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大学・研究所にある論文を検索できる 「アブラムシ-アリ相利共生系、およびアブラムシ-捕食者系における共進化の地理的解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

アブラムシ-アリ相利共生系、およびアブラムシ-捕食者系における共進化の地理的解析

市野, 隆雄 信州大学

2021.03.01

概要

2版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
令和

元 年

6 月 18 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 基盤研究(B)(一般)
研究期間: 2014 ∼ 2018
課題番号: 26291090
研究課題名(和文)アブラムシ−アリ相利共生系、およびアブラムシ−捕食者系における共進化の地理的解析

研究課題名(英文)Geographic mosaics of coevolution in an aphid-ant mutualism and an
aphid-predator system
研究代表者
市野 隆雄(Itino, Takao)
信州大学・学術研究院理学系・教授

研究者番号:20176291
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

12,100,000 円

研究成果の概要(和文):クチナガオオアブラムシ亜属−ケアリ属の相利共生系、およびササコナフキツノアブ
ラムシ−ゴイシシジミの捕食系という二つの種特異的な相互作用系における共進化の地理的モザイクを探究し
た。まず、ヤノクチナガオオアブラムシの共生相手のアリ種構成が地域によって異なること、またそれに対応し
てアブラムシの体表炭化水素組成が地理的に変異していることを明らかにした。共生アリ種であるクロクサアリ
の体表炭化水素組成も地理的に変異していた。
 兵隊アブラムシの「武器」は大きいほど攻撃力が高いこと、またその大きさが地理的に変異することを明らか
にした。一方、捕食者ゴイシシジミの長い体毛は、兵隊の攻撃を低減させる効果があった。
研究成果の学術的意義や社会的意義
 本来であれば数万年という観察期間が必要な生物進化の研究も、共進化の地理的モザイクという現象を利用す
ることで、短期間での解析が可能となる。共進化の地理的モザイクとは、2種間の生物相互作用系において、相
互作用の強度が地理的に異なる場合、地域や場所ごとに長年にわたって異なるかたちで相互進化がすすんだ結
果、それぞれの生物の形質が地理的にモザイク状に異なっていることをいう。
 本研究の学術的意義は、共進化の地理的モザイク研究を、相利共生系という新たな研究領域において立ち上げ
た点にある。また社会的意義としては、進化という現象をリアルタイムで理解できる、わかりやすいモデル生物
系を見出した点があげられる。
研究成果の概要(英文):Geographic mosaics of coevolution in two species-specific interaction
systems were explored.The partner ant species in the aphid-ant mutualism changed with regions, and
correspondingly, the surface hydrocarbon composition of the aphid changed geographically. The
surface hydrocarbon composition of a symbiotic ant species also varied geographically.
It was revealed that the larger the 'armament' of the soldier aphids of an aphid colony, the lower
the predated number of non-soldier aphids in the colony. The size of the 'armament' changed with
regions. The long hair of the predator butterfly larvae had the effect of reducing the attack rate
from the soldier aphids.

研究分野: 進化生態学
キーワード: 種間関係 共進化 アリ アブラムシ 捕食 種特異性 地域適応 対抗進化



式 C−19、F−19−1、Z−19、CK−19(共通)

1.研究開始当初の背景
相互作用する生物は、互いに相手に対する選択圧となることで共進化的に適応形質を進化さ
せていく。例えば捕食者−被食者関係では、被食者は防衛形質を進化させるが、その進化の程
度は捕食圧の強さに依存する。このため捕食圧が地理的に異なる場合、被食者側の防御の強さ
は地理的に異なることが予測される。その一方で、被食者の防御は捕食者の攻撃形質を進化さ
せるため、捕食者の形質も被食者の防御の強さに応じて変化する。すなわち、生物間相互作用
の強度の地理的変異は、相互作用に参加する生物の形質の地理的変異を導くことが予想される
(共進化の地理的モザイク)

本来であれば数万年という観察期間が必要な生物進化の研究も、共進化の地理的モザイクを
利用することで、短期間での解析が可能となる。このため多くの研究が、特に種特異性の高い
寄主−寄生者関係を中心におこなわれてきた。しかしその一方で、種特異性の低い相利共生関
係などについては、共進化の地理的モザイクのモデル系としての研究がほとんどなかった。
そこで本研究では、アブラムシをめぐる種特異性の高い二つの系、すなわち相利共生系(以
下の A)と捕食系(同 B) に焦点をしぼり、双方向の影響による進化(共進化)が地理的モザ
イク状に起こっていることを明らかにする。
研究項目 A では、アブラムシ−アリの種特異的な相利共生系であるクチナガオオアブラムシ
−ケアリ属共生系を研究対象とした。この系では、アリはアブラムシを天敵から防衛する一方
で、アブラムシを捕食する。さらに、クチナガオオアブラムシ類はアリによる捕食に対抗して、
特定の共生アリに化学擬態することが明らかになっていた。しかし、その一方でアリ側の対抗
進化や共進化の地理的モザイクについてはこれまでに明らかになっていなかった。また、主な
共生アリであるクサアリ亜属のアリ種のうち、クロクサアリ Lasius fuji については 3 種の隠蔽
種を含むとの指摘があったが、形態判別が困難なため、その実像が不明であった。
次に研究項目 B では、ササコナフキツノアブラムシと、そのスペシャリスト捕食者であるゴ
イシシジミの捕食系を研究対象とした。ササコナフキツノアブラムシは、ゴイシシジミなどの
捕食者に対する防衛に特化した不妊の兵隊個体を産出する。兵隊は、前脚および頭頂部のツノ
を「武器」として用いることで捕食者からアブラムシコロニーを防衛する。この「武器」のサ
イズは、季節的・地理的に異なっていること、および捕食リスクと正の相関を示すことがすで
に明らかになっていた。しかし「武器」サイズの適応的意義や、捕食者側の「武器」への対抗
適応についてはこれまでに明らかになっていなかった。
2.研究の目的
研究項目 A では、クチナガオオアブラムシ類と共生関係を構築しているアリ種の組成、クチ
ナガオオアブラムシ類と共生アリがもつ体表炭化水素の地理的変異、およびクチナガオオアブ
ラムシ類における化学擬態の適応的意義を明らかにすることを目的とする。さらに、主な共生
アリであったクサアリ亜属について網羅的な体表炭化水素の種間比較をおこなう。
研究項目 B では、ササコナフキツノアブラムシ−スペシャリスト捕食者系において、アブラ
ムシ兵隊の「武器」サイズが大きいほどコロニー防衛に有効か、また捕食者側の兵隊アブラム
シの攻撃に対する防衛形質はあるのか、について検討する。
3.研究の方法
(1)クチナガオオアブラムシ類における共生アリ種組成の地理的変異
長野県と東京都においてヤノクチナガオオアブラムシの寄主植物であるケヤキとエノキの根
元に生息するアリの種組成、および幹上におけるヤノクチナガオオアブラムシコロニーの存否
と共生アリ種組成を調査した。
(2)クチナガオオアブラムシ類における体表炭化水素の地理的変異
国内複数地点においてヤノクチナガオオアブラムシとその共生アリを採集し、ヘキサンによ
って体表の物質を抽出した。炭化水素類のみを分離し、その組成を GC-MS(ガスクロマトグラ
フ質量分析装置)によって分析し、各サンプル間の類似性を検証した。また、ヤノクチナガオ
オアブラムシが化学擬態することが明らかになっているクロクサアリについて、その体表炭化
水素が地理的に変化するかを調べた。
(3)クチナガオオアブラムシ類の化学擬態の適応的意義
化学擬態を行うヤノクチナガオオアブラムシと化学擬態を行わないブナクチナガオオアブラ
ムシの体表炭化水素組成を GC-MS によって比較した。また、各アブラムシ種の個体をヤノクチ
ナガオオアブラムシが化学擬態するクロクサアリのコロニーに提示し、アリの各アブラムシ種
に対する行動を比較した。
(4)クサアリ亜属 5 種における体表炭化水素の種間比較
7 道府県 13 地域からクサアリ亜属の 5 記載種のワーカーを採集し、体表炭化水素の有機溶媒
抽出を行い、GC-MS による分析に供した。GC-MS 分析で得られたピークのうち、マススペクトル
から炭化水素であることが明らかで、かつコロニー内で安定的に検出されたピークを各サンプ
ルの体表炭化水素成分であるとみなし、構造決定を行った。また、それらの成分について、各
コロニーのサンプルごとに相対量および組成比を算出し、組成データを多変量解析に供し、サ
ンプル間の非類似度解析をおこなった。
(5)クロクサアリ隠蔽種群における体表炭化水素比較

国内各地から採集した、クロクサアリ隠蔽種群の 3 種について詳細な形態判別をおこない、
形態種間での体表炭化水素組成の比較を、多変量解析によって行った。
(6)兵隊の武器サイズがコロニー防衛力に与える影響
長野県において、ササコナフキツノアブラムシ 2 集団(高標高:武器サイズ小型、低標高:
大型)から兵隊を採集し、捕食者からの防衛力の比較を行った。それぞれの集団から採集した
ササコナフキツノアブラムシの通常個体 44 個体と兵隊 6 個体、そしてスペシャリスト捕食者で
あるゴイシシジミの幼虫 1 個体をシャーレに導入し、通常個体の捕食される頻度を観察し、集
団間で比較した。
(7)アブラムシ捕食者の体毛の、アブラムシからの攻撃低減効果
スペシャリスト捕食者のゴイシシジミ幼虫の体毛が兵隊からの攻撃を防ぐ効果があるかを明
らかにするため、ゴイシシジミ幼虫の体毛を人為的に短くする前後での兵隊からの攻撃の受け
やすさを比較した。
(8)アブラムシ捕食者の体表面ワックスの由来
スペシャリスト捕食者のゴイシシジミの幼虫の体表は、白いワックスに覆われている。一方
で、ジェネラリスト捕食者のセグロベニトゲアシガの幼虫はワックスに覆われていない。体表
面ワックスの由来を調べるため、ゴイシシジミ、セグロベニトゲアシガ、ササコナフキツノア
ブラムシの体表炭化水素組成の比較を行った。
(9)兵隊の前脚におけるクチクラサイズと筋肉サイズの関係
武器である前脚のサイズと筋肉サイズの相関を調べるため、前脚の透明標本を作製し、腿節
の長さと内部筋肉サイズを計測した。
4.研究成果
(1)長野県と東京都の間で、ケヤキおよびエノキの樹木の根元にいたアリの種組成が異なっ
ていた。東京都ではこれらの樹種の根元に高い頻度でケアリ亜属のアリ種が観察された(ケア
リ亜属:クサアリ亜属=88:8)
。ヤノクチナガオオアブラムシが共生するアリの種組成(ケアリ
亜属:クサアリ亜属=39:7)と、各樹種の根元のケアリ属のアリ種組成との間には差が認めら
れなかった(Fisher's exact test, P = 0.25)。一方で、長野県では東京都に比べこれらの樹種
の根元にはクサアリ亜属のアリ種が多い傾向があった(ケアリ亜属:クサアリ亜属=41:28)

本地域のヤノクチナガオオアブラムシが共生するアリの種組成はクサアリ亜属に大きく偏って
おり(ケアリ亜属:クサアリ亜属=3:18)
、各樹種の根元のケアリ属のアリ種組成との間には差
が認められた(P < 0.01)。このことは、ヤノクチナガオオアブラムシとクサアリ亜属との関係
の強度が地域によって変化していることを示している。
(2)長野県と東京都のヤノクチナガオオアブラムシの体表炭化水素組成が異なることが明ら
かになった。また、長野県のアブラムシの体表炭化水素は東京都のアブラムシの体表炭化水素
に比べ、クロクサアリに類似しているという結果が得られた(図 1)


図1.ヤノクチナガオオアブラムシの体表炭化水素の地域間変異。体表炭化水素の組成比を用
い、非計量多次元尺度法(nMDS)により、各サンプルの類似性を調べた。
(3)ヤノクチナガオオアブラムシとブナクチナガオオアブラムシの間で体表炭化水素組成が
異なることが明らかになった。各アブラムシ種をクロクサアリコロニーに提示した結果、ヤノ
クチナガオオアブラムシはクロクサアリに捕食される割合が低かったのに対し、ブナクチナガ
オオアブラムシは提示したすべての個体がアリに捕食された。この結果はヤノクチナガオオア
ブラムシのクロクサアリに類似した体表炭化水素が、クロクサアリからの捕食回避に貢献して

いることを示唆している。
(4)クサアリ亜属内において体表炭化水素の組成は種間で多くが共通しており、化学的には
他のアリ類で知られるような組成における著しい種間差はみられなかった。しかし、体表炭化
水素の組成比を用いて多変量解析を行った結果、組成比については明らかに種間で違いが見ら
れた。
(5)クロクサアリ L. fuji の 3 隠蔽種の間では体表炭化水素組成比に明瞭な差がなかった。
この 3 隠蔽種のうち、最も普通にみられたクロクサアリ隠蔽種のみを用いて、さらに体表炭化
水素組成比の多変量解析を行ったところ、採集された地域によってゆるやかにクラスターを形
成した。特に、北海道および長野県の比較的高地において採集されたコロニーと、関西や関東
や四国の比較的低地の暖地域で採集されたコロニーとの間で、不明瞭ではあるものの体表炭化
水素組成比のギャップが観測された。
(6)標高上下間でササコナフキツノアブラムシの兵隊サイズが異なっていた(図 2)
。低標高
ではコロニー内に大きい武器サイズの兵隊が存在し、また、武器サイズが大きいほどスペシャ
リスト捕食者に対する防衛能力が高いことが明らかになった(図 3、RM-ANOVA, P = 0.02)

(7)スペシャリスト捕食者の体毛長を人為的に短くした結果、体毛が短くなったゴイシシジ
ミ幼虫は、体毛を短くする前に比べ、アブラムシの兵隊に攻撃される確率が約 10 倍になった
(Wilcoxon Signed-rank test, P = 0.005)
。このことは、兵隊の「武器」サイズの地理的変異
に対し、スペシャリスト捕食者が体毛長を変化させて対抗している可能性を示唆する。
(8)体表炭化水素組成比を比較した結果、スペシャリスト捕食者はアブラムシの体表ワック
スを奪い取ることでアブラムシに類似した体表炭化水素を所有していることが明らかになった。
(9)兵隊の腿節のクチクラサイズと筋肉サイズは、正の相関を示すことが明らかになった
(Pearson Correlation test, P < 0.01)。このことは、武器サイズの大きな兵隊は、武器サイ
ズの小さな兵隊に比べ強い力で捕食者を攻撃できることを示唆し、武器サイズの変異が防衛力
に影響することを意味する。

図 2.異なる標高に分布するササコナフキツノアブラムシコロニーの兵隊のサイズの季節間変
異。縦軸は兵隊のツノ(左図)と前脚(右図)の長さを示す。

図 3.異なる標高由来のササコナフキツノアブラムシの 1 齢個体 44 個体と兵隊 6 個体を、捕食
者ゴイシシジミ 1 個体と同じシャーレ内へ導入した場合の 1 齢個体生存率の経時的変化。低標
高由来のアブラムシ集団のほうが生存率が高い(RM-ANOVA, P = 0.02)


5.主な発表論文等
〔雑誌論文〕
(計 4 件)
①Hattori M, Kishida O, Itino T (2016) Soldiers with large weapons behave aggressively against
predators: correlated morphological and behavioral defensive traits in a eusocial aphid. Insectes
Sociaux 64: 39-44. DOI 10.1007/s00040-016-0509-8 査読有
②Hattori M, Yamamoto T, Itino T (2015) Clonal composition of colonies of an eusocial aphid,
Ceratovacuna japonica. Sociobiology 62: 116-119. DOI: 10.13102/sociobiology.v62i1.116-119 査
読有
③山本哲也・服部充・上田昇平・市野隆雄(2015)長野県松本市におけるクヌギクチナガオオア
ブラムシ Stomaphis japonica の随伴アリ種組成.New Entomologist 64: 1-6. ...

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