リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「心筋症の予後層別化を目指した 患者心臓検体の分子病理解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

心筋症の予後層別化を目指した 患者心臓検体の分子病理解析

藤田, 寛奈 東京大学 DOI:10.15083/0002005070

2022.06.22

概要

心不全は患者数の増加が顕著で、その半数以上が薬剤抵抗性の経過をたどる進行性の疾患である。病気の進行した重症心不全に対しては一部の患者には植え込み型人工心臓や心臓移植といった治療の選択肢があるものの、対象となる患者は少なく、また移植登録後も待機期間は約5年と非常に長期にわたる。多くの心不全患者のQOLは大きく制限され、かつ多額の医療費が投じられていることは一つの社会問題である。

心不全の発症進展には高血圧や糖尿病、薬剤、また遺伝子変異など種々の要因が寄与し、約40%の心不全患者は治療に応答して心機能が改善するLVRR(左室リバースリモデリング)を起こす。過去の研究により心筋症の原因となりうる遺伝子変異の存在や、遺伝子変異とLVRR頻度の相違、心不全心筋における遺伝子発現状態の変化が報告されているものの、遺伝子変異がいかにして遺伝子発現状態の変化を生じ、心不全の発症進展に至るのかに関しては不明な点が多い。特にヒト組織を用いた研究は、通常診療において研究に十分な心筋検体を得られる機会が非常に限局されることは一つの大きな障壁である。

心不全の治療としてはβ遮断薬をはじめとする最適な内科的治療はすべての心不全患者に行われるものの、ファブリー病などのごく一部の疾患を除いて、疾患のメカニズムに基づいた疾患特異的な治療は確立されていない。またLVRRの予測指標として確立されているものは心臓MRI検査において間質の線維化を洗わずLGE(ガドリニウム遅延造影効果)や左室拡張末期径などのみで、正確な予後予測指標は未だ確立されておらず、疾患特異的な治療、より正確な予後予測指標の確立は臨床現場において強く望まれている。

一方、疾患の発症進展メカニズムに迫る強力な手段として、近年一細胞トランスクリプトーム解析が脚光を浴びている。生体内における細胞の状態の不均一性を高解像度で解明することができる手法であり、発生過程、細胞分化系譜、癌の薬剤耐性獲得メカニズムなど幅広い分野において研究が進んでいる。また一細胞への分散が困難な脳・神経や間質を多く含む固形がんなどの組織に対しても、組織からの核抽出により一細胞解析と同等の解析を行う一核トランスクリプトーム解析技術が提唱され、急速に広まりつつある。一核解析は、一細胞解析と類似の遺伝子発現プロファイルを捉えることができるのみならず、脳や心臓においては組織を構成する全細胞種を同時に解析することが一細胞解析よりも容易であることも利点である。

我々のグループでは過去に圧負荷心不全モデルマウスの心筋の一細胞トランスクリプトーム解析を行い、心不全の発症過程における細胞の遺伝子発現状態の変化を捉え、心筋が代償性の肥大から不全心筋へと至る過程でp53シグナルやDNAダメージ関連遺伝子群が重要な役割を果たすことを見出した。

ヒトにおいても同様に一細胞レベルのトランスクリプトーム解析により心不全の発症進展や予後に関与する可能性のある分子病態を明らかにすることができると考え、本研究では心不全の分子メカニズムの解明及び将来的な心不全の予後の層別化を目指し、ヒト心不全組織を用いた一細胞解析手法の確立を目的として実験を行った。

東京大学医学部附属病院は日本有数のVAD(補助人工心臓)植え込み手術及び心移植手術の実施施設であり、全国から多くの重症心不全患者が集まる施設である。VAD植え込み手術及び心臓移植手術においては患者に追加侵襲を加えることなく通常の手術処置の中で不全心筋を採取することのできる貴重な機会であり、研究に十分なヒト検体を得ることができた。

本研究では心臓を構成する全細胞種を対象として、心不全の発症進展に関わる分子メカニズムを解明することを目的とし、ヒト不全心筋組織を用いた一核トランスクリプトーム解析手法を確立した。また心筋の遺伝子発現プロファイルについてより詳細な解析を行うべく、心筋の一細胞トランスクリプトーム解析を合わせて行った。見出した分子メカニズムにより心不全の予後が層別化できるかを検討するために、心不全患者の心筋病理組織の免疫染色結果や臨床情報と合わせて検討を行った。

まずマウス凍結保存心筋一核トランスクリプトーム解析により、核抽出法の確立及び一核解析により得られる遺伝子発現プロファイルの評価を行った。過去の心筋一細胞と比較し、細胞と核で一部異なる遺伝子発現状態を示すものの、類似したトランスクリプトームを得られること、心臓を構成する核細胞種のマーカー遺伝子の発現を捉え、遺伝子発現プロファイルから細胞種の再分類が可能であることを確認した。

ついでヒト凍結心不全心筋を用いた一核トランスクリプトーム解析により、細胞種を再分類し、心筋及び非心筋それぞれで心不全に関わる可能性のあるメカニズムを見出した。また心筋クラスター及び線維維芽細胞クラスターにおいて通常発現しない遺伝子群の発現が認められた。

心筋についてより詳細な解析行うため、より多くの心不全患者を対象として心筋一細胞トランスクリプトーム解析を行い、心不全の分子病態に関わる系として心筋における炎症やDNAダメージの存在を見出した。病理組織について、DNAダメージの指標であるploy(ADP)ribose(PAR)の免疫染色を行うと、LVRRを生じない患者ではPARがより強く陽性となること、すなわちより多くのDNAダメージが存在することが明らかとなり、心筋症の予後予測指標となる可能性を見出した。

本研究によりヒト心不全心筋においてはDNAダメージの蓄積をはじめとする特徴的な遺伝子発現プロファイルの変化が不均一に生じること、また不均一な応答は心筋以外の細胞でも見られ、細胞の機能的な変化を伴っている可能性があることが明らかになった。また、心不全に伴うDNAダメージの蓄積の程度を評価することは心不全の新たな予後予測指標となりうることが示唆された。不全心筋においてDNAダメージの蓄積を生じるメカニズムについては今後より詳細な解析が必要であるが、PARP阻害薬などによる新規の治療標的となりうることが期待される。

今後はより多くの心疾患や遺伝子変異を伴う心筋症患者についても解析を行い、疾患ごとのより詳細な分子メカニズムの解明や予後予測の可能性について検討し、心不全精密医療の礎となることを目指したい。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る