リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「人員削減がレイオフ・サバイバーの感情と行動に及ぼす影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

人員削減がレイオフ・サバイバーの感情と行動に及ぼす影響

中丸, 世紀 筑波大学

2023.01.17

概要

本論文は,人員削減後に企業に残り,勤務を継続する従業員に焦点をあて,レイオフ・サバイバーの感情と行動について検討を行ったものである。これまでの先行研究から明らかになったことは,第 1 に,人員削減が直接レイオフ・サバイバーの組織的公正の認知に影響を及ぼすことが示唆されたことである。不公正の認知が高まるとレイオフ・サバイバーにはネガティブな反応が生じるだけでなく,組織の機能を低下させるような行動を起こす可能性も指摘されている。第 2 に,本邦におけるレイオフ・サバイバーに関する研究は非常に少ないことが示された。レイオフ・サバイバーが人員削減後,どのように勤務を継続しているのかのデータはほとんど存在していないため,改めてレイオフ・サバイバーの実態を把握することが必要である。第 3 に,レイオフ・サバイバーには否定的な感情や行動が生起することが多くの研究で明らかにされたが,肯定的な感情や行動も生起する可能性も示された。どのような要因がこれらの感情や行動に影響を及ぼすのかについて検討を加える必要があるといえる。以上のことから,本論文の目的は,レイオフ・サバイバーが組織の不公正を認識した場合,心理的ストレス反応や組織機能阻害行動が高まることを検討すること,またレイオフ・サバイバーの実態を明らかにしたうえで,人員削減が実施された企業に継続勤務する従業員の物事の捉え方や変容プロセスについて検討し,従業員の感情や組織の機能を低下させる行動にどのような影響を及ぼすのかを検討すること,の 2 点とする。また,レイオフ・サバイバーの感情や認知が職場の行動に及ぼす影響を示す統合モデルを呈示し,レイオフ・サバイバーの勤務継続を可能とする支援につながる示唆を得る。

研究1では,機縁法により集められた従業員 237 名に対して,質問紙調査を行い,組織的公正,組織機能阻害行動とその後に発生する感情,心理的ストレス反応との関連について仮説モデル図を作成し,検証を行った。共分散構造分析の結果,組織的公正が欠如すると,心理的ストレス反応および組織機能阻害行動が高まることが認められた。また,組織機能阻害行動が高まると,ポジティブ感情,ネガティブ感情がともに高まることも観察された。ネガティブ感情から心理的ストレス反応への関連は認められたが,ポジティブ感情から心理的ストレス反応への関連は認められなかった。年齢,性別,雇用形態,勤務形態,役職,勤務地を共変量として解析モデルに組み込み再分析を行った結果,共変量を投入しない分析と同様の結果が認められた。

組織的公正の欠如は心理的ストレス反応の高さ,および,組織機能阻害行動の高さと関連することが示された。これは従業員が認識した不公正感が,それを回復させるための行動を駆り立てるという Adams(1963)の衡平理論の考え方が現在でも成り立つことを示唆しているといえる。また,組織機能阻害行動からポジティブ感情への有意なパスが認められたことは,Spector & Fox(2002)が指摘したように,従業員は不公正を感じると,他人の足を引っ張り,蹴落とすような行動を起こすことにより,気分を晴らすことでポジティブ感情を高めている可能性があることを示唆している。組織における公正性の欠如が組織機能阻害行動を誘発するような事例は,人員削減において同僚の解雇の正当性に問題があるような場合に同様に観察されている(Brockner, 1988)。レイオフ・サバイバーは,解雇への不公正さに怒りや不安を感じ,怠業を起こす可能性が示唆される。

研究 2 では,研究 1 の知見を踏まえ,人員削減経験後も企業に残り,勤務を継続しているレイオフ・サバイバー10 名を対象に半構造化面接を行い,人員削減後から現職維持を選択する意思決定までのプロセスと,関連する要因を探索的に検討した。M-GTA による分析の結果,7 カテゴリグループ,32 カテゴリ,72 概念が生成され,カテゴリ間の関連について検討した。各カテゴリ間の関連は,個人要因による感情と認知の変化,サバイバーの現職維持に至る意思決定プロセス,職場や対人関係要因による感情と認知の変化の 3 側面から検討され,「外資系企業の人員削減状況下において,現職維持を選択した日本人従業員の心理プロセス結果図が作成された。

サバイバーの現職維持に至る意思決定プロセスでは,人員削減に直面してから,変化の多様な対処から会社が求める従業員像に自分を変化させるプロセス,会社との距離感の揺らぎ,転職を視野に現職維持か離職かの間を循環するプロセス,業務がコントロールできなくなったことを上司に責任転嫁し,従業員の勤労意欲が低下するプロセスが示された。職場や対人関係要因による感情と認知の変化では,企業・組織に対する不信感,被解雇者とのコミュニケーション,被解雇者に対しての罪悪感,同僚との別れに至るまでのプロセス,および,人員削減当初は相談できずにいたが,信頼できる友人・知人に援助要請を行うプロセスが示された。個人要因による感情と認知の変化では,循環する負のサイクルから心理的ストレス反応が増加し,従業員が医師の受診も影響を与える要因となり,企業に残る意思を決定するプロセスに至ることもある。現状に至る意思決定では,個々に前向きな理由と消極的理由が併存し,従業員が人員削減をどのように受け止めたかによって,その後の生き残り戦略が変わる。前向きな理由により会社に残る従業員は残された資源を使い仕事を行うプロセスへと移行し,消極的な理由により会社に残る従業員は同僚を蹴落とすために手っ取り早くできる仕事を行うプロセスへとそれぞれ移行する。最終的に,残された資源を使い仕事を行うことは,建設的な生き残り方略へ影響を及ぼす一方で,同僚を蹴落とすため手っ取り早くできることを行う者は,非建設的な生き残り方略に至る。研究 2 では,日本人レイオフ・サバイバーにおいても,組織の不公正,勤労意欲の低下,転職企図,サバイバー・ギルトなどの心理的反応などが海外の先行研究と同様に観察された。これらの心理的反応がどのような従業員の決断や行動に現れるのかについて,組織の機能を低下させる組織機能阻害行動という側面から検討を行った結果,従業員の行動を規定する要因が組織変更に対する受け止め方に起因するものと,心理的契約不履行および違反コストに起因するものが存在する可能性が示唆された。

研究 3 では,研究 2 の知見を踏まえ,従業員の組織変更に対する受け止め方を測定する尺度 Organizational Change Recipients’Beliefs Scale の日本語版の翻訳および信頼性・妥当性の検証を行った。ISPOR タスクフォースガイドラインに準拠し,原版の著者が行う「調和」を除く計 9 つの手続きを経て,一連の翻訳作業を終了した。その後,機縁法により従業員 150 名を対象に質問紙調査を実施し,OCRBS 日本語版の信頼性の検討,および,収束的妥当性検討のため,組織的公正,組織シニシズム,セルフ・エフィカシー,ソーシャル・サポート,組織コミットメントとの関連を検討した。分析の結果,信頼性係数は十分高い値が示されたこと,確認的因子分析では一部十分ではない値は認められたが,おおむね十分な適合度の値が認められたこと,また,収束的妥当性検討のため,OCRBS 日本語版と他の変数との相関を算出したところ,因子間で想定された関連が概ね認められた。以上のことから, OCRBS 日本語版の信頼性と妥当性が一定程度確認されたといえる。

研究 4 では,レイオフ・サバイバーが知覚する心理的契約不履行が組織市民行動に及ぼす影響を,組織変化に対する従業員の捉え方が調整する効果について検討を行った。人員削減経験のある従業員を対象に 3 回の縦断調査を実施し,全調査に回答した 375 名を分析対象者とした。Time1 の心理的契約を説明変数, Time1 の OCRBS を調整変数, Time1 の組織市民行動を統制変数,Time2 と Time3 の組織市民行動を基準変数とする階層的重回帰分析を行った。その結果,Time2 では,交互作用を投入した step2 の R2の増分が,組織市民行動下位 5 因子全てにおいて有意ではなかった。また Time3 では,取引的契約・関係的契約と OCRBS の交互作用が一部認められ,不履行の認知が高いときは,上層部からの人員削減に対する支援の高さにかかわらず誠実さの程度は変わらないが,取引的契約・関係的契約不履行の認知が低いとき,上層部からの人員削減に対する支援の認知が高い従業員の誠実さは低い従業員よりも有意に高かった。また,取引的契約不履行の認知が高いとき,人員削減の必要性の高さにかかわらず誠実さは同程度であったが,取引的契約不履行の認知が低いとき,人員削減の必要性を感じていない従業員の誠実さは,感じている従業員よりも有意に高かった。これらの結果から,人員削減開始からの期間が短ければ,人員削減の捉え方によって組織市民行動の頻度は変容しないが,一定期間の時間が経過すると,心理的契約不履行の認知が少ない場合は,上層部から人員削減に対する支援の認知が高い従業員は誠実な態度を装うこと,人員削減の必要性の認知が低い従業員は,誠実な態度を示す可能性が高いことが示された。研究 4 の参加者の平均年齢は高かったため,次の仕事を見つけることは困難なことが予測されることから,従業員の本音として将来も確実に生き残るための術として,上司に対して誠実さを装い,企業に順応し求められる従業員像への変容を図っている可能性が推察される。

以上 4 つの研究から得られた知見をもとに,レイオフ・サバイバーの心理的反応,捉え方の変容プロセス,行動を示す統合モデル図を作成した。本研究は組織的公正が破棄されたとき,従業員の感情や行動に否定的な影響を及ぼす可能性があることを示したものであるといえる。個人要因や組織要因など観点から,レイオフ・サバイバーの人員削減に対する捉え方や特徴を整理し,レイオフ・サバイバーへ援助に対する示唆と提言,組織に対する示唆と提言を呈示する。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る