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大学・研究所にある論文を検索できる 「CRISPR/Cas9システムによるTau凝集経路関連分子のゲノムワイドスクリーニング」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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CRISPR/Cas9システムによるTau凝集経路関連分子のゲノムワイドスクリーニング

海老沼, 五百理 東京大学 DOI:10.15083/0002002518

2021.10.15

概要

序論
 アルツハイマー病(Alzheimer disease、AD)は脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭葉側頭葉型認知症(Frontotemporal dementia、FTD)と並ぶ認知症の一つで、進行性に認知機能が低下する。病理学的に海馬などをはじめとした大規模な萎縮と、主にAmyloid β peptideの凝集による老人斑、Tau (MAPT)の凝集による神経原線維変化の蓄積を特徴とする。一方、AD以外にも、FTD、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症など多様な神経変性疾患においてTauの凝集・蓄積という共通の特徴的な病理的変化が見られ、これらの疾患群は総称してタウオパチーと呼ばれている。このことから、Tauの凝集・蓄積病理の形成は神経障害に深く関連していると考えられる。しかし、細胞内でのTau凝集メカニズムの包括的な理解は未だ得られていない。そこで本研究では、 T a u の細胞内凝集に関わる遺伝子群の包括的な同定を目的として、 CRISPR/Cas9を用いたゲノムワイドスクリーニングを行った。

結果・考察
Tau凝集体細胞モデルにおける形態学的凝集体の出現は細胞周期依存的である
 恒常的にTau凝集体を有する細胞モデルは、Tau過剰発現細胞に対しリコンビナントTau線維をトランスフェクションすることによって作出できる。そこでTauP3Ols-cVenusを過剰発現する HEK293A細胞に対し上記の方法でモデル細胞株を作出し、Tau凝集体検出方法の検討を行った。
 本モデル細胞株を顕微鏡下で観察すると、細胞内にVenusの蛍光の集積による明瞭な凝集体を観察できた。一方、この凝集体をタイムラプス観察したところ、細胞周期依存性がありΜ期から G1期に強く観察されることがわかった(図1)。さらに、このVenus蛍光で観察される凝集体の細胞内動態を薬理学的に解析したところ、飢餓状態や、微小管重合阻害により細胞周期を停止させるLovastatin. Albendazoleによって凝集体形成が強く誘導された。一方で、微小管脱重合阻害により微小管を安定化するPaclitaxelはそのような凝集 体誘導能を示さなかった。このことから、Venus蛍光により観察される凝集体は、細胞周期に伴う細胞骨格の再編成に依存的である可能性が示された(図2)。
 このような形態学的変化がある一方で、患者脳における凝集Tauの生化学的特徴であるSarkosyl不溶性獲得については、Albendazole処理による変化は認められなかった。このことから細胞周期に依存してVenus蛍光によって変動するTau凝集体は、形態的な変化にとどまる可能性があることが明らかとなった。

Tau PETプローブPBB3による細胞内Tau凝集の検出
 上記検討から、形態学的な変化により病理学的凝集体形成の変化を検出することが難しい可能性が考えられた。そこでTau凝集を検出する別の方法として、Tau PETプローブであるPBB3に着目した。PBB3は凝集Tau線維が豊富に含む)8シー卜構造を認識し結合する蛍光化合物である。まず PBB3がin vivo で形成されるTau凝集を認識できるか、またスクリーニングを視野にFACSによって検出できるかどうかを検討した。TauP3Glsを過剰発現するトランスジェニックマウス(Tautg)は、月齢依存的に100-AD病理と同様の神経細胞死及び免疫組織学的なTau凝集・蓄積病理を生じることが知られている。このTautgマウスの脳を解剖し、PBB3を含む3つの凝集特異的蛍光プローブ(PBB2、PBB3、FSB)により染色後、FACSにより評価した。その結果、他2つの染色では野生型マウスと比べTau tgマウスで顕著なシグナルを検出できなかったが、PBB3染色においてTau tgマウス特異的に検出が可能なことが明らかとなった。(図3)
 そこで次に、培養細胞モデルにおけるPBB3によるTau凝集検出の可否について検討を行った。TauP3Ols-HEK293A細胞に対する凝集誘導時のmCherry/Cas9を過剰発現するリコンビナントTau線維をトランスフェクションし、PBB3染色とFACSによる検討を行った。その結果、Tau線維導入により誘導された凝集体を保持する細胞は有意に高いPBB3蛍光値を示したことから(図4)、PBB3を利用することで、病理学的なTau凝集形成量の変化を定量的に解析できると考えられた。

Tau凝集に関連する新規分子探索のためのCRISPR/Cas9スクリーニング系の構築
 上記培養細胞モデルを用いて、Tau凝集に関連する新規分子群を網羅的に解析するために、 CRISPR/Cas9によるスクリーニングとして、pooled gRNA lentiviral libraryを用いる方法を考案した。まず前述したように、TauP3Ols-mCherry/Cas9を過剰発現するHEK293A細胞に対して作成されたTau凝集モデル細胞株に対し、Cas9の動作を確認後、gRNA lentivirusライブラリーを感染させ、Cas9によるゲノム編集を行った細胞集団を用意した。この細胞集団をPBB3で染色したのちFACSによりPBB3染色が上昇した細胞群を選別し、ゲノム抽出してレンチウイルスに由来する配列をPCRにより増幅し、次世代シーケンサーによりgRNA配列を解析し、これらの細胞においてゲノム編集の標的となった遺伝子座を網羅的に同定することに成功した(図5)。

総括
 本研究では、Tau凝集体培養細胞モデルの評価及びゲノムワイドスクリーニング系の構築と解 析を行った。培養細胞モデルにおいて、蛍光タグの集積によって形態学的に観察される凝集体は、生化学的な変化を伴わずに細胞周期に伴う細胞骨格の再編成に依存して変動する可能性が明らか となり、患者脳やモデルマウスにおいて認められる病理学的Tau凝集体とは、異なった生化学的 性質をもちうることを明らかにした。一方で、より病理学的性質を評価できるPBB3による検出 系を見出し、CRISPR/Cas9スクリーニング系を構築した。
 今後スクリーニングの結果得られた候補遺伝子の解析を進めることで、タウオパチーの原因となるTauの凝集のメカニズムについて明らかにする。また、Tauは神経細胞のみならず、疾患によってはアストロサイトやオリゴデンドロサイトに蓄積することや、線維構造が異なることも知られているが、その違いを生み出すメカニズムは一切明らかとなってない。今後本スクリーニングに用いる細胞種の変更や、導入する線維を変えることによって、様々なタウオパチーにおいて認められるTau凝集メカニズムの違いが明らかとなり、さらには発症機構の解明につながるものと期待される。

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