リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「ラット延髄スライス標本を用いた嚥下活動に対するセロトニンの効果」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

ラット延髄スライス標本を用いた嚥下活動に対するセロトニンの効果

西尾, 崇弘 大阪大学

2021.03.24

概要

【緒言】
嚥下活動は口腔、咽頭、喉頭、食道の多数の筋活動によって、形成される生命維持に不可欠な反射運動であり、延髄に存在するCentral Pattern Generator (CPG)によってその活動パターンがプログラムされる。加齢とともに有病率も高くなる誤嚥性肺炎は嚥下障害が主要なリスクの1つと考えられており、高齢者社会が進む我が国において、大きな問題となっている。セロトニン(5-hydroxytryptamine : 5-HT)は、中枢神経内においては縫線核群で生成され、情動や気分の調節に関わる他、呼吸活動や嚥下活動を制御することが知られている。また、縫線核群は大脳基底核、視床、海馬、扁桃体、脊髄などの中枢神経系の様々な領域へ軸索を投射し、延髄尾側の縫線核群からは舌下神経核への投射も報告されている。5-HTと嚥下活動の関連については、過去に様々な報告がなされているものの、統一した見解は得られていない。この理由としては、実験標本に残る上位脳による嚥下CPGへの影響や消化管に存在する末梢のセロトニン作動システムの影響などが考えられる。

これまで当研究室では、嚥下中枢の神経機構をより限局して解明するため、新生仔ラットを用いて嚥下様活動を発現しうる最小の延髄スライス標本を作製し、検討を行ってきた。延髄スライス標本を用いれば、実験標本の上位脳や末梢器官による修飾メカニズムの影響を除外した上で、限局的な薬理作用の検討を行うことが可能である。

そこで本研究では、この延髄スライス標本を用いて嚥下中枢内での5-HT受容体の役割を検討することを目的とした。

【方法】
実験には生後1-3日齢のSprague-Dawley系ラット(η = 74)を用いた。深麻酔後に酸素化した人工脳脊髄液中にて脳幹を剖出し、橋を除去した後、孤束核、舌下神経核、不確縫線核、呼吸中枢、迷走神経、舌下神経を含む厚さ800-1000 μmの延髄スライス標本を作製し、人工脳脊髄液を還流させた記録チャンバーにスライス標本を固定した。スライス標本の片側の舌下神経を吸引し、神経活動(自発性の呼吸活動、誘発性の嚥下様活動)の記録を行った。嚥下様活動の誘発は記録側と同側の迷走神経を電気刺激することにより行った。誘発された嚥下様活動に自発呼吸インターバルの延長が伴うことを確認し、神経活動が安定した条件下で5-ΗΤの投与を行った。記録された神経活動は専用ソフトウヱアによって記録・解析し、嚥下様活動の発現頻度、嚥下様活動最大振幅、活動時間、活動潜時について5-ΗΤの投与前後で検討を行った。また、嚥下様活動の発現に伴う呼吸インターバルの延長も併せて検討を行った。

実験1 延髄スライス標本に対する5-ΗΤの全標本投与の効果(η = 27)
0.1μΜ、1μΜ、5 μΜ、10 μΜに調整した5-ΗΤを全標本投与することにより嚥下様活動、呼吸活動を分析した。また時間経過による神経活動の変化を確認するために、5-ΗΤの投与は行わず5-ΗΤの投与群と同条件で神経活動の検討を行ったものをaCSF群として設定した。

実験2 延髄スライス標本に対する5-HTの局所微量投与の効果(n = 47)
濃度調整を行った5- ΗΤ (η = 36) ならびに5- ΗΤ 1Α受容体作動薬( 8-OH-DPAT) ( η=11)をスライス標本上の舌下神経核、孤束核、不確縫線核のそれぞれに局所微量投与を行うことにより神経活動の変化を分析した。薬剤の投与濃度は5-ΗΤは10 μΜ、8-OH-DPATは30 μΜに設定した。

【結果】
実験1 延髄スライス標本に対する5-ΗΤの全標本投与の効果
10 μΜに調整した5-ΗΤの全標本投与により、嚥下様活動の誘発頻度の増加、活動最大振幅の増大、活動時間の延長、活動潜時の短縮を認めた。これらの変化はいずれも統計学的に有意であった。また5-ΗΤの全標本投与で有意差が認められた項目はaCSF群との群間比較を行っても、嚥下様活動時間を除いて有意な変化が認められた。嚥下様活動発現に伴う呼吸インターバルの延長は5-HTの投与によって有意な変化は認めなかった。

実験2 延髄スライス標本に対する5-HTの局所微量投与の効果
a. 記録側の舌下神経核への局所微量投与5-HTの投与によって嚥下様活動の誘発頻度の増加、活動最大振幅の増大、活動時間の延長、活動潜時の短縮を認め、実験1における5-HTの全標本投与時の変化と同様であった。また8-OH-DPATの投与によっても嚥下様活動最大振幅を除いて、5-HTの投与時と同様の変化を認めた。

b. 記録側、反対側ならびに両側孤束核への局所微量投与
片側(記録側、反対側)の孤束核への5-HTの投与では嚥下様活動に変化は認めなかったが、両側孤束核への投与時に嚥下様活動の誘発頻度が有意に減少した。

c. 不確縫線核への局所微量投与
不確縫線核への5-HTの投与によって嚥下様活動の誘発頻度は有意な減少を認めた。さらに、活動最大振幅の減少、活動時間の短縮、活動潜時の延長を認めた。

【考察】
本研究の結果から、5-HTはスライス標本から誘発した嚥下様活動に対して促進的な作用を示すことが明らかとなった。そして、これらの作用は5-HTを舌下神経核へ局所微量投与することによって再現されたことから、嚥下様活動に対する5-HTの作用は、主に舌下神経核内の5-HT受容体を介した作用であると考えられた。また、舌下神経核への8-OH-DPATの投与結果から、この作用を担う主要な5-HT受容体サブタイプは5-HT1A受容体であると考えられた。一方で、孤束核や不確縫線核内の5-HT受容体は嚥下様活動に対して抑制的に働くことが示唆された。これらの結果から、延髄スライス標本内の5-HT受容体は、嚥下様活動に対して部位により異なる作用を示すことが明らかとなった。本研究の結果は嚥下活動に対して5-HT受容体を介した相反する制御を示す複数の領域が延髄内に存在することを示唆するものであり、これが過去の報告において一致した結果が得られなかった原因の一つであると推察された。

今回の研究では、嚥下様活動発現に伴う呼吸インターバル延長は5-HT投与前後で明らかな変化を認めかったことから、嚥下様活動時の呼吸抑制は、スライス標本内に存在する5-HT受容体の影響を受けないと考えられた。

迷走神経への連続電気刺激に対し、誘発された嚥下様活動の頻度が舌下神経核への5-HT局所微量投与によって増加したという結果は、舌下神経より出力される嚥下様活動の発現閾値が舌下神経核内の5-HT受容体によって制御されていることを示唆するものであった。つまり、孤束核で形成され舌下神経核へ伝達される嚥下様活動のシグナルの強さは一定ではなく、舌下神経核ニューロンの発火閾値に達しないシグナルも形成されており、それらが最終的に嚥下様活動として発現するかどうかは運動ニューロンの閾値によって制御されている可能性が考えられた。

孤束核内の5-HT受容体は、嚥下様活動の発現閾値を抑制的に制御したが、その抑制作用を示すためには、両側孤束核への薬剤投与が必要であった。この結果は延髄スライス標本における孤束核の5-HT受容体を介した嚥下様活動の制御には、両側のネットワークが必要であることを示唆するものであった。

5-HTの不確縫線核への投与によって嚥下様活動は抑制された。不確縫線核ニューロンは舌下神経核に対して軸索投射を行っており、シナプス終末から5-HTを定常的に分泌することで、舌下神経核ニューロンを興奮性に制御することが知られている。今回認められた嚥下様活動に対する抑制作用は、不確縫線核への5-HT投与によるオートレセプターを介した不確縫線核ニューロンの興奮性の低下が背景にあると推測された。

【結語】
本研究から、新生仔ラット延髄スライス標本では、5-HTの全標本投与は嚥下様活動に対して促進的な作用を示すことが明らかとなった。しかし標本内の部位によって、嚥下様活動に対する作用は異なり、舌下神経核では嚥下様活動の促進を認めた一方で、両側孤束核または縫線核への投与では、嚥下様活動に対して抑制的な作用を示した。
以上の結果から、延髄内の5-HT受容体は、その領域によって嚥下活動に対して相反する作用を有することが示唆された。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る