R) (2005).

[48] S. Hayami, Y. Yanagi, H. Kusunose, and Y. Motome Phys. Rev. Lett. 122, 147602 (2019).

[49] T. Yamada and K. Hanzawa, J. Phys. Soc. Jpn. 88, 084703 (2019).

参考文献をもっと見る

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る