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大学・研究所にある論文を検索できる 「抗菌活性天然物ライソシンEの構造機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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抗菌活性天然物ライソシンEの構造機能解析

德本, 皓太郎 東京大学 DOI:10.15083/0002007121

2023.03.24

概要





























德本 皓太郎は、「抗菌活性天然物ライソシン E の構造機能解析」のタイトルで、研究を展開し
た。以下に、その詳細を述べる。
ライソシン E (1, Figure 1a)は、Lysobacter 属細菌の培養上清より単離された環状デプシペプチド
であり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して強力な抗菌活性を示す。1 は細菌細胞膜上
に存在する呼吸鎖キノンであるメナキノン(MK)と複合体を形成することで細胞膜を乱すという、
既存の抗生物質とは異なる作用機序を有する。
先行する 1 の構造活性相関研究により、1 の疎水性アシル基、2 つの塩基性アミノ酸残基(D -Arg2, -7)、および 2 つの芳香族アミノ酸残基(D -MePhe-5, D Trp-10)が生物活性に重要であることが明ら
かになった。これら 3 種類の構造はそれぞれ、細胞膜を構成する脂質や MK との疎水性相互作用、
アニオン性リン脂質頭部との静電相互作用、MK のナフトキノン環との芳香族間相互作用に寄与す
ると想定される。しかし、その他のアミノ酸残基の生物活性発現に対する役割や、複合体形成に関
する詳細は不明であった。德本は類縁体ライブラリーの活性評価、ミセル溶液中での相互作用解析
という 2 つの戦略により、1 の構造機能相関の解明を目指し、研究に着手した。
先行研究において、1 のさらなる生物活性向上を目的とし、生物活性に対する寄与が不明であっ
た第 3、6、9、11 残基側鎖を置換した 2401 種類の 1 類縁体が μg スケールの one-bead-one-compound
(OBOC)ライブラリーとして合成された。MK-4 (Figure 1b)との複合体化試験および抗菌活性試験に
よる 2 段階のスクリーニングの結果、抗菌活性を有する 23 化合物が同定された。德本は、これら
の化合物の詳細な抗菌活性および膜破壊活性の評価を行った。
まず、確立された 1 の全合成法を応用することでこれらの化合物を mg スケールで再合成し(Figure
1a)、活性評価に付した。共同研究者によって行われた黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性試験の結果、
18 化合物が顕著な抗菌活性を示した。特に、A1−A3 の 3 化合物は 1 の 4 倍の抗菌活性を示した
(MIC: 0.015 mg/mL)。続いて、18 化合物の作用機序を検証するため、リポソームを用いた膜破壊活
性試験を行った。まず、リン脂質のみから構成されたリポソーム(PC/PG)および MK-4 を添加した
リポソーム(PC/PG/MK-4)と、哺乳細胞ミトコンドリアにおいて呼吸鎖キノンとして機能する UQ-10
(Figure 1b)を含むリポソーム(PC/PG/UQ-10)を調製した。上記 3 種類のリポソームを用いて各化合物
の膜破壊活性を評価したところ(Figure 1a)、顕著な抗菌活性を示した 18 化合物は全て MK-4 含有リ
ポソームに対して選択的な膜破壊活性を示した。本結果はこれらの化合物が 1 と同様、MK との結
合により細胞膜を乱すことで抗菌活性を示すことを示唆した。以上より、1 と共通の作用機構を持
ち、優れた抗菌活性を示す複数の類縁体を一挙に得られたことがわかった。
また德本は、配列比較により、1 の構造機能相関に関する重要な知見を得た。例えば、強力な活
性を有する A1−A3 の R 2 , R 4 の構造が全て 1 と同じであったことから、1 の第 6・第 11 残基の側鎖
が生物活性において重要な役割を果たしていることが示唆された。いずれも嵩高い疎水性側鎖であ
ることから、脂質や MK との疎水性相互作用や、1 の配座の規定に寄与すると想定される。また、
最も高活性であった類縁体 A1 と 1 の構造上の違いは第 3 残基側鎖の β-ヒドロキシ基の有無のみで
あり、ヒドロキシ基が無い方が高活性になることが明らかになった。

a

resin
HN

O

O

O
Wang linker

O
H 2N

O

HO

OAllyl

FmocHN

NH

L-Glu-8

O

D-Arg-7

HN
O

NH
6 R2

D-MePhe-5

solid-phase
peptide synthesis

O

aromatic ring

R3

O O

NH

H
N

NH
basic group

9

NH
N
O HN
Gly-4

HN

n-1
O
menaquinone (MK)
n = 4: MK-4

L-Thr-1

O

3
O HN
R1
NH
O

11
O
OH L-Thr-12

HN

D-Arg-2

XX : substituted residue

R4

NH HN

O

O

D-Trp-10

O

O

b

aromatic ring

O

NH
O O

NH

MeO
MeO

HO
hydrophobic
acyl chain

n-1
O
ubiquinone (UQ)
n = 4: UQ-4
n = 10: UQ-10

H2N
basic group
compound

R2

R1

R4

O

1

OH

NH2
O

A1

NH2

A2

A3

R3

2

NH2

membrane-disrupting activity/EC50 (nM) b
PC/PG/MK-4c
PC/PG/UQ-10d
PC/PGe

overall
yield

MIC
(µg/mL)a

8.0%

0.0625

19.5

92.0

559

5.0%

0.015

12.2

92.7

975

4.5%

0.015

18.0

93.4

714

4.5%

0.015

10.7

103

822

MIC values against methicillin -susceptible Staphylococcus aureus (MSSA1) in the presence of 10% bovine calf serum determined by the
c
microdilution method. bMean values of the three independent experiments are displayed.
PC/PG/MK-4 = large unilamellar vesicles (LUVs)
containing egg yolk phosphatidylcholine (PC) and eg g yolk phosphatidylglycerol (PG) (50:50) with 1.25 mol% MK
-4. dPC/PG/UQ-10 = LUVs
e
containing PC and PG (50:50) with 1.25 mol% ubiquinone -10 (UQ-10). LUVs containing PC and PG (50:50).
a

Figure 1. (a) Synthesis, structures, antibacterial activities, and membrane-disrupting activities of lysocin E
(1) and its analogues. (b) Structures of menaquinone (MK) and ubiquinone (UQ).
1 と MK-4 を水溶液中で混合すると、複合体が赤色沈殿を形成する。この着色は、1 の有する 2 つ
の芳香環(ベンゼン環・インドール環)のいずれかと、MK-4 のナフトキノン環との芳香族間相互作用
に起因すると想定されてきた。しかし、この複合体は水に不溶であり、DMSO 等の有機溶媒中では
複合体を形成しないため、分光学的手法による相互作用解析は困難であった。先行研究における検
討の結果、界面活性剤を用いることで、MK-4 および 1・MK-4 複合体のミセル溶液としての可溶化
に成功した。
そこで德本は、MK-4 含有ミセル溶液を用いた相互作用解析研究を実施した。すなわち、複合体
特有の着色を利用した UV-Vis 滴定および、複合体形成による結合熱に着目した等温滴定型カロリ
メトリー(ITC)による相互作用解析を行った。また、1 のキノン選択性を評価するため、UQ-4 (Figure
1b)および UQ-10 のミセル溶液も解析に用いた。さらに、1 の 2 つの芳香族アミノ酸の複合体形成
・着色に対する寄与を調査する目的で、1 の D -MePhe-5 および D -Trp-10 をアラニンに置換した類縁
体 2 および 3 (Figure 2a)を同解析に付した。
ミセル溶液中の MK-4 に対して 1 を添加すると、UV-Vis スペクトルにおいて 480 nm 付近に 1・
MK-4 複合体に由来する吸収が生じた(Figure 2b)。複合体由来のピークが単一であったことから、
複合体形成に伴って生じる芳香族間相互作用は 1 種類であり、芳香環同士の結合比は 1:1 であるこ
とが示唆された。一方、吸光度の変化量から算出された 1 と MK-4 の結合比は約 1.4:1 であった
(Figure 2c)。

a
H 2N

HO
NH

HN

O

O

H 2N
O
HN
NH
NH

O
R5

R6

O O

compound

NH
HO

O

HN

O
OH

HN
O

N

1

O

NH HN

O

O
NH
O

R5

O
HN

R6

NH

2

NH
H

NH

OH
3

O O
HN
NH2
NH

H

quinone

binding parameters
∆H
n
KD
(kcal/mol)a (sites)a,b (nM)a

MK-4

−12.3

1.50

80.3

UQ-4

−12.7

1.37

394

UQ-10

−5.59

1.82

796

MK-4

−3.94

2.29

545

UQ-4





c

−c

UQ-10

−c

−c

−c

MK-4





c

−c

UQ-4

−c

−c

−c

UQ-10





−c

c

c

c

c

Mean values of the three independent experiments are displayed.
Binding ratios of quinones to peptides are shown. cSignificant binding
heat was not observed.
a
b

b

c

Figure 2. (a) Structures of 1, 2, and 3, and binding parameters between peptides and quinones in detergent
micelle solution measured by isothermal titration calorimetry (ITC) experiments. (b) Representative UV Vis spectra of 1, MK-4, and complex of 1 with MK-4. (c) Representativ e titration curves of MK-4, UQ-4,
and UQ-10 in detergent micelle solutions with 1, 2, and 3.
続いて、ITC によりペプチド 1、2、3 と 3 種類のキノンとの間のエンタルピー変化、結合比、解
離定数等の相互作用パラメータを網羅的に算出した(Figure 2a)。ITC においても 1 と MK-4 の結合
熱が観測され、結合比は 1.5:1 であり、両実験系で同様の結合比を示した。1 と MK-4 の結合比に余
剰が生じていることから、複数分子の 1・MK 同士の結合や、界面活性剤分子の結合への関与も存
在することが示唆された。
UQ-4 および UQ-10 に関しても MK-4 と同様 1 との結合による吸光度の変化が観察されたが、
MK-4 と比較すると変化量は小さかった。ITC により算出した解離定数(K D )を比較すると、1 との結
合は MK-4、UQ-4、UQ-10 の順に強く、UQ の 1 に対する結合能は MK よりも小さいことが判明し
た。また、DH 値の比較から、長い疎水性側鎖を持つ UQ-10 の場合、MK-4 や UQ-4 に比して 1 との
結合がエンタルピー的に不利になることが示唆された。
UV-Vis 滴定、ITC のいずれにおいても、2 と MK-4 との結合は観察されたが、3 と MK-4 との結
合は一切検出できなかったことから、複合体形成における吸光度の変化は主に 1 のインドール環と
MK との芳香環相互作用に起因することが示された。一方で、2 の MK-4 との複合体形成における
エンタルピーの減少量が 1 よりも大幅に小さかったことから、1 のベンゼン環も何らかの形でミセ
ル中の複合体の安定化に寄与することが示唆された。
1 類縁体の合成・機能評価および相互作用解析という 2 種類のアプローチにより、1 の活性に重
要な構造要素や 1 と MK の複合体形成に関する重要な知見を得ることに成功した。本成果は、薬学
研究に寄与するところ大であり、博士(薬科学)の学位を授与するに値するものと認めた。

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