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大学・研究所にある論文を検索できる 「月経周期に伴う認知機能の客観的評価 : PMS症状の有無による脳血流の特徴」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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月経周期に伴う認知機能の客観的評価 : PMS症状の有無による脳血流の特徴

青木, 真希子 筑波大学

2021.08.02

概要

1.目的
女性は、月経周期に伴い心身の不調を呈する。特に排卵後の黄体期に、いらいらや情緒不安定などの精神症状や頭痛や浮腫などの身体の不調を主訴とする月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)やPMSの重症型である月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder:PMDD)を発症しやすい。しかしPMSの判断は患者の自己申告による評価が主であり、その評価の難しさが指摘されている。医師による正確な診断と看護職によるアセスメントの補助のためにはPMSを正確に診断するための生体信号による評価方法が必要である。

近年、精神科領域においてうつ病の補助診断方法として近赤外分光法(NearInfra-Red Spectoroscopy:NIRS)が用いられてる。これは、うつ病患者では認知課題遂行中の前頭前野領域の活動性が低下するという特徴を応用している。NIRSは経皮的に脳血流を簡便に測定できる装置であり、PMSでは抑うつ症状を呈する人が多いことから、PMS診断へ応用できると考える。そこで本研究は、PMSを有する性成熟期女性における認知課題の遂行能力およびNIRSによる脳血流の特徴とうつ性自己評価尺度(Self-rating Depression Scale: SDS)による抑うつ症状と、気分客観的気分尺度(日本語版Profile of Mode States: POMS)による気分との関連性を明らかにすることを目的とする。

2.対象と方法
研究デザインは縦断的観察研究であり、調査対象は健常な20~25歳の女性とした。調査方法はPMSメモリーとPMDD尺度を用いて,被験者群をPMS群とNon-PMS群に選別した。黄体期(月経開始から21~30日以内)と卵胞期(月経開始より5~12日以内)に1回目の認知機能計測、再現性を確認するために、1回目の認知機能測定後、3周期の月経周期後に2回目の測定を行った。認知機能測定には、対象者の前額部にNIRS(Spectratech Inc社製OEG-SpO2)を装着し、N-back課題実施時の脳血流を計測した。また認知機能計測前には質問紙と唾液サンプルを採取し性ホルモン濃度を計測した。

3.結果
全4回の認知機能測定の参加者はPMSが11名、non-PMSが11名であった。卵胞期および黄体期における抑うつ度を示すSDSの得点で、PMS群とnon-PMS群での有意差は認められなかったものの(p=.06,.08)、PMS群の平均値は40点以上であり、軽度うつ傾向にあった。気分を評価する尺度であるPOMS2について、卵胞期ではPositiveな気分である「活気―活力」「友好」でPMS群が有意に低かった(p=.01,.01)。一方、黄体期ではNegativeな気分である「怒り―敵意」と総合的気分状態Total Mood Disturbance: TMDがPMS群で有意に高かった(p=.01,.01)。つまりPMS群では、卵胞期にはPositiveな気分の低下、黄体期にはNegativeな気分の上昇が認められた。認知機能の遂行能を評価する課題である2-back課題の結果では、卵胞期、黄体期ともにPMS群の正答率が有意に低い結果であった(p=.01)。このことから、卵胞期と黄体期ともにPMS症状を有する女性は、症状がない女性に比べて認知機能の低下が生じていることが明らかになった。

卵胞期においては、課題遂行中の脳血流中の酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)の変化量の総和であるoxy-Hb積分値において、PMS症状の有無で有意差はなく、同程度賦活していた。つまり、卵胞期においては、課題遂行中の脳血流量はPMSの有無で差は無く、ともに前頭前野領域が同程度賦活することが示された。一方,黄体期では,左前頭前野領域のoxyHbの積分値が、PMS症状を有する女性において、症状がない女性に比べて有意に低かった。これらのことから、黄体期においては、PMS症状がない女性は、課題遂行中に脳の血流量が増加し前頭前野領域が賦活するが、症状がある女性では左前頭前野領域では低賦活の状態であるという特徴が明らかとなった。

4.考察
PMS症状を有する女性では、卵胞期と黄体期ともに軽度抑うつ症状があり、認知課題の遂行能力の低下も認められた。気分では卵胞期においてPositiveな気分の低下が認められ、黄体期では総合的なNegativeな気分を表すTMDなどNegativeな気分の上昇が認められた。さらに、PMS症状がない女性は、卵胞期、黄体期ともに課題遂行中に脳の血流量が増加し前頭前野領域は賦活するが、症状のある女性では卵胞期は症状のない女性と同程度賦活するが、黄体期では症状がある女性では低賦活の状態であるという特徴が明らかとなった。成人男女において抑うつを表すSDSの上昇と認知課題の遂行能力の低下についての関連性は報告されている。PMS症状を有する女性においても卵胞期・黄体期で軽度抑うつ状態と、認知遂行能の低下が起きており本研究においても同様の結果であったと言える。しかし、脳血流からは、認知課題の遂行能力の低下を示したのは黄体期のみであった。卵胞期にはPositiveな気分が低下し、黄体期にはNegativeな気分が亢進した。そのため、黄体期の脳血流の低下には抑うつ症状に加えてNegativeな気分の高まりの関与の可能性が示唆された。

5.結論
PMSを有する性成熟期女性では卵胞期と黄体期で認知課題の遂行能力は低下し、黄体期ではNIRSによる脳血流でも低賦活という特徴が明らかとなった。さらに、卵胞期と黄体期で軽度抑うつを呈し、卵胞期ではPositiveな気分の低下、黄体期ではNegativeな気分が高まるという特徴が明らかとなった。このことから、抑うつを示すSDSと認知課題の遂行能力との関連、および黄体期における脳血流の低下とNegativeな気分を示すTMDとの関連性が示唆された。

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