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大学・研究所にある論文を検索できる 「Claudin-1 阻害活性を有する天然物 MA026 の全合成および構造改訂研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Claudin-1 阻害活性を有する天然物 MA026 の全合成および構造改訂研究

内山 千尋 東京薬科大学

2022.03.18

概要

バイオ医薬品は、分子標的に対して広範囲の分子間相互作用を形成できるため高選択性と高親和性を以ってタンパク質- タンパク質相互作用( PPI) を阻害する特徴を有しており、低分子医薬品では実現できない阻害形態を採ることができる。しかし、分子量が大きいために細胞膜透過性が低く、さらに消化酵素による生分解を受け易く、一般に経口投与に適さない。したがって、静脈内投与が必要となる場合が多いが、当該投与は通院や入院を必要とし、さらに侵襲を伴うために患者 QOL の低下を招く可能性がある。そのため、静脈内投与に代わる投与法として、肺や鼻腔、皮膚などの多様な投与経路による薬剤投薬法の研究が進められている。

その中で筆者は、経皮吸収に関わるタイトジャンクション (TJ) モジュレーターの創製に着目した。TJ は上皮組Figure 1. Structure of reported and revised MA026.織に発現し隣り合う上皮細胞同士を繋ぎ、様々な物質が細胞間を通過するのを妨げる細胞間結合である。TJ の構成分子として Claudin, Occludin, Tricellulin が知られており、それぞれ複数のサブタイプを有している。皮膚の TJ は表皮中に存在し、外界と体内を隔てる境界を形成することで、物質透過の制御ならびに外界からの異物侵入を防いでいるが、バイオ医薬品の経皮投与においては障壁となる。そこで筆者は、TJ モジュレーターの1つである天然物 MA026 (1) に着目した (Figure 1)。 MA026 は、ニジマスの消化管から単離されたグラム陰性菌 pseudomonas sp. RtlB026株の培養液から単離された 15 残基のアミノ酸からなる新規環状デプシペプチドである。本環状デプシペプチドは、Claudin-1 に作用することで抗 HCV 活性および TJ開口活性を有していることが報告されている。Claudin-1 は、皮膚に多く発現していることから、MA026 の創薬研究は皮膚を介したバイオ医薬品の新たな薬物送達システム開発に繋がると考え、MA026 の全合成研究を展開することとした。

1. 効率的な新規 MA026 合成法の開発
環状デプシペプチドである MA026 (1) は液相法を用いて全合成が達成されている。液相法はペプチドの大規模合成に多用されるが、保護基の付け替えや中間体毎の精製等煩雑な工程を数多く必要とする。実際に報告された MA026 (1)の全合成では、多工程の反応及び精製操作が行われた。これは数多くの誘導体創出を必要とする構造活性相関研究では大きな障壁となる。そこで筆者は、固相合成法を用いた環状デプシペプチド 1 の効率的全合成をまず確立し、次いでその合成法を用いて構造活性相関研究を展開することを計画した。

Scheme 1. Synthesis of reported MA026 (1).

具体的な合成法を Scheme1に示す。Fmoc-NH-SAL樹脂に対して、HATU/HOAt/DIPEA 法を用いて Fmoc-D-Glu-OAll を導入し、樹脂 3 を獲得した。同様の手法にて Val8 残基までアミノ酸 5 残基を伸長し、ペプチド樹脂 4 を得た。次いで、DIPCI/HOBt 法を用いて、ジペプチドユニット 5 を縮合し、デプシペプチド樹脂 6 を獲得した。得られた樹脂ペプチド 6 に対して、Alloc および Allyl 基の脱保護、次いで固相上でのアミド環化反応を行い、環状デプシペプチド樹脂 7 を得た。7 の脱 Fmoc 化では O-to-N アシル転位を抑制するために、ピペリジン処理を 5分に短縮した。Fmoc 基除去後、Fmoc-Gln(Trt)-OH を HATU/HOAt/DIPEA 法を用い縮合し、 さらに同法を用いて Leu14 残基までアミノ酸 5 残基を伸長、 さらに HATU/HOAt/DIPEA 法にてカルボン酸 8 を縮合することで保護環状デプシペプチドを樹脂上に構築した。樹脂を 95%TFA で処理し、保護基除去とともに脱樹脂により 1 の粗ペプチドを獲得後、HPLC 精製により環状デプシペプチド 1 を収率 15%、純度 > 99%で、報告されている液相合成に比べ効率的かつ簡便な操作で合成することができた。

2. MA026 の構造訂正
得られた環状デプシペプチド 1 と天然 MA026 の HPLCチャートの比較において、天然物は 32.6 分の保持時間を示したのに対し、合成品 1 は
26.8 分と異なる保持時間を示し た 。 このことから天然 MA026 の構造は、環状デプシペプチド 1 とは異なる可能性が示唆された。さらなる検討の結果、構造決定段階での誤同定が強く示唆された。そこで、天然 MA026 のエステル部を加水分解することで鎖状ペプチドを調製し、MS/MS解析を実施した。その結果、報告された構造とは異なり、天然物では 10、11 番目の Leu および Gln 残基が入れ替わっている可能性が示唆された。そこで筆者は、環状デプシペプチド 1 と同様の合成法にて環状デプシペプチド 2 を合成した。その結果、11%の収率で 2 の合成に成功した。そこで、天然 MA026 と HPLC 保持時間を比較した。その結果、環状デプシペプチド 2 と天然 MA026 は同一の保持時間を示し、天然 MA026 の化学構造
が環状デプシペプチド 2 である可能性が示唆された。さらなる検証として、2 の H1および C13-NMR 測定を行い、天然 MA026 と比較した。その結果、2 の H1 および C13- NMR のピークパターンは天然 MA026 のそれと良好な一致を示した (Figure 2)。最後に TJ 開口活性値を比較した。その結果、環状デプシペプチド 2 は天然 MA026 と同等の活性値を示した。これらの結果から著者は天然 MA026 の構造が訂正 MA026 (2) であることを決定した。

Figure 2. NMR chart of revised MA026 (2) and natural MA026;
A) H1 - NMR, B) C13 -NMR.

3. 改訂 MA026( 2) の新規合成法の開発
TJ 開口活性の向上をめざした訂正 MA026 (2)の効率的な構造活性相関を展開するにあたり、より高収率で誘導体を合成できる合成ルートの開発が望まれた。そこで収率向上をめざし、樹脂上でのエステル形成を経由する新規合成ルートを考案し、その合成効率における効果を訂正 MA026 (2) の再合成により検討した (Scheme 2)。すなわち、樹脂 3 を出発原料に Fmoc 固相合成法により直鎖ペプチド樹脂 9 を合成後、 DIPCI/DMAP 法を用い、樹脂上 Fmoc-Ile-OH を縮合させることで、分岐ペプチド樹脂 10 を獲得した。次いで allyl および Fmoc 基をそれぞれパラジウム触媒およびピペリジン処理にて除去後、DIPCI/HOBt 法を用いてアミド結合形成にて環形成を行った。最後に TFA にて脱樹脂ならびに保護基の除去、得られた粗ペプチド 2 のHPLC 精製 MA026 (2)を樹脂から、当初の方法に比べ良好な総収率( 31%) で目的の環状デプシペプチド得る新しい合成ルートの確立に成功した。尚、この新規合成ルートを一部利用して、筆者はアラニンスキャンによる訂正 MA026 (2) の構造活性相関研究を実施したが、その結果は共同研究者の博士論文とするため、本博士論文では割愛した。Scheme 2. New synthetic route of MA026 (2).

以上、本 MA026 の全合成およびその構造訂正研究は、皮膚からの新規薬物送達法開発に資する TJ モジュレーターの開発の基盤を提供するものであり、当該分野への貢献が期待される。また、筆者の発案した訂正 MA026 の新規合成手法は、他の環状デプシペプチドの合成への効率的な新手法の提供になると思われる。本研究の知見が新たな創薬研究の一助となることを期待する。

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