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書き出し

フレキシブル電極を用いた積層型PVCゲルアクチュエータの開発

橋本, 稔 信州大学

2021.03.01

概要

3版

様 式 C−19、F−19−1、Z−19 (共通)

科学研究費助成事業  研究成果報告書
令和

元 年

6 月 25 日現在

機関番号: 13601
研究種目: 基盤研究(B)(一般)
研究期間: 2016 ∼ 2018
課題番号: 16H04299
研究課題名(和文)フレキシブル電極を用いた積層型PVCゲルアクチュエータの開発

研究課題名(英文)Developmenet of a multilayer PVC gel actuator using flexible electrodes

研究代表者
橋本 稔(Hashimoto, Minoru)
信州大学・繊維学部・特任教授

研究者番号:60156297
交付決定額(研究期間全体):(直接経費)

13,300,000 円

研究成果の概要(和文):ポリ塩化ビニル(PVC)ゲルとフレキシブル電極を用いた、生体筋と同等の特性を有
するソフトアクチュエータの創製を目的として、フレキシブル電極の探索と試作アクチュエータの特性向上を実
施した。フレキシブル電極は研究代表者らで開発したカーボンブラック(CB)含有PVCゲルを用いたことで、特
性の安定化・低電圧化の効果が確認された。また、変位量向上のために可塑剤の組成調整やアクチュエータの積
層数比較などを実施したところ、可塑剤含有量の増加と積層数の増大による変位量向上の効果が得られた。以上
により、開発したソフトアクチュエータの特性改善のための基礎技術を確立した。

研究成果の学術的意義や社会的意義
本研究により開発を目指すアクチュエータは人間に対する高い親和性と柔軟性、軽量性、静音性を持ち、生体筋
と同様の特性を有することから、医療・福祉分野をはじめとした幅広い分野で利用されることが期待される。本
研究成果としてはソフトアクチュエータによる触覚ディスプレイへの応用を検討している。点字ディスプレイな
どの福祉機器として社会・国民に発信できるものと考える。

研究成果の概要(英文):In order to develop a soft actuator using PVC gel that have properties
equivalent to those of living muscle, we searched for flexible electrodes and the actuator
characteristics were improved. By using the carbon black containing PVC for the flexible electrode,
the effect of stabilizing the characteristics and lowering the applied voltage was confirmed.
Moreover, the composition adjustment of a plasticizer and lamination comparison of an actuator were
implemented, and the improvement of the displacement amount was performed by increasing the
plasticizer content and the number of stacked layers.
From the above, we could establish the basic technology for improving the characteristics of the
developed soft actuator.

研究分野: ロボティクス
キーワード: ソフトアクチュエータ 人工筋肉 高分子ゲル フレキシブル電極



式 C−19、F−19−1、Z−19、CK−19(共通)

1.研究開始当初の背景
近年,日本の 65 歳以上の高齢者数は人口の 25%以上となり超高齢社会を迎えた。これを受け
て医療・福祉分野へのロボットや機械システムの導入が進められている。これらの機器には人間
に対する高い親和性、安全性が求められることから、電磁モーターに代わる次世代ソフトアクチ
ュエータの開発が注目されている。
高分子材料の一つであるポリ塩化ビニル(PVC)を可塑化して作製した PVC ゲルは電圧印加
により、陽極近傍で大変形を生じるとともに、良好な応答性を有することが知られている。本申
請者らはこれに着目し、金属メッシュを陽極に用いて PVC ゲルを挟み、積層することにより大
気中で収縮駆動するソフトアクチュエータを開発した。このアクチュエータは 400V 印加時に収
縮率 10%、発生力 90kPa、応答性 9Hz という特性を有する。一方、生体筋の特性は収縮率 30%、
発生力 0.3MPa、応答性 10Hz と言われており、本アクチュエータの低電圧化と発生力、伸縮率
の増大が実現されれば生体筋と同仕様の人工筋肉が創製できる。
2.研究の目的
生体筋のように伸縮し、生体筋と同等の特性を有するフレキシブルな人工筋肉の開発を目的
とする。そのために、本研究ではメッシュ状の金属電極ではなくフレキシブルな電極を用いるこ
とにより、PVC ゲル本来の柔軟性や軽量性を損なうことなくアクチュエータを構成する。
3.研究の方法
本研究の目的を達成するために、次の研究を実施する。①導電性グリースを用いた積層型 PVC
ゲルアクチュエータの構成と特性評価、②フレキシブル電極の試作、③新たに開発したフレキシ
ブル電極を用いた積層型 PVC ゲルアクチュエータの開発の順で取り組み、最終的に生体筋特性
との比較を行う。
(1)PVC ゲルの組成と駆動原理
PVC ゲルはポリ塩化ビニル(PVC)と可塑剤で
あるアジピン酸ジブチル(DBA)を溶媒のテトラ
ヒドロフラン(THF)中で混合し、乾燥させた後
に得られる。このゲルは PVC と DBA の質量比に
より、特性を調節することができる。
金属電極を用いた場合の PVC ゲルの駆動原理
図 1 PVC ゲルの駆動原理
を図 1 に示す。電圧を印加すると電荷が陰極か
らゲルに注入され、陽極に移動し蓄積する。これ
によりゲルは陽極近傍でクリープ変形を起こ
す。電圧を除去すると静電気力が消失し、ゲル
の弾性で元の形状に戻る。
本研究では薄いフレキシブルな電極を用い
て、電圧印加によって電極と PVC ゲルが一緒に
変形する伸縮型アクチュエータを構築する。そ
の際の駆動原理を図 2 に示す。フレキシブル電
極で挟まれた PVC ゲルは、電圧印加によって陽
極近傍のゲル内部に高電荷密度層が生成され、
陽極側に沿ってクリープ変形を起こし陽極と
ともに面方向に変形し、アクチュエータが厚さ
図 2 柔軟電極を用いた
方向に収縮する(図 2(a))。同時に電極間で
PVC ゲルアクチュエータの駆動原理
Maxwell 応力も働いているため、より大きな変
位と応力が得られると考えられる。また、図
2(b)の様に積層することで、更に大きな変位を
得ることができる
(2)導電性グリースを用いた積層型アクチュエータの
構成と特性評価
フレキシブル電極として導電性グリースを用いて
積層型 PVC ゲルアクチュエータを構成する。使用した
PVC ゲルの膜厚は約 185μm で、この両面に導電性グリ
ースを塗布して 20 層まで積層し、15mm×15mm×4.2mm
の積層型アクチュエータを作製した(図 3)。質量は
0.91g であり、金属を使用した従来アクチュエータの
図 3 柔軟電極を用いた
約 40%であった。
変位量の測定は、レーザー変位計を用いて厚さ方向
PVC ゲルアクチュエータ(20 層)
の変位量を測定し、電流値の計測は 1kΩの抵抗にか
かる電圧を測定することで算出する。発生力測定では直接アクチュエータに負荷をかけ、電圧印
加・除去時の力-変位の特性を測定した。応答性は周波数 0.1-10Hz 時の変位より算出したゲイン
線図より求めた。

(3)フレキシブル電極の試作
導電性グリースを用いた場合、周囲汚染や均一塗布が課題となり、特性の安定性や耐久性に影
響する。本研究では、導電性グリースに代わるフレキシブル電極として、カーボンパーティクル
(CB)含有の PVC ゲルを作製する。成膜にはアプリケータを用いて厚さ約 30μm の CB 含有 PVC ゲ
ルを得る。
(4) 新たに開発したフレキシブル電極を用いた積層型 PVC ゲルアクチュエータの開発
CB 含有 PVC ゲルを用いた積層型アクチュエータの特性評価を行う。導電性グリースと比較検
討し、課題解消の後、生体筋との比較を行う。
4.研究成果
(1) 導電性グリースを用いた積層型アクチュエータの特性評価
導電性グリースをフレキシブル電極として用いた 20 層積層アクチュエータの特性評価結果を
図 4 に示す。印加電圧 2.5kV 時のアクチュエータの伸縮率は約 8.3%、発生力は約 171kPa、応答
性は約 7Hz であることが分かった。従来の金属製電極の積層型アクチュエータと比較すると、収
縮率と応答性が同じ程度で発生力は約 90%増大,アクチュエータの厚さが約 19%減少と全体の重
量は約 40%減少することが分かった。

(a) 変位量測定結果

(b) 一層あたりの電流値

(c) 発生力測定結果

(d) 応答性

図 4 導電性グリースを用いた
積層型アクチュエータの特性評価
(2)フレキシブル電極の試作と特性評価
フレキシブル電極としては、
PVC ゲルと親和
性がよく、剥離しないものが好ましいことか
ら、CB 含有の PVC ゲルを試作し、これをフレ
キシブル電極として 20 層の積層型アクチュ
エータを作製する(図 5)

作製した CB 含有 PVC ゲルを用いた積層型ア
クチュエータの特性評価を実施し、グリース
電極と比較した。その結果を図 6 に示す。図
図 5 CB 含有 PVC ゲルを用いた
6(a)に示すように、導電性グリースよりも CB
積層型アクチュエータ(20 層)
含有 PVC ゲルの方が収縮率が高い結果となっ
た。導電性グリースの課題の一つであった低電圧化に対しても CB 含有ゲルは有効であることが
分かった。また、一層あたりの電流値は CB ゲルの方が高くなった(図 6(b))
。図 6(c)にゲイン
線図を示す。応答性は金属製電極(SUS304)を用いた場合の 9Hz や導電性グリースを用いた場合
の 7Hz と比較して、1.5Hz と劣る。その要因としてゲル同士の吸着力が挙げられる。PVC ゲルと
電極との接触面積を安定させるため、親和性の高い PVC ゲルに CB を含有させたが、互いの吸着

力が働き、応答性に影響したと考えられる。

(a) 変位量の比較

(b) 一層あたりの電流値

(c) 応答性

図 6 CB 含有 PVC ゲルを用いた
積層型アクチュエータの特性評価結果
(3)フレキシブル電極を用いた PVC ゲルアクチュエータの特性向上の検討
CB 含有 PVC ゲルを用いることで特性が安定し、更に収縮率も向上することが確認された。し
かし、未だ目標とした生体筋の特性に劣るため、その対策として本研究の過程で有効と考えられ
た①積層数の増大、②可塑剤比率の調整の二つの実験を実施した。
①積層数の増大
収縮率の向上を目的として、CB 含有 PVC ゲルを電極として用
いた積層型アクチュエータを 1-30 層まで積層し、収縮率を比
較した。結果を図 7 に示す。金属性電極を使用する従来の PVC
ゲルアクチュエータでは、積層数に依らず収縮率はいずれも約
10%となるが、フレキシブル電極を用いた場合は、積層数が多
いほど、収縮率が向上する結果となった。しかし、20 層と 33
層では逆転しているため、積層数による特性向上には限界値が
あると考えられる。
図 7 積層数と収縮率
②可塑剤比率の調整
PVC ゲル液作製時の PVC と可塑剤の質量比を
PVC:DBA=1:4, 1:6, 1:8 で調整し、可塑剤比率と
変位量の関係を調べた。結果を図 8 に示す。可
塑剤比率が大きいほど、収縮率と電流値が増大
した。また、CB 含有 PVC ゲルにも同様の実験を
実施したが、収縮率や電流値に違いは見られな
かった。
(4)フレキシブル電極を用いた PVC ゲルアクチ
ュエータの応用
図 8 可塑剤比と収縮率
本研究で開発してきた PVC ゲルアクチュエー
タは印加電圧 2.5kV 時の伸縮率約 8.3%、発生力約
171kPa、応答性約 7Hz と生体筋のもつ収縮率 30%、
発生力 0.3MPa、応答性 10Hz という特性には至らな
かったが、CB 含有 PVC ゲルによる特性の安定化や
低電圧化では有用な結果が得られ、また特性向上
についても積層数の増大や可塑剤調整では効果が
見られた。
今後は CB 含有 PVC ゲルの CB 濃度の調整を行い、
フレキシブル電極の抵抗値を下げることや、PVC ゲ
ルの更なる薄膜化を実施するなどして特性向上を
試みる。また、フレキシブル電極の塗布方法として
導入したスクリーン印刷技術を生かし、均一で薄
膜なフレキシブル電極を得る。さらに、印刷技術に
よってより緻密なソフトアクチュエータを作製
し、それらを配列することで触覚ディスプレイへ
の応用を検討している。実際にΦ5mm まで小型化し
図 9 ソフトアクチュエータの小型化
たソフトアクチュエータを試作し、特性評価を実
施した。結果を図 9 に示す。電極面積 13×13mm のソフトアクチュエータと比較して、変位量の
低下は確認されず、また対象と指先の相対的運動によってはヒトは数μの凹凸を検知できるこ
とから、本研究成果の触覚ディスプレイへの応用を検討した。
(5)触覚ディスプレイの試作
PVC ゲルアクチュエータによって構成される触覚ディスプレイの有用性を検証するため、図 10
に示す試作機を作製した。
配列された小型アクチュエータは PVC ゲル 5×5 mm、電極面積 4×4 mm、積層数 3 層とした。

陰極には厚さ 10 µ
m の SUS 箔、陽極には厚さ 220
µ
m の導電性メッシュを使用した。
また、試作機による呈示パターンの弁別試験を
実施した。その結果、いずれの参加者も触知ピン
で成す呈示パターンを読み取ることができた。
よって、PVC ゲルアクチュエータを用いること
で、小型軽量・静音で高耐久性の優れた触覚ディ
スプレイの開発は充分に実現できると考えられ
る。

図 10

触覚ディスプレイの試作機

5.主な発表論文等
〔雑誌論文〕
(計 2 件)
① Yi Li, Yanbiao Li, Minoru Hashimoto, Low-voltage planar PVC gel actuator with high
performances Sensors and Actuators B: Chemical, Vol.282,482-489, 2019.
② Yi Li, Minoru Hashimoto, A Novel Sheet Actuator using Plasticized PVC Gel and
Flexible Electrodes, EAPAD 2017, edited by Yoseph Bar-Cohen, Proc. of SPIE Vol.
10163, 1016325. ...

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