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Predictive factors for massive hemorrhage in women with retained products of conception : a prospective study

曾根原, 玲菜 名古屋大学

2023.07.31

概要

主論文の要旨

Predictive factors for massive hemorrhage in
women with retained products of conception:
a prospective study
Retained products of conception (RPOC) における
多量出血予測因子の検討

名古屋大学大学院医学系研究科
発育・加齢医学講座

総合医学専攻

産婦人科学分野

(指導:梶山 広明

教授)

根原 玲菜

【緒言】
Retained products of conception(RPOC)は、妊娠終了後に子宮内に残存する胎盤由来
の組織である。RPOC は産褥出血の主な原因のひとつであり、時に生命を脅かす程の
出血を来す。しかし、RPOC のエビデンスに基づくガイドラインや治療プロトコール
は存在しない。多量出血の際は、輸血療法、子宮動脈塞栓術(UAE)、子宮鏡下摘出術
(HR)、子宮全摘術などの治療が行われる。UAE や HR は、RPOC の多量出血に対し安
全かつ有効な治療戦略であると報告されている。一方、出血リスクが低い場合は待機
的管理も選択肢となる。
Power Doppler color scoring(PDCS)は、血流を 4 段階にスコアリングするシステムで、
1 は血流なし、4 は最も血流が多いことを示す。我々は先行研究で、PDCS が RPOC の
おける外科的治療介入の判断に有用である可能性を後方視的に報告した。RPOC の出
血リスク因子に関する報告は他にもあるが、後方視的研究のみで前向き研究は存在し
ない。そこで本研究は、RPOC における多量出血予測因子を前向きに検討することを
目的とした。
【方法】
倫 理 委 員 会 の 承 認 (#2016-0448)と 書 面 に よ る イ ン フ ォ ー ム ド コ ン セ ン ト を 得 て 、
2017 年 2 月から 2020 年 5 月に、当院で RPOC と診断された 53 名を対象に前向き研究
を実施した。RPOC の診断基準は、妊娠終了後に経腟超音波検査で子宮内に遺残組織
が確認されることとし、診断が困難な場合は MRI 検査や造影 CT 検査を併用した。診
断時にすでに多量出血している症例や、子宮内疾患(子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫)
の既往がある症例は除外した。多量出血は、活動性性器出血かつ、意識消失、ショッ
クインデックス>1、血清 Hb 値<10g/dL のうち少なくとも一つを満たすことと定義し
た。診断時に年齢、妊娠・分娩歴、先行妊娠(方法、転帰、子宮内操作の有無)につい
て聴取し、検査所見は経腟超音波検査による RPOC の最大径と PDCS、血清 Hb 値、血
清 βhCG 値を記録した。RPOC と診断後、全例待機的管理を行い、途中で多量出血を
認めた場合は UAE かつ/または HR で治療した。観察終了基準は、RPOC の消失また
は βhCG<5 IU/mL とし、多量出血を認めなかった症例を非出血群、認めた症例を出血
群に分類した。主要評価項目は PDCS の出血予測因子としての有用性、副次評価項目
は他の出血予測因子の同定とした。
【結果】
RPOC と診断された 53 例のうち、2 例が除外され、非出血群は 35 例(68.6%)、出血
群は 16 例(31.4%)であった(図 1)。出血群は非出血群に比し、年齢が高く(36.5[26-48]
vs.32[22-42]歳, P=0.033)、ART 妊娠が多かった(81[3/16]vs.34[12/35]%、P=0.003)。
また RPOC 最大径は大きく(40[17-71]vs.28[6.9-68]mm, P=0.03)、血清 βhCG 値は
高く(50.6[2.5-5339.7 vs.9.2[1.2-3224.8]IU/L, P=0.007)、血清 Hb 値は低かった(9.6
[6.2-13.9]vs.11.7[ 8.3-14.7]g/dL, P=0.005)。非出血群は PDCS1 または 2 が 51%(18/35)、

-1-

3 または 4 が 49%(17/35)だったのに対し、出血群は全例 3 または 4 であった。一方、
妊娠・分娩歴、先行妊娠転帰、妊娠終了時期、子宮内操作の有無に差はなかった。ま
た、妊娠終了から多量出血までの期間は 32.5(6-74)日で、妊娠終了から観察終了まで
の期間は出血群:75(31-258)日、非出血群:103(53-405)日で差はなかった(表 1)。
ROC 曲線分析(補図 S1)により、血清 Hb 値、血清 βhCG 値、RPOC 最大径が多量出
血予測因子となり得るかを検討した。血清 Hb 低値(AUC 0.75、感度 75.0%、特異度
70.6%、P=0.003)、βhCG 高値(AUC 0.73、感度 68.8%、特異度 67.6%、P=0.001)、RPOC
最大径が大きいこと(AUC 0.68、感度、56.3%、特異度 44.1%、P=0.019)は、有意な多
量出血予測因子であると推測された。カットオフ値は、それぞれ Hb:10.8 g/dL、βhCG:
25.1 IU/L、最大径: 30.5 mm であった(補表 S2)。
次にロジスティック回帰分析を行った。単変量回帰分析では、PDCS、ART、血清 Hb
値、血清 βhCG 値に有意差を認めたが、最大径と妊娠終了時期に有意差は認めなった
(表 2)。多変量回帰分析は 4 つのモデルで行った。PDCS と ART は全モデルの説明変
数に加え、3 つ目の変数に血清 Hb 値、血清 βhCG 値、最大径、妊娠終了時期のうち 1
つを選択した。PDCS は、全モデルで一貫して有意差を認め(メインモデル: P=0.004、
モデル 1: P=0.004、モデル 2: P=0.002、モデル 3:P =0.002)、ART は 3 つのモデルで有
意差を認めた(メインモデル: P=0.022、モデル 2: P=0.031、モデル 3: P=0.001)。メイン
モデルの PDCS、ART、血清 Hb 値のオッズ比(OR)[95%CI、P 値]は、それぞれ 22.39
[2.25-3、087.92、P=0.004], 5.72[1.28-33.29、P=0.022]、and 4.24[0.97-22.99、 P=0.056]
であった(表 2)。さらに決定木法により、PDCS、ART、血清 Hb 値が多量出血予測因
子として同定された(図 2)。PDCS3 または 4、ART 妊娠、血清 Hb≦ 10.8g/dL のすべ
ての因子を満たした場合、83%の確率で多量出血を起こす可能性があると推測された。
【考察】
PDCS が多量出血の最も有用な予測因子であることが確認された。PDCS1 または 2
の症例は全例多量出血を認めず、PDCS3 または 4 の症例は約半数に多量出血を認め
た。これは、PDCS1 または 2 は出血リスクが低く、待機的管理の妥当性を支持するも
のと考える。一方、PDCS3 または 4 は出血リスクの高い症例を見極め、外科的介入を
慎重に検討するべきと考えられる。このためには、PDCS 以外の出血予測因子が必要
である。
本研究は、初めて ART と RPOC 多量出血リスクの関連について報告した。ART は
自然妊娠と比較して癒着胎盤スペクトラムのリスクが約 13 倍になることや産褥出血
リスク因子であると報告されている。また、血清 Hb 値低下も有用な出血予測因子で
ある可能性が示唆された。妊娠終了時期(妊娠第三半期での分娩)、血清 βhCG 値、RPOC
最大径は、臨床的に重要な因子であると考えられ、これらの出血予測因子としての有
用性は、より大規模な患者集団を対象としたさらなる検討によって実証される可能性
がある。

-2-

【結語】
PDCS が RPOC における最も有用な多量出血予測因子であることが明らかとなった。
他の多量出血予測因子(ART 妊娠、血清 Hb 値)を考慮することにより、出血リスクの
高い RPOC 症例を効率的に抽出でき、より適切な管理へつながることが期待される。

-3-

表1. Patient characteristics.

Comparison between the no hemorrhage and hemorrhage groups. Ni, natural intercourse; ART, assisted reproductive
technology; IVF-ET, in vitro fertilization-embryo transfer; IUI, intrauterine insemination; SA, spontaneous abortion;
AA, artificial abortion; VD, vaginal delivery; CS, cesarean section; PDCS, power Doppler color scoring; βhCG, serum
β-human chorionic gonadotropin; Hb, serum hemoglobin; HR, hysteroscopic resection. *median (range), ‡pregnancy
responsible for RPOC, §dilatation and curettage and manual removal of placenta, †Mann–Whitney U Test, **Fisher
exact test.
Statistical significance was set at a P value of < 0.05.

-4-

表2. Odds ratio of variables for massive hemorrhage in univariable and multivariable logistic regression
models.

Multivariable analysis was evaluated in four models. OR, odds ratio; CI, confidence interval; PDCS, power Doppler
color scoring; ART, assisted reproductive technology; Hb, serum hemoglobin; βhCG, serum β-human chorionic
gonadotropin. †Logistic regression model with Firth’s correction method. P value of < 0.05 were considered
statistically significant.

図1. Patient flow chart.
A total of 53 women diagnosed with RPOC were recruited. Among the women included in this study, 68.6% (35/51)
of the women did not experience massive hemorrhage (no hemorrhage group), whereas 31.3% (16/51) required
intervention for massive hemorrhage (hemorrhage group).

-5-

図2. Decision tree model of predictive factors for massive hemorrhage.
Decision tree method identified PDCS, ART, and serum Hb levels as effective variables in massive hemorrhage
prediction. H: hemorrhage, NH: no hemorrhage, PDCS: power Doppler color scoring, ART: assisted reproductive
technology, Hb: serum hemoglobin.

補図 S1. ROC curve in the assessment of prediction factors for massive hemorrhage.
ROC curves were calculated to determine the optimal cutoff for each predictive factors of massive hemorrhage such as
serum Hb level, serum βhCG level, and maximum diameter of RPOC. ROC: receiver operating characteristic, Hb:
serum hemoglobin, βhCG: serum beta-human chorionic gonadotropin.

-6-

補表 S2. Cut off values obtained by ROC analysis.

Low serum Hb levels (<10.8 g/dL) may predict massive hemorrhage (AUC, 0.75; sensitivity, 75.0%; specificity, 70.6%;
P=0.003). High βhCG (>0.25 IU/L) and large diameter (>30.5 mm) may also predict massive hemorrhage (βhCG: AUC,
0.73; sensitivity, 68.8%; specificity, 67.6%; P=0.001, Diameter: AUC, 0.68; sensitivity, 56.3%; specificity, 44.1%,
P=0.019). Hb: serum hemoglobin, βhCG: serum beta-human chorionic gonadotropin, AUC: area under the curve.
P value < 0.05 were considered statistically significant.

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