薬用植物シナマオウ(Ephedra sinica Stapf)におけるエフェドリンアルカロイド含有量に関する育種学的研究
概要
日本,中国および韓国では,古来より生薬が伝統薬として用いられている.生薬とは,植物,動物,あるいは鉱物などの天然物を乾燥などの簡易に加工して作った薬であり(竹谷・鳥居塚 2012),天然物を精製せずに用いる薬のことである(斉藤 2017).医薬品は厚生労働大臣が定めた医薬品の規格基準書である第 17 改正日本薬局方(以下,日局 17)(厚生労働省 2016)によって規格が定められており,生薬や漢方製剤などの単一成分によらない天然医薬品は,「医薬品各条 生薬等」として 324 品目が定められている(斉藤 2017).天然物由来である生薬は,同一種であっても含有成分の組成及び含有量に多様性がある(袴塚 2020).そのため,一般に,日本薬局方における生薬の成分含有量の規格は,化学医薬品にみられる狭い規格幅ではなく,下限値が設定されている(袴塚 2020).日本における漢方医学は中国を起源としているが,中国の伝統医学である「中医学や,起源を同じくする韓国の伝統医学である「韓医学とは異なった医学体系を形成している(株式会社ツムラ 2018).中国の漢の時代に完成した伝統医学が 6 世紀頃から日本に導入され,江戸時代に日本で独自に発達した医学を漢方と呼ぶようになった.その漢方で使う薬が漢方薬である(竹谷・鳥居塚 2012).漢方薬は,漢方医学理論に従って調合された数の生薬を熱水で煮出して生薬カスをろ過して除き,湯液としたものを基本的な剤形としている(牧野 2015).生薬を煎じたあとの湯液に含まれる水分を乾燥させた抽出物を製剤化したものが医療用漢方製剤として販売されている.一部の医療用漢方製剤処方では,製法や成分含有量が規定されており,製法には配合される生薬の分量が規定されている(厚生労働省 2016).医療用漢方製剤の医薬品としての有効性及び安全性を確保するため,一定範囲内に有効成分の含有量を収める必要がある.しかしながら,原料である生薬の成分含有量の変動幅が大きいため,日局 17では,医療用漢方製剤の定量指標成分の含有量規格の幅を広く規定し,上限値が下限値の 3~4 倍となっている(袴塚 2020).
2017 年度のデータでは,医療用医薬品市場は 10.5 兆円であるのに対して,医療用漢方製剤市場は 1,509 億円とわずかではある(株式会社ツムラ 2018).しかしながら,漢方薬使用実態調査では,医療用漢方製剤を処方している医師は,調査した医師の 90%以上である(日経メディカル編集部 2003).さらに,漢方製剤等は科学技術による基礎および臨床での科学的根拠の解明が進むに従い,がん支持療法や高齢者医療等,新たな領域においても重要な役割を担うようになってきた(日本漢方生薬製剤協会 2018).これらのことは,現在,医療用漢方製剤が我が国の医療にとって必要不可欠になっていることを示している.また,定期的な薬価改定により医療用漢方製剤の薬価は低下し続けているにも関わらず,医療用漢方製剤の需要は年々増加しており,医療用漢方製剤の生産額は年々増加している(日本漢方生薬製剤協会 2019).今後も医療用漢方製剤を安定供給していくことが必要とされており,医療用漢方製剤の原料となる生薬を安定供給することが不可欠である.
日本漢方生薬製剤協会の生薬使用量調査(山本ら 2019)によると,日本で使用されている生薬は 293 品目あり,2008 年の生薬使用量は 20,763t であったが,2016 年の生薬使用量は 26,784t と増加している.日本における生薬の生産量は 2,467t(2008 年)から 2,860t(2016年),日本における生薬の生産品目数は 86 品目(2008 年)から 89 品目(2016 年)とそれぞれ増加している(山本ら 2019).しかしながら,生薬の生産国の割合は,日本が 11.9%(2008年)から 10.7%(2016 年),中国が 79.3%(2008 年)から 77.0%(2016 年),その他の国が 8.8%(2008 年)から 12.3%(2016 年)と推移している(山本ら 2019).日本における生薬の自給率は低く,生薬の供給の大部分を中国に依存しているのが現状である.また,中国の伝統医薬である中医薬も生薬を原料として使用しており,近年,中医薬の使用量増加による中国国内の生薬需要の高まりや中国における生薬栽培従事者の減少および人件費の高騰の影響によって中国産の生薬価格が高騰している(川原 2013,牧野 2015).中国産の生薬価格は 2006 年から 2014 年の 8 年間で平均して 2.4 倍に上昇しており,使用量の多い生薬では,甘草が 2.4 倍,芍薬が 2.7 倍,茯苓が 2.4 倍に値上がりし,最も価格が上昇したのは,人参の 5.8 倍であった(日本漢方生薬製剤協会 2015).今後も製品となる医療用漢方製剤の薬価下落と原料となる生薬価格の高騰が続けば,利益が減りコストが増え続けることになり,将来的に医療用漢方製剤の安定供給ができなくなることが懸念される.さらに,中国では,自生している薬用植物が乱獲により減少しており,資源保護および環境保全のため,一部の薬用植物では採取規制や輸出規制が行われている(長友 2013).そのため,生薬の供給に対するリスクを分散するため,日本国内における栽培の需要が高まっている(川原 2013).近年,日本における薬用植物の栽培は,中山間地域の活性化や遊休農地の解消に向けた対策として注目されており(長友 2013),長野県(堀 2013),富山県(大江 2013),奈良県(奈良県農林部農業水産振興課 2013),兵庫県(福嶋 2013)などで薬用植物の栽培が取り組まれている.中山間地域以外では,北海道での大規模栽培に向けた取り組みも行われている(中島 2013,鈴木 2013).加えて,高品質な生薬の国内栽培に向け,薬用植物の成分育種が芍薬(柴田 2013)や甘草(林 2013)などで行われている.また,国内での麻黄(以下,生薬を示す場合は麻黄と表記)の生産を目指して 2013 年よりシナマオウの栽培が開始されている(安藤ら 2016).
麻黄の日本における使用量は 561.4~707.8t(2008 年~2016 年)であり,麻黄は現在日本で使用されている生薬 293 品目中,使用量 15 位(2016 年)と使用量の多い生薬である(山本ら 2019).しかしながら,その全量を中国からの輸入に依存している.さらに,中国では資源保護と砂漠化防止を理由に 1998 年に「エフェドリン類製品の輸出管理問題に関する通知」(対外経済貿易管理局発第 573 号)が出され,1999 年 1 月から麻黄の輸出を禁止しており,粉末や切裁などの加工品にしなければ中国政府からの輸出許可を得ることができない(御影 2013,神谷 2012).また,2000 年には資源保護のため,「甘草と麻黄の乱掘制止に関連する問題に関する通達」が公布され,中国での麻黄の野生採取が禁止された(海外環境協力センター 2001).そのため,麻黄は供給リスクが高く,今後の安定供給に向けて,日本における麻黄の生産が求められている.
麻黄は,エフェドリンアルカロイドを含み,葛根湯や小青龍湯,麻黄湯,防風通聖散や麻黄附子細辛湯などの処方に用いられる重要な生薬であり,風邪,頭痛,気管支喘息および鼻炎の治療に用いられている.これらの薬理作用はエフェドリンアルカロイドに由来すると考えられている(原田 1980). 麻黄には,(–)-Ephedrine (以下,Eph), (+)-Pseudoephedrin (以下, PEph), (–)-Norephedrine, (+)-Norpseudoephedrine, (–)-Methylephedrine, (+)-Methylpseudoephedrine の 6 種類のエフェドリンアルカロイドが含まれている(Leung and Foster 1996).このうち,Eph と PEph でエフェドリンアルカロイドのおよそ 90% を占めている(Liu et al. 1993).また,日局 17(厚生労働省 2016)には,「麻黄は Ephedra sinica Stapf, Ephedra intermedia Schrenk et C. A. Meyer 又は Ephedra equisetina Bunge (Ephedraceae)の地上茎を乾燥させたものであり,総アルカロイド[エフェドリン (C10H15NO:165.23) 及びプソイドエフェドリン (C10H15NO:165.23)] 0.7% Dry weight 以上(7.0 mg/g Dry weight:DW)を含む」と規定されている.したがって,日局 17 に規定されている総アルカロイド(以下, TA)含有量の規格値を超えることは医薬品である麻黄を生産する上で必要不可欠である.また,例えば,麻黄が配合されている代表的な漢方製剤処方である葛根湯では,麻黄 4g あたりTA 含有量 12.0~36.0mg と規定されている(厚生労働省 2016).さらに,生薬の抽出時におけるエキスへの TA 含有量の移行率を考慮する必要があり,Eph および PEph 含有量の移行率はそれぞれ 66.6 ± 0.6%,64.6 ± 0.5%との報告がある(Hayashi et al. 2010).したがって,生薬からエキスへの移行率を考慮すると,葛根湯で求められている麻黄の TA 含有量は 5.0~15.0mg/g DW である.生薬は数百から数千の多成分で構成されており,漢方製剤であれば,さらに多くの成分から構成されることになる(袴塚 2020).伝統的医薬品である医療用漢方製剤は,数百年の歴史の中で長年の使用経験により安全性と有効性が担保されており(袴塚 2020),漢方製剤に用いる生薬の含有成分の組成や含有量を変えないことが望ましい.そのため,日局 17 における医療用漢方製剤処方の規格値の範囲内で,これまでに使用されてきたものと同程度の TA 含有量を有する麻黄が必要である.
基原植物である上記 3 種,E. sinica(シナマオウ),E. intermedia,E. equisetina が属するマオウ属植物は,古くより伝統薬として用いられており,およそ 50 種が世界中の乾燥地や原野に分布している (Price 1996).麻黄の基原植物 3 種の中でも特にシナマオウが古来より良質であるとされている(吉澤ら 2005).また,日本薬局方に麻黄が初めて収載された 1951年より,シナマオウのみが現在まで麻黄の基原植物として記載されており(神谷 2012),現在流通している麻黄は主にシナマオウである(株式会社ウチダ和漢薬 2020).さらに,上記 3 種は,種によってTA 含有量や Eph とPEph の比率が異なっている(Hong et al. 2011),そのため,麻黄の国内生産には,シナマオウを対象とすることが妥当である.シナマオウは中国東北部からモンゴルに分布し,原野や乾燥地に生育する裸子植物の多年生草状小低木で高さ 30~70cm,茎は細長く叢生し分枝しており(図 1-1),葉は細かい鱗片状で節に対生している(図 1-2)(岡田 2002,上海科学技術出版社 1985).シナマオウは雌雄異株(図 1-1)であり,地下茎(以下,ストロン)による栄養繁殖も行う(図 1-3).図 1-3 の黒い点線は根を,白い点線はストロンを示しており,ストロンは土中を匍匐し,根および地上茎を出す.また,シナマオウは厳寒や干ばつに耐え,砂質土壌,砂土,壌土いずれの土壌でも生育することができるが,低地や排水の悪い粘土は栽培に適さない(上海科学技術出版社 1985).
中国では 1980 年代よりシナマオウの栽培が開始されている(御影 2013).しかしながら,栽培方法は様々であり,確立されておらず,各農家が独自に開発しているのが現状であり,シナマオウの栽培は,種子や購入した実生苗を用いて行われている(倪ら 2015 b).前年に地上茎を収穫すると翌年には結実しないため,前年収穫されなかった圃場や野生の株から採種し,種子を入手している(倪ら 2015 b).種子から栽培する場合,入手した種子を苗床で 2 年間育苗し,実生 3 年生の苗を圃場に定植し,定植後 3 年目となる実生 5 年生(図 1- 4)の夏から秋にかけて最初の収穫が行われ,それ以降毎年収穫されている(Mikage and Kakiuchi 2005,倪ら 2015 b).中国における麻黄の主な生産地は内蒙古自治区西北部の鄂托前旗であり,中国の全生産量のおよそ 90%である 4,500~5,000t が生産されていると報告されている(佐橋 2019).
中国ではすでにシナマオウが 40 年近く栽培されているが課題も多い.栽培上の課題とし て,収穫や除草を人手で行い,人件費によるコストが高いこと,十分な灌水や施肥を行わな いとシナマオウが枯死すること,エフェドリンアルカロイド含有量が低いことである.特に,エフェドリンアルカロイド含有量が低いことは,生薬の品質低下にもつながる重要な問題 である.麻黄の野生採取品が流通していた 1990 年代の市場調査によると,麻黄の TA 含有 量は 13.3~13.9 mg/g DW であり(Liu et al. 1993,田中ら 1995),上記の日局 17 に記載され ている葛根湯で規定されている TA 含有量の範囲にも収まっている.しかしながら,中国で 栽培された麻黄のTA 含有量は野生採取品と比べて低いとの報告がある(御影 2013).また,シナマオウの TA 含有量は 3.2~23.4 mg/g DW と変異幅が大きいことも報告されているが(Hong et al. 2011),TA 含有量を高め,安定させるための品種改良は行われていない(御影2013).
中国におけるシナマオウの自生地や栽培地である内蒙古自治区は北緯 37 度 26 分から北緯 53 度 23 分,東経 97 度 20 から東経 126 度 5 分に位置している.また,大部分が標高 1000m 以上であり,総面積の 76.4%が草原で,一部に流動砂丘が見られる世界有数の乾燥地である(南家ら 2018).シナマオウの栽培地であるオルドス市は温帯大陸性乾燥気候帯に属し,年平均気温は 6.0~6.3℃,年平均気温日較差は 14.6℃と寒暖差が大きく,最高気温は 36.4℃,最低気温は-31.4℃になり,年間降水量 340~420mm で,7~9 月に雨が集中して降る(李博 1990,神近ら 1986).マオウ属植物の自生地における調査では,土壌 pH が高く,降水量が少ないほど TA 含有量が高くなると報告されている(御影 2012,Kondo et al. 1999, Wang et al. 2010).ワグネルポットを用いて土壌 pH および灌水量がシナマオウの TA 含有量に及ぼす影響の調査が行われたが,TA 含有量と土壌 pH や灌水量との間に相関はなく,再現性は得られていない(御影ら 2019 a).また,自生地によってシナマオウの TA 含有量は変動すること(Wang et al. 2010),
マオウ属植物において TA 含有量は季節変動すること(笠原ら 1986)や生長によって変動すること(梶村ら 1994)も報告されている.
一方,日本にはマオウ属植物は自生していない(Caveney et al. 2001).2018 年の日本の年間平均降水量は 1,764mm(国土交通省 水管理・国土保全局 水資源部 2019)と自生地よりも多く,日本列島は南北に長いため,北は亜寒帯から南は亜熱帯まで様々な気候区分に属しており,日本は中国の自生地や栽培地とは異なる環境である.日本における麻黄の供給リスク対策として,2013 年より石川県で麻黄を国内生産するため,実生株を用いて栽培が開始されている(安藤ら 2016).2020 年には 3.3 ha で約 2,000 株から乾燥重量 400 kg のマオウが収穫されたが,このうち,日局 17 の規格値である TA 含有量 7.0 mg/g DW を超えたのは全量の 25%である約 100 kg のみであった(北國新聞 2020).このことからも,麻黄の国内生産には,シナマオウのTA 含有量を高める育種が重要課題である.また,日本におけるシナマオウの栽培を確立するため,施肥条件(安藤ら 2016,2020)や採種(御影 2013,倪ら 2020),挿し木法(野村ら 2013,2015,倪ら 2015 a,2017,2018 a),ストロンによる増殖法(野村ら 2013,御影ら 2019 b)などの検討が行われているが,エフェドリンアルカロイド含有量の育種に不可欠な基本情報である遺伝率や遺伝子型と環境の交互作用(G×E 交互作用)に関する知見は得られていない.
医薬品である麻黄の国内生産を目指すには,日局 17 の規格値(TA 含有量 7.0 mg/g DW)を安定して超えることが必要不可欠である.さらに,漢方製剤で求められている麻黄の品質を担保するためには,過去に流通していた野生品と同程度の TA 含有量であるおよそ 13.0 mg/g DW を有する麻黄の生産を目指す必要がある.したがって,日本におけるシナマオウの栽培を確立するためには,TA 含有量への遺伝要因や環境要因の影響を評価し,育種で TA含有量を高めることや育種したシナマオウを栽培できることを示す必要がある.
シナマオウは雌雄異株であり,播種してから開花するまでには数年を要し,さらに株によって開花する株としない株があり,開花が不安定である.このようなシナマオウの特性を考慮すると,交雑育種を行うことは難しい.一方で,シナマオウは,ストロン(野村ら 2013,御影ら 2019 b)や挿し木(野村ら 2013,2015,倪ら 2015 a,2017,2018 a)による栄養繁殖の研究が進んでおり,選抜した株を栄養繁殖させていくことは可能である.
本研究では,日本における麻黄の安定生産に向け,これまでに市場流通していた麻黄の TA 含有量と同程度である TA 含有量 13.0mg/g DW を育種目標として,シナマオウ TA 含有量の向上および安定化には選抜育種が有効であることを検証することとした.シナマオウにおける選抜育種は,形質評価に基づいてジェネットを選抜し,選抜ジェネットを栄養繁殖して系統化することである(図 1-5).この選抜育種の有効性を検証するため,日本における保有する遺伝資源の育種材料としての適性や TA 含有量の経年変動,選抜効果,TA 含有量への遺伝要因および環境要因の影響について評価した.
第 2 章では,保有する遺伝資源の TA 含有量および収量性の変異,TA 含有量と収量の関係性,遺伝的多様性について調査し,日本の環境におけるシナマオウの育種材料としての適性を明らかにした.
第 3 章では,TA の含有量と収量性に対する年生や栽培地の影響を調査し,それらの安定性およびクローンでの再現性を評価した.3 地域を選び,その中から異なる 7 栽培地を選定し,栽培地としての評価および TA 含有量の選抜効果を評価した.3 地域は,中国の栽培地である内蒙古自治区と同緯度である北海道,中国の栽培地とは大きく異なり,平均気温が高く,最高気温と最低気温の差が小さく,年間降水量も多い沖縄,両地域の中間に位置し,年間の最高気温と最低気温の差が大きい関東甲信東海である.これらの結果を元に,3 試験地を選び,TA 含有量の遺伝効果および環境効果について評価した.第 1 節では,茨城での TA含有量と収量の経年変動を調査し,年生間の安定性およびクローンの再現性を評価した.第 2 節では,日本の栽培地におけるシナマオウ TA 含有量および収量の評価および TA の高含有量に対する選抜効果を評価するため,まず,北海道(恵庭・豊浦・大樹),茨城,山梨,静岡,沖縄の計 7 か所の試験地にて栽培試験を行った.続いて,各試験地にて TA 含有量を指標に選抜したジェネットを茨城の試験地へ移植し,各環境下で選抜したジェネットの TAの高含有量に対する選抜の効果を検証した.第 3 節では,TA 含有量の遺伝要因(G)および環境要因(E)の影響を評価するため,TA の広義の遺伝率および G×E 交互作用を推定した.第 1 節および第 2 節の結果に基づいて,茨城で選抜し,育成したクローン系統を茨城,山梨,静岡の 3 地点にて,3 年間栽培し,2 年間 TA 含有量の評価を行った.これらの結果から遺伝要因と環境要因が TA 含有量に及ぼす影響を明らかにし,TA 含有量が高く安定した麻黄を生産するためには,栄養繁殖個体による選抜育種が有効であることを示した.