Clinical Significance of TAP1 and DLL4 Expression in Patients With Locally Advanced Gastric Cancer
概要
1.序論
2020年の胃癌の新規罹患数は全世界で1089103人であり,5番目に高い発生率であり,また2020年の死亡数は768793人であり,癌死のうちの第4位である.
Stage II/IIIの胃癌では3つの試験(ASTS-GC(Sakuramoto et al., 2007 ),CLASSIC(Noh et al., 2014), JACRRO GC-07(Yoshida et ai., 2019))をもとに根治的外科的切除および補助化学療法が標準的に行われている.しかしながら,その治療成績は未だ十分なものではない.これを改善する一つとして,バイオマーカーを用いた個別化治療が期待されている.1997年に癌幹細胞は転移,再発,化学療法耐性に関連していると報告された(Bonnet et al., 1997).そこで今回われわれは,2つの癌幹細胞マーカー(transporter associated with antigen processing 1 (TAP1) と Delta-like 4 (DLL4))とDelta-like4(DLL4))の発現の臨床的意義について検討した.
2.対象と方法
2002-2012年に神奈川県立がんセンターにて胃癌に対して根治的胃切除を施行し,死亡退院を除いた症例のうち,術後5年以内の重複癌や術前化学療法の前治療歴がない413症例である.施設の倫理委員会の承認を得て,全ての患者に説明と同意を得た.(No: Epidemiological Study-2019-133)
外科切除検体のホルマリン固定パラフィンブロックより,腫瘍中心部,腫瘍辺縁部,近接正常粘膜の3箇所を打ち抜き,Tissue Micro Array(TMA)を作成し,これを用いて,TAP1およびDLL4を免疫組織化学にて解析し,これら二つの癌幹細胞マーカーのタンパク発現と臨床組織学的因子および生存との関連を検討した.
生存分析としてKaplan-Meier法を用い,log-rank検定を用いて生存率の差異について評価し,さらには臨床病理学的因子(年齡,性別,腫瘍径,組織型,漿膜浸潤の有無,リンパ節転移の有無,リンパ管浸潤の有無,静脈浸潤の有無)やTAP1発現,DLL4発現と全生存期間(over all survival: OS)との関係についてCox比例ハザードモデルに基づく単変量・多変量解析を行った.
3.結果
TAP4,DLL4の高発現率は,それぞれ15.3%,25.9%であった.臨床病理学的因子では,TAP1の高発現は,病理病期(pStage II)と,DLL4の高発現は,静脈侵襲ありと有意な関係であった.TAP1高発現群はTAP1低発現群と比較し,全生存期間は有意に良好であった(p=0.004)(5年全生存率89.6%vs65.7%)であった.DLL4の発現レベルは全生存期間に有意な差を示さなかった.全生存期間に関する解析を行うと,単変量解析により,年齢,腫瘍径,漿膜浸潤,TAP1発現が重要な因子として選択された.多変量解析では,年齢,腫瘍径,漿膜浸潤,TAP1発現(HR; 0.400,95%CI: 0.253-0.662,p<0.01)が独立した予後規定因子であることが示された.
4.考察
癌幹細胞マーカーであるTAP1高発現の群は全生存期間が有意に長く,かつ胃癌を根治切除された患者において,胃癌組織中のTAP1発現は独立した予後因子であり,有用な術後予後予測因子となりうる可能性が示唆された.
胃癌患者における癌幹細胞マーカーTAP1発現の臨床的意義の報告はわれわれの調べ得た限りでは最初の報告である.これまでにさまざまな癌組織でのTAP1発現と予後の関連が報告されている.Stage I/IIの結腸直腸癌436例では,TAP1高発現群で有意に癌特異的生存割合が高く,TAP1発現が独立した予後因子であったとの報告がある(Ling Aetal.2017).高発現が予後良好に関与するメカニズムについては,これまで十分に明らかにされていない.これまでの報告から推測されるメカニズムについては,TAP1は,MHCクラスI抗原における細胞質から小胞体の内腔への抗原の輸送に関与する.腫瘍はMHCクラスI抗原処理経路を損なうことによって免疫応答を逃れることができると考えられていることから,TAP1が高発現している胃癌組織は細胞傷害性T細胞認識から逃れることができるとの報告がある.これらメカニズムによって,胃癌組織でTAP1が高発現している胃癌患者では,低発現の患者と比較して生存率が高くなる可能性が考えられた.