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大学・研究所にある論文を検索できる 「神経障害性疼痛の回復期における脊髄後角ミクログリアの役割に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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神経障害性疼痛の回復期における脊髄後角ミクログリアの役割に関する研究

河野, 敬太 KONO, Keita コウノ, ケイタ 九州大学

2021.03.24

概要

【背景】
神経障害性疼痛はがんや外傷,化学療法などで末梢神経が損傷することで発症する慢性疼痛である。既存の鎮痛薬が奏功しない症例も多く,新規治療法の開発が強く望まれている。末梢神経が損傷を受けると,神経の投射先である脊髄後角で中枢神経系の免疫担当細胞であるミクログリアが活性化する。活性化したミクログリアは痛覚伝達神経の興奮性を変化させることで,神経障害性疼痛の発症に寄与する。ミクログリアの活性化と疼痛症状の発症は相関して生じるため,活性化ミクログリアは神経障害性疼痛の発症に重要であると考えられ,従来は発症期に注目した研究がほとんどであった。しかし,長期間に及ぶ神経障害性疼痛の各病期における,ミクログリアの活性化状態の変遷と役割は完全には明らかにされていない。そこで本研究の第一章では,ミクログリア活性化指標の一つである細胞数の増加に焦点をあて,その経時変化を詳細に特徴づけた。第二章では,神経障害性疼痛回復期に活性化するミクログリアサブポピュレーションに注目し,その役割について研究を行った。

【第一章】
神経障害性疼痛時に脊髄後角で増加するミクログリアの細胞数の変化を調べるため,末梢神経損傷モデルマウスを作製し,その脊髄に存在するミクログリア細胞数を免疫組織染色法によって計測した。加えて,増殖細胞マーカーである ethynyldeoxyuridine(EdU)を用いることで,末梢神経損傷後のミクログリアの増殖反応の経時変化を調べた。

その結果,脊髄ミクログリアの増殖の開始点を末梢神経損傷後 32‒40 時間という非常に狭い範囲にまで絞り込んだ。さらに,神経損傷後のミクログリアは 40-60 時間をピークとする増殖反応によって増殖し,7 日目頃に細胞数のピークに至った後に,徐々に減少するという一連の活性化タイムコースを明らかにした。

【第二章】
第一章で明らかになったように,ミクログリアの活性化タイムコースは神経障害性疼痛の発症と相関する。そのため,活性化ミクログリアは神経障害性疼痛の発症に寄与すると考えられてきた。一方で,ミクログリア細胞数は疼痛症状が回復した後も増加状態を保っていた。このことから,脊髄ミクログリアは疼痛回復期においても何らかの役割を有していることが推察された。しかし,この時期のミクログリアの役割についてはほとんど明らかとなっていない。そのような中,私は活性化ミクログリアの中に CD11c 陽性のサブポピュレーションが存在すること,さらには同ポピュレーションが疼痛の回復期に増加することを見出した。そこで,CD11c 陽性ミクログリアの機能を制御することで,神経障害性疼痛回復期におけるミクログリアの役割を明らかにした。

CD11c 陽性細胞を蛍光タンパク質で標識できるレポーターマウスを使用し,その末梢神経損 傷モデルを作製した。その結果,脊髄で活性化するミクログリアの一部は CD11c 陽性であること が明らかとなった。その出現タイムコースを調べたところ,CD11c 陽性ミクログリアは陰性ミク ログリアと比較し,より後期に増加することが分かった。そのタイムコースが疼痛症状の回復と 相関していたことから,同細胞が神経障害性疼痛の回復に重要であることが推察された。そこで, CD11c 陽性細胞選択的な細胞除去ができる遺伝子改変マウスを用いて,CD11c 陽性ミクログリア の役割を検討した。その結果,通常マウスでは疼痛症状が回復する時期においても,CD11c 陽性 ミクログリアを除去したマウスでは回復しないことが明らかとなった。このことから,CD11c 陽 性ミクログリアが疼痛の回復に重要な細胞であることが示唆された。さらに発現遺伝子の網羅的 解析を行い,CD11c 陽性ミクログリアで高発現する分子を明らかにした。その中で,AXL と insulin-like growth factor 1 (IGF1)に注目した。遺伝子欠損マウスを用いた実験や薬理学的検討から, AXL は CD11c 陽性ミクログリアの出現に重要な分子であること,また IGF1 が疼痛回復の実行分 子であることを見出した。さらに疼痛症状が回復したマウスに対して CD11c 陽性ミクログリアの 機能阻害を行ったところ,疼痛が再燃することが明らかとなった。以上の結果から,CD11c 陽性 ミクログリアは,疼痛の回復期に増加し,疼痛を持続的に抑制する細胞集団であることが明らか となった。

【総括】
第一章では,これまであまり調べられていなかった活性化ミクログリアの増殖タイムコースについて,詳細な解析を行った。その結果末梢神経損傷後のミクログリアの活性化パターンの全体像を明らかにすることができた。ミクログリアの活性化メカニズムは完全には明らかになっておらず,本成果はその解明に重要な情報となる。

第二章においては,CD11c 陽性ミクログリアが神経障害性疼痛の回復に重要なサブポピュレーションであることを明らかにした。これまで活性化ミクログリアは神経障害性疼痛の発症に重要な細胞と考えられてきたが,その概念を変える新しい発見である。CD11c 陽性ミクログリアを標的とした新規治療戦略の開発に繋がることが期待される。

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