Improvement in matrix metalloproteinase-3 independently predicts low disease activity at 52 weeks in bio-switch rheumatoid arthritis patients treated with abatacept
概要
【緒言】
アバタセプト(ABA)は関節リウマチ(RA)に対する生物学的製剤(bDMARDs)の一つで、CD80/86に結合して、Tリンパ球の活性化を抑制する。臨床的な効果については報告があるが、以前に生物学的製剤を使用していた患者(バイオスイッチ)ではABAは十分な効果を得ることが難しいとされている。従ってバイオスイッチ患者で十分な治療効果を得るための予測因子は関心を集めている。リウマチ因子や抗シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)が陽性であること、メソトレキサート(MTX)併用であることが24週での治療効果を予測することを日本のPMSの研究からが示された。フランスのORAレジストリーからはDAS28-ESRと抗CCP抗体陽性がEULAR responseを予測することが報告された。しかしながら、バイオスイッチのRA患者でのABAの臨床的な効果を得るための予測因子について述べている研究はない。バイオスイッチ患者で十分な治療効果を得ることはしばしば困難であるため、予測因子を同定することは日常診療において価値がある。
Matrix metalloprotease-3(MMP-3)はタンパク分解酵素で関節リウマチの関節破壊に於いて主要な役割を担っていると考えられている。MMP-3は炎症の生じている関節において滑膜線維芽細胞や軟骨細胞から局所的に産生されて、血中に放出される。血清MMP-3レベルはRA患者の疾患活動性を評価して、関節破壊を予測する有用なバイオマーカーとして用いられている。
この研究では主な目的は、MMP-3レベルの改善率、およびその他の臨床的特徴が、ABA投与開始後52週での低疾患活動性(LDA)の達成を独立して予測できるかどうかを調べることである。
【方法】
参加者は、52週間以上観察されたABAで治療されたRA423人の患者で、日本の多施設研究であるTBCR(Tsurumai Biologics Communication Registry)に登録されています。患者は、2週間間隔で3回、その後4週間間隔でABAを投与された。ABAの投与量は体重<60kgの患者で500mg、体重60〜100kgの患者は750mg、体重>100kgの患者は1000mgであった。ABA開始時、4、12、24、52週時点でのパラメーターが記録された。疾患活動性はDAS28-CRP<2.6を寛解、2.6≦DAS28-CRP<3.2が低疾患活動性(LDA)、3.2≦DAS28-CRP≦5.1を中疾患活動性(MDA)、DAS28-CRP>5.1を高疾患活動性(HDA)と分類した。
多変量ロジスティック回帰分析は、バイオナイーブ(生物学的製剤初回症例)(n=234)とバイオスイッチ(生物学的製剤変更症例)(n=189)グループで52週でLDAの達成を予測する要因を研究するために使用した。p<0.05が有意なものとした。
【結果】
患者背景はTable.1に記載されている。年齢、性別、Steinbrocker stage/class、およびSJC/TJCについて有意なグループ間の違いが認められた。
平均DAS28-CRPは、各群においてベースラインから52週に有意に減少した(Fig.1A)。4週以降のバイオスイッチ群の平均DAS28-CRPは、バイオナイーブ群の平均スコアよりも有意に高かった。
Fig.1BはDAS28-CRPカテゴリー分布を示す。LDAまたは寛解の達成率はバイオスイッチ群では、12、24、および52週のバイオナイーブ群のグループと比較して有意に低かった。
52週でのLDAの達成のためのベースラインから4週と12週のMMP-3レベルのパーセント変化に対するROC曲線をFig.2に示す。バイオナイーブ群では、AUCは4週(0.595)と12週(0.586)の両方で低かったが、バイオスイッチ群では、12週(0.642)のAUCは4週(0.551)よりも高かった。12週におけるバイオスイッチ群のカットオフ値20.0%で、その後の分析のためのカットオフ指数として「12週でMMP-3レベルの20%改善」を使用した。
52週のLDA達成の予測因子を特定する多変量ロジスティック回帰はバイオナイーブ群とバイオスイッチ群で別に行った(Table.2)。多変量ロジスティック回帰分析は、ベースラインでのDAS28-CRPに加えて、12週でMMP-3レベルの20%の改善を達成することは、バイオスイッチ群における独立した予測因子(OR:4.277)であったのに対し、ベースラインのDAS28-CRPがバイオナイーブ群の唯一の予測因子であることを明らかにした。
バイオナイーブおよびバイオスイッチ群におけるDAS28-CRPスコアの変化とLDAの達成率を調べた(Fig.3)。バイオナイーブ群と異なり、バイオスイッチ群では、12週でMMP-3レベルが20%改善した場合となしの間で、52週のDAS28-CRPスコアとLDA達成率に有意な差を認めた。12週でMMP-3レベル20%の改善を達成した場合は、バイオスイッチ群のDAS28-CRPスコアは52週(2.98±1.25対2.71±1.06、p=0.128)、LDA達成率は52週(60.0対68.9%、p=0.224)で、バイオナイーブ群と同様であった。
【考察】
MMP-3の改善率は、ABAで治療されたバイオスイッチ患者の1年後のLDAの達成を独立して予測し、12週間で20.0%の改善が最も良好な予測可能性を示すカットオフ値であること発見した。実臨床ではABAで治療された患者の多くは、以前に生物学的製剤で治療されている。日本のPMS研究では、患者の70.2%がバイオスイッチ患者に分類され、バイオナイーブ患者よりもABA治療に対する反応が低かったことが示されている。したがって、臨床の現場では、適切な治療を提供するために、バイオスイッチ患者における良好な臨床応答につながる可能性のある特定の予測因子を同定することが重要であり、本研究の結果はRA患者の治療方針に役立つと思われる。
MMP-3のベースラインからの単純な変化量(ΔMMP3)または各時点における絶対値を用いるのではなく、本研究ではパーセント変化を用いた。MMP-3の正常値が男女で異なることや腎機能・ステロイド使用というRAの活動性とは独立した因子によりMMP-3が上昇する報告されているといったことがあり、ΔMMP-3やMMP-3の絶対値は共通した予測因子として用いることが難しいかもしれない。本研究でもROC曲線解析でのLDA達成するための評価に、ΔMMP-3とMMP-3の絶対値を用いた場合、良好な予測可能性(AUC)と妥当なカットオフ値を得ることができなかった。
バイオナイーブ患者では、MMP-3のパーセント変化がLDA達成の重要な予測値となることは示すことはできなかった。このグループによる違いについては、明確な説明はないが、バイオナイーブ患者は全体的にABAによる治療反応が良いため、比較的単一な治療反応性がベースライン以外の因子を不明瞭にしているのかもしれない。
【結論】
私達の調査結果は、12週時点のMMP-3レベルの改善が、1年後のアバタセプトの臨床効果を予測するために重要であることを示唆している。バイオスイッチ患者の治療時に臨床結果を最適化するために、DAS28といった主要な臨床指標だけでなく、MMP-3レベルの変化にも注意を払うことが重要である。