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大学・研究所にある論文を検索できる 「尿細管上皮細胞へのずり応力曝露可能な培養系の構築」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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尿細管上皮細胞へのずり応力曝露可能な培養系の構築

近森, 正智 東京大学 DOI:10.15083/0002002410

2021.10.13

概要

血液中の溶質は、糸球体で濾過された後、尿細管腔で種々のイオン等を吸収・再吸収され、尿として排泄される。この腎機能は、主に尿細管上皮細胞上の種々のイオンチャネルに依存している。尿細管上皮細胞上に発現する一次繊毛は、尿流の化学的刺激やずり応力という物理的刺激を感知することで、細胞の異常増殖抑制やイオンチャネルの調節などを行っている。従来の培養デュッシュを用いた実験系では、分化を促進させる血清飢餓を行っても一次繊毛の発現率は低く、また物理的な刺激を与えることができず、一次繊毛を介した細胞応答を観察することが出来ないため、一次繊毛を対象とした創薬開発が困難であった。

 マイクロ流体培養デバイスとは、フォトファブリケーションなどによる微細加工技術によって作られた流路を持つチップのことを呼び、シリンジポンプなどを用いた灌流培養が可能である。このマイクロ流体培養デバイスを使うことによって、尿細管上皮細胞の一次繊毛に対して、ずり応力を与えると、一次繊毛の発現率上昇や細胞の高さの増加、及び細胞極性の出現を認めるとされる。また一次繊毛がずり応力により曲げられることによってPolycystin-2などを介して細胞内カルシウム濃度が上昇し、複数の細胞応答を示すことが報告されている。一方でずり応力が強すぎると一次繊毛の発現率が低下するため、ずり応力を正確に調節することが可能な実験系が必要であった。

 一次繊毛を発現させる方法として血清飢餓及び接触阻害があるが、両者で一部の遺伝子の発現が異なるとされ、接触阻害の効率は細胞密度に依存すると報告されており、接触阻害により一次繊毛を分化させる場合には細胞密度をそろえる必要があると考えられる。

 急性腎障害の主要な原因の一つとして虚血再灌流がある。再灌流時には酸化ストレスが起きると共に尿流の減少、及び尿細管腔内のずり応力低下を伴う。この際に一次繊毛が伸長すると報告されているものの、この生理的な意義は未解明となっている。

 以上の背景から本研究では、酸化ストレスを与える過酸化水素水曝露によって伸長した一次繊毛において、ずり応力による細胞内カルシウム濃度の上昇がどう変化するのかを検証することを目的とした。この検証のため、灌流量によりずり応力が調節可能かつ一様で、4つの細胞培養チャンバーを有する灌流培養可能なマイクロ流体培養デバイスを設計・構築することとした。

 まず汎用シミュレーションソフトウェアCOMSOLを用いて、マイクロ流体培養デバイスの細胞播種時のチャネル内流速、灌流培養中の細胞培養チャンバー内のずり応力をシミュレーションした。細胞播種時、流速が低下する場所で細胞接着が起きるが、細胞培養チャンバー以外のチャネル内に大量に細胞接着すると閉塞や流路抵抗変化に伴う流線の偏移が懸念される。このため、流路の合流角度や流路幅を適度に設計することにより、細胞培養チャンバーに限局して細胞接着する流路設計を行うことができた。また細胞培養チャンバー内のずり応力が1%未満の変動幅となる範囲を検証することで観察範囲を決定した。

 本培養デバイスは4つの細胞培養チャンバーを有しているが、各細胞培養チャンバー間で細胞密度が異なると接触阻害の程度や細胞単位あたりの灌流培地量が異なる可能性があるため、灌流培養後の細胞数を計測したが、いずれの細胞培養チャンバーでも細胞数は同程度であることが示された。

 ずり応力の計算には灌流培地の高さが必要になるため、構造化照明顕微鏡法を用いて細胞培養チャンバー内の3次元スタック画像を撮影した。細胞培養チャンバーの高さは110μmであったが、細胞が細胞培養チャンバーの天井面、底面に接着しているため、灌流培地の高さは61.8 ± 4.5μmとなり、ずり応力のシミュレーションの結果を踏まえると灌流培養によってin vivoの半分程度のずり応力が再現可能であることが示された。

 本培養デバイスは、数日間単位の長時間曝露、数時間単位の短時間曝露の2種類の薬剤曝露法が可能であり、マイクロミキサにより曝露薬剤を細胞培養チャンバー毎に0:25:75:100の濃度に分配するようデザインされている。蛍光色素Fluoresceinを用いたタイムラプス撮影を行い、長時間曝露及び短時間曝露においてデザイン通りに薬剤が分配されることが確認された。

 以上から、本培養デバイスを用いることで、一様なずり応力を与えながら尿細管上皮細胞を灌流培養し4種類の濃度で薬剤曝露が可能であることが示された。このため400μMの過酸化水素水を導入し、マイクロミキサにて各細胞培養チャンバーの濃度が0、100、300及び400μMになるよう曝露させて一次繊毛の長さを測定したところ、それぞれ10.6 ± 4.1μm、10.3 ± 3.0μm、12.5 ± 4.2μm及び9.7 ± 2.9μmとなり、300μMまでは従来のin vivo及びin vitro実験の報告と同様に酸化ストレスにより一次繊毛が伸長することが示された。
 
 酸化ストレスによって伸長した一次繊毛において細胞内カルシウム濃度がどのように変化するかを検証ため、過酸化水素水により伸長した一次繊毛にかかるずり応力を灌流量調節により漸増させ、細胞内カルシウム濃度の変化をFluo4-AMを用いてタイムラプス撮影し観察した。その結果、過酸化水素水の濃度が0、100、及び300μMとなる細胞培養チャンバーの尿細管上皮細胞では曝露濃度が上昇する程、弱いずり応力でも細胞内カルシウム濃度が急上昇することが示された。

 以上より、酸化ストレスにより一次繊毛が伸長することは、虚血再灌流で起きるずり応力低下時にあっても一次繊毛による細胞応答を持続させるためであることが示唆された。本研究では、尿細管上皮細胞単独で培養していることからin vivoで認める線維芽細胞・血管内皮細胞からの影響を観察することができないため、共培養を今後検討していく予定である。

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