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大学・研究所にある論文を検索できる 「一般住民における咀嚼能率とメタボリックシンドローム発症との関連」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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一般住民における咀嚼能率とメタボリックシンドローム発症との関連

伏田, 朱里 大阪大学

2021.03.24

概要

【目的】
メタボリックシンドローム(Metabolic Syndrome :以下MetS)は,同一個人に血圧上昇,脂質代謝異常,糖代謝異常,腹部肥満が集積した状態であり,脳卒中や心筋梗塞に代表される動脈硬化性疾患発症の危険因子であることが報告されている.近年,MetSの危険因子の一つとして,口腔健康状態が注目されており,その中で,歯周病によ る慢性炎症が関連する経路が主に述べられてきた.一方で,このほかに,歯の喪失に伴う,咀嚼機能の低下による 食習慣や,栄養摂取状況の変化が関連する経路が存在すると考えられている.しかし,咀嚼機能を客観的に評価し,MetSとの関連について検討した報告はきわめて少ない.

これまでに,我々の研究グループは,咀嚼機能の客観的指標のひとつである咀嚼能率に着目し,咀嚼能率が低値である者は,MetS有病率が高いことを報告した.しかしながら,これは横断研究による報告であるため,咀嚼能率がMetS発症に与える影響については明らかにできていない.そこで本研究では,咀嚼能率の低値が,MetS発症へ及ぼす影響を明らかにするために,一般住民を対象として,縦断的検討を行った.

【方法】
本研究の対象者は,国立循環器病研究センター健診部・予防医療部が実施している,循環器疾患コホート調査「吹田研究」の健康診査を受診した大阪府吹田市在住の一般住民で,2008年6月から2013年6月までのベースライン時の基本健診および歯科健診,2010年6月から2017年2月までのフォローアップ時の基本健診の両方に参加した50歳から79歳までの937名とした.対象者のうち,基本健診項目がすべて揃わない者(62名),歯科健診項目がすべて揃わない者(41名),ベースライン時に無歯顎であった者(35名),ベースライン時にMetSと診断された者(200名)を除く,599名(男性254名,女性345名,ベースライン時の平均年齢65.8歳(標準偏差7.8歳))を分析対象と した.なお,本研究は国立循環器病研究センター倫理委員会の承認(M19-62, M25-032-2)を得たものであり,本研究の主旨と方法について,文書および口頭で十分に説明を行い,同意が得られた受診者のみを対象とした.

基本健診は,血液生化学検査(中性脂肪値,高比重リポタンパク(high-density- lipoprotein :以下HDL)コレステロール値,空腹時血糖値),血圧測定,腹囲測定,生活習慣問診を行った.MetSは米国コレステロール教育プログラム成人治療指針ΠΙ(NCEP-ATPIII)基準にしたがい,各項目について次のように診断した.血圧の指標は,収縮期血圧が130 mmHg以上かつ/または拡張期血圧が85 mmHg以上の場合,中性脂肪値は150 mmHg以上の場合,HDLコレステロール値は男性40 mg/dL,女性50mg/dL未満の場合,空腹時血糖値は110mg/dL以上の場合を,各項目の 異常値とした.また,治療中で服薬がある場合についても,各項目の異常値と判定した.腹囲に関しては,欧米とは体格が異なるため,アジアの診断基準を用い,男性90 cm,女性80 cm以上を異常値と判定した.上記の血圧,中 性脂肪値,HDLコレステロール値,空腹時血糖値,腹囲のMetS構成因子5項目のうち,3項目以上が異常値に該当する場合をMetSと診断し,対象者がMetSに該当しているか否かについて「MetSあり」「MetSなし」の2群に分類した.

歯科健診は,咀嚼能率検査および歯周組織検査を行った.咀嚼能率は,咀嚼能力測定用グミゼリーによるグルコース溶出法を用い,得られたグルコース濃度(X,単位:mg/dL)から,グミゼリーの咬断面表面積増加量(y,単位:mm2)について,回帰式(y=15x-250)を用いて算出した.なお,義歯使用者については,義歯装着時の咀嚼能率を測定した.歯周組織検査は,部分検査法によるCommunity Periodontal Index (CPI)法に基づき評価した.本 研究では,得られたCPIコード値から,CPIコード3と4を歯周病罹患歯と判定し,歯周病罹患歯を有する対象者を歯周病ありとした.

分析に先立ち,分析対象者のベースライン時の咀嚼能率について,ド位25%を咀嚼能率低値群,それ以外を咀嚼能率非低値群の2群に分類した.MetSの有病率には性差があり,またMetSのリスク因fは性別により異なるため,本研究ではすべての分析を男女別に行った.

分析1 フォローアップ時のMetS発症の有無を目的変数としたコックス比例ハザードモデルを用い,咀嚼能率非低値群を基準とした場合の咀嚼能率低値群におけるハザード比を算出した.調整変数はベースライン時の年齢,喫煙,歯周病とした.

分析2対象者599名のうち,MetS各構成因子について,ベースライン時に異常値と診断した対象者を除外し,それぞれ分析を行った.フォローアップ時のMetS各構成因子発症の有無を目的変数としたコックス比例ハザードモデルを用い,咀嚼能率非低値群を基準とした場合の咀嚼能率低値群におけるハザード比を算出した.調整変数は,ベースライン時の年齢,喫煙,歯周病,各構成因子の検査値とした.

【結果】
フォローアップ時にMetS発症を認めたのは,男性50名(19.7%),女性38名(10.7%)であった.
分析1コックス比例ハザードモデルを用いた結果,男性における,咀嚼能率非低値群に対する低値群のMetS発症ハザード比(95%信頼区間)は,2.24(1.12-4.50)となり,有意な関連を認めた.一方,女性における咀嚼能率非低値群に対する低値群のMetS発症ハザード比は,1.14 (0.51-2.57)となり,有意な関連を認めなかった.

分析2コックス比例ハザードモデルを用いた結果,男性における,咀嚼能率非低値群に対する低値群の血圧高値発症ハザード比3.12(1.42-6.87),中性脂肪高値発症ハザード比は2.82(1.18-6.76),血糖高値発症ハザード比は2.65(1.00-7.00)となり,有意な関連を認めた.一方,男性において,咀嚼能率とHDLコレステロール低値および腹部肥満発症との間に有意な関連を認めなかった.また,女性において,咀嚼能率とすべての構成因子発症との間に,有意な関連を認めなかった.

【考察】
本研究の結果より,男性において,ベースライン時の咀嚼能率が低値である場合,MetS発症および血圧高値,中性脂肪高値,血糖高値発症のリスクが高いことが示唆された.この関連は,MetSとの関連について多数報告されている,歯周病の影響を統計学的に調整したI:でも認め,咀嚼能率とMetS発症との関連は,歯周病と独立したものである可能性が示された.

咀嚼能率の低値とMetS発症との間に有意な関連を認めた背景として,歯の喪失に伴う咀嚼機能の低下が食習慣や栄養摂取状況の変化を促し,全身の健康状態に影響を与えた可能性が考えられる.過去には,咀嚼能率が低い場合,摂取可能な食品が限られ,ビタミン類,食物繊維,n-3系多価不飽和脂肪酸などの摂取量が減少し,炭水化物 の摂取量は増加することが報告されている.ビタミン類,食物繊維は血圧および血糖値を,n-3系多価不飽和脂肪酸は中性脂肪値を低下させるとの報告もある.一方で,炭水化物の摂取量が増加すると,血糖値が上昇する事が報告されている.したがって,本研究の結果および上記の報告より,咀嚼能率が低値である場合,偏った栄養摂取習慣が経年的に持続し,主に血圧,中性脂肪値,血糖値に影響を及ぼし,将来的なMetS発症にいたる可能性が考えられる.

【総括ならびに結論】
本研究では,咀嚼能率の低値が,将来的なMetS発症へ及ぼす影響を明らかにするため,一般住民を対象とした縦断的検討を行った.生存時間分析の結果,男性において,ベースライン時の咀嚼能率が低値である場合,将来的な MetS発症率,および血圧高値,中性脂肪高値,血糖高値発症率が高かった.

以上より,男性において咀嚼能率が低い場合,血圧,中性脂肪値,空腹時血糖値に影響を与え,MetS発症のリスクとなる可能性が縦断研究において示された.

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