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大学・研究所にある論文を検索できる 「慢性掻痒における一次求心性神経由来因子NPTX2の役割」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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慢性掻痒における一次求心性神経由来因子NPTX2の役割

兼久, 賢章 KANEHISA, Kensho カネヒサ, ケンショウ 九州大学

2021.03.24

概要

慢性掻痒は,炎症性皮膚疾患やアトピー性皮膚炎などで認められる耐え難い症状である。既存の治療薬が多くの場合奏功しないため,病態メカニズムの解明は急務の課題である。痒みのシグナルは皮膚において一次求心性神経で受容された後に電気信号へと変換され,軸索を通じて電気的な興奮が脊髄後角中枢端まで伝わると,そこで興奮性伝達物質が放出されることで脊髄後角神経に興奮伝達される。脊髄後角神経の中でもガストリン放出ペプチド受容体(以下,GRPR)陽性神経は,痒み感覚を選択的に伝達する神経集団として同定され,痒みの神経メカニズム解明に大きな進展をもたらした。これまでに同神経を除去したマウスでは,痛みなどの他の感覚が正常である一方で痒みの感覚を選択的に消失することが報告されている。しかしながら,慢性掻痒への同神経の寄与に関する研究には未だに不明な点が多く,特に中枢神経系における主要な興奮性伝達物質であるグルタミン酸に関する研究については全く報告がない。

そこで電気生理学的手法を用いて,慢性掻痒時における GRPR 陽性神経へのグルタミン酸入力変化について検討を試みた。まずアデノ随伴ウィルスベクターとプロモーター制御技術によってマウス脊髄後角の GRPR 陽性神経を蛍光標識した。これらの蛍光標識細胞の多くが GRPR のリガンドである GRP に対して脱分極応答を示したことから蛍光標識細胞が GRPR 陽性神経であることが確かめられた。続いて GRPR 陽性神経を標識後に,接触性皮膚炎モデルあるいはアトピー性皮膚炎モデルから脊髄急性単離スライスを作製し蛍光標識細胞からグルタミン酸シナプス入力の記録を行った。その結果,コントロール群と比較して慢性掻痒モデルマウス群においては GRPR陽性神経へのグルタミン酸興奮性シナプス入力の頻度の増強が観察された。これら興奮性シナプス入力は非 NMDA 受容体拮抗薬処置によって完全に消失したことから,AMPA 受容体を介した入力であることが示唆された。

続いて,慢性掻痒時の興奮性シナプス入力増強がどのような分子メカニズムで引き起こされるのかを検討した。シナプス増強変化は皮膚炎症の悪化と相関しているという結果を踏まえて,皮膚と脊髄後角の両組織に軸索伸長する一次求心性神経の関与を想定した。アトピー性皮膚炎モデルマウスにおいて,一次求心性神経細胞体が存在する後根神経節組織から網羅的な遺伝子発現解析を行った。その中で AMPA 受容体を介する興奮性シナプス伝達可塑性に関与している遺伝子に絞って探索を行ったところ,Neuronal pentraxin 2(以下,NPTX2)の発現上昇を見出した。NPTX2 は脳における研究が進んでおり,これまでにグルタミン酸神経伝達を増強することが報告されている。そこで NPTX2 欠損マウスを用いて,先ほどと同様の手法で GRPR 陽性神経における興奮性シナプス入力増強について検討した。その結果,野生型マウスに比べ NPTX2 欠損マウスでは慢性掻痒時における GRPR 神経への興奮性シナプス入力増強が減弱していることが明らかとなった。

次に慢性掻痒時における NPTX2 の痒み感覚への役割について検討した。NPTX2 欠損マウスにおいて接触性皮膚炎モデルを作製し,マウス後肢による引っ掻き行動を 24 時間測定した。その結果,慢性掻痒時の引っ掻き行動は NPTX2 欠損マウスで減弱し,皮膚炎症についても改善が認められた。さらに一次求心性神経における NPTX2 の役割を明確にすべく,アデノ随伴ウィルスベクターを用いて NPTX2 欠損マウスの一次求心性神経に NPTX2 発現をレスキューすると,慢性掻痒時の引っ掻き行動が増悪した。反対に野生型マウスにおいて NPTX2 の機能を抑制するドミナントネガティブ体を発現させた場合では,慢性掻痒時の引っ掻き行動が改善した。以上の結果から,一次求心性神経由来 NPTX2 が慢性掻痒の悪化に寄与していることが示唆される。

本研究により,慢性掻痒時において脊髄後角 GRPR 陽性神経でのグルタミン酸入力増強していることが明らかとなり,またそのメカニズムとして一次求心性神経において発現上昇する NPTX2が関与していることが示唆された。NPTX2 は神経活動依存的に発現上昇する因子として知られていることから,掻破やそれに伴う皮膚炎症が引き金となって一次求心性神経で発現上昇し,脊髄後角神経におけるグルタミン酸活動性を変調させることが想定される(下図)。NPTX2 発現上昇を含め,これまでに知られていない慢性掻痒時における GRPR 陽性神経でのグルタミン酸伝達の変調を明らかにした点は意義深いと考える。

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