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書き出し

解題 : 社会・環境インフラストラクチャーとしての神社

水内, 佑輔 MIZUUCHI, Yusuke 上田, 裕文 UEDA, Hirofumi 東京大学

2023.09.14

概要

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մୌʁऀճʀ‫ڧ؂‬΢ϱϓϧηφϧέοϡʖͳ͢ͱ͹ਈऀ
Shinto shrines as social and environmental infrastructure
水内 佑輔 Yusuke MIZUUCHI   上田 裕文 Hirofumi UEDA
東京大学大学院農学生命科学研究科

北海道大学メディア・コミュニケーション研究院

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 『減反神社』という小説がある。農民作家・山下惣一に

 本特集では,神社を捉えるために,近代とそれ以前の断

よるものであり,休耕田へのゴミ投棄に悩むムラ人が,大

絶と連続を論点の1つとして,歴史的アプローチをとった。

石に注連縄をはり,それらしくしたところ,ゴミ投棄はな

というのも,神社は歴史的な存在であり,空間であるとい

くなるどころか,参詣者も増え,ついには本格的な神社を

う見方に大方異論はないだろうが,その異論のなさのゆえ

作っていくに至るというストーリーである。ここでは,神

に,その歴史性に対して,ものさしを当てて計測がされに

社での望ましい行動や,空間的記号が人々に共有されてお

くく,不変の存在のように位置づけられているからである。

り,空間を守るための手段とされている様が描かれている。

しかし,近代化以降のたかだか 150 年でも神社はあらゆる

つまり,神社と結びついた空間領域を区切り,それを社会

面で姿を変えており,そもそも個別の「○○神社」という

に共有されるための装置として機能させているのであるが,

名称も,近代以降のものであることが多い。そこで,近世

この視点は,本特集において神社とはどういった空間であ

以前における神社と社会関係性の実態や,さらに,造園学

るのかを考える際に通底しているものでもある。

も深く関与する近代以降の来し方に目を向けていきたい。

 現在,日本の多くの神社が宗教法人神社本庁に管轄され
ていることを考えれば,神社は宗教空間となるのだろうが,

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「宗教」という言葉自体が,近代前後においてキリスト教

 近代における変化を見る上でも,それ以前の近世都市社

を前提とした religion の訳語として定着した経緯もあり,

会における神社の位置づけを探る必要がある。伊藤毅氏は

土着の民族的な信仰「的」空間とされる神社への収まりが

都市史の観点から神社と空間領域の管理に関わる性格を指

良くなく,むしろ神社の持つ多様性や多面性を見えにくく

摘し,中世においては直接的に空間を管理する封建領主と

してしまう。そして,神社のある側面には,例えば,都市

して,近世においては,「氏子町」として空間領域の峻別

に残された貴重な緑地としてや,地域コミュニティの場と

に資していたこと。さらに,機能論で神社を捉える際には,

してなど,広義のオープンスペースとしての側面や観光の

忘れられがちとなるが,神社の信仰は姿を変えながらも都

目的地としての側面もあり,多面的に社会を下支えしてき

市空間の中に底流しており,物理的にも精神的にも地縁的

たといえる。特に,地域の歴史や文化的アイデンティティー

都市社会の紐帯となっており,これこそが,都市社会にお

に着目することが,造園・ランドスケープ分野のリテラシー

ける神社の最も重要な役割であるとする。伊藤論稿におけ

として定着しつつある現下の状況において,神社への関心

る歴史的視点を通じて,本稿において「社会・環境インフ

はますます高まっていくと思われる。

ラ」として神社を捉える視点の妥当性が確認されると思わ

 そこで,本特集にあたっては,社会的生物であるヒトが

れる。

生きていく中で空間の使い方を整序するための装置として,
すなわち「社会・環境インフラ」として神社を捉えること

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に視点を置き,こういった空間を取り扱う際に,造園・ラ

 神社が近代という時代を経験する中での造園学との浅か

ンドスケープ分野としてどのように向き合うべきかを探る

らぬ関係性も指摘できる。丸山宏氏は,造園学史において

ことを試み,トピックの構成と執筆者の候補を検討した。

欠かせないトピックである通称太政官公園の誕生と,近代

本特集を通じて,神社に対するまなざしが刷新,あるいは

化における神社を含む社寺境内地の処理との関係性を実証

再確認されることを期待する。

的に指摘し,公園が神社の受け皿として機能したことを明
らかにしている。結び文に示されるように,太政官公園の
多くは現在も存続しており,個別の公園だけでなく,公園



という制度のあり方を考える上でも,この事実を過ぎ去っ

 神社の風致を考える上では,神社の建築も含めた総体と

た出来事として片づけることは難しい。

して考える必要があるだろう。その建築物の用材の供給元

 水内は,明治神宮造営をきっかけに誕生した造園学とい

もまた森であり,それは現代においても変わらない。山本

う分野が,そこで得た経験を踏まえて,神社風致計画論を

博一氏は,神社建築物の用材のための森林管理について解

構築し,内務省や府県など行政に管理される公共空間とし

説し,200 年伐期という長い時間を要する大径木の入手は

ての神社を扱う職能として活躍したことを記述した。第二

いつの時代においても困難であることや,そのための長期

次世界大戦の終戦をもってこの関係性は潰えたが,当時は

的展望ときめ細やかな森林管理の必要性,そのための科学

狭義の境内にとどまらず,都市計画施設や郷土風景の保存

的知見を蓄積することの必要性を指摘している。一口に森

施設として神社を捉える視点も養われ,公共造園空間とし

といっても,目的に応じた様々な管理方法が要請される。

ての積極的な位置づけも見られた。

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 神社の森は近代以降大きな変化をしてきた一方で形を変
えながらも,その多くが残されているのもまた事実である。

 造園学から神社を論じる上で「森」という存在は1つの

賀来宏和氏は,全国に約5千社以上あると推定される式内

切り口である。森林の多面的機能といわれるように,森は

社(少なくとも平安期には存在していた神社)を現地踏査

様々な役割を同時にこなしてきたが,それは神社の森にお

し,特に神社の森が抱える問題を森林の状態や立地環境か

いても例外ではないはずである。しかし,神社は厳かで近

ら5つにタイプ分けして,その現況を報告している。賀来

寄りがたい空間であるとの漠たる了解がなされ,こと森に

氏は地域社会の表象として神社にまなざしを向け,神社と

ついては神社の信仰のため「入らずの森」とされ,原生林

共にあった地域社会の存続とを重ね合わせている。

がそこに残されているとの印象が強いが,このようなステ
レオタイプのイメージが神社の森の全てではない。こういっ

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た森の催眠術を解くためにも,神社の森を学術的な検討の

 また,生態系やレクリエーションの観点から見れば,都

対象とすることが必要であろう。したがって,本特集では

市の緑地をいかに量的に確保するか,その質を高めるかは

歴史的な神社と森の関係性を検討した上で,現代における

造園学の主要な関心であり続ける。高橋俊守氏は,都市に

森の実態やその果たしている役割を示し,神社の現代的価

おける緑地の基盤としての神社(と寺院)の存在感が大き

値の1つを掴むことを目論んだ。

いことや,神社を核とした緑地の広がりから緑地の連担性

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に神社が寄与していることを GIS による空間分析から指
摘している。また,人々のよりどころとなる高木が神社に
おいて残りやすいことを,宇都宮市における現地踏査から

ツやスギ中心の林相であったことや,用材や林野資源とし

指摘し,都市における歴史的な緑地の確保という点から神

て利用され,神社の収入源とされていたことを実証的に明

社の役割を見ている。一方で,神社とその森の現在進行形

らかにし,「原生林」が維持される状況に無かったことを

での減少や,森の維持管理に関わる課題の報告とともに,

指摘する。さらに,「原生林」イメージの源泉でもある現

現代における神社の可能性と課題が指摘されている。

在の神社の常緑広葉樹化の要因について,近代化以降の森

 都市における大規模緑地の造成,あるいは人為による自

林管理方法の変化や燃料革命による資源利用圧力の低下を

然再生の先駆的事例として明治神宮は広く知られている。

挙げている。社会の変化による景観の変化は,神社の森に

周到に構築された管理方法を堅持しながら,100 年間森を

も例外なく生じていることが示されている。

維持してきた点においても,明治神宮は知らぬ人のいない

 小野良平氏は,神社のステレオタイプのイメージに対し

ランドスケープ遺産である。濱野周泰氏は,この森の造成

て,「鎮守の杜」や「森厳」という用語を手掛かりに,近

経緯やコンセプトに加え,ナラ枯れ被害について言及し,

代において政治社会的な影響を受けつつこのイメージが形

100 年前の「巨大な実験場」での実験は現在も継続してい

成されたことや,「森」だけではなく,地形・地貌と立地

ると指摘する。造園学の誕生の地である明治神宮からは未

の関係から,過去における人間と自然環境の向き合い方を

だ学ぶことが多いと思われる。

読み取ることの重要性を指摘する。そして,神社に託され
がちな「歴史」というものへの向き合い方に対する留意点
を示している。

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 「観光とメディア」や,「都市づくり」,「防災」などは
その言葉の選択はともかくとして,ヒトの生活にとっては



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 今西亜友美氏は,近世の神社の森が原生林ではなく,マ

古くて新しいトピックであるため,造園学においても関心

 山野秀規氏が事例として取り上げた六本木天祖神社(東

の対象としてあり続けているが,神社もこれらと深く関わっ

京都)は,都心立地がもたらした後継者不足,財政,立地

ている。神社の多面性として,以下のトピックを見ていき

環境といった3つの課題を抱えていた。この後者2つを解

たい。

決したものが周辺事業者との一体的再開発であり,周辺事

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 よく知られているように,伊勢神宮の参詣は,近世・近
代を通じて交通インフラの整備を促しただけでなく,庶民
の移動の自由や余暇を支えた存在でもあった。この背景に

業者の負担で施設建替・修繕がなされ,参拝や祭礼のため
の広場空間の確保や神社に相応しい植栽景観が設えられた
ことが解説されている。
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は,旅行記やガイドブックの流通に加えて,庶民の参詣を

 神社には,祈念として災害からの逃避をする願う場とし

活発化させるべく,皇室所縁の内宮ではなく,五穀豊穣と

てだけでなく,物理的空間における可視的座標としての側

のかかわりがある外宮を参詣の対象とさせたような神社側

面も指摘できよう。高田知紀氏は,地域の災害履歴を伝承

からのアプローチもあった。近代においても,全国各地で

する社会装置として神社を捉え,津波・河川・土砂災害に

参詣者のための鉄道が敷設されるなど,観光と神社は切り

対する神社のリスクポテンシャル評価を行ってきた。本特

離せない。当然,神社はそういった観光的現象を積極消極

集では,和歌山県における検証事例の紹介を行ったうえで,

の程度の差こそあれ受け入れてきた。

伊達神社を事例とした,神社をハブとした地域防災コミュ

 岡本亮輔氏は,2000 年代パワースポット・ブームを事

ニティの形成のための社会実験が紹介されている。

例に神社側の需要と困惑を宗教学的視点から分析し,その

 一方,世界遺産となった宗像大社の宮司である葦津敬之

根底に,神道には宗教的信仰要素が希薄であり,体系化さ

氏は,海域の環境変化を目の当たりにし,神社を中心とす

れた教義が不在であることをみている。一方で,神社は社

る国際的な環境会議を設立した。国内外の学識者,自治体,

会的空間である以上,参拝者の需要に合わせたあり方の調

企業,NPO, メディアなどと連携し,その規模は年々拡大

整は避けられないとも指摘している。

している。神社はローカルな自然環境と密接に結びつくだ

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けでなく,グローバルな環境変化までを視野に入れて国内
外に情報発信する存在となっている様子が紹介されている。

 伊藤論稿に指摘されるように,神社は再発見や役割の読
み替えがなされつつ,都市空間の中に底流して都市社会生
活を支えてきた。岡村祐氏は,現代の都市においても,日

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常の交流や非日常の祭礼などを通じて神社が地縁組織の紐

 本特集は,「社会・環境インフラ」として神社を捉える

帯となっていることを指摘する。また,観光とまちづくり・

ことで,社会において一定の役割を持ちつづけてきた神社

都市づくりが表裏一体となる中において,文化的コンテン

をランドスケープの視点から改めて読み解こうという試み

ツとしてや,ネットワーク化における神社という存在の有

である。神社の持つ多面性を強調しようとしたために,多

意性を指摘する。そして,経済的な面も含む地域振興とい

少羅列的になっているが,裏を返せば,ある対象に対する

う視点で神社の役割が捉えなおされ,地域社会を繋ぐ「コ

造園学からのアプローチ方法の陳列ともなっていると思わ

ミュニケーション空間」と外部に開かれた「レクリエーショ

れ,100 年前の明治神宮造営をきっかけに誕生した造園学

ン空間」としての神社のポテンシャルを指摘している。

の現在も見えてくるのではないだろうか。すなわち,都市

 都市は絶えず変化を遂げるため,神社も都市の再開発と

に神社を生み出すために体系化された知識や技術は,造園

は切り離せない。そこで周辺と共に再開発された神社の事

学としてその領域を拡大していった。長期的なタイムスパ

例を取り上げた。両事例とも,エリアマネジメントや建築

ンの動態的な景観変化を内包しつつ地球規模の環境変化の

物の容積規制の緩和施策といった都市計画の枠組みで周辺

指標ともなり,社会構造の変化の中で地縁的社会の紐帯と

事業者と一体となり,再開発がされている点にも注目した

しての象徴的役割を担いつつ,さらに広域で人々を結びつ

い。湯澤晶子氏らが取り上げた,福徳神社(東京都)は,

けるメディアとしても機能する,そしてオープンスペース

近世期には地域のオープンスペースとして機能していたが,

として都市や農村における空間秩序にも影響を与える。こ

近代以降の都市開発によりコンクリート建築の社務所屋上

うした,神社の担う役割は,造園学の領域拡大とも重なり,

に祀られていた。この福徳神社の再建事例を通じ,神社の

ランドスケープと表現される対象の時間的・空間的広がり

現代的役割として,地域らしさの発露とコミュニティの交

を示唆しているとも言えないだろうか。本特集が,神社を

流の場が期待されることを指摘し,それに対応した空間設

通してランドスケープを考える際の手引きとなれば幸いで

計が解説されている。

ある。



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