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大学・研究所にある論文を検索できる 「小児がんの治療集約化と移動負担に関する研究―移動時間及び距離に基づく―」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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小児がんの治療集約化と移動負担に関する研究―移動時間及び距離に基づく―

筒井, 杏奈 大阪大学

2022.03.24

概要

子どもに発生する悪性腫瘍の総称である小児がんは発生頻度が低く、がん種別に見ると多くが希少がんに区分される。欧米を中心に特定の専門治療施設に小児がん患者を集める治療集約化が進められ、本邦でも同様にがん対策の下で治療集約化が進められてきた。しかしながら先行研究より、集約化は郊外に住む患者と家族の病院への移動負 担、すなわち移動時間及び距離が増加する傾向にあること、大きな移動負担は患者と家族に苦痛が生じうること、並びに、本邦の小児がん患者の親にて移動負担に受容限度があることが報告されてきた。実際、本邦の治療集約化には改善の余地があると考えられた。したがって本邦の小児がんの治療集約化を進めるため、移動時間及び距離の観点から患者と家族の病院への移動負担についてリアルワールドデータに基づき調査し検討することが重要と考えた。本研究では以下4つの研究を実施した。

【研究1】経路探索Webサービスによる移動推定手法
【目的】移動負担の評価指標となる患者居住地から病院までの移動時間及び距離を推定する方法を検討した。【方法・結果】医学系研究では適用例が僅かであったが精度の高さと効率性の観点から、経路探索Webサービスを活用する手法が有用と考えられた。本手法は、経路探索サービスを提供するWebサーバーに二点間の経路探索のリクエストを送信してレスポンスを受信し、レスポンスに含まれる推定移動時間 (Estimated Travel Time; ETT) 及び推定移動距離 (Estimated Travel Distance; ETD) の情報を抽出する。先行研究ではWeb Application Programming Interface (API) が用いられ、開発されたプログラムに基づいてR等の統計解析ソフトウエアから経路探索が繰り返し実行されていた。本研究では、統計解析ソフトウエアSASからそれぞれGoogle Directions API及びNAVITIME APIの2種類のWeb APIを用いるプログラムを開発した。将来的に医学系研究で患者住所と病院所在地の情報を含むデータを取り扱うことを考慮し、必要に応じ患者及び病院が特定されないよう追加処理が実行できるようにした。具体的には、Webサービス利用前にローカルPC上で、まずアドレスマッチングツールで患者住所と病院所在地の情報を緯度経度で表現される地理座標に変換し、次に統計解析ソフトのSASやRより地理座標をランダムに移動させるようにした。【結論】本方法は住所データがあれば実施可能であり、さまざまな医学系研究での応用可能性が考えられた。

【研究2】小児がん拠点病院へのアクセシビリティ調査
【目的】本邦全土の15歳未満の小児が、2013年より整備された15施設の小児がん拠点病院のうち最寄りの施設に自動車でアクセスする場合の移動時間及び距離をシミュレーションにより調査した。【方法】目的地に小児がん拠点病院 (n=15; 2019年4月1日時点)、出発地の患者住所についてはダミー住所として市区町村役場 (n=5,743; 2014年時点) をそれぞれ設定し、Google Directions APIにてETT及びETDを推定した。出発地毎に最寄りの小児がん拠点病院を特定し、ETTは車移動であることを考慮し2時間毎に15分の休憩時間を加算する調整を行った (Adjusted ETT: AETT)。15歳未満小児人口データ (2015年時点) で重みづけながら7の地域ブロック別に、最寄りの施設へのAETT及びETDの加重平均値、及び、AETTを昇順に並べた場合の累積相対度数を求めた。【結果】最寄りの施設までのAETTとETDの加重平均値はそれぞれ全国平均で約1.78時間、91.86 kmだった。地域ブロック別に見ると、複数の小児がん拠点病院を有する近畿、東海・北陸、及び、関東・甲信越はAETTの加重平均値は0.78–1.07時間で、住民の60%以上が1時間以内に最寄りの施設に到達可能だった。一方で小児がん拠点病院の指定数が1施設である他の地域ブロックはAETTの加重平均値は1.86–5.73時間で、特に中国・四国、東北、及び、九州・沖縄では1時間以内に最寄りの施設に到達可能な住民の割合は18.1–26.2%であった。【結論】実際には患者や家族の状況により異なるが、全国平均では患者と家族は日帰りで最寄りの施設で受療可能と考えられた。しかし地域ブロック内の指定数が1施設か複数施設かにより移動時間や距離に差が見られ、日帰りが難しいと考えられる地域も見られた。

【研究3】愛知県がん登録データによる長期移動実態推定
【目的】愛知県の小児がん患者の20年間と長期の移動負担実態を調査した。【方法】1998年から2017年までにがんと診断されて愛知県がん登録に登録された15歳未満の小児のデータより解析対象の1,741例を抽出し、重複を許して観血的治療群 (n=697)、放射線治療群 (n=371)、及び、薬物治療群 (n=1,462) の3種類の治療受療群に抽出した。診断時患者住所と各治療医療機関の所在地情報 (いずれも大字・町字までの位置情報) を参照し、個人情報保護のため各位置情報をランダムに修正した。そして患者居住地から各治療医療機関への移動についてそれぞれ、ETT及びETDをGoogle Directions APIより、直線距離をVincentyの式より求めた。ETTは診断群別、がんの進展度別、居住地域、診断期間 (前期: 1998–2005, 中期: 2006–2012, 後期: 2013–2017) 別に要約した。中期と後期については、ETTをBrunnerMunzel検定にて比較し、各施設の1年あたりの平均症例数を求めて比較した。1998–2017年のETT、ETD、及び、直線距離の各年の中央値をJoinpoint回帰モデルに基づき分析した。【結果】いずれの治療群においても3期間を通じ、ETTは中央値で0.38–0.45時間だった。中期から後期にかけてETTが中央値で0.02–0.07時間増加し、特に放射線治療群では有意な差が見られた (Brunner-Munzel検定: p=0.037)。かつ、相対的に症例数の多い上位医療機関にて1年あたりの症例数に増加が見られた。Joinpoint回帰モデルに基づく分析では、1998–2017年におけるETT、ETD、及び、直線距離の中央値の年次推移に全てJoinpointは見られなかった。【結論】中期から後期にかけて治療集約化がみられたものの移動時間増は中央値で0.07時間以下であり、臨床的に意義があると言えないことが示唆された。

【研究4】全国がん登録データによる日本の移動実態推定
【目的】本邦全土の最新の小児がん患者の移動負担実態を調査した。【方法】2016年から2017年までの2年間にがんと診断されて全国がん登録に登録された19歳未満の小児のデータより解析対象の5,367例を抽出し、重複を許して観血的治療群 (n=2,514)、放射線治療群 (n=936)、及び、薬物治療群 (n=4,079) の3種類の治療受療群に抽出した。各治療を居住地の二次医療圏外で受療したことをイベントとして治療受療群に多重ロジスティック回帰分析にて各共変量 (就学区分、診断群、がんの進展度、地域ブロック、人口密度等) の調整済みオッズ比を求めた。同じ共変量に関し、生存時間解析として診断時からの生存期間を基に多変量Cox比例ハザードモデルにて各ハザード比を求めた。【結果】二次医療圏外に移動するリスクは、診断群、地域ブロック、人口密度等にて全治療群で共通に有意な差が見られた。生存時間解析では打ち切り例が多く、死亡に対するハザード比に関し共通して有意な差が見られた変数はなかった。【結論】二次医療圏外に移動するリスクは、診断群や居住地域の属性など複数の要因が関係していることが明らかになった。今後、ETTやETDに基づく検討が必要である。

本研究で提案した住所・経路探索方法は現在、住所データがあれば応用可能であり、この方法により初めて小児がん患者の移動負担について具体的な数値及び経年変化を明らかにすることができた。治療集約化の是非やあり方の検討は様々な要因から多角的に検討されるべきものであり、本研究は具体的な検討を進める方法論を提案できたと考える。小児がんのような希少な疾患において治療集約化は重要であり、本邦では改善の余地があると考えられる。今後、さらに検討を進めて集約化に向けた基礎資料の提供を行う必要がある。

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