リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「再生医療等製品を目指したヒトiPS細胞の網膜分化制御機構の解明と応用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

再生医療等製品を目指したヒトiPS細胞の網膜分化制御機構の解明と応用

伊藤, ありさ 名古屋大学

2021.06.02

概要

我々の生活は視覚情報によって大きく支えられており、失明などの視覚障害は我々の QOL を著しく低下させる。加齢黄斑変性は視覚障害の主要な原因の一つであり、日本では 50 歳以上の 80 人に 1 人が罹患している。加齢黄斑変性は、眼の黄斑部に老廃物や血液が溜まり、黄斑部の網膜色素上皮細胞( RPE)が変性する疾患である。RPE は眼に入った光を吸収する機能、視細胞と脈絡膜を隔てるバリア機能、視細胞外節を取り込む貪食能、レチナールを再異化し再び視細胞へ送る機能などを有し、視細胞の生存維持や機能に必須な細胞である。そのため、加齢黄斑変性による RPE の変性は二次的に視細胞の変性を引き起こし、視野の欠損が生じる。既存の治療法として、薬剤治療やレーザー治療があるが、対症療法に留まる上に再発率の高さが問題とされている。そこで、新たな治療法としてヒト胚性幹細胞( ES 細胞)やヒト人工多能性幹細胞( iPS細胞)から作製した RPE の移植治療が注目されており、現在、世界中で臨床研究や治験が行われている。iPS 細胞由来 RPE を細胞医薬品として患者に安定供給するためには、一定品質の RPE を iPS 細胞から安定して大量に作製する必要がある。しかし、iPS細胞はドナー個人の遺伝的多様性、遺伝的安定性の低さ、由来組織の違い、実験による変動により、エピジェネティック修飾や遺伝子/タンパク質の発現が株間で異なり、株によって分化指向性が異なる。この iPS 細胞株間の分化指向性の違いにより、同じ分化誘導法を用いても使用する iPS 細胞株によって分化効率が大きく変化する。すなわち、免疫拒絶の回避のために患者に適合した iPS 細胞株を用いても、RPE を安定して得られないという問題に直面する。RPE 作製における iPS 細胞株間での変動は、RPEを用いた細胞治療の臨床応用および産業化の大きな障壁となっている。

そこで本研究では、ヒト iPS 細胞由来 RPE を再生医療等製品として安定供給できる分化誘導法を開発するために、分化指向性の異なる iPS 細胞株間においても高い再現性と高い分化効率で RPE を得られる簡便な手法の確立を目指した。

ヒト iPS 細胞から高い再現性と高い分化効率で RPE を得るために、3 つの戦略を用いた。1 つ目は、培養操作が簡便で、薬物が全ての 細胞へ均一に作用しやすい二次元分散培養を用いることである。2 つ目は、低分子化合物のみで誘導することである。低分子化合物は、ロット差による分化の 再現性の 変動や、ウイルス感染や免疫原性などの リスクをなくし、コストの削減に貢献できる。3 つ目は、iPS 細胞から RPE への分化効率を高めるために、分化効率に最も影響を与える分化初期段階に Wnt シグナルを阻害することである。多能性幹細胞から神経外胚葉を誘導する手法である dual SMAD inhibition に、Wnt シグナル阻害薬を組み合わせることで網膜分化シグナルを制御する。

まず阻害標的の異なる 3 つの Wnt シグナル阻害薬の網膜分化への影響を検討した。単一細胞に解離したヒト iPS 細胞( 1383D6 株) を iMatrix-511 上に播種し、tankyrase阻害薬の IWR-1-endo( 10 µM)、porcupine 阻害薬の IWP-2( 10 µM)、あるいは-cateninと TCF の結合阻害薬の iCRT3( 10 µM)を ROCK 阻害薬の Y-27632( 10 µM)、ALK2/3阻害薬の LDN193189( 100 nM)、ALK4/5/7 阻害薬の A-83-01( 500 nM)の存在下で分化誘導した。5 日目に網膜前駆細胞マーカーである RX の 発現量を定量した結果、control条件と比較して、IWR-1-endo 処置条件において RX の発現量が有意に増加した。免疫染色においても同様に、IWR-1-endo 処置したヒト iPS 細胞は RX 陽性細胞を効率良く誘導した。続いて、分化誘導 5 日目以降、RX 陽性細胞群を GSK3阻害薬の CHIR99021( 3 µM)と FGF 受容体 1 阻害薬の SU5402( 10 µM)で処置したところ、分化誘導 17日目に RPE 前駆細胞マーカーである PAX6 と MITF の共陽性細胞が 82.8%の割合で得られた。さらに培養を続けたところ、分化 40 日目に色素を有する多角形細胞が観察され、これらの 細胞は RPE に特徴的な貪食能を有していた。以上より、本手法はヒト iPS細胞を RX 陽性網膜前駆細胞に効率的に誘導し、その結果、PAX6, MITF 共陽性の RPE前駆細胞、続いて機能的な成熟 RPE を効率良く誘導することが明らかになった。

次に、上記手法が分化指向性の 異なる iPS 細胞株においても有用であるかを調べた。ヒト iPS 細胞株である 1383D6 株、1383D2 株、Aics0023 株、A18945 株における、分化指向性のマーカーである SALL3 の発現量を調べたところ、1383D6 株 > A18945 株 > 1383D2 株 > AICS-0023 株の 順番で発現量が低かった。すなわち、AICS-0023 株は RPEなどを含む外胚葉への 分化よりも、内胚葉や中胚葉に分化傾向を有することが明らかになった。そこで、これら分化指向性の 異なる細胞株を IWR-1-endo を用いた分化誘導法にて分化誘導した。その結果、全ての 株において PAX6 と MITF の共陽性細胞および色素を有する多角形細胞への分化が 80%以上の高効率で認められた。以上より、本手法が iPS 細胞株の分化指向性に関係なく、RPE を高効率に誘導する頑健な分化誘導法であることが示された。

本研究では、二次元分散培養と低分子化合物を用いて、tankyrase を阻害することで、ヒト iPS 細胞から RPE を短期間かつ高効率で誘導する簡便な新規手法を確立した。この手法は、iPS 細胞株の分化指向性に関係なく RPE を高効率で誘導する高い頑健性を持つ分化誘導法であった。本研究成果は、幹細胞の 網膜分化制御における重要な基礎的知見を提供すると同時に、新規治療モダリティーとしての 細胞医薬品の 実現化、再生医療等製品の開発、および新たな疾患・創薬研究の創出に貢献するものである。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る