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Factors of Having Difficulties Raising 3-Year-Old Children in Japan: Usefulness of Maternal and Child Health Information Accumulated by the Local Government

田川 紀美子 広島大学

2022.03.23

概要

Factors of Having Difficulties Raising
3-Year-Old Children in Japan:
Usefulness of Maternal and Child Health Information
Accumulated by the Local Government
(日本の親が感じる3歳児の育てにくさの要因:
地方自治体に集積された母子保健情報の有用性)

田川

紀美子

(医歯薬保健学研究科

保健学専攻)

1.背景
日本は,1990 年に合計特殊出生率が 1.57 に達したいわゆる「1.57 ショック」を契機に
少子化対策に取り組んできた。しかし,少子化は改善されず,2019 年の出生数は予想より
2 年も早く 90 万人を割り込んだ。このような状況の中 2015 年に「健やか親子 21(第 2 次)」
では,切れ目ない妊産婦・乳幼児への保健対策が基盤課題として,育てにくさを感じる親
に寄り添う支援が重点課題として設定された。育てにくさについては,関連する概念とし
て「育児不安」
「育児ストレス」
「育児負担感」「育児困難感」があげられ,虐待や親の抑う
つ傾向につながる可能性が報告されている。また,少子化で子どもの数が減少しているに
も関わらず,子どもの虐待相談件数は年々増加している。虐待の加害者の多くは親であり,
育児不安がその要因の一つとの報告もあり,虐待を予防する上でも育てにくさを支援する
必要がある。
現在,日本では親子を支援する仕組みとして,妊娠の届出時に母子健康手帳を発行し,
その後,妊婦健診,乳児健診,1 歳 6 か月児健診,3 歳児健診の費用を助成することが法律
で決められている。乳幼児健診の受診率は全国で 95%を超えており,母子保健に関する情
報は各自治体に集積されている。山縣は,乳幼児健診から得られるデータの活用を重要な
課題とし,その有用性を検討すべきであると述べている。さらに,国への報告だけでなく,
日々の母子保健業務への活用も期待されており,
「健やか親子 21(第 2 次)
」においても母
子保健情報の活用が課題とされている。
現在,母子保健情報を使用し親子への影響を分析した研究は行われてはいるが数は少な
く,母子保健情報のみを用いて,3 歳児健康診査時の親の感じる育てにくさの要因を分析し
た研究は見当たらない。そこで本研究では,地方自治体に集積された母子保健情報を用い,
3 歳児健康診査時点で親が感じる子どもの育てにくさの要因を明らかにすることを目的と
した。また母子保健情報の有用性についても検討を行った。
2.方法
2.1.対象
2013 年 9 月から 2017 年 10 月の期間に出生し,日本の広島県 A 町で住民登録されかつ期
間中に 3 歳児健康診査の対象年齢に達した子どもの保護者 507 名を対象とした。3 歳児健康
診査時に住民登録がない,
または 3 歳児健康診査の問診票に回答しなかった者は除外した。
2.2.研究デザイン
本研究は母子保健情報を利用した後ろ向きコホート研究である。この情報は,妊娠届出
時,妊娠中,出産から新生児訪問まで,新生児訪問,乳児期,4〜5 か月児健康相談,1 歳 6
か月児健康診査,3 歳児健康診査の 8 時点に自治体で収集されたものであった。
妊娠届出時の情報は,妊娠届出者から自治体に提供されたものを使用した。妊婦の年齢,
身長,体重,家族構成,喫煙,飲酒,妊娠・出産歴,既往歴,心配事など,配偶者・パー
トナーについても年齢,喫煙,飲酒,既往歴等の情報が収集されていた。妊娠中の情報は,

妊婦健康診査を実施した医療機関から A 町に提出された診療情報であった。産科医が問題
なし,経過観察,精密検査が必要,治療が必要と判断した結果である。その結果をもとに,
問題なしと問題あり(経過観察・精密検査が必要・治療が必要)の 2 群に分け情報とした。
出生から新生児訪問(乳児家庭全戸訪問事業を含む)までの情報は,親から提出された出
生連絡票の有無と新生児訪問までの連絡回数から得たものである。新生児訪問の際,母親
は育児支援チェックリスト,エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)
,赤ちゃんへの気持ち質
問票(MIBS-J)に回答した。さらに訪問した助産師または保健師が子どもの身長,体重,
頭囲,胸囲,異常の有無(出産時,1 ヶ月健診時)
,出産方法,栄養状態,訪問時の子ども
の状態などを収集した。新生児訪問時の情報をもとに,赤ちゃんの成長とお母さんの健康
状態を「問題なし」
「経過観察が必要」「受診勧奨」の 3 つに分類した総合結果も情報とし
た。
育児支援チェックリストは,母親への支援を含む育児環境を評価するための質問紙で以
下の 9 項目で構成されている。妊娠中の問題の有無,流産,死産,1 歳までに児を亡くした
経験の有無,カウンセラーや心療内科,精神科医に相談したことの有無,相談相手(夫,
実母,その他)について,経済的不安の有無,現在の住居や環境に満足しているか,妊娠
中に家族や親しい人が病気になったり亡くなったりした経験の有無,赤ちゃんが泣いてい
る理由がわからないことがあるか,赤ちゃんを叩きたいと思ったことがあるか,であった。
EPDS は,1987 年に Cox J.L.が産後うつ病のスクリーニングのために開発した 10 項目の
自記式質問紙である。各項目は 4 点満点(0〜3)で採点される。日本語版は岡野が翻訳し,
産後 1 か月のカットオフ値は 8/9 であり,9 点以上であれば産後うつ病の可能性があるとさ
れる。本研究では,EPDS スコアのカットオフ値をそれぞれ 1~14 とし,独立変数とした。
MIBS-J は,Marks M.N.が開発した MIBS を吉田らが翻訳し,妥当性・信頼性が確認された
日本語版である。10 項目で構成され,各項目は 4 点満点(0〜3)である。総得点が高いほ
ど,子どもへの否定的感情が強いことを示し,愛情不足(LA)と怒り・拒絶(AR)の 2 因
子構造である。
乳児期に関する情報は,自治体が実施する乳児健康相談への参加回数,電話相談の回数,
栄養相談の回数であった。生後 4〜5 か月児(4 か月)健康相談時の情報は,保護者が回答
した質問票,子どもの計測値(身長,体重,頭囲,胸囲)
,面接した保健師による判定結果
(問題なし,経過観察が必要,受診勧奨)であった。1 歳 6 か月児健診(1 歳 6 か月時)と
3 歳児健診(3 歳時)は,日本では法律で義務づけられている健診である。対象年齢になる
と自治体から保護者に連絡があり,子どもは保健センターで集団健診を受ける。1 歳 6 か月
時の情報は,保護者の記載した問診票,子どもの計測値(身長,体重,頭囲,胸囲)
,尿検
査結果(尿蛋白,尿糖,尿潜血)であった。さらに,小児科医や歯科医の診察結果,歯科
衛生士,栄養士,保健師の判定を情報とした。3 歳時の情報は,保護者が記入した問診票か
ら,記入者,家族構成,育てにくさ,虐待に関する項目,健診の受診状況などであった。
1 歳 6 か月時と 3 歳時で,保護者が育てにくさを「いつも感じている」
「時々感じている」

と回答したものを「育てにくさあり」,「感じない」と回答したものを「育てにくさなし」
とし分析した。本研究では,
「健やか親子 21(第 2 次)
」での定義と同様に,育てにくさを
「子育てに関わる者が感じる育児上の困難感で,親と子の様々な要素を含む。」とした。
2.3.分析方法
対象者について記述統計を行った。3 歳時の育てにくさの有無で区分した Shapiro-Wilk
検定では,母親の出産時の年齢,妊娠週数,出生時体重,EPDS 得点,出産から EPDS 実施ま
での日数,MIBS-J は正規性が認められなかったため,Mann-Whitney の U 検定を行った。児
の性別と EPDS≧9 についてはχ²検定を用い,出生順位と 3 歳時点の兄弟数については
Fisher の正確検定を行った。
3 歳時の育てにくさの有無(0:ない 1:ある)を従属変数とし,ロジスティック回帰分
析を行った。3 歳時の育てにくさを従属変数とした単変量回帰分析を行い,p 値が 0.1 以下
の変数を独立変数とした。各独立変数の欠損値が異なるため,Nagelkerke の R²値の増加か
つ p 値が 0.05 未満となることを条件とした変数増加法を用い,ロジスティック回帰分析を
行った。本研究では,EPDS スコアのカットオフ値をそれぞれ 1~14 まで独立変数として設
定した。EPDS のカットオフ値ごとの変数は,他の独立変数と同様にモデルに投入した。た
だし,同時に投入されることのないように 1 つずつ投入した。VIF を用い多重共線性の確認
を行った。モデルの適合度を調べるために,ROC 分析と Hosmer-Lemeshow 検定を行った。
1 歳 6 か月時および 3 歳時において,育てにくさを感じていることと虐待行動との相関分
析はφ係数を用いて行った。統計解析は,統計ソフト R version 4.1.0(パッケージ: Epi,
car,psych,pROC,rcompanion,ResourceSelection)を用いて実施し, p 値 0.05 未満を
有意とした。
2.4.倫理的配慮
本研究で使用したデータは,自治体が母子保健情報として収集したものである。データ
を収集する際,氏名や生年月日等の個人を特定できる情報は含めなかった。また本研究は,
広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認(E-909-1)を得て実施した。
3.結果
期間中に 640 名の子どもが 3 歳児健康診査の対象年齢に達した。そのうち 117 名が 3 歳
時に住民登録がなく,16 名から 3 歳児健康診査の問診票への回答がなかったため,133 名
の保護者が分析対象から除外された。分析対象となった 507 名の属性を表 1 に示す。ほと
んどの変数に 15~20%の欠損値があったが,最も欠損値が多かったのは,分娩時の出血量で
50.9%(n=260)であった。本研究の母親の出産時の年齢は 31.1 歳(SD=5.1)であり,1
歳 6 か月時,3 歳時で,育てにくさを感じている親の割合は,本研究ではそれぞれ 25.2%,
40.8%(無回答を除く),全国では 25.6%,33.8%であった。妊娠届出から 3 歳時までの平
均期間は 3.7 年(SD=0.4)であった。3 歳時の同居家族数の平均は 4.0 人(SD=0.9)であ
り,母親 465 名(91.7%)は,子どもの父親と同居していた。

3 歳時の育てにくさを従属変数とした単変量ロジスティック回帰分析では,p 値が 0.1 以
下の変数は 142 個であった。親の喫煙・飲酒は,妊娠届出時,1 歳 6 か月時ともに有意水準
を満たさなかった。ロジスティック回帰分析の結果,3 歳時の育てにくさには以下の 11 の
要因が明らかとなった。子どもの背景としては“姉がいる(調整オッズ比(adOR,0.3;
95%CI,0.1–0.7)) ”,新生児訪問時の要因は“妊娠中に問題があった(adOR,3.4;
95%CI,1.1–10.6) ”,“復職の予定がある(adOR,0.4; 95%CI,0.2–0.8) ”,“母親に「経
過観察」が必要(adOR,3.7; 95%CI,1.2–13.0) ”,“EPDS2 点以上(adOR,3.4;
95%CI,1.5–8.1) ”の 4 項目だった。4 か月健康相談時の要因は“イライラするかの回答が
「どちらともいえない」 (adOR,2.3; 95%CI,1.2–4.5) ”,“生まれてから病気になったこ
とがある(adOR,3.6; 95%CI,1.6–8.6)”の 2 項目であった。1 歳 6 か月時の要因は“育てに
くさ(adOR,6.3; 95%CI,3.0–13.9) ”,“下痢しやすい(adOR,5.5; 95%CI,2.2–15.0) ”,
“転倒して受診した経験がある(adOR,4.6; 95%CI,1.6–14.5) ”,“行動がマイペースで大
人の指示が通りにくい(adOR,5.0; 95%CI,1.3–25.4) ”の 4 項目であった(表 2)
。ロジステ
ィック回帰のモデル式は以下に示す通りであり,Hosmer-Lemeshow 検定での p 値は 0.95,
独立変数間の VIF は 1.2 以下であった。

ロジスティック回帰モデルの ROC 分析の結果,AUC は 0.86 でありカットオフ値を 0.387
に設定した場合,感度 79.7,特異度 77.6,陽性的中率(PPV)71.2,陰性的中率(NPV)84.6
であった(図1および表 3)
。PPV と NPV は有病率に依存するため,有病率が変化した際の
PPV と NPV を確認するために,2014 年と 2017 年の日本における 3 歳時の育てにくさの陽性
率,本研究での感度と特異度を用いて,PPV と NPV を算出した(表 3)

3 歳時の育てにくさと 3 歳時および 1 歳 6 か月時におけると虐待行動のφ係数は、それ
ぞれ 0.22(p<0.001)
,0.21(p<0.001) であった。さらに,1 歳 6 か月時と 3 歳時にお
ける虐待行動のφ係数は 0.41(p<0.001)であった。
4.考察
本研究の目的は,3 歳時の親が感じる育てにくさの要因を明らかにすること,母子保健情
報の有用性について検討することであった。その結果,3 歳時の育てにくさに関する 11 の
要因が明らかとなった。3 歳時の育てにくさは,EPDS2 点以上(表 2 X05)
,保護者の育児不
安感,育児ストレス,育児の自信のなさ,子どもの行動特性と関連することが示された。
これは,育てにくさの関連要因とその結果に関する先行研究と一致するものであった。
本研究で明らかとなった 11 の要因のうち,4 か月健康相談時点の“生まれてから病気に

なったことがある(X07)”と 1 歳 6 か月時の“下痢しやすい(X09)”は,子どもの健康
状態に関連した要因であった。子どもが病気になると,保護者は普段の育児に加え,通院
や子どもの症状への対応など行うことが増えるため,育てにくさに影響したと考えられる。
また,子どもの健康問題と産後うつ病には有意な関連があることが指摘されておりさらに,
母親のうつ病と子どもの下痢に関係があるという報告もある。乳幼児の健康は,母親の役
割達成に関連する要因の一つともいわれている。母親役割の達成感に関連する要因と育児
への自信につながる要因は一致していることも報告されており,子どもの健康状態は親の
育児への自信や育児不安と関連していると考えられる。
1 歳 6 か月時の“育てにくさ(X08)”,4 か月健康相談時点の“イライラするかの回答
が「どちらともいえない」(X06)”は,親自身が自分の気持ちについて答えている変数で
ある。新生児訪問時の“復職の予定がある(X03)”,“母親に「経過観察」が必要(X04)”
は母親に関する変数である。したがって,これらはすべて親の要因と考えた。生後 4~5 か
月の子どもは,母乳やミルクの間隔を含め生活リズムが徐々に整ってくるが,親は離乳食の
開始など新たな課題に直面する時期でもある。この時期に親がイライラしているかどうか
「どちらともいえない」という状況が生じており,そのことが 3 歳時の育てにくさの要因と
なっていた。実際にイライラすると回答していない場合でも,親子を見守っていく必要性
が示唆された。“復職の予定がある(X03)”は,負の要因であった。働いている母親は,
専業主婦に比べて育児ストレスが低いという報告があり,新生児訪問時復職予定のある母
親は,3 歳児健診の時点で実際に働いている可能性が高い。したがって,復職予定ありと回
答した母親は,育児ストレスが少なく育てにくさを感じにくいと考えられる。また,“母
親に「経過観察」が必要(X04)”,“EPDS2 点以上(X05) ” が要因となっており,産後初
期の母親の状態が,その後の育児に関係していることがわかる。これらのことは,産後早
期からの支援の必要性を示唆している。
1 歳 6 か月時の要因である,“行動がマイペースで大人の指示が通りにくい(X11)”や
“転倒して受診した経験がある(X10)”は子どもの特徴と考えられる。転倒などの怪我は,
多動や落ち着きのなさが関係している可能性がある。多動性などの特性を持つ子どもの母
親は,
「行動への対応」に難しさを感じ,子どもや育児に対して否定的な感情を抱いている
との報告がある。さらに,母親が子どもの気質を難しいと判断すると育児ストレスが高ま
り,発達障害児の親は育児ストレスや将来への不安が高くなるとの報告もある。そのため
多動性,不注意,衝動性などの特性は,育児ストレスや育児不安に関連しており,育てに
くさの要因となったと考えられる。一方,
「大人の指示が通りにくい」ことは,1 歳 6 か月
の子どもにとっては正常な発達とみなすこともできる。子どもの行動に問題があるかどう
かだけでなく,親が子どもをどのように受け止めているかを把握することも必要かもしれ
ない。また,1 歳 6 か月の子どもの 67.8%が何らかの事故を起こしていることが報告され
ている。子どもの事故の原因は,子どもの問題,家族背景,環境問題,製品問題など多岐
にわたると言われているが,親の監督が行き届いていないという誤解もある。子どもの多

動性や衝動性等の特性に関わらず子どもが事故に遭うことで,親が育児に自信をなくした
結果,育てにくさに繋がったとも考えられる。
本研究では,子どもの性別や出生順位は要因ではなかったが,“姉がいる(X02)”は 3
歳時の育てにくさの負の要因であった。これは,一般的に男の子の方が育てにくいとされ
ている他の報告とは矛盾しているように思われる。実際,男児は暴力的,落ち着きのなさ,
反抗的な行動のリスクが高いことが報告されている。また兄弟の子育てに苦労するとそれ
以外の子どもに対しても育児に困難感を感じるといった報告もある。このことは,逆に言
えば,上の子への育児困難感を抱かない親は,下の子の育児に対しても困難を感じないこ
とを意味している可能性もある。これらのことから,姉の育児経験が親の子育てへの自信
につながり,その自信によって育てにくさを軽減させる可能性が示唆された。育児への自
信を持てるような関わりをすることで,育てにくさを感じにくくなると考えられる。
本研究では,EPDS が 3 歳時の育てにくさの要因となっていた。したがって,EPDS は育て
にくさを測定するツールとして利用できる可能性がある。日本では EPDS の 9/8 をカットオ
フ値として産後うつ病のスクリーニングに使用している。本研究では,9 点以上の母親の割
合は 9.7%,平均値は 4.2 点(中央値 4 点)であり,日本での報告とほぼ同じであった。し
たがって,EPDS の回答では 90%以上の母親が産後うつ病ではないと判断された。本研究の
EPDS 測定時期は産後 50.4 日(SD=24.9)であり,産後うつ病のリスクについては言及でき
ないが,3 歳時の育てにくさに影響することが示された。産後うつ症状のある母親は,子ど
もが 5 歳になっても育児不安や疲労感があり,子どもが気になる行動をすることが多かっ
たとの報告もある。EPDS の因子構造を分析した研究では,不安やうつ傾向に関連する因子
が確認されている。EPDS は 3 歳時点での育児不安を予測したことから,育てにくさにつな
がった可能性が考えられる。今後は,産後うつ病のリスクのある母親だけでなく,すべて
の母親への EPDS の実施を検討する必要がある。アメリカでは,EPDS は産後 1 ヶ月,2 ヶ月,
4 ヶ月,1 年で実施することが推奨されている。EPDS の実施時期だけでなく,回数や産後う
つ病のスクリーニング以外での活用方法も検討することが必要である。
本研究では,MIBS-J の総合得点および下位尺度は,3 歳時の育てにくさの要因とはなら
なかった。日本では,MIBS-J は,ボンディング障害のスクリーニングに用いられている。
ボンディング障害は,周産期のメンタルヘルスにとって重要な問題である。3 歳時の育てに
くさの有無で分類した結果,
「育てにくさあり」群では MIBS-J 得点が有意に高かった。産
後うつ病とボンディング障害の関係は以前から報告されており,
産後 1 ヶ月と 6 ヶ月の EPDS
得点は産後 1 年の「ボンディング」と関連していた。また,妊娠に対する否定的な感情は
産後うつ病やボンディング障害に関連しており,産後うつ病への影響は「ボンディング」
に依存することが示されている。本研究では,妊娠中の否定的な思いは調査されておらず,
産後うつ病の診断もされていない。しかし,EPDS は 3 歳時の育てにくさに影響しており,
実施時期が異なれば MIBS-J も育てにくさの要因になる可能性はある。新生児訪問時やその
後の乳幼児健診で MIBS-J を用いるなど,今後実施時期の検討も必要と考える。

本研究では,1 歳 6 か月健診時までの変数が 3 歳児健診時の育てにくさに影響すること
が明らかとなった。このことからも,縦断的な母子保健情報の有用性が示された。PPV,NPV
は有病率に依存すると言われている。そこで,2014 年と 2017 年の日本の 3 歳時点における
育てにくさの割合と,本研究における感度・特異度を用いて,PPV と NPV を算出した(表 3)

このモデルは有病率が変化しても安定した PPV と NPV が得られ(表 3)
,その結果,3 歳時
の育てにくさを予測することができると考えた。
本研究にはいくつかの限界がある。第一に,日本の特定の地域の母子保健情報を用いた
点である。この地域は 3 歳時の育てにくさの陽性率が全国と比べて高い。しかし,東京,
大阪,愛知などの一部の都道府県でも同様に陽性率が 35%を超えている。そのため今回の結
果は,日本全体を表したとは言い難いが都市部を代表したものと考えられる。第二に,喫
煙や経済状況についての情報が少ない点である。親の喫煙は本研究では要因にならなかっ
た。しかし,子どもの問題行動や発達と関連することが報告されている。本研究では喫煙
歴について全期間の情報がなく,回答も自記式であるため,実態を把握することは困難で
ある。さらに,世帯収入などの情報は得られておらず,貧困との関係も分析されていない。
今後,これらを考慮した調査が必要である。第三に,1 つの自治体の母子保健情報を使用し
た点である。一般化できる予測モデルを作成するためには,自治体数を増やし分析する必
要がある。
5.結論
3 歳児健康診査時の親の感じる育てにくさには,
1 歳 6 か月時の“育てにくさ
(X08)”
,“行
動がマイペースで大人の指示が通りにくい(X11)

,新生児訪問時の“EPDS2 点以上(X05)”,
“復職の予定がある(X03)
”を含む 11 の要因があることが明らかとなった。妊娠中からの
影響もあり,早期からの継続的な支援の必要性が示された。
また自治体にある母子保健情報を活用することで,従来であれば要支援者としてはあが
ってこなかったが,支援が必要となる親子をスクリーニングすることが可能であり,母子
保健情報の有用性が示された。

129
290
71
13
4
496
507
358
357
35
322
355

1.5

1.7

) <0.001 †

<0.001 ‡






0.45 §

0.14 §

0.81 ‡

p value
0.27 †

0.04
)
0.88
)
0.52
)
) <0.001

)

( 0.8 )

平均 ( SD )
30.8 ( 4.9 )

1.0 ( 0.8
( 22.7 )
( 58.3 )
( 15.3 )
( 2.7 )
( 1.0 )
38.5 ( 1.7
( 98.0 )
( 100 ) 2954.0( 437.9
51.4 ( 26.3
( 68.7 )
3.3 ( 2.6
( 68.3 )
( 3.0 )
( 65.3 )
1.2 ( 1.76
( 68.0 )

145 ( 48.3 )
117 ( 39.0 )
28 ( 9.3 )
8 ( 2.7 )
2 ( 0.7 )
68
175
46
8
3
) 294
) 300
) 206
) 205
9
196
) 204

)

( 0.7 )

0.9 ( 0.8
( 29.5 )
( 55.6 )
( 12.1 )
( 2.4 )
( 0.5 )
( 97.6 ) 38.7 ( 1.9
( 100 ) 2951.9( 442.0
( 73.4 ) 48.9 ( 23.0
5.5 ( 3.8
( 73.4 )
( 12.6 )
( 60.9 )
2.3 ( 2.46
( 72.9 )

119 ( 57.5 )
68 ( 32.9 )
18 ( 8.7 )
1 ( 0.5 )
1 ( 0.5 )
61
115
25
5
1
) 202
) 207
) 152
) 152
26
126
) 151

)

( 0.8 )

1.0 ( 0.8
( 25.4 )
( 57.2 )
( 14.0 )
( 2.6 )
( 0.8 )
38.6 ( 1.8
( 97.8 )
( 100 ) 2953.1( 439.1
50.3 ( 25.0
( 70.6 )
4.2 ( 3.4
( 70.4 )
( 6.9 )
( 63.5 )
1.7 ( 2.2
( 70.0 )

1.6

168 ( 56.0 )
132 ( 44.0 )

119 ( 57.5 )
88 ( 42.5 )

287 ( 56.6 )
220 ( 43.4 )
264 ( 52.1 )
185 ( 36.5 )
46 ( 9.1 )
9 ( 1.8 )
3 ( 0.6 )

平均 ( SD ) N ( % )
31.6 ( 5.2 ) 299 ( 99.7 )

平均 ( SD ) N ( % )
31.1 ( 5.1 ) 207 ( 100 )

3歳時の育てにくさなし
N=300

N ( % )
506 ( 99.8 )

3歳時の育てにくさあり
N=207

連続変数にはMann-WhitneyのU検定、それ以外の変数にはχ²検定を使用した。†Mann-Whitney U 検定、‡χ² 検定、
§Fisherの正確確率検定 欠損値の数 : # ¹ 1, # ² 11, # ³ 149, # ⁴ 150, # ⁵ 152

変数
母親の出産時年齢 #¹
子どもの性別
 男
 女
出生順位
1
2
3
4
5
3歳時点の兄弟数
0
1
2
3
≥4
在胎週数 (週) #²
出生時体重
EPDS実施日(産後日)#³
EPDS #⁴
 EPDS≥9
 EPDS<9
MIBS-J#⁵

Total N=507

表1. 対象者の属性と3歳時の育てにくさの有無による違い

表 2. 3歳時の育てにくさの要因
adOR

95%CI

p value

X01 姉がいる

0.33

0.14- 0.71

0.030

X02 新生児訪問時 妊娠中に問題があった

3.41

1.13-10.55

0.006

X03 新生児訪問時 復職の予定がある

0.40

0.21- 0.76

0.006

X04 新生児訪問時点 母親に「経過観察」が必要

3.73

1.15-12.95

0.031

X05 新生児訪問時点 EPDS≥2

3.39

1.52- 8.13

0.004

2.32

1.21- 4.50

0.011

3.59

1.56- 8.57

0.003

X08 1歳6か月健康診査時点 育てにくさ

6.29

2.99-13.89

<0.001

X09 1歳6か月健康診査時点 下痢しやすい

5.53

2.17-14.95

<0.001

X10 1歳6か月健康診査時点 転倒して受診した経験がある

4.63

1.60-14.53

0.006

5.05

1.35-25.45

0.027

4か月健康相談時点
イライラするかの回答が「どちらともいえない」
4か月健康相談時点
X07
生まれてから病気になったことがある

X06

X11

1歳6か月健康診査時点
行動がマイペースで大人の指示が通りにくい

95%CI; 95%信頼区間 adOR; 調整済みオッズ比

表3.3歳時の育てにくさの陽性的中率・陰性的中率の比較
日本

カットオフ値

2014年

2017年

0.387

感度

79.7

(79.7)

(79.7)

特異度

77.6

(77.6)

(77.6)

陽性的中率

71.2

67.8

64.5

陰性的中率

84.6

86.6

88.2

AUC

0.86
37.2%

33.8%

陽性率(有病率)

41.1%

AUC:Area Under the Curve(曲線下面積)

図1.3 歳時の育てにくさモデルの ROC 曲線

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