急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) の肺コンプライアンスを改善させる新規治療法の開発 (第137回成医会総会一般演題)
概要
【目的】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の原因は様々であるが,肺胞に溜まる水腫液が肺サーファクタントの界面活性を低下させ,呼吸不全をもたらすことが共通する病態と考えられている.未だ有効な治療薬はなく,極めて高い死亡率(25-60%)が問題となっている.「ポリアミンは,陰イオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の界面活性を増強する効果を有する」というPenfold らの報告より着想を得て,仮説1「陰イオン界面活性剤を含有する肺サーファクタントとポリアミンの間でも同じ関係が成り立ち」,仮説2「ポリアミンがARDS の治療薬となりうる」ことを検証した.
【方法】
肺サーファクタントの希釈状態を模すin vivo ARDS モデル(生理食塩水によるlavage),およびin vitro ARDS モデル(0.3mg/ml ウシ肺抽出サーファクタント溶液;早産児呼吸窮迫症候群で用いる濃度の1/100)を用いて,ポリアミンの効果を解析した.
【結果】
in vivoARDS モデル実験:生理食塩水によるLavage 群に比較して,濃度X, もしくはY のポリアミンA によるLavage 群では,有意に肺コンプライアンスの改善,低酸素血症の改善が確認された.また胸部X 線CT 画像上,生理食塩水によるLavage 群では両肺に浸潤影が観察されたが,濃度Y ポリアミンA によるLavage 群では両肺の含気は良好であった.また生理食塩水でLavage した後に,引き続き濃度Z のポリアミンA(濃度Y < Z)でLavage しても両肺の含気は良好であった(仮説2を支持).in vitro ARDS モデル実験:希釈によって界面活性の低下したウシ肺抽出サーファクタント溶液に,濃度X, Y のポリアミンA が存在すると,界面活性が改善した(仮説1の実証).そもそも肺胞腔にポリアミンが内在することを見出した.
【結論】
「ポリアミンはARDS の虚脱肺のリクルートメントを促す効果を有する」と考えられ,ARDS 治療薬として早期実用化を目指す.